一番星は消えない   作:ディバル

75 / 75


メフィストの語源の説はヘブライ語の「破壊する者」や「嘘をつく者」、あるいはギリシャ語などの「悪臭を愛する者」などを組み合わせた造語。



074 メフィスト

 

 

 

 

天城彼方到着の1時間前。アイのスマホに一通の連絡が届いた。

 

『2人っきりで話がしたい』

 

そんな連絡だった。

 

「……ニノ?」

 

アイは届いたメッセージを見つめ、小さく首を傾げる。

 

「2人っきりで話したいって……どうしたんだろ」

 

アイとニノの関係は友達。和解した後は、彼女とは1番の女友達とも呼べる存在で、偶にだが一緒に遊ぶ仲でもある。そんな彼女からの連絡。そして、その後に場所が指定された。そこは、家族全員で行った事のある公園。

 

「ごめん、社長。ミヤコさん。私、ちょっと寄り道してから帰るね」

 

ライブ終わりの余韻が残る中、アイはスマホを片手にそう言った。

 

「ん? 寄り道?」

 

壱護が不思議そうに眉を上げる。

 

「うん。少しだけ歩きたくて。なんかまだドームの余韻がすごいんだよね」

 

その言葉に、ミヤコはふっと笑った。

 

「あぁ……まぁ、今日くらいはそうなるわよね」

 

「東京ドームだもんな。そりゃ実感も湧かねぇか」

 

アイは嬉しそうに笑いながら、胸の前でスマホを握る。

 

「だから、ちょっとだけ景色見てから帰るね!」

 

「遅くなるなよ」

 

「ちゃんと変装して行きなさいよ?」

 

「はーい!」

 

スマホを取り出し、アイは少しだけ迷うように画面を見る。そして、小さく笑った。

 

「心配性だもんね、彼方」

 

そう呟きながら、メッセージを打ち込む。

 

『少しだけ、あの公園寄ってから帰るね! ほら、前にみんなで行ったとこ!』

 

連絡を送った後、アイは目的の場所に向かった。ドームから歩いて20分程度の場所。薄暗いその場所を、スマホのライトで照らしながら歩く。

 

「ニノー!」

 

公園の奥にいた人影に気づき、アイは軽く手を振る。

 

「ごめんね、待った?」

 

「……ううん。私も今来たところ」

 

アイを呼び出した人物。それは、ニノであった。街灯に照らされたニノは、静かに笑みを浮かべていた。

 

「それにしても……本当にやったね、東京ドーム」

 

その言葉に、アイは嬉しそうに目を輝かせる。

 

「ねっ!? すごかったよね!?もう歓声とかヤバくてさ!途中から夢見てるのかと思った!」

 

「……うん。あんな景色、初めて見た」

 

「私ね、ステージ立った瞬間、ちょっと泣きそうだったんだ。『あぁ、本当にここまで来れたんだ』って」

 

アイはそう言いながら、夜空を見上げる。天気は曇りで、星が見えない。

 

「昔はさ、こんな未来あるなんて思ってなかったなぁ」

 

「…………」

 

「でも、諦めなくてよかった。B小町続けててよかったって、今日ほんとに思えたの!」

 

ニノはそんなアイをじっと見つめる。その視線は、探るような相手を観察するような目。

 

「……アイは、幸せ?」

 

「え?」

 

少し不意を突かれたように、アイは瞬きをする。

 

「うーん……うん。幸せだよ。もちろん大変な事もいっぱいあるけど……それでも、今は毎日楽しい」

 

「そっか……」

 

ニノは小さく俯き、どこか噛み締めるように呟く。

 

「……アイは、変わったね」

 

「そうかな?」

 

「昔より、ずっと楽しそうに笑う」

 

その言葉に、アイは少し照れくさそうに笑った。

 

「えへへ……そう見える?」

 

それから、2人は話を続けた。アイが加入した日や、アイが本音を語った日、遊びに行った事、これまでの数年間の思い出を話し続けた。

 

「……ねぇ、アイ」

 

しばらく思い出話を続けた後、ニノが静かに口を開く。

 

「ん?」

 

「今日……これ、渡そうと思ってたの」

 

そう言いながら、ニノは後ろに隠していた小さな包みを取り出す。綺麗にラッピングされたそれを見て、アイは目を丸くした。

 

「えっ!? プレゼント?」

 

「……うん。東京ドーム、おめでとうって」

 

「わぁ……!ありがと、ニノ!」

 

アイは嬉しそうに笑いながら、一歩ニノへ近づく。しかし、彼女は気付かなかった。それに悪意が混ざっている事を。

 

「開けてもいい?」

 

「……まだダメ」

 

「え?」

 

「ちゃんと渡すから……もう少し近く来て」

 

ニノは笑みを浮かべたまま、包みを両手で持ち直す。

 

