一番星は消えない   作:ディバル

76 / 76
075 泥沼

 

 

 

 

一目惚れだった………。

 

同年代のはずなのに、天城さんはどこか大人びていて、何を考えているのか分からない掴みどころのなさがあった。なのに、その視線も、言葉も、仕草も……気づけば全部が気になっていた。顔も良くて、性格だって悪くない。こんなの、好きにならない方が難しい。

 

でも、天城さんの隣には、いつもアイがいた。

 

不思議と嫌じゃなかった。悔しいはずなのに、“アイなら仕方ないかな”って思ってしまった。同じ女だったから分かっていたのかもしれない。アイもまた、天城さんを特別な目で見ていた事に。

 

アイが本音を曝け出したあの日、私はようやく知った。アイは、私が思っていたような絶対的な存在じゃなかった。ただ傷ついて、悩んで、それでも笑おうとしている……普通の女の子だった。

 

だからこそ、友達になれた。……いや、ずっと友達だと思っていたんだ。アイの事は、本当に大切だった。だから、壊したいなんて思った事は一度もない。

 

ただ……天城さんを見ているアイが、少しだけ羨ましかった。諦めようと思った。アイの隣にいる天城さんを見て、“きっとこれでいいんだ”って、自分に言い聞かせようとしてた。

 

……でも、ダメだった。

 

私が歪み始めたきっかけは、たぶん宮崎遠征の時。B小町のみんなで、天城さんの出演してる作品を見に行こうってなったあの日。実際に演技が始まった瞬間、空気が変わった。そこにいたのは、いつもの天城彼方じゃなかった。声も、表情も、視線も……全部が別人みたいで、息をするのも忘れるくらい引き込まれた。そして、あの泣きの演技。

 

「……あっ」

 

って、気づいたら声が漏れてた。絶望に染まったあの目から、どうしても視線を逸らせなかった。苦しくて、壊れそうなのに、それでもどこか綺麗で……見入ってしまった。

 

その時、思った。あぁ、この人は、本当に何者なんだろうって。

 

いつも飄々としていて、掴みどころがなくて、何考えてるのか全然分からない。……いや、そもそも普段見せてる顔だって、本物なのかすら分からなかった。

 

その“知らなさ”に、私は取り憑かれた。

 

その後は、早かった。気づけば、天城さんが出ている作品も、雑誌も、番組も……全部追いかけるようになっていた。見るたびに違う顔をしていた。同じ人のはずなのに、毎回まるで別人みたいで……その度に、“今度は何を見せてくれるんだろう”って思ってしまう。

 

特にドラマは分かりやすかった。悪役とか、壊れていく役とか、死んでしまう役とか……そういう、負の感情を抱えた人間を演じている時の天城さんは、息が止まりそうになるくらい綺麗だった。

 

苦しそうで、危うくて、今にも消えてしまいそうなのに、どうしてあんなに目を離せなかったんだろう。……でも、この頃はまだ良かったんだと思う。ただのファンだったから。表に出る事もなく、遠くから勝手に見て、勝手に好きでいるだけ。叶わなくても、それでも十分幸せだって思えていた。

 

“この立場のままでもいいかな”

 

そんな風に、少しずつ自分を納得させ始めていた。……あの時までは。

 

あれは……ミヤコさんにスケジュールの相談をしようと思って、事務所に行った時だった。ちょうど話し声が聞こえてきて……最初は聞くつもりなんてなかったのに、何故か足が止まった。少しだけ。少しだけならって、そう思って耳を澄ませた。……そしたら。

 

「……単刀直入に言います。アイが妊娠しました。父親は俺です」

 

天城さんの口から、そんな言葉が聞こえた。あの時の感覚は、今でも忘れられない。心臓がうるさいくらい鳴ってるのに、頭の中は真っ白で……立ってるだけなのに眩暈がした。

 

話を聞いていくうちに分かった。アイも、天城さんも、2人で子供を育てる覚悟を決めていた事。そして社長もミヤコさんも、それを受け入れていた事。その瞬間、胸の奥がぐちゃぐちゃになった。

