一番星は消えない   作:ディバル

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086 欠けた星が揃うとき

 

 

 

彼方からプロポーズされた瞬間、正面からぶつけてくるその言葉に、思わず少しだけ息を呑んだ。いつもそうだ。彼は曖昧に濁したり、逃げ道を作ったりしない。真正面から、ちゃんと“答え”を差し出してくる。

 

そんなところが、ずるいと思う。でも同時に、どうしようもなく好きだった。

 

言葉にしてくれるから分かる。ちゃんと私を見て、ちゃんと私を選んでくれているってことが。そういう当たり前みたいなことを、彼方は当たり前にしてくる。そのたびに、心の奥がじんわり熱くなる。

 

……ああ、まただ。この人は、こうやって私のことを簡単に安心させて、簡単に好きにさせる。

 

彼方から渡されたダイヤの指輪を、そっと指先でなぞる。光の加減で小さくきらめいて、そのたびに胸の奥が少しだけ落ち着かなくなるくらい綺麗だった。ちゃんと選んだんだろうなっていうのが分かる、不器用な優しさがそこにあった。

 

……でも、いつの間に指のサイズなんて測ったんだろう。それにこれ、絶対高いよね。お金どうしたのかな?

 

そんな疑問が頭をよぎっても、不思議と深くは考えられなかった。まあ、いいか。だってこれは、彼方が私のためにくれたものだから。

 

「アイ………ずっと指輪を眺めているけどそんなに気に入ったの?」

 

指輪を眺めていると、彼方が声をかけてくる。私、そんなに長い時間見てたかな?

 

「……気に入ったっていうかさ」

 

小さく息を吐いて、指輪からゆっくり視線を上げる。

 

「……これ、反則でしょ」

 

ほんの少しだけ困ったように笑って、でも目はどこか潤んでいた。

 

「こんなのもらって、平気な顔できるわけないじゃん」

 

指輪を握る手に、自然と力が入る。

 

「ねぇ彼方……ほんとにいいの?」

 

一拍置いて、少しだけ声を落とす。

 

「私なんかに、こんなちゃんとした“答え”くれてさ」

 

それでも最後には、ふっと優しく笑う。

 

「……ずるいよ。ほんと」

 

私がそう聞くと、彼方は少しだけ笑った。最近見た中で、一番優しい顔をしていた。

 

「さっきも言っただろ………俺はアイがいいんだよ………それにもう少しちゃんとした場で言いたかった感はあるけど」

 

「……なにそれ」

 

思わず小さく笑ってしまう。

 

「ちゃんとした場じゃなくても、十分すぎるくらいだよ」

 

指輪をはめた左手をそっと胸の前に持っていって、もう一度きらめきを眺める。

 

「だってさ……好きな人が、本気で“好き”って言ってくれたんだもん」

 

少しだけ照れくさそうに目を細めて、彼方を見る。

 

「……こんなの、嬉しくないわけないじゃん」

 

前は私から好きって言ったけど、今回は彼方からだった。しかも、こんな綺麗な指輪までくれて。

 

……ほんと、ずるい。

 

私は嘘つきだ。たぶんそれは、これから先も変わらない。きっと一生、全部を本当にはできないんだと思う。

 

でも………彼方やアクア、ルビーに向けてるこの気持ちだけは、絶対に嘘じゃない。

 

……ほんと、私って幸せ者だ。彼方から、今までたくさんのものをもらった。優しい言葉とか、安心できる場所とか……“生きてていい”って思える時間とか。

 

きっと、昔の私なら知らなかったものばっかりだ。……なのに彼方は、まだこんなふうに私にくれる。愛されることも、誰かを愛することも。全部、彼方が教えてくれた。

 

「……ねぇ彼方」

 

指輪を撫でながら、小さく笑った。その笑みは、彼にしか見せた事のない笑み。その笑みには安心と信頼が含まれている。

 

「私さ、ずっと“愛してる”って言葉、上手く分かんなかったんだ」

 

少しだけ視線を伏せて、それからゆっくり彼を見る。愛を知らなかった少女は……長い時間をかけて愛を理解していった。

 

「でも今は、ちゃんと分かるよ」

 

朝から始まった言葉は、時間をかけて偽りから本物へと変わってゆく。

 

「……だって、彼方といる時の私、すごく幸せだもん」

 

そして、今その気持ちを完全に理解し嘘ではない本物の気持ちを………

 

「……愛してるよ、彼方」

 

小さく、でも今までで一番まっすぐな声だった。誤魔化しも、取り繕った笑顔もない。ただ、自分の心のままに紡いだ言葉。

 

「アイドルのアイじゃなくて……ただの私として、ちゃんとあなたを愛してる」

 

私がそう言うと、彼方は急に顔を赤くし始めた。

 

……え、なんで?