「アイに、直接受け取ってほしいの」

 

「もー、なにそれ」

 

アイは苦笑しながらも、警戒する様子もなくゆっくり歩み寄っていく。そんな時だった。

 

「アイ!!」

 

「え……!?」

 

彼女を呼ぶ声が響いた。アイは声がした方向に視線を向ける。彼方のスマホのライトで2人が照らされる。彼方は見逃さなかった………ニノの顔に狂気が宿った事を。

 

「………よかった」

 

アイを突き飛ばし、ニノから距離を無理やり離した。後頭部に迫る物体を回避する術は、彼にはもうなかった。そうして、鈍い音が響く。

 

 

 

 

新野冬子………B小町の最初期のスタートダッシュを成功させた立役者。アイの加入後にファンを奪われた……正確に言えば、ファンを奪われたのはメンバー全員。それに加えて、アイの贔屓で一時期、アイは孤立した。しかし、アイが本音を晒し出し和解。その後、パフォーマンスが上昇し、他のメンバーも次第にファンが増えていった。

 

長かった髪をバッサリと切ってショートヘアになった。和解して仲の良い交流関係を築いていた筈………偶に一緒に遊びに行ったりもしていた。なのに………何故?

 

「…………アイ。君は逃げろ。今すぐこの場から」

 

「え……?ま、待って……何言ってるの……?」

 

突然の状況に理解が追いつかず、アイの声が震える。

 

「ニノ……?彼方も頭から血が……っ……!」

 

彼の頭から血が流れる。綺麗な金色の髪が徐々に赤に染まる。頭部の損傷………しかし、彼は微塵もその事を気にしていない。その目はニノを捉え続けていた。

 

「………早く行け!!」

 

今まで見た事のない彼方の切迫した声に、アイの肩がビクッと震える。

 

「で、でも……彼方が……!嫌……嫌だよ……っ!置いていけないニノ……どうして…なんでこんな事……」

 

アイは動かなかった。愛する人をこのまま見捨てるような選択。そして、友達と思っていたニノの突然の暴走。彼女の脳は様々な事で埋め尽くされた。

 

「………いいから行け………逃げるんだよ!!」

 

そんなアイのぐちゃぐちゃになっている思考を、大声でかき消す。その必死で切実に訴えかける目を見て、アイは決断をする。

 

「……っ……わ、かった……!でも……絶対、絶対死なないでよ……!」

 

彼女は、走り始めた。来た道を戻って行く。彼方は、アイを守るように逃げ道を確保。ニノは………その場から一歩も動かずに、アイが遠ざかるのを見守っていた。

 

「彼方……っ…絶対、戻ってきてよ……!」

 

その返答に、彼は答えなかった。そして、残ったのは2人………。

 

「予想外だった………なんでアイを狙った?お前は、アイの友達じゃなかったのか?」

 

その質問の返答は……すぐ返ってきた。

 

「アイはね………私にとって、大切な友達なんだよ?だから、最初からアイを狙ったわけじゃないの。……私はただ、信じてた。天城さんなら、絶対ここに来てくれるって」

 

………今、なんて言った、こいつ……アイが友達?そしてアイが狙いじゃない……そして、ここに来てくれると信じていた?………今の言葉を全て信じるなら、最初から狙いは俺?ニノは、アイが逃げても追う素振りも見せなかった。

 

「………俺が間に合わなかったらどうする気だったんだ?」

 

だとしても、不確定要素が大きすぎる。そんな博打みたいな事を普通に………数秒遅れていたら、確実にアイが傷ついていた。

 

「……その時は、その時かな」

 

ニノは血の付いた包みを見つめながら、小さく笑う。

 

「でもね……天城さんって、絶対来る人でしょ?だって、ずっとそうだったから」

 

「…………」

 

「アイの事になると、誰より怖がって、誰より必死になって……誰より先に気づく。だから、来てくれるって思ってた」

 

その目は、彼方だけを真っ直ぐ見ていた。腹の内を全て見抜くような視線が、彼に突き刺さる。

 

「……私、ずっと見てたんだ。天城さんの事。出てるドラマも、番組も……全部。ほんと、何考えてるのか分かんない人だった。掴みどころなくて、いつも飄々としてて……でもね、アイの事になる時だけは、全然違ったの」

 

見られていたのは俺の方か……しかし、何故……そこまで俺に執着する?こいつとの関わりは殆どなかった。数回話した程度……なのに……

 

「……だって、好きになっちゃったから」

 

ニノは静かに笑う。その笑みはどこか壊れていて、それでいて妙に穏やかだった。

 

「気づいたら、ずっと天城さんの事ばっか見てた。テレビに出てれば録画して、インタビューも雑誌も全部追って……アイを見てる時の顔だけ、何度も繰り返してた」

 

