一番星は消えない   作:ディバル

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083 戻って来た日常

 

 

 

あれから移動して個室の店に入った。個室へ移動してしばらく後。料理が運ばれてきて、ようやく周囲を気にせず話せる空気になっていた。

 

「……そういえばさ」

 

アイがジュースを飲みながら、ふと思い出したように口を開く。

 

「この前、彼方の少し前に出ていたドラマ見たんだよね」

 

「…………嫌な予感がしてきた」

 

「兄さんの演技、すごかったです」

 

輝が真顔で頷く。………ちょっと待ってこの流れ見覚えがあるんだけど?そう思っていると2人は会話を続け出した。

 

「特に、あの殺人鬼の役」

 

「そこ好きなのかよ……」

 

アイは楽しそうに笑った。

 

「だってほんと怖かったんだもん! 普段の彼方と全然違うし!」

 

「笑顔なのに目が笑ってない感じ、すごく良かったです」

 

本当にこの手の役しか来ない。自分が求められている演技は、こう言った物だと。復帰したら別の演技がしたい。今度、壱護さんに相談しようかな?

 

「あと、終盤で静かに怒るシーン」

 

「あぁ! あそこやばかった!」

 

なんでそんな盛り上がれるの?いや……負の感情にもいろんな種類があるし演技の勉強や役作り、解釈を広げたりして引き出しは無限にあるのだけど……。

 

「“お前に何がわかる”って言うところ、鳥肌立ったもん」

 

「兄さん、感情を爆発させる演技上手いですよね」

 

「……なんか公開処刑されてるなこれ」

 

アイは机に頬杖をつきながら、じーっと彼方を見る。

 

「でも、昔から思ってたけど……彼方って演技になると空気変わるよね」

 

「わかります。兄さんだけ別人みたいになる」

 

そりゃあ……演技の時は自分の存在を消しているから、空の器に新しい液体を注ぎ込むようなそんな感覚だ。

 

「本人の前で言うのやめてくれない?」

 

「照れてる?」

 

「兄さん、ちょっと赤いです」

 

「……うるさい」

 

2人からほっぺを突かれる。ただでさえアイが強いのに……それに加えて輝までプラスされると俺に勝ち目はなくいいように弄られてしまう。と言うか……アクアとルビー達の前だから尚更恥ずかしい。体の体温が上がってくる。これ……たぶん顔に出ている。

 

「……彼方って、意外と弄られ弱いよね」

 

アクアがジュースを飲みながら淡々と言う。

 

「わかる〜!なんか普段もっと余裕ある感じなのに!」

 

ルビーは彼方の顔を見たまま、ぱちぱちと目を瞬かせた。

 

「……え、待って。彼方って、そんな顔するんだ……!?」

 

いつもはパパ呼びだが、ここにくる前に違う呼び方をするように言っておいたので今は彼方呼び。親戚の距離感に見えているかな?それと、かなり衝撃を受けたみたいな反応された。

 

「なんか今まで、ずっと“何されても平気です”みたいな顔してたのに!」

 

「俺をなんだと思っているのかな?……」

 

「もっとこう……完璧超人っていうか!」

 

「買い被りすぎでは?」

 

完璧超人?何言ってるのこの子………完璧とは程遠い事をして泥臭い事をしていたのだけど?それに完璧な人間はいない。人間、どこかしら欠けている。完璧で完全に満たされている人間なんてこの世の何処を探してもいないと俺はそう思う。

 

「いやでも、ほんとびっくりした! 普通に照れるんだ!」

 

ルビーは興味津々で彼方の顔を覗き込んでいた。普段、イチャついている所を見せつけられているが、ここまで、わかりやすく照れている姿を見るのは初めてのであり、父親と同時に推しでもある彼のレアな姿をみて少しばかり興奮していた。

 

「しかも顔赤い!」

 

「......そんなに見ないでくれるかな?」

 

「レアじゃんこれ!」

 

ルビーは、そんな彼方の言葉を無視してがん見していた。アクアもそんな彼の様子を見ていた。

 

「……確かに、ここまで反応してるの初めて見たな」

 

「アクア……」

 

「だって彼方、基本あんまり動揺しないし」

 

アイは楽しそうに笑いながら頬杖をついた。待ってくれもしかして今からここにいる全員に弄られる流れ来ている?

