あの後、2人で帰った。帰ってきたら普通に怒られた。アイは勝手に飛び出した事について。俺に関しては、一人で勝手に探しに行った事で。2人一緒に仲良く怒られました。そんな時でもアイは笑っていた。いつもの調子が戻っていた。よかったのだが……その翌日。
「ごほっ……ごほっ……頭いてぇ」
彼は、風邪を引いた。雨の中で走り長時間、その状態でいたのだから当然ちゃ当然だ。今は、ベッドで横になっている。因みにアイは今学校に行っている。
風邪を引いたのはいつぶりだろうか?今世では初めてだ。こんなにキツいものだったか?ダメだ……寝よう。目を閉じる。そうしていると俺の意識は、深く沈んでいった。
「おい……起きろ」
誰かが呼んでいる?誰だ……俺は目を開ける。
「やっと起きたか……ほら、続きやるぞ」
そこにいたのは、見知った顔だ。俺がいつも遊んでいる友達が3人そこにいた。そして、この場所はその友達の1人の家だ。あれ?なんで、一瞬わからなかったんだ?毎週遊んでいたのに。何か大切な事を忘れているような?………まぁ……いいか。
「俺、スマブラ弱いんだよなぁ。まともに使えるの一体だけだし」
起き上がりコントローラを握る。画面には様々なキャラが映っている。俺が選ぶのは、いつも使っているキャラだ。
「お前はそればっかだよなぁ」
「他のキャラも練習したら?」
2人がそう言いながら茶化してくる。あぁ……懐かしい。………懐かしい?また違和感。何でだ?先週も遊んでいただろう?
「うるさいなぁ……これで勝つんだよ」
キャラの選択が終わり、ゲームが始まった。やっぱり難しいな。何だよコマンドって。俺なんて適当にコントローラをポチポチしているだけだぞ?ガードは最近覚えたけど。
「やっぱり見えづらい。俺のキャラどこだよ?」
4人でやっているのでその分、視点が遠くなる。キャラが小さくて見えづらい。あ……俺のキャラ死んだ。それから、何回か対戦したが結局、勝てなかった。
「佐藤、お前上手すぎだろ……変顔しかできないと思っていたが」
「お前そんな事思ってたのか蒼空」
蒼空。俺の名前だ。こう呼ばれたのはいつぶりだろう?………だから、何故懐かしむ?いつも呼ばれているだろ?頭にノイズが入る。さっきから何だ?これ?
「ドベがなんか言ってる」
「はぁぁぁ……何だよ島田」
「事実だろ」
「和倉まで……」
あぁ……やっとわかった。これは夢だ。そして俺の記憶だ。前世での思い出。確か、これは高校生の時だっけ?あの時が一番楽しかったなぁ……。
「もうスマブラはいいだろ………パーティーゲームしようぜ」
「蒼空が逃げたぞ」
「雑魚乙」
本当に懐かしい。こうやって弄られる感覚。この空気感。もう絶対に戻れないあの青春。友達は、多い方ではなかった。でも、俺は大勢と仲良くなるよりも、数人の友達とこうして遊んだりバカやったりするのが良かった。
社会人になってからは、互いに時間が合わなくなり遊ぶ機会は減ったけど、それでも時間を作って遊び、食事に行ったりもしていた。あぁ……こうして改めて見ると思ってしまう。戻りたいなぁ……と。未練は、親よりも先に逝った事だけだと思っていた。でも、それだけじゃなかったんだと実感してしまう。
「はいはい……雑魚ですよぉ」
清々しく俺は開き直った。だって事実だし。
「……確かにスマブラばかりだと飽きるしな。人生ゲームするか?」
和倉がそう言いながら持ってきたのは人生ゲーム。ボードゲームの方だ。最近だとSwitchで出ている。ここにきてのまさかのボードゲーム。
「偶にはいいな」
「やろやろ」
島田と佐藤はノリノリだ。こうして全会一致で人生ゲームが始まった。
「家が全焼……500万失う」
「……ドンマイ」
人生ゲーム開始して10分後に佐藤が借金を背負った。俺は、佐藤の肩に手を置きそう慰めの言葉をかける。
「よし……次は俺の番だ」
ルーレットを回して出た目は4。
「お……子供が産まれて全員から5万貰う。よし……お前ら金よこせ」
「……俺借金してるけど?」
「ここに来て運が回っている」
涙目の佐藤から5万を貰う。俺の今の財産は300万まで上昇している。そうして、ゲームは続いた。
「勝った……スマブラではボコボコだったがこっちで捲った!!」
俺の圧倒的勝利で終わった。子供は3人。持ち家もありそして累計資産1000万。ふ……本当の人生もこうだったらいいのに。少しだけ悲しい気分になった。
「結局俺、借金返せなかったぞ?」
「これ勝つの無理」
「クソ……スマブラはクソ雑魚なのに」
あぁ……楽しい。このまま、夢が覚めなければいいのに。でも、楽しい時間は過ぎ去る物。その時だった。空間がひび割れ、そして歪む。楽しい夢もどうやらここまでのようだ。空間が完全に破壊され、俺の意識がまた薄れてゆく。
「んっっ………夢か」
意識が覚醒する。体を起こしベッドに座る。近くにある時計に視線を向けた。時刻は17時。どうやらかなりの時間眠っていたみたいだ。……神崎蒼空。それは、前世の俺の名前だ。もう、この名前を呼ばれる事はないと思っていた。しかし、思わぬ形で呼ばれた。
未練はそこまでないと思っていた。でも、それは違った。どうやら、俺は未練たらたらだったみたいだ。あいつらの幸せを近くで見届け、死ぬまでバカやって過ごしたかった。もう、その願いは永遠に叶わない。俺が死んだからだ。あいつら、元気にしてるかな?