彼の思考を読んだ如く、話を続けていた。彼は動けなかった。頭の損傷……そして、武器を手にしているニノ……下手に動こうとすれば死ぬ。少し遠くにアイのスマホが落ちている。連絡手段は、彼のスマホがあるが助けを呼ぶ隙はない。アイが誰かを引き連れてくるのには時間がかかる。だから、黙って話を聞く事に集中していた。時間を稼ぐために。

 

「でもね……私の気持ち、叶わないって分かってる。だって、天城さん、ずっとアイしか見てないから……」

 

次の瞬間………彼女の瞳がドス黒く染まった。そして、恍惚とした表情で………

 

「叶わない恋ならさ……片想いのまま終わった方が、ずっと綺麗だと思わない?だから、天城さんを殺して……この気持ちごと、永遠にする」

 

手にしたレンガを手放し、ベンチに置いていたバッグからナイフを取り出す。雲が晴れ、月明かりでその銀色の刃が光を放つ。

 

頭の出血が止まらない。ゆっくりとだが……確実に死に近づいている。しかも、片目に血が入り込んでその目が全く見えない……少しの間このままか……。

 

「ねぇ、天城さん。最後に聞かせて?………私じゃ、ダメだった?」

 

ここでその質問か………ここで嘘をつくか?いや……ずっと俺を見てきたと言っていたなら、嘘は直ぐに看破される。それに……

 

「……無理だな俺の隣はとっくの昔に決まってる」

 

アイを裏切れるわけないだろ。それが例えこの場を逃れる為の嘘であってもだ。

 

「……そっか……天城さんなら、そう言うって思ってた」

 

そのドス黒い瞳が完璧に目の前の獲物を捉える。

 

「安心して……天城さんを殺したら、私もちゃんと後を追うよ。1人だけ残るつもりなんて、最初からないから……」

 

フラつきながらも足を動かそうとする。しかし、それよりも早くニノが動いて接近。その刃は、彼の腹部に向かって………

 

「………愛してる」

 

突き刺さった。

 

 

 







皆様の感想や評価が作者のやる気に繋がっています。よければ評価と感想をお願いします。
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

一番星の子(作者:孤独なバカ)(原作:推しの子)

歌好きの主人公が転生した先は推しの子である星野アイの子供だった。前世の曲を推しの子世界で歌って星野アイを超えようとするとありふれた話。▼曲は曲名のみ使用。歌詞は使わないつもりです。▼ごめんなさい。タイトルかぶりがあった為タイトル変更してます


総合評価:2264/評価:8.3/連載:23話/更新日時:2026年03月27日(金) 18:40 小説情報

百合の間に挟まりたくない男はどうしたらいい(作者:かぐいろ大好き侍)(原作:超かぐや姫!)

▼ 田舎から都会に飛び出した、高校生の天野尊(あまのみこと)。▼ 実家が田舎の農家で一生をそこで過ごすのが嫌で、高校生でありながら一人で東京に。家賃38,000円の映ないボロアパートであるが都会で青春を謳歌する。▼ 思いがけず、同じ苦学生の友人と謎の月のお姫様を育てる事に!▼ 尊の青春はどうなってしまうのか!▼*当作品は『超かぐや姫!』に脳を焼かれ[俺の理想…


総合評価:2052/評価:7.5/連載:12話/更新日時:2026年05月11日(月) 05:30 小説情報

転生オリ主は綾紬芦花を幸せにしたい(作者:天戸 蒼香)(原作:超かぐや姫!)

「超かぐや姫!」、面白い! 最高!▼でも舞台裏で泣いてる綾紬芦花も幸せにしたい!▼そんなオリ主が超かぐや姫の世界に転生したから、芦花を幸せにするために原作介入!▼……するも、そんな上手くはいかない話。▼でも芦花も含めてちゃーんとハッピーエンドにするよ、作者が保証しちゃう!▼※百合の間に男が挟まることになります


総合評価:3561/評価:7.84/連載:29話/更新日時:2026年05月23日(土) 09:11 小説情報

超かぐや姫!~超人に脳を焼かれた廃人~(作者:三流ゲーマー)(原作:超かぐや姫!)

劇場で観て脳を焼かれたので思うままに書いてみた作品です


総合評価:2457/評価:7.8/連載:31話/更新日時:2026年05月18日(月) 00:00 小説情報

英雄にしかなれない男、転スラに行く(作者:ちゃがまくら)(原作:転生したらスライムだった件)

とあるRe:ゼロから始まる異世界生活好きが転スラに転生する話▼*ラインハルトと同じ加護、体質を持っているだけの一般人です(予定)▼ここの設定違うよ、とかあったら遠慮せずコメントにどうぞ


総合評価:2673/評価:7.12/連載:47話/更新日時:2026年05月13日(水) 09:53 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>