一番星は消えない   作:ディバル

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081 物語

 

 

 

 

後日談、と言うより今回の事件の結末。先ずは、ニノからだ。あの後、ニノは別の病院に運ばれ治療を受けた。額から血を流した程度で、他に目立った外傷はなかったみたいだ。そして、目を覚ました後に事情聴取。ニノは、

 

「……天城さんの全部が欲しかったんです。あの人の時間も、愛される理由も……命さえも。……だから、刺した後は……私も一緒に死ぬつもりでした」

 

俺も形だけの事情聴取を受けた。今回はこっちが被害者なのだから、軽い質問程度だった。その時にニノの言葉を又聞きだが聞いた。正直に言うと複雑だった。でも、この化け物を生み出したのは俺である事には変わりない。

 

ニノは刑事事件として裁判に掛けられた。事件当時の精神状態や、俺に対する異常な執着が見られた事から精神鑑定も行われた。その上で、殺意を持った計画的犯行と判断され、それと様々な余罪が出てきた。それも相まってニノには無期懲役の判決が下された。

 

そして、今から俺達は今回の事件に対する会見を開く事になった。スーツを身に纏い、車椅子に座って時を待つ。最初は、壱護さんが表に立ち、質疑応答に応える流れだ。俺の出番はその後だ。

 

フラッシュが何度も焚かれる。会見場には大量の記者やカメラマンが集まり、空気は張り詰めていた。壇上に立った壱護さんは、深く一礼する。

 

「この度は、弊社所属タレント並びに関係者による事件で、多くの方々にご心配とご迷惑をお掛けしました。まずは、被害に遭った天城彼方、そしてファンの皆様に心より謝罪致します」

 

静かな声だった。でも、その一言一言には重みがあった。すると、すぐに記者達から質問が飛ぶ。

 

「今回の件について、事務所側はニノさんの異変に気付けなかったのでしょうか?」

 

「B小町は今後どうなるんですか?」

 

「星野アイさんへの影響については?」

 

矢継ぎ早に飛んでくる質問。それでも壱護さんは表情を崩さない。

 

「責任については、当然事務所にもあると考えています。所属タレントの精神面を含め、管理が十分だったとは言えません」

 

ミヤコさんが隣で静かに頭を下げる。

 

「B小町に関しては、現在活動休止という形を取らせていただいております。今後については、メンバー本人達の意思や精神状態を最優先に判断します」

 

「では、アイさんも活動休止になるのでしょうか!?」

 

少し空気がざわつく。その瞬間、壱護さんの目つきが鋭くなった。

 

「……それ以上は、本人のプライバシーに関わる。ここで軽々しく話すつもりはありません」

 

低い声だった。会見場の空気が一瞬で冷える。

 

「今回傷付いたのは、天城だけじゃねぇ。所属タレント全員が被害者だ。面白半分で踏み込むのはやめてもらいたい」

 

その言葉には、社長としてだけじゃなく、“家族を守る父親”みたいな感情が滲んでいた。ざわついていた記者達も、少しだけ押し黙る。壱護さんは小さく息を吐くと、視線を前へ向けたまま続けた。

 

「……それでも、逃げるつもりはありません。俺達は、この件と向き合います」

 

最初はこれでいい………俺が出ていく為の土台を2人に作ってもらう。

 

会見場の空気は重いままだった。壱護さんの言葉を受けて、一瞬だけ静かになった記者達だったが、すぐにまた別の質問が飛ぶ。

 

「今回の事件ですが、天城彼方さんを狙った個人的犯行という認識で間違いないですか?」

 

「犯行動機について、事務所側は以前から把握していたのでしょうか?」

 

「ニノさんと天城さんの間にトラブルは?」

 

まるで獲物に群がるみたいに質問が続く。

 

壱護さんは数秒だけ沈黙した後、ゆっくり口を開いた。

 

「現在判明している範囲では、個人的感情による犯行だと認識しています。だが、詳しい内容については警察の捜査中です。こちらから話せる事には限りがあります」

 

淡々と答えている。けれど、その拳は机の下で強く握られていた。

 

「……ただ、1つだけ言わせてもらう」

 

壱護さんの声が少し低くなる。

 

「天城彼方は被害者です。そこを履き違えないで頂きたい」

 

その瞬間、会場の空気がまた張り詰めた。

 

「彼は、所属タレントを守る為に動いた。その結果、命を落としかけた。……面白おかしく消費されるような話じゃない」

 

壱護さんの目には、怒りが滲んでいた。その時だった。

 

「では、その天城彼方さん本人は現在どのような状態なんでしょうか!? 復帰は可能なんですか!?」

 

その質問に、壱護さんは僅かに視線を横へ向ける。

 

………次は、お前の番だ。

 

まるでそう言われた気がした。

 

「ここからは私が話しましょう」

 

