ドラマのラストシーンの撮影から数ヶ月。迎えたドラマの最終話。
満開の桜が咲く河川敷。ランドセルを背負った少女が、転びそうになりながら前を走っていく。
『こら、走るなって』
少し困ったように笑いながら、その後ろを追いかける悠真。その隣には、穏やかに笑う彼女の姿があった。最初は他人だった。
居場所をなくした者同士が、偶然出会って、ぶつかって、迷って、それでも少しずつ家族になっていった。少女が振り返る。
『パパー!ママー!はやくー!』
その言葉に、彼女は少しだけ驚いた顔をする。けれど悠真は、照れたように頭を掻きながら笑った。
『……行くか』
『うん』
そして、悠真は自然に彼女の手を取る。何気ない仕草。桜が舞う中、3人は並んで歩いていく。その背中をゆっくり映し………最後に、少女の笑い声だけが春の空に響いた。
エンドロールが流れ始めても、しばらく誰も言葉を発さなかった。テレビから流れる優しい主題歌だけが、静かなリビングに響いている。
「……終わっちゃったぁ」
最初に声を漏らしたのはルビーだった。クッションを抱きしめながら、どこか寂しそうに画面を見つめている。
「悠真、最後めちゃくちゃパパしてたじゃん……」
「してたな」
アクアも小さく笑う。
けれどその表情は、少し驚いたようでもあった。最初は“イメージを変える為の挑戦”だと思っていた。だが、回を重ねるごとに彼方の演技は自然になっていった。優しく笑う顔も。
不器用に家族になろうとする空気も。全部、本当にそこに“悠真”という人間がいるみたいだった。
「……すごかった」
アクアがぽつりと呟く。
「父さん、ほんとに変わったんだな」
その言葉に、アイは静かに笑った。
「うん……すっごくかっこよかった」
そう言いながら、どこか誇らしそうにテレビを見つめる。彼方が苦しんでいた時期を、アイは誰より近くで見てきた。歩けなくなった日も。眠れない夜も。
それでも諦めず、何度も立ち上がろうとしていた背中も。全部知っている。だからこそ、今こうして画面の向こうで笑う彼方を見て、胸の奥がじんわり熱くなっていた。
「……ちゃんと戻ってきたね、彼方」
アイはそう呟きながら、小さく微笑んだ。
「………君達……感傷に浸っているのはいいけど本人、すぐ側にいるのだけど?」
その言葉に、3人の視線が一斉に彼方へ向いた。ソファの端に座っていた彼方は、どこか気まずそうに頬を掻いている。
「……あ」
ルビーがぱちぱちと瞬きをする。
「いたんだ」
「最初からいたんだけどなぁ」
「いやぁ……なんか悠真って感じすぎて、父さんとして見れてなかった」
「それ地味に傷つくんだけど?」
アクアの素直な感想に、彼方は苦笑いを浮かべる。すると次の瞬間、ルビーが勢いよく彼方に抱きついた。
「でもでも!めちゃくちゃよかった!最後の“行くか”のとこ、私、泣いちゃったもん!」
「お前、途中からずっと泣いてただろ」
「うるさい!」
頬を膨らませるルビーの頭を、彼方は困ったように撫でた。その様子を見ていたアイは、小さく笑ってから彼方の肩にもたれかかる。
「……お疲れ様」
優しい声だった。彼方は少しだけ目を丸くして、それからふっと力を抜いたように笑う。
「ありがと」
その短い言葉だけで十分だった。あの苦しかった時間も、必死に足掻いた日々も………全部、今この瞬間に繋がっていた。
【速報】『桜の下、家族になる』最終話放送後
#天城彼方完全復活 がトレンド1位
【@drama_love87】
最初「彼方にこの役?」って思ってたけど、最終話で全部持ってかれた
悠真っていう人間が本当に存在してるみたいだった
【@filmwatch_23】
復帰作であの方向性選ぶのかなり勇気いるだろ
しかもちゃんと成功させてるのが凄い
【@mikanstar】
最後の「……行くか」、声のトーン優しすぎて泣いた
あの自然な笑い方反則
【@cinema_otaku91】
天城彼方、演技変わったな
前より感情の“柔らかさ”が増してる感じする
【@Bkomachi_forever】
正直、復帰前は不安だった
でも今日で完全に黙ったわ
おかえり、天城彼方