 

さっきまであんな真っ直ぐ告白してきたくせに。

 

「ふふっ……なにその反応」

 

思わず笑ってしまう。

 

「自分からあんなこと言ったのに、今さら照れてるの?」

 

少しだけ彼方の顔を覗き込むと、余計に視線を逸らされてしまった。

 

……かわいい。

 

そんなこと思っちゃうくらいには、私はもうこの人のことが好きだった。

 

「改めて言われると恥ずかしくなって………」

 

「なにそれ、ずる」

 

くすくす笑いながら、私はそのまま彼方の肩にもたれかかる。

 

「でも、そういうとこ好き」

 

指輪のはまった左手を彼方の手に重ねて、少しだけ悪戯っぽく笑った。

 

「……これからは、いっぱい言ってあげるね。彼方が照れちゃうくらい」

 

「お手柔らかに……お願いします」

 

照れた顔をしながら、少し困ったみたいに笑ってる。……なにそれ、かわいい。

 

さっきまであんなにかっこよく告白してたのに、今は目もちゃんと合わせてくれない。そんなギャップ反則でしょ。

 

「……なんか、見てるこっちが恥ずかしくなってくるんだけど」

 

「でも、パパめっちゃ照れてる〜」

 

完全に2人の世界に入っているが、彼は子供達の前で堂々と告白した。そんな告白の様子を直接、見せつけられる2人。普段からイチャついている所を見ているが今回がレベルが尋常じゃあないくらい上がっている。

 

「お前、絶対あとで茶化すだろ」

 

「だって珍しいもん。いつも余裕そうなのに」

 

ルビーに至っては彼方を茶化すか満々な様子。そんなルビーにため息をつくアクアだが………

 

「……まぁ、でも」

 

「?」

 

「……よかったな、2人とも」

 

そんな2人の様子を見ながら、アクアは小さく笑った。呆れたような空気を出しながらも、その表情はどこか安心したように柔らかい。

 

「うん……えへへ。ママ、すっごく幸せそう」

 

いろんなことがあった。苦しいことも、怖かったことも、失いかけた瞬間もあった。それでも今、こうして2人が笑い合っている。

 

その光景がちゃんと“帰ってきた日常”みたいで、2人とも自然と肩の力が抜けていた。

 

「……いいなぁ」

 

ルビーはそう呟くと、てとてと小さな足音を立てながら2人の方へ近づいていく。

 

「ん?」

 

彼方が視線を向けた瞬間、ルビーはそのまま彼方とアイの間にぎゅっと入り込んだ。

 

「私もまざる〜」

 

「わっ、ルビー?」

 

そのまま彼方の腕に抱きつきながら、反対側ではアイにもぴったりくっつく。完全に2人の間に収まりながら、満足そうに笑った。

 

「えへへ……これで完璧」

 

「お前なぁ……」

 

アクアは呆れたようにため息を吐くが、その顔は少しだけ笑っている。

 

ルビーはそんなこと気にもせず、彼方の肩に頭を乗せた。

 

「だって今日のパパとママ、なんかいつもより幸せそうなんだもん」

 

そう言って笑うルビーの頭を、アイが優しく撫でる。

 

「……ルビーも、ありがとね」

 

「んー?」

 

「ずっと、そばにいてくれて」

 

アイがそう言うと、ルビーは少しだけ目を丸くして、それから照れたみたいに笑った。

 

「……えへへ。だって家族だもん」

 

嬉しそうに笑うルビー。

 

「ほら……アクアもおいで」

 

そう言いながら、彼方がアクアへ向かって手を差し出してくる。

 

アクアはその手を見て、一瞬だけ「なんで俺まで……」と言いたそうな顔をした。でも、ソファーの上で笑い合っている3人を見ているうちに、結局小さくため息を吐く。

 

「……しょうがないな」

 

呆れたように言いながら近づくと、ルビーが嬉しそうに笑った。

 

「わー、アクアも来た!」

 

「お前、絶対こうなるの待ってただろ」

 

「えへへ、バレた?」

 

アクアがソファーに腰を下ろすと、彼方は自然な動作でその肩を軽く抱き寄せる。

 

「ちょ、狭いんだけど」

 

「家族なんだから我慢しろ」

 

「その理論ずるくない?」

 

そう言いながらも、アクアは結局離れようとはしなかった。気づけば、みんなぴったりくっついている。

 

アイの肩に彼方が寄り添って、その隣でルビーが笑って、アクアが呆れながらもそこにいる。当たり前みたいで、でも昔は想像もできなかった光景。だからこそ、その温もりが妙に心地よかった。

 

 

 






ここで第5章「運命のドーム公演」が終了です。次回からは6章「掴んだ未来」をお送りします。「今ガチ」をどうするか本当に悩んでます。一瞬、有馬かなもぶち込もうか考えたんですけど………「東京ブレード」がまた崩れるので。なんとかいい着地点を探しております。正直、本編よりも番外編やifルートの方が構造がしっかりと浮かんでるんですよね。


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