後日談、と言うより今回の事件の結末。先ずは、ニノからだ。あの後、ニノは別の病院に運ばれ治療を受けた。額から血を流した程度で、他に目立った外傷はなかったみたいだ。そして、目を覚ました後に事情聴取。ニノは、
「……天城さんの全部が欲しかったんです。あの人の時間も、愛される理由も……命さえも。……だから、刺した後は……私も一緒に死ぬつもりでした」
俺も形だけの事情聴取を受けた。今回はこっちが被害者なのだから、軽い質問程度だった。その時にニノの言葉を又聞きだが聞いた。正直に言うと複雑だった。でも、この化け物を生み出したのは俺である事には変わりない。
ニノは刑事事件として裁判に掛けられた。事件当時の精神状態や、俺に対する異常な執着が見られた事から精神鑑定も行われた。その上で、殺意を持った計画的犯行と判断され、それと様々な余罪が出てきた。それも相まってニノには無期懲役の判決が下された。
そして、今から俺達は今回の事件に対する会見を開く事になった。スーツを身に纏い、車椅子に座って時を待つ。最初は、壱護さんが表に立ち、質疑応答に応える流れだ。俺の出番はその後だ。
フラッシュが何度も焚かれる。会見場には大量の記者やカメラマンが集まり、空気は張り詰めていた。壇上に立った壱護さんは、深く一礼する。
「この度は、弊社所属タレント並びに関係者による事件で、多くの方々にご心配とご迷惑をお掛けしました。まずは、被害に遭った天城彼方、そしてファンの皆様に心より謝罪致します」
静かな声だった。でも、その一言一言には重みがあった。すると、すぐに記者達から質問が飛ぶ。
「今回の件について、事務所側はニノさんの異変に気付けなかったのでしょうか?」
「B小町は今後どうなるんですか?」
「星野アイさんへの影響については?」
矢継ぎ早に飛んでくる質問。それでも壱護さんは表情を崩さない。
「責任については、当然事務所にもあると考えています。所属タレントの精神面を含め、管理が十分だったとは言えません」
ミヤコさんが隣で静かに頭を下げる。
「B小町に関しては、現在活動休止という形を取らせていただいております。今後については、メンバー本人達の意思や精神状態を最優先に判断します」
「では、アイさんも活動休止になるのでしょうか!?」
少し空気がざわつく。その瞬間、壱護さんの目つきが鋭くなった。
「……それ以上は、本人のプライバシーに関わる。ここで軽々しく話すつもりはありません」
低い声だった。会見場の空気が一瞬で冷える。
「今回傷付いたのは、天城だけじゃねぇ。所属タレント全員が被害者だ。面白半分で踏み込むのはやめてもらいたい」
その言葉には、社長としてだけじゃなく、“家族を守る父親”みたいな感情が滲んでいた。ざわついていた記者達も、少しだけ押し黙る。壱護さんは小さく息を吐くと、視線を前へ向けたまま続けた。
「……それでも、逃げるつもりはありません。俺達は、この件と向き合います」
最初はこれでいい………俺が出ていく為の土台を2人に作ってもらう。
会見場の空気は重いままだった。壱護さんの言葉を受けて、一瞬だけ静かになった記者達だったが、すぐにまた別の質問が飛ぶ。
「今回の事件ですが、天城彼方さんを狙った個人的犯行という認識で間違いないですか?」
「犯行動機について、事務所側は以前から把握していたのでしょうか?」
「ニノさんと天城さんの間にトラブルは?」
まるで獲物に群がるみたいに質問が続く。
壱護さんは数秒だけ沈黙した後、ゆっくり口を開いた。
「現在判明している範囲では、個人的感情による犯行だと認識しています。だが、詳しい内容については警察の捜査中です。こちらから話せる事には限りがあります」
淡々と答えている。けれど、その拳は机の下で強く握られていた。
「……ただ、1つだけ言わせてもらう」
壱護さんの声が少し低くなる。
「天城彼方は被害者です。そこを履き違えないで頂きたい」
その瞬間、会場の空気がまた張り詰めた。
「彼は、所属タレントを守る為に動いた。その結果、命を落としかけた。……面白おかしく消費されるような話じゃない」
壱護さんの目には、怒りが滲んでいた。その時だった。
「では、その天城彼方さん本人は現在どのような状態なんでしょうか!? 復帰は可能なんですか!?」
その質問に、壱護さんは僅かに視線を横へ向ける。
………次は、お前の番だ。
まるでそう言われた気がした。
「ここからは私が話しましょう」
車椅子を動かしながら会見の場に現れたのは天城彼方。頭にはまだ包帯を巻いており、まだ完全に治っていない事がわかる。その声は、静かにこの場にいる全員に届いた。一瞬……沈黙が生まれるが、直ぐにフラッシュの嵐が彼を出迎えた。