 

「……離れないと」

 

何故か、そう思った。見つからないように隠れていたのも、多分……壊れそうだったからだと思う。そのまま事務所を出ていく2人を、気づけば追いかけていた。……そして、見てしまった。

 

天城さんが、アイを見る顔を。いつもの掴みどころのない笑みじゃなかった。飄々とした仮面でもない。不安そうで、怖がってて、それでもアイを守ろうとしてる……そんな、人間らしい顔だった。

 

その表情を見た瞬間、私の中で何かが壊れた。あぁ、欲しいって思ってしまった。あんな顔を向けられるアイが、羨ましくて仕方なかった。いつも誰にも見せない、本物の天城彼方を……私にも向けてほしいって。

 

「……アハ。そっか。見てもらえないなら、見てもらえる状況を作ればいいんだ」

 

私に狂気が宿った瞬間だった。

 

でも、アイに恨みがあったわけじゃない。壊れた後でも、私はずっと友達だと思ってたし……東京ドームの夢だって、ちゃんと一緒に叶えたかった。だから、動き出すのはその後でよかったの。

 

それから私は、天城彼方って人をもっと知ろうとした。出演してる作品、雑誌、インタビュー……調べれば調べるほど見えてくるものがあった。天城さんの行動の根っこには、いつもアイがいる。……全部、アイのため。だったら、その“性質”を利用すればいい。そう思った。

 

それに、ライブの時、誰がどこを見てるかくらい分かる。あの日もそうだった。天城さん、ちゃんと変装してたのに……私にはすぐ分かった。“あぁ、いる”って。

 

顔を隠してても、姿を変えてても、アイを見てる時だけは全部滲み出るから。……愛って、怖いよね。好きになれば、その人が何を大事にしてるのかも、何を失うのが一番怖いのかも……嫌でも見えてきちゃうんだから。

 

それに……社長達の動きも、ずっと見てた。事務所での会話をこっそり聞いたり、スケジュールの流れを見たりしてるうちに、2人が宮崎に行くって分かったの。……なんの因果なんだろうね。私が壊れ始めた場所で、アイが子供を産むなんて。

 

だから、私はリョースケさんを使おうと思った。あの人、アイの事になるとすぐ周り見えなくなるから……少し話を振るだけで、勝手に動いてくれると思ったの。実際、私は“少し情報を取ってきてほしい”って言っただけだった。アイが今どこにいるのか、とか。誰といるのか、とか。そういうのを知りたかっただけ。

 

でも……結果として、全部終わっちゃった。担当医が死んだって聞いた時は、さすがにびっくりしたかな。……まぁ、リョースケさんの事は、途中からちょっと面倒になってたし。煽ったら勝手に暴走して、そのまま消えてくれたから……結果的には楽だったんだけど。

 

「……あぁ……やっぱり、いい」

 

子供ができても、2人は芸能界をやめなかった。むしろ、前より輝いて見えた。アイはどんどん綺麗になっていって……天城さんも、信じられないくらい売れていった。そして、あのドラマ。

 

『最後まで、生きた証』

 

世間でもすごく話題になってたけど……私は、たぶん違う意味で壊された。最後の、天城さんが死ぬシーン。あの演技が、忘れられなかった。苦しそうな息遣いも、震える声も、死を受け入れきれてない目も……全部、生々しすぎて。本当に“ 本当に、死を知ってる人”みたいだった。

 

見てるだけなのに苦しくて、なのに何度も見返してしまう。……あぁ、この人、本当にどこまで本物なんだろうって。気づけば、もう抜け出せなくなってた。好きとか、憧れとか、そんな綺麗な言葉じゃ足りないくらい……私は完全に、天城彼方っていう沼に溺れてた。

 

私の想いは、日に日に大きくなっていった。見ないようにしても、考えないようにしても、気づけば頭の中は天城さんの事ばっかりで……もう、自分でも止められなかった。

 

