一番星は消えない   作:ディバル

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082 弟襲来

 

 

 

 

天城彼方の会見は様々な意見が飛び交った。賛否両論……彼を称賛する者もいれば、売名だ……無理やり美談にしているなどの否定的な意見もある。世間が一気に天城彼方という存在に注目した。

 

アイを含む他のB小町のメンバーは勿論、双子にも一切、追求の手は伸びなかった。そして彼は、SNSやアカウントでリハビリの様子を投稿し、ファンに向けて最新の自分の様子を晒し続けていた。

 

彼の思惑通りに事が進んでいた。そして、まだ車椅子の状態だが、傷が完全に治り退院の時を迎えた。

 

「……退院、おめでと」

 

「ありがと」

 

病院の外に出た。まだ歩けないけど、会見以降外に出してもらえなかったから……入院から実に3ヶ月。もう年を越してしまっていた。というか、俺が起きた頃には既に年が明けていた。

 

「ほら、立とうとしない」

 

「まだ何もしてないんだけど」

 

変装しているアイに肩を抑えられて立てなくされた。車椅子は慣れてないから、どうしても立ちたくなる。

 

「彼方は“まだ何もしてない”から急に無茶するでしょ」

 

「信用ないなぁ」

 

「ないよ!」

 

真正面から言われる。アイらしい……あれだけ無茶苦茶したからな……そりゃあ信用もないか。事情聴取の時に自分がした事を話したら、警察ですら引いていたな。そう言えば。

 

(即答だ……)

 

(まぁ……当然だな)

 

2人とも……言いたい事はわかるが、顔に出てるぞ。

 

「私、車椅子押したい!」

 

「暴走しそうだなぁ……」

 

「しないから!」

 

思いっきり押しそうで少し怖いんだよね……。というか、ギリギリ手が届く程度なのにどうやって押すつもりだろう?

 

「……しそうだなぁ」

 

「するね」

 

「お兄ちゃんまで!?」

 

アイは小さく笑った後、少しだけ目を伏せた。

 

「……でも、ほんとよかった。ちゃんと帰ってきてくれて」

 

「約束しただろ……戻るって」

 

「……うん」

 

俺達が話している時だった……前方から全力疾走で此方に向かってくる男がいた。

 

「……兄さ〜ん」

 

すごく聞き覚えがあり、久しぶりにその声を聞いた。なんでこのタイミングなんだ?不味いなぁ……そんな事を思っていると抱きつかれた。その声の正体は神木輝……俺の事を兄と呼ぶ……変態だ。

 

「うわっ!? ちょ、輝!彼方まだ怪我人なんだけど!?」

 

「安心してください。兄さんに危害は加えません」

 

「そこ心配してるんじゃないよ!?」

 

現場は一気にカオスになった。タイミングが悪いな、普通に。というか、直接話すのは久しぶりだ。確か、輝は今年から大学生になる。芸能界から少し身を引いて、普通の大学生として学生ライフを楽しむと言っていたな。

 

「…………相変わらずだなね」

 

「心配したんだよ……兄さん」

 

「輝、距離感どうなってるの?」

 

(誰だこの人……)

 

(なんかこの人……初対面なのにちょっと怖いかも……)

 

突然現れた輝に対して、アクアは純粋な疑問を。ルビーは少し恐怖を感じていた。唐突に現れて、自分の父親に抱きついて兄と呼んでくる。事情を知らない人から見たら不審者もいい所だ。

 

アイはじーっと輝が抱きついている腕を見る。

 

「そろそろ離れてくれない?」

 

「嫌だけど?」

 

この引っ付いている変態に関しては、もう何も思わない。これが当たり前になってしまった。輝の好きは友達としての意味である。それは輝から聞いた。これで恋愛的な意味で好きと言われたら頭を抱えていたが、その心配はなかった……本当によかった。

 

「……彼方、なんでそんな冷静なの?」

 

「もう慣れた」

 

「慣れって怖いね……」

 

それに前世では、濃ゆい奴らと友達だった。今さら、この程度で狼狽えたりはしない……最近に至っては刺されたしね。俺の人生、どんどんおかしい方向に行っているのは気のせいだろうか?……うん。気のせいじゃないね。

 

輝は、そこでようやく周囲へ視線を向けた。そして、アイと子供達を見ている。輝からしたら、今のアイの姿は完全な別人である。電話越しでミヤコさんに変装させた姿。電話越しでもミヤコさんが苦労していた。

 

「……あれ?」

 

今さら気付いたみたいな声だった。

 

「アイ、なんでそんな変装してるの?」

 

「いや、逆になんで輝はそのまま来たの!?」

 

「兄さんの退院日ですよ?」

 

「だからって全力疾走で抱きつく人初めて見たよ!?」

 

アイが頭を抱える。その隣で、アクアとルビーは警戒した視線を輝へ向けていた。アイがこんなになるのは輝がいる時くらいだ。いつもならアイが周りを振り回すが、アイ以上に輝はおかしいから。俺の事を抜きにしたら普通なのに……。