「この様な姿で申し訳ありません。ですが、これは私自身の話なので……ここまで足を運んでくれた皆様に、先ずは御礼を申し上げます」
頭を下げながら、ここに来た全員に感謝を述べた。
「天城さん!現在の容体について教えてください!」
「脚の怪我はかなり深刻だと聞いていますが、後遺症は!?」
「今後の芸能活動への影響はあるのでしょうか!?」
一斉に向けられるマイク。数人のマスコミからの質問。フラッシュの光が何度も視界を焼く。俺は少しだけ息を吐いてから口を開いた。
「命に別状はありません。医師からも、時間を掛ければ日常生活は問題なく送れると言われています」
落ち着いた声で答える。ここで焦りや隙を見せたらつけ込まれる。いつも通り、ここにいる全員が思う天城彼方として答えた。
「ただ……以前のように自由に走る事は難しいかもしれません。現在はリハビリ中です」
会場が少しざわつく。
「では、復帰については絶望的という事ですか!?」
その質問に、俺は静かに首を横に振った。
「いいえ。戻るつもりです」
即答だった。
「時間は掛かると思います。でも、私はまた舞台に立ちます」
その瞬間、再びフラッシュが激しく焚かれる。そうだ……これでいい。今、ここにいる全員は天城彼方と言う存在に注目している。
「今回の件について、ニノさんを恨んでいますか?」
空気が少し変わる。その質問に、壱護さんの眉が僅かに動いた。けれど俺は、少し考えてから答える。
「……恨んでいません。彼女をあんな風にしてしまったのは、少なからず私に原因があります。申し訳ありませんでした」
静かな声で頭を深く下げて謝罪する。被害者が謝っていると言う状況に、誰もが息を呑んだ。まだ20歳になったばかりとは思えない程、しっかりとしていたのだから。
会見場が静まり返る。先程まで矢継ぎ早に飛んでいた質問が、一瞬だけ止まった。
「……被害者側が謝罪するんですか?」
どこか戸惑ったような記者の声。
「つまり、ニノさんにも情状酌量の余地があると?ご自身にも責任があると考えているんでしょうか?」
再び質問が飛び始める。けれど、さっきまでの“獲物を追うような空気”とは少し違っていた。俺はゆっくり顔を上げる。
「責任の全てが私にある……そんな事を言うつもりはありません」
静かに、言葉を選ぶ。
「ですが、人の感情に無関係でいられる仕事ではないんです。この世界は」
芸能界。人に夢を見せる仕事。同時に、人を狂わせる事もある場所。今回の新野冬子や姫川愛梨がそうだった様に……。
「だからこそ、私は今回の件を“ただの他人事”として切り離したくありませんでした」
またフラッシュが焚かれる。記者達も気付いていた。この男は、ただ同情を買おうとしている訳じゃない。本気で、自分の言葉として話している。
「では、天城さん。今後の活動について改めてお聞かせください!」
「はい」
俺は真っ直ぐ前を見る。
「まずは1年、リハビリに専念します」
会場が少しざわついた。
「その上で……必ず戻ってきます」
言い切った瞬間、再び大量のフラッシュが会場を白く染めた。ここにいる全員が、天城彼方と言う物語に夢中になった。
「そして……この件に関してはB小町の追求はお控え下さい……今回の件は、全て私自身の問題です……どうかお願いします」
それを最後に会見は終わりを迎えた。そして、この会見を通して天城彼方と言う存在は、誰もが目を離せない存在になって………。
【速報】天城彼方、会見で復帰宣言「1年リハビリ後に必ず戻る」ネット反応が賛否に分裂。
【ID:xA72mK1】
助かってるのまず奇跡だろこれ……普通に重傷案件
【ID:qP91Ls8】
1年リハビリって軽く言ってるけど、脚かなり深刻じゃね?
【ID:nV44Dz2】
「戻ってきます」って言い切ったのは正直すごいと思う
【ID:tK88Fw6】
いやでも復帰宣言早すぎない? まず治療に専念じゃないの
【ID:bE31Hu4】
被害者なのに謝罪してるの普通に違和感あるんだけど
【ID:rM52Yp9】
これ記者会見っていうか、ほぼ公開処刑じゃね?
【ID:wL20Qz7】
ニノの件「恨んでない」って言ったの逆に怖いわ
【ID:uD73Ca1】
聖人扱いされてるけど、正直ちょっと作られた美談感ある
【ID:fJ95Xe3】
いやそれはないだろ……刺されてんだぞ本人
【ID:hS11Vr0】
マスコミの質問えぐすぎて見てて普通に不快だった
【ID:mT67Ko8】
「全部私の問題です」って言い方、背負いすぎじゃね?