【@yuhi_movie】
子役との空気感が異常に自然だった
演技してる感じがしないんだよな
【@dorama_time】
“暗い役専門”みたいに言われてた俳優が、家族ドラマでここまでハマるとは思わなかった
【@netabareNG】
会見の時めちゃくちゃ叩かれてたのに、結果で黙らせるの普通にかっこいい
【@hanayuki_00】
ランドセル直してあげるシーン、アドリブらしいって聞いて震えた
細かい芝居が良すぎる
【@trend_news_jp】
『桜の下、家族になる』最終話放送後、SNSでは「#天城彼方完全復活」がトレンド入り。
“イメージを覆した復帰作”として高評価が相次いでいる。
【@actor_fan22】
復帰しただけじゃなくて、“俳優として一段階進化して戻ってきた”感じする
ネットの反応は、概ね好評だった。やはり、前と違う演技をした事が大きかった。この演技ができたのは、アクアとルビーの2人のお陰だ。親として気持ちを理解しその記憶と思いを乗せた。2人がいなかったこの演技はできなかったと思う。
「ありがとう………2人とも」
優しく2人を抱きしめる。こうして抱きしめられるのも今の内なので堪能しておく。
アクアとルビーは、突然抱きしめられて一瞬だけ目を丸くした。
「……え?」
ルビーがぽかんと声を漏らす。彼方は何も言わない。ただ、2人を包み込むみたいに静かに抱きしめていた。その腕は優しくて、どこか少しだけ名残惜しそうだった。
ルビーは最初こそ驚いていたが、すぐにえへへ……と嬉しそうに笑って彼方の胸に頬を擦り寄せる。
「パパ、今日なんか甘くない?」
「………別に?」
「絶対ウソ。ドラマ終わったから寂しくなったんでしょ」
「……まぁ、否定はしない」
珍しく素直に認めた彼方に、ルビーはくすくす笑う。
一方で、アクアは抱きしめられたまま静かに目を伏せていた。彼方が今、何を思っているのか。なんとなくだが分かってしまった。苦しかった時間。失ったもの。
もう戻れない頃の自分。色んなものを越えて、それでもこうして“父親”としてここにいること。その全部を噛み締めているのだと。
「……父さん」
アクアが小さく呼ぶ。
「ん?」
「おかえり」
短い言葉だった。けれど、その一言に彼方の肩がほんの少し揺れた。ルビーもすぐに顔を上げる。
「あ、それ私も言おうと思ってた!」
「絶対あと乗せだろ」
「違うもん!」
ぎゃーぎゃー言い合う2人に、彼方は思わず吹き出した。そして、困ったように笑いながら2人の頭を撫でる。
「……ただいま」
その声は、どこまでも穏やかだった。少し離れた場所でその光景を見ていたアイは、静かに微笑んでいる。
けれど、この部屋に流れていた空気は、ドラマの“家族”なんかじゃないもっと温かくて、もっと不器用で………でも確かに、本物だった。
「……ふふっ」
アイは小さく笑いながら、3人の様子を見つめる。彼方に抱きしめられているアクアとルビー。その光景が、なんだかあまりにも自然で。まるで最初から、こうなる運命だったみたいに思えてしまう。
「ねぇ彼方」
優しく名前を呼ぶ。彼方が視線を向けると、アイは少しだけ照れくさそうに笑った。
「……ちゃんと“パパ”になったね」
その言葉に、彼方は一瞬だけ目を丸くした。アイはそのまま続ける。
「前から優しかったけどさ。でも今は、もっと……安心できる感じ」
穏やかな声だった。
彼方が苦しんで、迷って、それでも必死に前に進んできたことを、アイは全部知っている。
だからこそ分かる。今ここにいる彼方は、昔よりずっと強くて、ずっと温かくなった。
「アクアもルビーも、彼方のこと大好きだし」
「そりゃまぁ、父親だしな」
「私はママの次に好き!」
「それ地味に順位つけられてる?」
そんなやり取りに、アイはまた笑う。それから少しだけ目を細めて、静かに呟いた。
「……私も、大好きだよ」
アイドルとしてじゃない。誰かに見せる為の笑顔でもない。ただ、家族を見つめる“星野アイ”としての、柔らかい声だった。
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