 

「ふふっ、今日は珍しく押されてるね?」

 

「兄さん、貴重な瞬間です」

 

「だから公開処刑みたいに言わないでくれる?……」

 

会見の時や今話題になっているが今の彼を見ていると本当に同一人物か?と疑問が浮かぶような照れている表情。彼は自分が否定されるのは慣れている。それは自己評価が低いから。しかしその逆に褒めれることに対しては慣れていない水知らない他人の言葉は、サラッと受け流せるがアイや心を許した者に対してはとことん弱い。

 

「.......もういいだろ?」

 

顔を赤らめて困ったように笑う。ぎこちなく取り繕っていない姿。その普段見せない顔にアイ、ルビー、輝の心に突き刺さる。

 

「「「……っ」」」

 

3人同時に固まった。

 

「……なにその顔」

 

最初に口を開いたのはアイだった。片手で口元を押さえながら、じっと彼方を見ていた。

 

「前も思ったけど……破壊力ずるくない?」

 

「兄さん、今のは反則です」

 

輝まで真顔で頷く。ギャップ萌えという言葉がある。普段との差とが分かりやすく出ている。一気に褒められたことで限界が来てしまったみたいで。

 

「いつもの兄さんとのギャップが凄すぎます」

 

「え、待って待って……」

 

ルビーは顔を近づけたまま目を輝かせていた。ルビーやアクアに取ってこんな彼の姿を見るのは初だ。しかも2人に関しては前世からの付き合いの時でも彼がこんなに乱れているのは初。特にルビーに至ってはお兄さんと慕っていた時との差が一気に脳内に溢れ出す。

 

「なにこれ、めっちゃレアじゃん!?」

 

「そんな観察しないでくれる?ルビー……」

 

「だってほんとに初めて見たんだもん!」

 

ルビーは完全にテンションが上がっていた。

 

「なんか“守ってあげたくなる系イケメン”になってる!」

 

「どういう分類なの?……」

 

アイは堪えきれなくなったみたいに笑った。

 

「ふふっ……あーもうダメ。今日の彼方ほんと面白い」

 

「面白いじゃないです。可愛いです」

 

「輝、わかる」

 

「なんで意気投合してるんだよ……」

 

しかも最悪なことに、この2人は前にも彼方のこういう顔を見たことがある。だからこそ、“また見れた”という喜びが大きかった。

 

「前より反応わかりやすくなってない?」

 

「えぇ。前はもっと誤魔化してました」

 

「成長したねぇ彼方」

 

「その成長いらない……」

 

彼方が項垂れる中、アクアだけは少し冷静にその光景を見ていた。

 

「……なんか、彼方って褒められ慣れてないよね」

 

その一言で、彼方の動きが止まる。

 

「否定される時は普通なのに、褒められるとすぐこうなるし」

 

「アクア、鋭いね〜」

 

「見てればわかる」

 

アクアも今の彼方を少し弄っていた。こうしてここにいる全員に見事に弄られた。

 

「……でも、ちょっと意外だった」

 

「何が?」

 

「もっと完璧に流せるタイプだと思ってたから」

 

「そんな器用じゃないよ……俺は」

 

珍しく弱音みたいな本音を零した彼方に、3人の視線がまた集まる。

 

「「「……あ」」」

 

「だからなんでまた刺さってるの?」

 

前は、アイと輝だけだったのにのそこにさらにルビーが加わってしまった。そんなに強く言えないな.......未だアイと輝だけだったら何とかなったのに。それに歩けないから逃げられない。クソ......恨むぞニノ。

 

こんな状況になって初めて彼方はニノを恨み始めた。その理由がかなりズレているのだが。

 

「いやだって今の、“守ってください”感すごかったもん!」

 

ルビーが机をばんばん叩きながら言う。娘が喜んでいる姿は、微笑ましいけどもっと違う理由で喜んでほしかったな。というか前から思っていたけどアイだけじゃあなく俺も推しているの?

