一番星は消えない   作:ディバル

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ファタールは、フランス語や英語などで「宿命的な」「運命的な」「致命的な」を意味する言葉。単なる運命というよりも、「抗えない運命によって破滅に導かれる」といったニュアンスで使われる。





073 ファタール

 

 

 

 

「今日は本当にありがとーーーっ!!」

 

息を切らしながら、それでもアイはいつもの太陽みたいな笑顔を浮かべる。

 

「ねぇ、すごかったよね!?私もまだ信じられないの!だって東京ドームだよ!? こんな景色、夢みたい!」

 

歓声が返ってくる。それを浴びながら、アイは嬉しそうに笑った。

 

「でもね、今日ここに立てたのは、みんながいっぱい応援してくれたからだよ。ずっとずっと、私達を見つけてくれてありがと!」

 

ペンライトの海を見渡しながら、アイは胸に手を当てる。

 

「私ね、今日、世界で一番幸せなアイドルかも!」

 

その言葉に、さらに歓声が大きくなる。

 

「だからこれからも、もっともっとみんなのこと夢中にさせるから! ちゃんとついてきてねーーーっ!!」

 

ドーム公演は、無事に終了した。B小町は伝説になった。途中から俺も全力で応援した。この大きな箱、全てに人が埋まりB小町のために集まった。壱護さんとミヤコさんは途中で泣いていた。自分達が育てたアイドルがここまで来たのだから、思う事があったのだろう。

 

アクアとルビーも俺が用意したペンライトでオタ芸をしていた。さすがアイ歴が長い2人だ。切れ味が違った。だが、俺も負けていない。こっちはもう初期から見てるんだ、年季が違う。

 

(それにしても………始まる前もかなり警戒していたけど……アイを狙う者はいなかった)

 

そう、朝起きて昼前には東京ドームに着きリハーサルをしていた。その間、俺は辺りを警戒し続けた。望遠鏡で会場周辺を見渡したり実際に歩いて怪しい人物がいないか調べたりした。しかし、そんな人物は誰1人いなかった。

 

心配し過ぎだったか?でも、それだと雨宮吾郎の死について説明が付かない。偶然?俺がいた事によるバタフライエフェクト?それならギリ説明がつくがどうしても違和感がある。

 

でも、現に襲って来なかった。情報を掴んでいたのなら今日まで狙う隙は幾らでもあった。そして、ドーム公演。今日もその影すら見えていない。考え過ぎか?

 

「……パパ?」

 

ルビーが不思議そうに彼方の顔を覗き込む。

 

「さっきからずっと難しい顔してる。ドーム終わったんだから、もっと嬉しそうにすればいいのに」

 

「……また何か考えてるの?」

 

アクアも静かに彼方を見る。その視線は、彼がずっと周囲を警戒していた事に気づいているようだった。

 

「……何もなかったんだろ」

 

「だったら、今日はそれでいいじゃん。ママ、ちゃんと笑って終われたんだからさ」

 

そうか……そうだよな。アイは無事に生きてドーム公演を終えた。何もなかった。今はそれだけでいい。

 

「あぁ……そうだね。打ち上げは別日にやるみたいだから今日は、アイの為に最高の料理を振る舞おう。2人とも手伝ってくれる?」

 

「やるーーーっ!!今日はママの好きな物いっぱい作ろ!」

 

「……お前、ほとんど味見係になるだろ」

 

「むー! ちゃんと手伝うもん!」

 

「まぁ、俺も手伝うよ」

 

2人のやり取りを見て彼の顔にようやく笑顔が浮かんだ。彼方は壱護に連絡をして3人は先に家へと帰る。

 

キッチンに立つと、さっきまでの熱狂が嘘みたいに穏やかな時間が流れ始める。

 

「ルビー、野菜切るなら猫の手だぞ」

 

「わ、わかってるもん!子供扱いしないで!」

 

そう言いながらも、危なっかしい手つきで包丁を握るルビーに彼方は思わず苦笑する。

 

一方、アクアは慣れた手つきで食材を並べていた。

 

「……こっち炒め始めていい?」

 

「お願い。火傷だけは気をつけてね」

 

ジュウゥ……とフライパンから音が鳴る。部屋に広がる温かい匂い。東京ドームの歓声とは違う、小さくて穏やかな幸せの音だった。

 

「ねぇパパ!これ絶対ママ喜ぶよね!?」

 

「あぁ………喜ぶよきっと」

 

その言葉に、ルビーは嬉しそうに笑った。彼方は料理をしながら、ふと息を吐く。

 

……アイは生きている。ちゃんと笑って、夢を叶えた。それだけで、今は十分だった。

 

