一番星は消えない   作:ディバル

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079 神崎蒼空

 

 

 

 

「………ここ何処だ?」

 

目を覚ましたら見知らぬ所にいた。真っ白な空間で、何もない場所。自分の体を見る。両方の太ももの傷がない。今度は頭に触れる。レンガで殴られた傷も、そこには無かった。

 

「………死んだか?」

 

何もない場所……本来あるべき筈の傷がない。そして、謎の空間……。ここが天国というやつなのか?それにしても何もない……。

 

『死んでないんだよなぁ……これが』

 

突如……背後から声がした。振り返るとそこには………見知った顔……いや……久しぶりなのに見慣れすぎている顔。

 

「………悪夢か?」

 

そこにいたのは………

 

『自分に向かって酷くない?』

 

前世の俺の姿………神崎蒼空だった。

 

「………なんで最後に見るのが前世の自分なんだよ」

 

そこは、走馬灯で……今までの思い出とかだろ?なんで前世の自分なんだよ……見たくねぇ……。

 

『だから、死んでねぇよ……ここは夢みたいな場所だ』

 

「……死んでない?」

 

確かに……俺、三途の川を渡った記憶ないし……。なら、この空間の正体は?

 

『………見覚えあるだろ?某錬金術師の心理の……』

 

「絶対違うだろ……確かに似てるけど、デカい扉ないだろ?」

 

多分……俺、瀬戸際にいるのにここでアニメネタぶっ込んでくるのかよ……。俺らしいけど緊張感ないの?

 

『ほら……とっととヨミガエレ』

 

「おい……蘇れって、それ絶対カタカナだろ……佐賀のゾンビのアイドルの曲だろ?元ネタ」

 

と言うか……このネタわかる人が何人いるだろうか?

 

『よくわかってるじゃないか』

 

こいつ殴ろうかな?自分を本気で殴りたいと思ったの、初めてだぞ?前世の姿だけど。

 

『俺は……伝説の山田が好きだ』

 

「知ってるよ……というか、同じ人間なんだから推しも同じだろ」

 

目の前の俺は笑っている。自分でも思う……腹立つ顔をしている。こんなに俺ってウザかったっけ?

 

『映画化されるのに数年かかったよなぁ………特典色紙目当てに、何度か行ったよな』

 

「行ったな……面白かったよ……何なら少し泣いたよ」

 

『わかる……でも……1番好きなアニメは……』

 

『「ダリフラ」』

 

2人は、見事にハモった。姿は違うが、性格や中身はほぼ同じ人間だ。好きな物……感性。天城彼方に関しては、肉体的に精神年齢が引っ張られているから完全に同じ人間ではない。

 

『お前……1番の推しは誰だ』

 

「決まってるだろ……」

 

2人は同時に笑う。そして………

 

『ゼロツー』

 

「星野アイ」

 

同時に自分の推しを言い放った。しかし……2人の顔から笑みが消えた。互いを睨んで………

 

『おいおい……ゼロツーが1番だろ? お前も好きだろ?』

 

「確かに昔はそうだった……でも今はアイだ……嫁が1番に決まってるだろ?」

 

天城彼方に関しては、自分が瀬戸際だとさっきまで考えていたのに、自分と喧嘩を始めた。神崎蒼空に関しては、30歳を超えているのに、転生前のまだ20歳だった頃の自分と言い争いをしていた……いい大人なのにだ。

 

互いに睨み合ったまま、数秒の沈黙が流れる。けれど次の瞬間………どちらからともなく吹き出した。

 

「……っ、ふはっ……」

 

『ははっ……なんだそれ……』

 

さっきまで本気で言い争っていたはずなのに、あまりにもくだらしくて笑えてきた。

 

「……まぁ、ゼロツーが最高なのは認める」

 

『だろ?』

 

「でも今の俺には、アイがいる」

 

『……チッ、惚気やがって』

 

悪態をつきながらも、目の前の“自分”はどこか満足そうに笑っていた。

 

『それにしても泥臭かったな……あんなに色々したのに、最終的には頭突きの泥試合……アイを守る為とは言え引くわ……』

 

それは、そうだ……自分でも思う。自分なりに対策していたのに、結局最後は泥臭い事をした。前世の俺から見たら、今の俺はイカれすぎている。

 

『お前は、誰かを頼るべきだった。輝の時みたいに頼って、アイを全力で守るべきだった………違うか?』

 

「輝の時は、違う。相手の目的や狙い、それがわからなかった……。輝の時は、姫川愛梨がどんな人間なのかわかっていた。そして、対面した時からもう彼女は詰んでいたから」

 

