こんばんは作者のディバルです。えぇ……少し前に新作をだいぶ後に出すと言ってましたが……我慢できず今日、あげました。黒川あかねがメインでタイトルが「あかねちゃん……煙草買ってきてくれない?」よければ、ご覧ください。
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071 森伊蔵
ドーム公演その日が刻一刻と近づいてきていた。計画自体は半年前からされており、壱護さんやミヤコさんがいろいろと奔走していた。アイのレッスンの日々も最終調整に入っていた。
「もうそんなに経つのか………」
あの施設で出会ってもう10年くらい経つのか………最初は苗字すら覚えてもらえなかったが、今ではアイが隣にいる。不思議だ………ここまでの関係になるとは思いもしなかった。
もうすぐ、俺達は20歳になる。原作ならアイが死ぬ歳だ。雨宮先生が亡くなってから、ずっと警戒はしている。変装をして帰ったり、帰り道を毎回変えたりして、俺から自宅の情報を出さないように徹底的にストーカー対策をしていた。
アイと2人で出かける時も変装を忘れず、常に周りを警戒した。でも、どれだけやっても影が出てこない。雨宮先生は他殺の可能性が高い。事故にしても、わざわざ山道に入る理由がない……あの日は特に。
アイが目的で、そのための情報を引き出そうとして迫ってくる計画だったのが、何らかのトラブルに見舞われ、殺す選択肢を取った。それか、そうせざるを得なかったのか……今となっては探りようがない。単独犯か……複数犯ですらわからない。こちらは情報が何もない状態だ。でも、ここ数年間、アイに魔の手が伸びてきてはいない。
考え過ぎなのか? でも、そうしたら雨宮吾郎の死について説明がつかない。思考を巡らせるが、答えが出るはずがない。
「アイ………インターホンが鳴ってもすぐに開けず、確認してからね……それと、ドアチェーンも付けて」
アイに忠告する。一度ではダメなので、ここ最近ずっと言っている。しつこいと思われても、言い聞かせる必要がある。
「もう、何回も聞いてるってば……でもさ、ちゃんと守ってるよ? 彼方があんな顔して言うんだもん」
もう1週間くらい言い聞かせていた成果もあり、アイは誰かが訪問して来た時は、チェックとドアチェーンをかけるようになった。
「……心配しすぎ。でも、そのくらいが彼方らしいよね。大丈夫、大丈夫。私、簡単にやられるほど弱くないよ?」
そう言いながら笑うアイ。彼の脳内に過るのは、原作での彼女が死ぬシーン。
わかっている。アレはただのフィクションで、感情移入し過ぎなことくらい。でも、今目の前にいるのは紛れもない現実だ。守るためにこれまでもずっと足掻いてきた。ただ、守る。それだけの話。
「………彼方?」
「何でもない………それより、レッスンはどう?」
とりあえず言えることは、ドーム公演が終わるまでは気が休まらないってことだ。
「順調だよ。もう最終調整って感じかな……ちょっと緊張してきたけど」
関係者だから、俺もリハーサルを見ることは出来るが、それはやめておいた。だって……楽しみは取っておくに限る。もちろんアイや子供達を守ることは忘れてないが、推しのドーム公演だ。楽しみに決まっている。
「でもね、すごく楽しみなんだ。あの景色、ちゃんとこの目で見たいって思ってる」
アイドルとして8年近く活動していたB小町。他のメンバーのメディア露出も増えて、アイ一強ではない。それぞれに個性と花がある。最初から見続けてきた俺にとっても、彼女達がドームに行けることは素直に嬉しい。
「……彼方がいるし、大丈夫だよ。だからそんな顔しないで?」
取り繕っているはずなのに、なんでわかっちゃうのかなぁ………それにしても、信頼が重いな。俺としては、そんなに期待されても困るんだけどな……。
「ありがとうアイ」
考えても仕方がない………敵の目的、人数、いつ来るか、全てが不明だ。でも、やるしかない。これまでもいろいろ乗り越えてきたんだ。今回も乗り越えてみせるさ。それに……やっぱり推しのドーム公演が見たい。
アイの未来、子供達の未来。そしてこれからの幸せも欲しい。俺も欲張りなんだ。何一つ諦めはしない。それに誰かが言ってただろ……『欲しい=正義』ってね。