料理を始めて1時間半ぐらいが経過し、テーブルには豪華な食事が並んだ。この日の為に事前に食材を集めた甲斐があった。そして、最後に市販品のケーキを取り出す。本当はケーキも作りたかったがそっちは俺の専門外だ。

 

「うわぁぁ……!すごっ!?お店みたい!!」

 

「……本当に全部作ったのかこれ」

 

「ねぇ見てアクア!ローストビーフある!ハンバーグも!絶対ママ泣いちゃうってこれ!」

 

時間がかかるローストビーフは前日から準備をしていた。今日は豪華にいく。そして、壱護さん、ミヤコさん用にお酒も用意した。

 

「お前さっきから食うことしか考えてないだろ」

 

「今日は特別なの!だってママ、夢叶えた日なんだから!」

 

「……まぁ、そうだな。これなら、アイも喜ぶと思う」

 

「えへへ……早く帰ってこないかなぁ」

 

そんな事を話しているとインターホンが鳴り響く。

 

「壱護さん達かな?」

 

一応ドアチェーンを付けて開ける。予想通りの2人がいた。でも………そこにはアイがいなかった。

 

「………壱護さんアイは?」

 

「……アイなら、近くの公園ちょっと歩いてから帰るってよ。『少しだけ余韻に浸りたい』だとさ」

 

直後、彼方の第六感が警笛音を鳴り響いた。スマホを取り出し確認。

 

『少しだけ、あの公園寄ってから帰るね! ほら、前にみんなで行ったとこ!』

 

文面からして何一つおかしい部分はない。しかし……このタイミングだ。警戒心が戻ってくる。そして、彼の脳内が思考を加速させる。

 

今日まで、何もなかった。それは事実だ……輝の可能性……いやない。輝とアイは友好的な関係だ。なら……リョースケは?可能性はあるが……それは原作の神木輝に人心を掌握されたからであって………何か見落としている。もっと重要な何かを………。

 

「……パパ?どうしたの?また怖い顔してる……」

 

ルビーの言葉は届かない。思考が続けられる。雨宮吾郎の死……ずっと感じ続けいた小さなズレ。そして、可能性から消していた人物が浮かび上がる。

 

それが点となり今………繋がった。

 

あ………いやそれは……だけど否定しきれない。でも、辻褄は合う。見落としていた、完全に。だが、俺が見てきた中で問題はなかった。だけど……可能性があるならもう行くしかない。

 

1つの可能性に辿り着いた。否定しようにもその根拠がない。彼は、自身の部屋にあるバイクの鍵を取りそのまま。

 

「少し出かけてくる………」

 

それだけ言い残して出て行った。

 

「えっ……?パパ、どこ行くの……?」

 

「お、おい彼方!待てって!」

 

「ちょっと!?こんな時間に何よ急に!」

 

「……また何か気づいた顔してた」

 

「パパぁ!ご飯まだなのにーー!」

 

もう彼に声は届いてなかった。最悪の想像を過った彼は………もうそれにしか思考が向いていない。

 

バイクに乗りエンジンを掛ける。そのままアイがいるであろう公園へと向かう。

 

頼む……この考えが俺のただの妄想だと確信させてくれ。そんな筈はないんだ……夢のドーム公演を終えてアイの人生はこれからだ……頼む。

 

そんな淡い期待を抱きながら法定速度ギリギリで加速。

 

バイクで走り始めて15分で目的地に到着。バイクを降りて走る。この公園は広く自然豊かな場所。しかし、今はそれが仇となっていた。走る。ひたすらに………そうして、ようやく見えてきた………アイ。暗くてもいつも見ている彼女の姿を彼が見間違えるわけがない。しかし、その近くに人影が………。

 

「アイ!!」

 

「え……!?」

 

アイは振り返った瞬間、目を見開く。

 

「彼方……!?」

 

その時だった………その近くにいた人物が何かを振り上げる。彼はギリギリでアイの元に到着。そして、アイを押して突き飛ばした。

 

「…………よかった」

 

直後、彼の後頭部に鈍い音が響く。直後……鮮血が舞う。

 

「……っ、ぐ……!」

 

痛い……頭がガンガンと痛む。

 

「……っ、彼方!?」

 

まだ、終わってない追撃が来る可能性がある。俺はアイの側にすぐに近づく。痛くても関係ない。そして、守るように立つ。

 

「やっぱり………お前だったか新野冬子」

 

目の前に立つ人物の正体。それは、B小町のメンバー……ニノこと、新野冬子。笑みを浮かべながら手にしているのは、包装が破けてチラッと見えているレンガだった。

 

「天城さん………」

 

心底嬉しそうにするニノ。狂気的なその目は……天城彼方を捉えていた。

 

 

 

 






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