一番星は消えない   作:ディバル

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080 約束を重ねて

 

 

 

「……っ、パパぁ……!」

 

しばらくするとアクア、ルビー、そして壱護さんとミヤコさんが病室にやって来た。ルビーは俺を見るなり抱きついて来た。

 

「……やっと起きたかよ、バカ」

 

「ほんとに……? 夢じゃないよね……?」

 

ルビーの抱きしめる力が強くなる。現実かどうか確かめるべく、色んな所を触っていた。

 

「……ったく、心配かけすぎなんだよ」

 

「うぅ……っ、パパぁ……!」

 

大粒の涙を流すルビー。本当に無茶したなぁ……と改めて思う。泣き続けるルビーの頭を優しく撫でる。ここにいる俺が、ちゃんと生きている事をわかってもらう為に。

 

「泣くなよ、ルビー。……いや、俺も人のこと言えないけど」

 

「もう寝ない……? ちゃんと起きてる……?」

 

「……今度、勝手に無茶したらマジで怒るからな」

 

アクアに釘を刺される。守る為とは言え、あんな無茶はもうしたくない……痛かったし、それに……

 

「パパぁ……っ、よかったぁ……!」

 

「……おかえり」

 

この子達の成長を見守る為に、絶対に俺は死ねない。死んでたまるものか……だって……この幸せを、もう手放したくないから。

 

「ごめんね……心配かけたね、2人とも……もうあんな無茶はしないよ」

 

「……約束だからな」

 

「絶対だよ……? もう、いなくならないでね……」

 

それに頷く。約束はしっかりと守らないといけないな。

 

「……ほんと、生きた心地しなかったぞ」

 

「もう無茶するのは禁止だからね? 本当に……っ、怖かったんだから……」

 

壱護さんは、ほっとした様な表情。ミヤコさんに関しては少し涙目だ。

 

「退院するまで、ちゃんと大人しくしてろ。今度は周りを頼れ」

 

「みんな、ずっと待ってたのよ……ほんとに、起きてくれてよかった……」

 

この人達にも心配をかけさせたな……。いろいろと大変な事になっているだろうに。でも……ちゃんと言わないと。少し恥ずかしいけど……この人達も、俺にとって大事な人達だから。

 

「ただいま……父さん……母さん」

 

恥ずかしいから一度だけだけど………あの時以来だ。アイが妊娠した時、その報告に行った時にこの呼び方をした。あれ以降、呼ぶ機会が無かったけど、言うならここだろう……小っ恥ずかしいのには変わらないけど。

 

「……っ、お、おう……おかえり、彼方」

 

「もう……急にそんな呼び方したら、泣くでしょ……っ」

 

壱護は突然、親として呼ばれて動揺しながらも言葉を返した。ミヤコは、その言葉で涙を流す。こうして、天城彼方は戻って来た。

 

その後、医師が来て俺の体について色々と聞かされた。脳には異常はなく、後遺症も残らないとの事だ。ただ、問題になったのは脚の方だ。リハビリをすれば歩ける様になるみたいだが、前みたいには走れない可能性が高いみたいだ。

 

あれだけ無茶をして、寧ろこの程度で済んだのだからラッキーだろう。それを言ったら怒られるから言わないけど。俺の体に関しては大体こんな感じだ。リハビリをすれば歩けるから、それまで頑張らないと。

 

それより問題なのは……B小町だ。ドーム公演を終えて数時間後に、メンバーであるニノが殺傷事件を起こした。世間からしたら、イメージダウンどころの話ではない。

 

それに、同じ事務所である事から他のメンバーやアイにも手が伸びる。しばらくの間、これは擦られ続けるだろう。そして、問題なのが……アイに手が伸びた時に、アクアとルビーの存在が世間にバレる可能性がある事。本当に色々と終わってしまう。

 

「どうしますか? 壱護さん」

 

「……まずは、B小町の活動を一旦止める。今の状態で表に出せば、アイも他のメンバーも潰れる」

 

「世間は面白がって嗅ぎ回る。ニノの件だけで終わるとは思わねぇ方がいい。マスコミも週刊誌も、“次の燃料”を探してる。アイの周辺も確実に狙われるだろうな」

 