「全く、酒がうめぇな! ほれ……お前らも飲め飲め!」
壱護さんが酒瓶を持ちながら盛り上がっていた。
「わー、森伊蔵だー」
「駄目ですよ」
アイに差し出される森伊蔵の酒瓶をミヤコさんが受け取る。
「アイさんが20歳になるのは来週。もうちょっと我慢してください」
「おー、そういやそうだったな。……ってか彼方、お前もう20歳じゃねぇか」
そう……アイはまだ20歳ではないが、俺は1ヶ月前くらいに成人を迎えた。酒、煙草、ギャンブルも普通にできる。酒は得意ではないんだよな。でも………
「………わかりました。一杯だけですよ?」
「おっ、いいじゃねぇか! 成人祝いもまだちゃんとしてなかったしな!」
「ちょっと壱護、調子乗って注ぎすぎないでくださいよ? “一杯だけ”ですからね、本当に」
壱護さんがグラスを手に、その中に酒を注ぐ。そして、それを受け取る。芋の優しい香り。そして、まずは一口。芋の旨味・甘味をしっかり引き出しつつ、洗練された甘さが口の中に広がる。
「………美味しいですね」
酒は祝い事くらいにしか飲まない俺でも、これが美味くていい酒だということがわかる。
「だろぉ!? 森伊蔵は別格なんだよ! わかってるじゃねぇか彼方!」
「えー、ずるい……そんな反応されたら余計飲みたくなるんだけど?」
グラスに触れようとするアイの手を避けて、そのまま飲み干す。少し……フワフワしてきた。前世から酒は弱い……今世でもどうやらそれは変わらないみたい。
「ちょっ、全部飲んじゃった!? 絶対ちょっと酔ってるでしょ彼方!」
「酔ってない………」
顔を赤くしながら否定する。その様子を見て、ミヤコやアクアは呆れていた。壱護さんは大笑い。この人、笑い上戸なのかな?
「アイが主演のドラマも視聴率上々! B小町全体から個人に至るまで仕事も埋まって………いよいよ来週はドームだ! がははっ!」
「社長上機嫌だね」
確かに……こんなに上機嫌な壱護さんを見るのは初めてだ。苦労人のイメージが強い。
「壱護はね、自分が育てたアイドルをドームに連れて行くのが夢だったのよ」
………夢か。前世でも今世でも夢を持ったことがない。前世は何がしたいのかわからず、そのまま死んで、今世はアイを救い幸せにするために走り続けた。今もその道半ばだ。だから、夢を持てるこの人が少し羨ましい。
「社長だけじゃなくて、社員皆の夢でもあるけど」
「そんなにドームって凄いの?」
「他の箱とは意味合いが違うのよ。専門の会社を挟まないと枠すら押さえられないし、大人数の観客を捌けるスタッフの練度や実績、ドームに相応しいアーティストかどうかの厳重な審査がある」
表舞台で輝くタレントを裏で支えているこの人達には、感謝を忘れてはいけない。タレントは1人では輝けない。輝く者の裏に、陰ながら支えてくれている人達がいる。
「長い時間とスタッフの努力が必要な会場なの。お金があればできる場所じゃない」
「そっかぁ……そんなにすごい場所なんだ。……えへへ、なんか急に実感湧いてきたかも」
初期からずっと応援してきた身としては嬉しい限りだ………。
「はっはははっ!!………アイのドーム公演の先行祝杯だ」
テーブルに置いてある森伊蔵をグラスに注ぐ。
「さぁ………諸君、乾杯!」
「B小町のドーム公演成功を願って……乾杯だ!!」
「えぇ、皆で最高の景色を見ましょう。乾杯」
酒が入ったことで彼方のテンションがいつもより高い。今注いでいるので2杯目なのに、もう酔いが回っている。3人はグラスを当てて乾杯。
「……彼方、絶対酔ってるよね? さっきからずっとふわふわしてるし」
酒を飲む。今日だけは、ほんの少しだけ羽目を外してもいいだろう。まだ終わってないが、俺が守ればいい。ただ、それだけの話なのだから。
オマケ 二日酔いで開放されるアイ。
「おはよ」
「……おはよう」
「水」
「……ありがとう」
「昨日覚えてる?」
「……少し」
「テーブルで乾杯してた」
「……やめて」
「あと飲みすぎ」
「……反省してる」
「頭痛い?」
「……うん」
「当たり前」
「……すみません」
「次から禁止」
「……はい」
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