「あれ?………俺泣いてるのか?」
目尻から熱い物が垂れる。それは、俺の涙だった。その時だった。扉が開く。そこにはランドセルを背負っているアイの姿。どうやら学校が終わって帰ってきたみたいだ。
「彼方?」
俺が未練たらたらで泣いていると声が響いた。そこに視線を向けるとアイがいた。一番見られたくない人に見られてしまった。
「どこか痛い?」
アイが近くにやってきて、俺の隣に座ってくる。これ、何て言うべきかなと悩みながら次の発言を考える。
「それとも……怖い夢見た?」
「怖くはなかったね……むしろいい夢だったよ」
言葉を返す。怖くはない。いい夢だった。懐かしくて、夢の中とは言えあいつらに会えた。何故、今更あんな夢を見たかはわからない。風邪を引いた時に見る夢は悪夢だと聞いた事はあるが、あれは悪夢なんかじゃない。あれは、俺の大切な思い出だ。
「なら……何で泣いていたの?」
アイから至極真っ当な疑問が飛んでくる。
「………昔の友達の夢を見たんだ」
「え?……彼方って私以外に友達いたの?」
アイが困惑している。その言葉は俺の心にダメージを与えた。確かに、今世では友達はアイしかいない。それは紛れもない事実だが、こうして直接言われるのは心にくる。子供の純粋さと彼女の性格も相まって結構くるな。
「いたよ。昔にね……でも、あいつらにはもう会えない」
「ふーん……でもさ」
「彼方、その友達のこと……すごく好きだったんだね」
「顔見ればわかるよ」
そうだ。俺は、あいつらの事が好きだ。前世では親友と呼べる友達はいたが、そいつらは引っ越した。中学時代の友達とは疎遠に。だから、高校で知り合ったあいつらが一番の友達だった。こうして見ると俺達は、似ているのかもしれない。母親に捨てられたアイ。自分が死んで会えなくなった俺。互いに大事な人達を失った。
「情けない姿を見せたねアイ」
「情けなくないよ。泣くくらい大事だったってことでしょ」
「ありがとう……アイ」
「本当に変だね彼方は」
2人は、笑い合っていた。思いは消えない。2人とも大事な人を失っている。そんな2人だが、今だけそれがどうでもよく感じ、笑い共に同じ時間を過ごしている。失った物は戻らない。だけど、その痛みを乗り越えないといけない。彼等の人生は続いていくのだから。
「あ、そう言えば。彼方、風邪大丈夫?」
思い出したかのようにアイが聞いてくる。あぁ……そうだった。俺、風邪を引いていたんだ。話している内に忘れていた。頭は痛くない。さらに咳も出ていない。体温計を取り出し体温を測る事に。少しすると……ピピッという音が響く。体温を測り終えた。見てみると36.3°。
「うん……熱は下がったしもう大丈夫。わざわざ見舞いに来てくれたの?ありがとう」
「どういたしまして。彼方、無理しそうだから」
「一応見に来ただけ」
この子は、よく見ているなと感心する。
「さて、お腹空いたし夜ご飯食べに行こうか」
立ち上がり、彼女にそう言う彼。
「うん……私もお腹ぺこぺこ」
そうして前を歩く。俺は、これからもずっと引きずって生きていく。世界が違っても俺は、友達だと思い続ける。そして、願う。また再会できる事を。再会したらまた話そう。そして、また全員揃ってバカやったりするんだ。ちゃんと幸せになれよ。………あいつらの人生に祝福を。