車椅子を動かしながら会見の場に現れたのは天城彼方。頭にはまだ包帯を巻いており、まだ完全に治っていない事がわかる。その声は、静かにこの場にいる全員に届いた。一瞬……沈黙が生まれるが、直ぐにフラッシュの嵐が彼を出迎えた。

 

「この様な姿で申し訳ありません。ですが、これは私自身の話なので……ここまで足を運んでくれた皆様に、先ずは御礼を申し上げます」

 

頭を下げながら、ここに来た全員に感謝を述べた。

 

「天城さん!現在の容体について教えてください!」

 

「脚の怪我はかなり深刻だと聞いていますが、後遺症は!?」

 

「今後の芸能活動への影響はあるのでしょうか!?」

 

一斉に向けられるマイク。数人のマスコミからの質問。フラッシュの光が何度も視界を焼く。俺は少しだけ息を吐いてから口を開いた。

 

「命に別状はありません。医師からも、時間を掛ければ日常生活は問題なく送れると言われています」

 

落ち着いた声で答える。ここで焦りや隙を見せたらつけ込まれる。いつも通り、ここにいる全員が思う天城彼方として答えた。

 

「ただ……以前のように自由に走る事は難しいかもしれません。現在はリハビリ中です」

 

会場が少しざわつく。

 

「では、復帰については絶望的という事ですか!?」

 

その質問に、俺は静かに首を横に振った。

 

「いいえ。戻るつもりです」

 

即答だった。

 

「時間は掛かると思います。でも、私はまた舞台に立ちます」

 

その瞬間、再びフラッシュが激しく焚かれる。そうだ……これでいい。今、ここにいる全員は天城彼方と言う存在に注目している。

 

「今回の件について、ニノさんを恨んでいますか?」

 

空気が少し変わる。その質問に、壱護さんの眉が僅かに動いた。けれど俺は、少し考えてから答える。

 

「……恨んでいません。彼女をあんな風にしてしまったのは、少なからず私に原因があります。申し訳ありませんでした」

 

静かな声で頭を深く下げて謝罪する。被害者が謝っていると言う状況に、誰もが息を呑んだ。まだ20歳になったばかりとは思えない程、しっかりとしていたのだから。

 

会見場が静まり返る。先程まで矢継ぎ早に飛んでいた質問が、一瞬だけ止まった。

 

「……被害者側が謝罪するんですか?」

 

どこか戸惑ったような記者の声。

 

「つまり、ニノさんにも情状酌量の余地があると?ご自身にも責任があると考えているんでしょうか?」

 

再び質問が飛び始める。けれど、さっきまでの“獲物を追うような空気”とは少し違っていた。俺はゆっくり顔を上げる。

 

「責任の全てが私にある……そんな事を言うつもりはありません」

 

静かに、言葉を選ぶ。

 

「ですが、人の感情に無関係でいられる仕事ではないんです。この世界は」

 

芸能界。人に夢を見せる仕事。同時に、人を狂わせる事もある場所。今回の新野冬子や姫川愛梨がそうだった様に……。

 

「だからこそ、私は今回の件を“ただの他人事”として切り離したくありませんでした」

 

またフラッシュが焚かれる。記者達も気付いていた。この男は、ただ同情を買おうとしている訳じゃない。本気で、自分の言葉として話している。

 

「では、天城さん。今後の活動について改めてお聞かせください!」

 

「はい」

 

俺は真っ直ぐ前を見る。

 

「まずは1年、リハビリに専念します」

 

会場が少しざわついた。

 

「その上で……必ず戻ってきます」

 

言い切った瞬間、再び大量のフラッシュが会場を白く染めた。ここにいる全員が、天城彼方と言う物語に夢中になった。

 

「そして……この件に関してはB小町の追求はお控え下さい……今回の件は、全て私自身の問題です……どうかお願いします」

 

それを最後に会見は終わりを迎えた。そして、この会見を通して天城彼方と言う存在は、誰もが目を離せない存在になって………。

 

【速報】天城彼方、会見で復帰宣言「1年リハビリ後に必ず戻る」ネット反応が賛否に分裂。

 

【ID:xA72mK1】

助かってるのまず奇跡だろこれ……普通に重傷案件

 

【ID:qP91Ls8】

1年リハビリって軽く言ってるけど、脚かなり深刻じゃね?

 

【ID:nV44Dz2】

「戻ってきます」って言い切ったのは正直すごいと思う

 

【ID:tK88Fw6】

いやでも復帰宣言早すぎない? まず治療に専念じゃないの

 

【ID:bE31Hu4】

被害者なのに謝罪してるの普通に違和感あるんだけど

 

【ID:rM52Yp9】

これ記者会見っていうか、ほぼ公開処刑じゃね?

 

【ID:wL20Qz7】

ニノの件「恨んでない」って言ったの逆に怖いわ

 

【ID:uD73Ca1】

聖人扱いされてるけど、正直ちょっと作られた美談感ある

 

【ID:fJ95Xe3】

いやそれはないだろ……刺されてんだぞ本人

 

【ID:hS11Vr0】

マスコミの質問えぐすぎて見てて普通に不快だった

 

【ID:mT67Ko8】

「全部私の問題です」って言い方、背負いすぎじゃね?