マスコミや週刊誌は、面白おかしくこの事件の事を書くのだろう。今、俺達はB小町自体が注目されている。そんな中で、世間は続報を待っている状態。この絶好の機会を逃す程、彼らも甘くはない。

 

「だから今は守りを固める。アイと子供達の情報は絶対に漏らさねぇ。……最悪、俺が全部矢面に立つ。だが、お前らだけは守る」

 

アイを守って終わり……ハッピーエンドとはならないのが現実だ。結局、この芸能界は自分自身が商売道具だ。炎上や事件などがあれば、真っ先に世間の元に晒される。

 

「それと彼方、お前は余計なこと考えるな。今のお前の仕事は、生きて回復することだ」

 

これまた釘を刺されてしまった。でも、俺にできる事は何もない。下手に手を出せば悪化する。

 

「……で、彼方。お前、この先どうするつもりだ?」

 

「………リハビリに専念しますよ。そして、完全に歩けるようになったら……また芸能界に戻りますよ」

 

「……そうか」

 

しばらくの間、沈黙が続いた。壱護さんは、俺の方を見ながら静かに頷く。

 

「なら、今度は1人で背負い込むな。復帰するなら、お前1人の問題じゃねぇ……俺達も全部付き合う」

 

てっきり……反対されると思った。でも、俺がこう言うだろうと予測していたように、壱護さんの目は真っ直ぐと俺を見ていた。

 

「脚が前みたいに動かなくても、お前の価値は変わらねぇよ。……芸能界ってのは、走れる奴だけが残る場所じゃない。それに、お前を待ってる奴は多い。アイも、子供達も……ファンもな」

 

芸能界は華やかな場所ではない。裏では様々な黒い部分がある。アイを救った今……芸能界に固執する必要はない。でも、そんな芸能界で俺は、これからも生きていく。役の解釈をする時や、他の役者と演技を通して関わる事を、今思い返せばそれが楽しかったから。

 

「だから焦るな。ちゃんと治して、ちゃんと戻ってこい」

 

「………はい」

 

壱護さんは話し終えると、病室から出て行った。リハビリを頑張らないと……。そう考えていると扉が開く……そこにいたのはアイ。ゆっくりと近づいて来て、そのまま抱きついて来た。

 

「……ほんと、ばか。また1人で全部抱え込んで……私達を置いていく気だったでしょ」

 

……アイは、俺の考えがわかってたみたいだ。

 

「ねぇ……どれだけ怖かったと思ってるの……?」

 

「毎日、起きるって信じてた。信じてたけど……もし、このまま目を開けなかったらって考えたら……っ」

 

震える手……。毎日、起きる事を信じて待ち続けた。生きているとわかってはいるが、愛する者がずっと眠った状態で何も言ってくれないのは辛い。

 

「……苦しかった。彼方がいない未来なんて、もう嫌なの」

 

抱きつく力が少し強くなる。

 

「復帰したいなら、していいよ。私は止めない」

 

それでも彼女は、彼の選んだ選択を否定はしなかった。アイ自身、芸能界を「生きる場所」として愛してる人間だから、彼方からそれを奪うのは違うって分かってる。演技をしてる彼方が好きなのも本音だ。

 

「次からは、ちゃんと私を頼って。アクアもルビーも……みんなを頼って」

 

………俺はまだ分かってなかったんだ。1人じゃないのに勝手に進んで、それがこの結果を生んだ。1人でやるべきだと思ってた。

 

「1人で勝手に傷ついて、勝手に死にかけるの……もう禁止だから」

 

少しだけ顔を上げ、涙目のまま彼方を見る。

 

「……約束して?」

 

約束がまた増えるな。でも……もうこの子を悲しませたくはない。

 

「あぁ………約束するよ」

 

俺は、1人で出来ると思っていた。前世の記憶があるから、この世界の未来を知っていたから……自分にアドバンテージが大きいから、1人で全てやれると。でも、現実は違った。1人で出来る事には限界が来る。そんな当たり前の事に、今更ながら気付かされた。ダメだな……本当に。

 

「……もう、1人で無茶しないでね。ちゃんと帰ってきて。……私達のところに」

 

 







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