一番星は消えない   作:ディバル

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070 やっと言えた言葉

 

 

 

 

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」

 

「やめろ……暑苦しい」

 

2人が彼方に転生者だと言う事を明かした翌日。ルビーは、わかりやすくアクアにベッタリだった。今も本を読むアクアに対してルビーが思いっきり抱きついている。

 

「ねぇ彼方、昨日まであんなに落ち込んでたルビーがさ、今日はアクアにべったりなんだけど」

 

「…………仲良くていいじゃないか」

 

彼方はどこか遠くを見るみたいな目をしている。……たぶんだけど、ルビーが立ち直れたのって彼方のおかげだよね。私には大丈夫としか言わなかったのに、それが……こんなに元気になってるし。……ていうか、前より明るくなってない?

 

「……まぁ、いっか。可愛いし」

 

なんかしたんだろうけど、まぁいいや。聞いたら普通に教えてくれそうだし。でも……ルビーが元気になったなら、それで十分だよね。

 

「私たちももっと仲良くしよっか?」

 

「十分、今でも仲は良好だと思うけど?」

 

……ほんと鈍いんだから。彼方って昔からそうだよね。……しょうがないな、私からいこっかな。私は、正面から彼方に抱きつく。やっぱり落ち着くなぁ……彼方のそばって、なんか安心する。全部、ちょうどいい感じ。

 

「………よしよし」

 

彼方が、頭をやさしく撫でてくる。最近ずっとあの子たちばっかりで、ちょっとだけ拗ねてたんだけど……そんなの、どうでもよくなっちゃった。

 

「彼方……好きだよ」

 

「俺も好きだ」

 

鈍いくせに……こういう時だけ、ちゃんと真っ直ぐ言ってくるんだよね。……ずるいなぁ。……このまま、ちょっとだけ……いいかな。

 

「んっっ!!」

 

そんなことを考えていた、その時だった。ふいに、唇にやわらかい感触が触れる。……え、って思う間もなく、それが彼方からだって気づいて。いつもは私からなのに……今日は、逆なんだ。

 

数秒後に唇が離れる。

 

「……え、ちょっと……今の、反則なんだけど」

 

「いつもアイがやってる事でしょ?」

 

それは………そうだけど。

 

「可愛い………本当に」

 

耳元で囁く彼。その顔は、いつもよりも楽しそうにしており、悪戯が成功した時の子供そのもの。

 

「……っ、ほんとにさぁ……急にそういうのやめてよ」

 

いきなりの不意打ち……取り繕う暇はなく、珍しく照れている。

 

「今の、ずるいってば………顔、見ないで」

 

顔を背けるアイ。しかし、それを彼方が許さなかった。

 

「前に俺が照れた時に輝と一緒になってじっくり俺の顔見てたよね」

 

ニコニコとしながらアイの頬を両手で優しく包んで、視線を自分の方に向けさせる。

 

「……っ、それは、それでしょ……!」

 

一瞬だけ本気で「そんな事あったっけ?」って首をかしげるけど、すぐに思い出して「あー、やったかも」と自分で納得してしまう。でもそれを今ここで言われるのは話が別で、ずるい。

 

「今は違うの!今はそういうのダメ!」

 

アイの顔がどんどん赤くなる。

 

「……っ、ほんとにもう……彼方のバカ」

 

2人がイチャついている様子をアクアとルビーは見ていた……ルビーに関しては割とガッツリと。

 

「……何やってんだ、あの2人」

 

最早、見慣れた光景だがそれでも呆れていた。

 

「お兄ちゃん見て!ママめっちゃ赤い!可愛い!」

 

ルビーに関しては推しであるアイの珍しい表情に大興奮。

 

「見るな。……っていうか、あれを堂々とやる神経どうなってる」

 

「え、でもいいなぁ……ああいうの……ちょっと憧れる」

 

そう言いながらジッとアクアの方を見る。

 

「お前はこっちに戻ってこい。というか抱きつきすぎだ」

 

「やだ!今お兄ちゃん成分補給中!」

 

「……意味がわからん」

 

家の中が甘ったるい雰囲気に包み込まれる。しばらくの間、彼方がアイを可愛がっていたが……その後、アイが彼方の首根っこを掴んで寝室へと向かって行った。翌日……彼方の首筋に赤い跡が付いたそうな。

 

「……ママ、容赦ないね」

 

「……もう何も言うな」

 

 

 

 

 

 

アイドルになってから結構な月日が経った。私は、嘘つきだ。彼方から貰った『嘘はとびっきりの愛』、それが私の中にあった物にしっくりとハマり、アイドルになる事を決めた。嘘が本当になることを願って。私は誰かを愛したい。愛する対象が欲しかった。

 

アイドルになれば、ちゃんと“愛してる”って言えると思ってた。心から、嘘じゃない言葉で……そう言ってみたくて、ずっと嘘を重ねてきた。……でもね、不思議だよね。気づいたら、彼方にはちゃんと本音で言えてたの。嘘じゃなくて、ちゃんと“好き”って、“愛してる”って。これが、私の初恋で……はじめて、本気で愛した人なんだと思う。今も昔も私の隣にはずっと彼方がいた。大切な人。