あの時とは状況がまるで違う。何もわからない状態で、数年間も音沙汰がなかった。誰かの手を借りて、それで傷ついたりしたら、俺は一生それを後悔する。だから、1人で動く。自分が犠牲になればいいと……。

 

『お前……自分1人が犠牲になればいいと思っているだろ』

 

思考を完全に見透かされていた。それもそうか……だって目の前にいるのは俺だ……。自分の考えなんて、大方察しがつく。

 

『お前はそんな1人で抱えられる程、強くないだろ?1人で抱え込んだ時は、いつも誰かを頼っていただろ……』

 

耳が痛い話だ。壁にぶつかった時、悩んだ時は、いつも友達や親に相談していた。自分で出来ない事は頼ったり相談したり、逆に友達に出来ないことは自分から手助けしたりと……そうやって前世は生きて来た。

 

『それに自惚れるな……自分さえ犠牲になればいい?……お前のその命は、もうお前だけの物じゃないんだ!』

 

蒼空が彼方の胸ぐらを掴みながら叫んだ。その目に宿るのは怒り。

 

『お前が傷ついたり死んだりしたら……迷惑なんだよ!!お前の事を思う人間全てに対して……』

 

反論できなかった………だって、余りにも正論で、これを言い返したら俺の事を思っている人全てを否定してしまうから。

 

『お前が死んだら、お前はそれで終わりだ。だが、残された者達はどうなる?お前の死が永遠に心に残り、傷になって、そいつらはこれからも生きていくんだよ』

 

蒼空の握る手が強くなる。

 

『その気持ちを知っているだろう、お前は……。天童寺さりなが死んだ時のお前や、アイがそうだったように、その気持ちをまた……アイやアクア、ルビーにも背負わせるのか?』

 

乱暴に手を離す。バランスが崩れて、彼方が尻餅をついた。

 

「そうだな………自分勝手で傲慢すぎた」

 

自分自身の言葉が胸の奥に沈んでいく。そして、脳裏に過ぎる記憶達。アイやアクア、ルビー……その2人の前世の時の大切な記憶……そして、壱護さんやミヤコさん。自分がどれだけ大切にされていたか……。

 

『でも……お前がアイを救ったのは事実だ……よくやった』

 

そう言いながら、蒼空が彼方の頭を撫でる。その顔に怒りの感情はなく、穏やかな顔をしていた。

 

「………自分に撫でられるの、複雑だな」

 

『俺もだよ……』

 

笑みが浮かぶ……この場所が結局何なのか……これからどうなるかはわからない………でも、まだ死んでないなら、これから先を生きられるなら、精一杯生きてみせる。今度は、1人じゃなく皆んなの手を借りて。

 

『そろそろ時間みたいだな………』

 

彼方の体が少しずつ光の粒子になってゆく。まるで、夢が覚めるかの様に。

 

「ありがとう……俺」

 

『あぁ………長生きしろよ、俺』

 

意識が薄れていくのを感じる。最初はあんな事を言ったが、話せてよかったな……。久しぶりにアニメの話が出来たし…………また………。

 

 

 

 

 

 

「……ん………っ、は……ここ……」

 

耳に機械音が届く。体をゆっくりと起こす。頭が痛い………でも、意識を失う前よりはマシになっていた。辺りを見渡す……病室。どうやら……現実に戻って来たみたいだ。あれから何日経ったのだろうか?

 

そんな事を考えていると、病室の扉が静かに開く。

 

「……彼方? 起きてる?」

 

いつものように様子を見に来たのだろう。けれど、ベッドの上で体を起こしている彼方を見た瞬間………アイの動きが止まった。

 

「…………え」

 

手に持っていた袋が、するりと指から落ちる。信じられないものを見るみたいに、アイの瞳が大きく揺れた。

 

「……うそ……」

 

掠れた声が漏れる。彼方はぼんやりした頭のまま、そんな彼女を見つめ返した。

 

「……アイ」

 

名前を呼んだ瞬間、アイの目から涙が溢れた。

 

「っ……彼方……!」

 

駆け寄ってくる。ベッドの横まで来たアイは、そのまま彼方に抱きついた。

 

「……よかった……っ」

 

声が震えている。ずっと……心配してたんだな。最低だな……大切な人をこんなに泣かせているのだから。

 

「ほんとに……起きた……」

 

何日も、不安を押し殺していたのだろう。服を掴む手に力が入っている。

 

「……ごめん。心配かけたね」

 

「ばか……」

 

泣きながら、でも少し怒ったみたいに呟く。

 

「どれだけ……怖かったと思ってるの……」

 

彼方は小さく苦笑して、ゆっくりとアイの頭を撫でた。

 

「……ただいま」

 

いろいろ言いたい事があるだろうが、その言葉に、アイは涙を零しながら笑った。

 

「……おかえり……っ」

 

 







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