【ID:cN84Lb5】
こういうタイプって後からメンタル崩れるやつじゃん
【ID:zQ41Pe2】
でも壱護社長が一番まともに守ってたのは事実
【ID:kY77Ad4】
「B小町追求やめて」って言ったのは正しい判断だと思う
【ID:vX02Mn6】
芸能界ってほんと地獄だなって感じた会見だった
【ID:sP93Re1】
逆にこれで好感度上がってるのが一番怖い流れ
【ID:aH55Tw9】
正直ちょっと“ドラマみたいに出来すぎてる”感はある
【ID:eL28Fs3】
いやでも現実でもこういうのあるからな……断定できん
【ID:gB70Qi2】
ニノの「全部欲しかった」って発言、ガチでやばいやつ
【ID:pD18Yu5】
これもう恋愛じゃなくて執着と支配だろ
【ID:jW63Nm1】
とりあえず生きてるだけでよかった案件だわ
【ID:oR49Vc8】
復帰するって言ってるけど無理しないでほしい
【ID:Lp11Qz8】
一年後戻ってきたら絶対また炎上か神扱いかどっちかだろこれ
様々な反応があった……確かに美談感があるのはそうだ……本音を言ったのは事実……でも、少し大袈裟にした。アイや子供達に目が向かないように、天城彼方と言う存在に世間を注目させる為に。これで、恐らく大丈夫だろう。
「これでアイやアクア、ルビーに手は伸びない。伸ばしたら世間から叩かれる」
「……全部、自分にヘイト集める為に言ったんだろ」
会見後。車に乗り込み病院へと戻る。割と無理を言って外出の許可を貰った。医師との約束で、終わったら直ぐに戻ってくる様に言われて、今戻っている最中だ。
「別に全部って訳じゃないですよ。本音も混ざってます」
「馬鹿言え」
即答だった。また無茶はしたが、今回は独断専行ではなく全員に話した。ちゃんと人を頼って、壱護さんに場を作ってもらった。
「お前、自分が今どれだけ注目されてるか分かってんのか? 今の世間、“天城彼方”一色だぞ」
「それでいいんです」
俺がそう返すと、壱護さんは少しだけ目を細めた。
「……アイ達から視線を逸らす為か」
「はい」
隠す意味もなかった。それ以外の目的もないし……この人とももう長い付き合いだ。俺の考えている事は、ある程度わかるだろう。
「今なら、世間は俺にしか興味がない。刺傷事件の被害者、復帰宣言、加害者への謝罪。全部が話題性として最強の手札達です」
ネットもニュースも、全部“天城彼方”で回っている。それは、少し前にドーム公演を終えたB小町をも食っていた。
「だから、今のうちに俺へ固定する。そうすれば、アイやアクア、ルビーに余計な詮索は向かない」
「……お前、自分が囮になる気かよ」
「元からそのつもりでした」
壱護さんが深く息を吐く。アイから猛反対されたけど、無理やり納得させた。
「本当なら、お前が一番休まなきゃいけねぇ立場なんだけどな……」
「でも、これが一番安全です」
俺の体は、万全には程遠い……だけど、先手を打たざるを得ない状況だった。
「今このタイミングで、アイ達に変な噂や視線が向く方が危険です」
壱護さんは数秒黙った後、小さく舌打ちした。
「相変わらず、背負い込みすぎなんだよ」
「こう言う性質なので」
「直せ」
「善処します」
その軽口に、壱護さんは呆れたように笑った。でも、その目だけは少しだけ優しかった。
「……まぁ、今回に関しては助かった部分もある」
「世論ですか?」
「あぁ。お前が前に出た事で、“被害者をこれ以上追うな”って空気が出来た。マスコミもしばらくは下手に動けねぇ」
俺は小さく息を吐く。……これでいい。少なくとも今は、アイ達を静かな場所に置いてやれる。いろいろあったけど……アイを救う目的を果たし、俺はこうして今、なんとか生きている。
「それに………ちゃんと伝えないとな」
オマケ 猛反対するアイ
「ダメ!!絶対ダメ!!」
「アイ、落ち着いて」
「落ち着ける訳ないでしょ!?なんで刺された人が会見出るの!?」
「今なら視線を集められるから」
「だからって無茶しないでよ……!」
「大丈夫。ちゃんと戻ってくる」
「それ死亡フラグみたいだからやめて!?」
「死なないって」
「……無茶しない?」
「しない」
「絶対?」
「絶対」
「……もう……分かった」
「アイ」
「でも帰ってきたら怒るからね」
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