 

【ID:cN84Lb5】

こういうタイプって後からメンタル崩れるやつじゃん

 

【ID:zQ41Pe2】

でも壱護社長が一番まともに守ってたのは事実

 

【ID:kY77Ad4】

「B小町追求やめて」って言ったのは正しい判断だと思う

 

【ID:vX02Mn6】

芸能界ってほんと地獄だなって感じた会見だった

 

【ID:sP93Re1】

逆にこれで好感度上がってるのが一番怖い流れ

 

【ID:aH55Tw9】

正直ちょっと“ドラマみたいに出来すぎてる”感はある

 

【ID:eL28Fs3】

いやでも現実でもこういうのあるからな……断定できん

 

【ID:gB70Qi2】

ニノの「全部欲しかった」って発言、ガチでやばいやつ

 

【ID:pD18Yu5】

これもう恋愛じゃなくて執着と支配だろ

 

【ID:jW63Nm1】

とりあえず生きてるだけでよかった案件だわ

 

【ID:oR49Vc8】

復帰するって言ってるけど無理しないでほしい

 

【ID:Lp11Qz8】

一年後戻ってきたら絶対また炎上か神扱いかどっちかだろこれ

 

様々な反応があった……確かに美談感があるのはそうだ……本音を言ったのは事実……でも、少し大袈裟にした。アイや子供達に目が向かないように、天城彼方と言う存在に世間を注目させる為に。これで、恐らく大丈夫だろう。

 

「これでアイやアクア、ルビーに手は伸びない。伸ばしたら世間から叩かれる」

 

「……全部、自分にヘイト集める為に言ったんだろ」

 

会見後。車に乗り込み病院へと戻る。割と無理を言って外出の許可を貰った。医師との約束で、終わったら直ぐに戻ってくる様に言われて、今戻っている最中だ。

 

「別に全部って訳じゃないですよ。本音も混ざってます」

 

「馬鹿言え」

 

即答だった。また無茶はしたが、今回は独断専行ではなく全員に話した。ちゃんと人を頼って、壱護さんに場を作ってもらった。

 

「お前、自分が今どれだけ注目されてるか分かってんのか? 今の世間、“天城彼方”一色だぞ」

 

「それでいいんです」

 

俺がそう返すと、壱護さんは少しだけ目を細めた。

 

「……アイ達から視線を逸らす為か」

 

「はい」

 

隠す意味もなかった。それ以外の目的もないし……この人とももう長い付き合いだ。俺の考えている事は、ある程度わかるだろう。

 

「今なら、世間は俺にしか興味がない。刺傷事件の被害者、復帰宣言、加害者への謝罪。全部が話題性として最強の手札達です」

 

ネットもニュースも、全部“天城彼方”で回っている。それは、少し前にドーム公演を終えたB小町をも食っていた。

 

「だから、今のうちに俺へ固定する。そうすれば、アイやアクア、ルビーに余計な詮索は向かない」

 

「……お前、自分が囮になる気かよ」

 

「元からそのつもりでした」

 

壱護さんが深く息を吐く。アイから猛反対されたけど、無理やり納得させた。

 

「本当なら、お前が一番休まなきゃいけねぇ立場なんだけどな……」

 

「でも、これが一番安全です」

 

俺の体は、万全には程遠い……だけど、先手を打たざるを得ない状況だった。

 

「今このタイミングで、アイ達に変な噂や視線が向く方が危険です」

 

壱護さんは数秒黙った後、小さく舌打ちした。

 

「相変わらず、背負い込みすぎなんだよ」

 

「こう言う性質なので」

 

「直せ」

 

「善処します」

 

その軽口に、壱護さんは呆れたように笑った。でも、その目だけは少しだけ優しかった。

 

「……まぁ、今回に関しては助かった部分もある」

 

「世論ですか?」

 

「あぁ。お前が前に出た事で、“被害者をこれ以上追うな”って空気が出来た。マスコミもしばらくは下手に動けねぇ」

 

俺は小さく息を吐く。……これでいい。少なくとも今は、アイ達を静かな場所に置いてやれる。いろいろあったけど……アイを救う目的を果たし、俺はこうして今、なんとか生きている。

 

「それに………ちゃんと伝えないとな」

 

 






オマケ 猛反対するアイ


「ダメ!!絶対ダメ!!」

「アイ、落ち着いて」

「落ち着ける訳ないでしょ!?なんで刺された人が会見出るの!?」

「今なら視線を集められるから」

「だからって無茶しないでよ……!」

「大丈夫。ちゃんと戻ってくる」

「それ死亡フラグみたいだからやめて!?」

「死なないって」

「……無茶しない?」

「しない」

「絶対?」

「絶対」

「……もう……分かった」

「アイ」

「でも帰ってきたら怒るからね」


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