そして迎えた、東京ドーム公演。B小町みんなで夢見てたステージ。何万本ものサイリウムが揺れて、会場全部が光ってて……本当なら、あの景色に感動しなきゃいけなかったのに。

 

……私の視線は、ずっと関係者席にいた天城さんを追ってた。子供達と一緒に、赤色のペンライトを振ってる。その横顔を見ながら、思った。……あぁ、やっぱりこの人は、ずっとアイを見てるんだなって。不思議なくらい冷静だった。嫉妬とか、悲しいとか、そういうのも通り越して……ただ、理解してしまったの。

 

私は、この人の特別にはなれない。だから……決めた。この気持ちを、永遠にしようって。

 

そうして……今に至る。私は、天城彼方を殺す。そして、その後に私も死ぬ。アイには絶対邪魔させない。だって、向こうに行けば……今度こそ、誰にも邪魔されずに天城さんと永遠にいられるから。

 

ナイフを握る手に、自然と力が入る。そして、やっとこっちを見てくれた彼に向かって、私は笑った。

 

「……やっと、見てくれた♡」







皆様の感想や評価が作者のやる気に繋がっています。よければ評価と感想をお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

一番星の子(作者:孤独なバカ)(原作:推しの子)

歌好きの主人公が転生した先は推しの子である星野アイの子供だった。前世の曲を推しの子世界で歌って星野アイを超えようとするとありふれた話。▼曲は曲名のみ使用。歌詞は使わないつもりです。▼ごめんなさい。タイトルかぶりがあった為タイトル変更してます


総合評価:2265/評価:8.3/連載:23話/更新日時:2026年03月27日(金) 18:40 小説情報

百合の間に挟まりたくない男はどうしたらいい(作者:かぐいろ大好き侍)(原作:超かぐや姫!)

▼ 田舎から都会に飛び出した、高校生の天野尊(あまのみこと)。▼ 実家が田舎の農家で一生をそこで過ごすのが嫌で、高校生でありながら一人で東京に。家賃38,000円の映ないボロアパートであるが都会で青春を謳歌する。▼ 思いがけず、同じ苦学生の友人と謎の月のお姫様を育てる事に!▼ 尊の青春はどうなってしまうのか!▼*当作品は『超かぐや姫!』に脳を焼かれ[俺の理想…


総合評価:2057/評価:7.5/連載:12話/更新日時:2026年05月11日(月) 05:30 小説情報

彩葉に男の幼馴染がいたっていいじゃない(作者:ザワザワする人)(原作:超かぐや姫!)

この作品は、男をぶち込んでいます。▼男が、います。▼は?彩葉はかぐやとしかイチャイチャしないんだが。という人は見ない事をお勧めします。▼いや、別に男と彩葉がそんなにイチャイチャするという訳でもないです。▼(終盤になって怪しいとの感想が……)▼(完結しちゃったのですが、もうイチャイチャしちゃってますねぇこれは)▼


総合評価:2011/評価:7.65/完結:34話/更新日時:2026年05月25日(月) 17:53 小説情報

転生オリ主は綾紬芦花を幸せにしたい(作者:天戸 蒼香)(原作:超かぐや姫!)

「超かぐや姫!」、面白い! 最高!▼でも舞台裏で泣いてる綾紬芦花も幸せにしたい!▼そんなオリ主が超かぐや姫の世界に転生したから、芦花を幸せにするために原作介入!▼……するも、そんな上手くはいかない話。▼でも芦花も含めてちゃーんとハッピーエンドにするよ、作者が保証しちゃう!▼※百合の間に男が挟まることになります


総合評価:3538/評価:7.78/連載:30話/更新日時:2026年05月25日(月) 08:06 小説情報

超かぐや姫!~超人に脳を焼かれた廃人~(作者:三流ゲーマー)(原作:超かぐや姫!)

劇場で観て脳を焼かれたので思うままに書いてみた作品です


総合評価:2458/評価:7.8/連載:31話/更新日時:2026年05月18日(月) 00:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>