 

「…………誰?」

 

「兄さんの弟です」

 

「違う」

 

即答した。ここは全力で否定する。

 

「なんで否定するんですか?」

 

「そこだけ切り取ると説明が面倒になるからだよ」

 

話せるわけない。輝の過去から話すことになるし、転生しているとはいえ子供には重い話だ。それに輝にとってもまだ古傷だ。だから否定するしかない。

 

輝は不満そうにしながらも、今度はアクアとルビーへ視線を向けた。輝からしたら見知らぬ子供だ。そんなアクアとルビーがアイと彼方の子供である事は、壱護とミヤコしか知らない。情報の流出を恐れて、2人が情報の管理をしている。

 

「……それで、この子達は?」

 

その瞬間、アイの肩が僅かに跳ねた。空気が少しだけ張る。

 

「親戚の子だよ」

 

アイが笑顔で即答する。さすがの切り返し速度だった。

 

「へぇ……」

 

輝はじーっとアクアとルビーを見る。その後に俺とアイを見比べる。変装はしているが、遺伝子までは隠せない。そして輝も人をよく見ている。これ、バレたか?

 

「……なんか、兄さんに似てるね」

 

「っ……!」

 

アイの笑顔が一瞬固まる。

 

「よく言われるかなぁ!あはは!」

 

「特に男の子の方、目がそっくり」

 

「…………」

 

アクアは無言で彼方を見る。突然、弟と自称する輝を見て、アクアの警戒心が跳ね上がっていた。

 

(この人、勘鋭くないか?)

 

ルビーは彼方の服を軽く掴んだ。

 

(なんかこのお兄さん、怖いっていうか……見透かしてくる感じする……)

 

「……輝。その辺にしとけ」

 

彼方が少し低い声で言うと、輝は「あ」と小さく声を漏らした。

 

「ごめん兄さん。つい気になって」

 

「ついでに家族構成探ろうとするな」

 

「でも、本当に仲良さそうだから」

 

アイは引きつった笑みのまま答えた。ドーム公演でさえここまで緊張してなかったのに、今のアイの心臓はドクドクと高鳴っていた。それでも、表情には出していない。

 

「そ、そう? ほらっ、子供って懐く時は懐くし!」

 

「……そうだね」

 

輝は納得したように頷いた後、また彼方の車椅子の横へしゃがみ込む。そして、彼の手を握る。

 

「それより兄さん。ちゃんと生きててよかった」

 

「あぁ……死ねない理由があるからな」

 

そう言うと、輝は安心したように笑みを浮かべた。

 

「ニュース見た時、犯人を本気で殺そうかと思った」

 

「物騒なこと言うな」

 

やっぱり歪ませたなぁ……多分冗談で言ってるんだけど怖い。輝のお母さん、お父さん……どうやら貴方の息子は変な方向で成長しています。

 

「ほらやっぱ怖いじゃんこの人!」

 

ルビーのツッコミに、その場の空気が少しだけ和らいだ。

 

「というか、よくわかったな……俺も変装してるんだけど?」

 

そう……彼は変装をしている。今の芸能界は、天城彼方を中心に動いている。注目の的で、今は本気の変装をしていた。髪型、瞳、身長、肩幅、声質、着る服など、全てを変えている。

 

「兄さんのこと、見間違えるわけないじゃないですか」

 

即答だった。いや……しばらく会ってないのに。最後に会ったの数年前だぞ?

 

「後ろ姿だけでもわかりますよ。声も、空気も全部兄さんですし」

 

「怖い怖い怖い」

 

「愛が重いタイプだ……」

 

アイとルビーが同時に引く。俺も引くわ。というかルビー、その言い方やめなさい。パパにはアイがいるんだから。2人が引いている中、輝は不思議そうに首を傾げた。

 

「……普通では?」

 

「普通じゃねぇよ……」

 

アクアですら若干引いている。アクアが引くなんて中々だぞ……輝よ。

 

「というか、そこまで変えてるのに見抜かれるって、もう変装の意味ないじゃん……」

 

アイが呆れたように言うと、輝は少しだけ考えてから口を開いた。

 

「いえ、他の人は気付かないと思いますよ」

 

「……じゃあなんで輝だけ気付くんだ」

 

「兄さんだからです」

 

「説明になってないんだよなぁ……」

 

彼方が頭を抱えると、輝は握っていた手を少しだけ強く握った。

 

「でも……本当によかった。無事で」

 

「心配をかけたね……ありがとう」

 

輝の頭を撫でる。彼は顔を上げて、ほんの数秒間、何とも言えない顔をしていたが、その後、満面の笑みを浮かべる。瞳から一滴の涙を流しながら……。

 

「おかえり……兄さん」

 

その涙だけは、輝がずっと張り詰めていた証みたいだった。

 

 

 







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