 

そんな彼方との間に、子供ができたの。私と彼方、2人の大切な、大切な子達。でも……私はまだ子供達に愛しているって言った事がない。心の内では、愛しているって思っている。でも……その言葉を口にした時……もしそれが嘘だと気づいてしまったら……そう思うと怖い。

 

彼方に相談してみよっかな。だって、「1人で抱え込まないで」って言ったの、私だし。……それを自分で破るの、なんか違うよね。

 

「ねぇ、彼方……ちょっといい?」

 

アクアとルビーが寝静まったあと、私はそっと彼方に声をかけた。

 

「いいよ……何か話したい事でもあるの?」

 

彼は、アイの隣に座る。

 

「……うん、あるよ。ちょっとだけ、真面目な話」

 

いつもの軽い調子ではなく、声のトーンも静かだ。

 

「……ねぇ、彼方。私さ……あの子たちに、“愛してる”って言えてないんだ」

 

彼方ってさ、あの子たちにちゃんと本音で向き合ってるよね。……それに比べて私は、全然だなって思う。

 

「思ってるよ?ちゃんと、大事だし……大好きだし」

 

この気持ちは、嘘じゃないよ。あの子たちは……私にとって、大切な子どもなんだもん。

 

「でも……いざ言おうとすると、なんか怖くなっちゃって……その言葉が、本物じゃなかったらどうしようって」

 

アイは彼方の手を握っていた。その手は僅かに震えている。

 

「変だよね……こんなの」

 

最後は少しだけ笑っているが、いつもの太陽みたいな輝きはなく、思い詰めている様子。

 

「変じゃないよ………何も言葉で伝えるだけが愛だなんて事はない」

 

その言葉で、やっと彼方の目をまっすぐ見れた。

 

「それに、こんな話をしてきたって事は、アイ……君は2人に愛しているって言いたいからじゃないの?」

 

「……うん、そうだよ。言いたい。ちゃんと、あの子たちに……私の言葉で」

 

言いたいのに……どうしても頭をよぎっちゃうの。これ、嘘なんじゃないかなって。

 

「でもさ……どこかで怖くて、踏み出せなくて……」

 

握る手にさっきよりも力が籠る。

 

「……ねぇ、彼方。私でも、ちゃんと伝えられるかな?嘘じゃない“愛してる”って、言ってもいいのかな」

 

「伝えられるよ。それに……アイはもう立派な母親だ。アイのその気持ちは嘘じゃないんでしょ?なら……大丈夫」

 

一切の迷いなし。真正面から彼は自分の思っている事を言った。それは、アイに欲しかった言葉。

 

「……ほんと、ずるいよね……そうやって迷いなく言うの」

 

ずるいよね……ほんと。私が悩んでるときに限って、ちゃんと欲しい言葉くれるんだもん。彼方の言葉ってさ、嘘がないんだよね。昔から……ずっと変わらない。

 

「……でも、ありがと……ちょっとだけ、怖いの消えたかも」

 

思い詰めていた空気から一変し、いつも輝く笑顔に戻った。悩みはとうに消えている。

 

「……そっか、いいんだよね……私のままで。明日、言ってみる……ちゃんと、あの子たちに」

 

「あぁ………それでいい。何も難しく考える必要はないんだ」

 

 

 

 

翌朝のリビング。

 

「……あのさ、2人とも。ちょっといい?」

 

テーブルの上に朝食が並べられていた。

 

「なんだ」

 

「なにー?」

 

2人はアイの呼びかけで彼女の元に集まってくる。

 

「……えっとね……そんな大した話じゃないんだけど」

 

「「………?」」

 

「……その……」

 

まだ……ちょっと怖いけど。でも……言うって決めたの、この子達に。

 

「……どうした、アイ」

 

「うん……あのね……」

 

緊張が走る。手を握る力が強くなる。

 

「アクア、ルビー……愛してる」

 

2人を優しく抱きしめて、ずっと胸の内に秘めていた想い、自分の本当の気持ちを言霊として乗せた。一瞬、静かになる。

 

「……母親が、何言ってんだ」

 

「ちょっとお兄ちゃん!そういうとこだよ!」

 

「……でも……俺も嫌じゃない……むしろ、今さらかって感じだ」

 

アクアの返しに少しだけきょとんとした顔が浮かぶ。でも、すぐにそれは笑みに変わった。

 

「……ふふ、なにそれ」

 

「……ママ……私も、だいすき……ちゃんと伝わってるよ……ありがと」

 

「……うん」

 

あぁ……やっと言えた。この言葉は絶対……嘘じゃない。

 

「さぁ……朝食の時間だ」

 

彼方のそんな声が響く。3人は、頷きながら席に座った。

 

 






第4章「親と子」はこれで終了です。毎回、思ったよりも長くなるんですよね。そして、次から5章「運命のドーム公演」がスタートします。作者的には書きたかった物を書けたのでよかったなと思ってます。16話になります。お楽しみに。

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