 

「そんなつもり一切ないんだけど?」

 

「でもなんか、弱ってる大型犬みたいだった!」

 

「例え酷くない?」

 

アイは肩を震わせながら笑っていた。いつもの日常が戻ってきた感じがした。

 

「ふふっ……ダメ、ほんと今日ずっと面白い」

 

「アイまで笑いすぎ……」

 

「だって彼方がこんなに押されてるの珍しいんだもん」

 

輝も真面目な顔のまま頷く。その表情は安堵も含まれていた。

 

「兄さん、普段は全部自分で抱え込んで誤魔化しますからね。今日は誤魔化しきれてないです」

 

嬉しそうに言いながらテーブルに並んでいる食事を食べている。

 

「君達、追撃するの好きだな……」

 

「だって兄さんの反応が良いので」

 

「完全に玩具扱いされてるね俺」

 

ルビーは身を乗り出したまま、じーっと彼方を見つめる。

 

「ねぇ、もう一回さっきの顔して?」

 

「無茶言わないで」

 

「え〜!」

 

そんな顔されても困るんだけど。演技でそれぽい事は出来るけど絶対に「それじゃない!」て言われるのが目に見えている。

 

「そんな自在に出せるもんじゃないんだよ……」

 

「じゃあもっと褒めたら出る?」

 

「実験みたいに言ってくるね」

 

アイはニヤニヤしながら頬杖をつく。いつもより楽しそうにしていた。

 

「彼方ってさ、自分が照れる側になるとほんと弱いよね」

 

「否定はできない……」

 

「認めるんだ」

 

「今さら誤魔化せないだろこれ……」

 

すると、輝が彼方の手をそっと握った。

 

「でも、こういう兄さん見れるの嬉しいです」

 

「……お前急に真っ直ぐ来るのやめろ」

 

「また赤くなった!」

 

「ルビー、実況しないで!」

 

個室の中に笑い声が広がる。今のこの空間は、彼らを縛るものは何もない。ただの人としてこの時間を楽しんでいた。

 

アクアはそんなやり取りを見ながら、小さくため息を吐いた。

 

「……なんか今日の彼方、普段より年相応だね」

 

その言葉に、彼方だけじゃなくアイも少しだけ目を丸くした。

 

「……そうかも」

 

アイがぽつりと呟く。アイからすればずっと彼方は先を歩いていた。昔からずっと年に見合わない言動や行動をしそんな姿を彼女は一番近くで見ていた。そんなアイの目からも今の彼方は年相応の反応を晒している。それがとても新鮮で何よりも嬉しいと感じている。

 

「……ほんと、帰ってきてくれてよかった」

 

その言葉に、個室の中の空気が少しだけ柔らかくなる。そして彼方は、騒がしい笑い声に包まれながら、小さく笑った

 

 

 





オマケ 意気投合するルビーと輝。

「ねぇ輝、彼方の演技どう思う!?」

「兄さん……ですか。あの人の演技は“そこにいる”感じですね」

「うわそれ!分かる!」

「感情を見せるというより、自然に溶け込んでいくタイプです」

「え、なんか怖いけどすごい!」

「気づいたら視線が持っていかれるんですよ」

「それそれ!ズルいよね!」

「ズルいというより、少し特殊な才能ですね」

「ねぇねぇ!じゃあさ、ああいうのってどうやってやるの?」

「……説明は難しいですね。理屈じゃない部分が多いので」

「うーん、やっぱプロってすごい!」

「ええ、本当に」




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