一番星は消えない   作:ディバル

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088 ただいまの先に

 

 

 

 

ドラマのラストシーンの撮影から数ヶ月。迎えたドラマの最終話。

 

満開の桜が咲く河川敷。ランドセルを背負った少女が、転びそうになりながら前を走っていく。

 

『こら、走るなって』

 

少し困ったように笑いながら、その後ろを追いかける悠真。その隣には、穏やかに笑う彼女の姿があった。最初は他人だった。

 

居場所をなくした者同士が、偶然出会って、ぶつかって、迷って、それでも少しずつ家族になっていった。少女が振り返る。

 

『パパー!ママー!はやくー!』

 

その言葉に、彼女は少しだけ驚いた顔をする。けれど悠真は、照れたように頭を掻きながら笑った。

 

『……行くか』

 

『うん』

 

そして、悠真は自然に彼女の手を取る。何気ない仕草。桜が舞う中、3人は並んで歩いていく。その背中をゆっくり映し………最後に、少女の笑い声だけが春の空に響いた。

 

 

 

エンドロールが流れ始めても、しばらく誰も言葉を発さなかった。テレビから流れる優しい主題歌だけが、静かなリビングに響いている。

 

「……終わっちゃったぁ」

 

最初に声を漏らしたのはルビーだった。クッションを抱きしめながら、どこか寂しそうに画面を見つめている。

 

「悠真、最後めちゃくちゃパパしてたじゃん……」

 

「してたな」

 

アクアも小さく笑う。

 

けれどその表情は、少し驚いたようでもあった。最初は“イメージを変える為の挑戦”だと思っていた。だが、回を重ねるごとに彼方の演技は自然になっていった。優しく笑う顔も。

 

不器用に家族になろうとする空気も。全部、本当にそこに“悠真”という人間がいるみたいだった。

 

「……すごかった」

 

アクアがぽつりと呟く。

 

「父さん、ほんとに変わったんだな」

 

その言葉に、アイは静かに笑った。

 

「うん……すっごくかっこよかった」

 

そう言いながら、どこか誇らしそうにテレビを見つめる。彼方が苦しんでいた時期を、アイは誰より近くで見てきた。歩けなくなった日も。眠れない夜も。

 

それでも諦めず、何度も立ち上がろうとしていた背中も。全部知っている。だからこそ、今こうして画面の向こうで笑う彼方を見て、胸の奥がじんわり熱くなっていた。

 

「……ちゃんと戻ってきたね、彼方」

 

アイはそう呟きながら、小さく微笑んだ。

 

「………君達……感傷に浸っているのはいいけど本人、すぐ側にいるのだけど?」

 

その言葉に、3人の視線が一斉に彼方へ向いた。ソファの端に座っていた彼方は、どこか気まずそうに頬を掻いている。

 

「……あ」

 

ルビーがぱちぱちと瞬きをする。

 

「いたんだ」

 

「最初からいたんだけどなぁ」

 

「いやぁ……なんか悠真って感じすぎて、父さんとして見れてなかった」

 

「それ地味に傷つくんだけど?」

 

アクアの素直な感想に、彼方は苦笑いを浮かべる。すると次の瞬間、ルビーが勢いよく彼方に抱きついた。

 

「でもでも!めちゃくちゃよかった!最後の“行くか”のとこ、私、泣いちゃったもん!」

 

「お前、途中からずっと泣いてただろ」

 

「うるさい!」

 

頬を膨らませるルビーの頭を、彼方は困ったように撫でた。その様子を見ていたアイは、小さく笑ってから彼方の肩にもたれかかる。

 

「……お疲れ様」

 

優しい声だった。彼方は少しだけ目を丸くして、それからふっと力を抜いたように笑う。

 

「ありがと」

 

その短い言葉だけで十分だった。あの苦しかった時間も、必死に足掻いた日々も………全部、今この瞬間に繋がっていた。

 

 

 

 

 

 

【速報】『桜の下、家族になる』最終話放送後 

 

#天城彼方完全復活 がトレンド1位

 

【@drama_love87】

 

最初「彼方にこの役?」って思ってたけど、最終話で全部持ってかれた

悠真っていう人間が本当に存在してるみたいだった

 

【@filmwatch_23】

 

復帰作であの方向性選ぶのかなり勇気いるだろ

しかもちゃんと成功させてるのが凄い 

 

【@mikanstar】

 

最後の「……行くか」、声のトーン優しすぎて泣いた

あの自然な笑い方反則

 

【@cinema_otaku91】

 

天城彼方、演技変わったな

前より感情の“柔らかさ”が増してる感じする

 

【@Bkomachi_forever】

 

正直、復帰前は不安だった

でも今日で完全に黙ったわ

おかえり、天城彼方

 

【@yuhi_movie】

 

子役との空気感が異常に自然だった

演技してる感じがしないんだよな

 

【@dorama_time】

 

“暗い役専門”みたいに言われてた俳優が、家族ドラマでここまでハマるとは思わなかった

 

【@netabareNG】

 

会見の時めちゃくちゃ叩かれてたのに、結果で黙らせるの普通にかっこいい

 

【@hanayuki_00】

 

ランドセル直してあげるシーン、アドリブらしいって聞いて震えた

細かい芝居が良すぎる

 

【@trend_news_jp】

 

『桜の下、家族になる』最終話放送後、SNSでは「#天城彼方完全復活」がトレンド入り。

“イメージを覆した復帰作”として高評価が相次いでいる。

 

【@actor_fan22】

 

復帰しただけじゃなくて、“俳優として一段階進化して戻ってきた”感じする

 

 

ネットの反応は、概ね好評だった。やはり、前と違う演技をした事が大きかった。この演技ができたのは、アクアとルビーの2人のお陰だ。親として気持ちを理解しその記憶と思いを乗せた。2人がいなかったこの演技はできなかったと思う。

 

「ありがとう………2人とも」

 

優しく2人を抱きしめる。こうして抱きしめられるのも今の内なので堪能しておく。

 

アクアとルビーは、突然抱きしめられて一瞬だけ目を丸くした。

 

「……え?」

 

ルビーがぽかんと声を漏らす。彼方は何も言わない。ただ、2人を包み込むみたいに静かに抱きしめていた。その腕は優しくて、どこか少しだけ名残惜しそうだった。

 

ルビーは最初こそ驚いていたが、すぐにえへへ……と嬉しそうに笑って彼方の胸に頬を擦り寄せる。

 

「パパ、今日なんか甘くない?」

 

「………別に?」

 

「絶対ウソ。ドラマ終わったから寂しくなったんでしょ」

 

「……まぁ、否定はしない」

 

珍しく素直に認めた彼方に、ルビーはくすくす笑う。

 

一方で、アクアは抱きしめられたまま静かに目を伏せていた。彼方が今、何を思っているのか。なんとなくだが分かってしまった。苦しかった時間。失ったもの。

 

もう戻れない頃の自分。色んなものを越えて、それでもこうして“父親”としてここにいること。その全部を噛み締めているのだと。

 

「……父さん」

 

アクアが小さく呼ぶ。

 

「ん?」

 

「おかえり」

 

短い言葉だった。けれど、その一言に彼方の肩がほんの少し揺れた。ルビーもすぐに顔を上げる。

 

「あ、それ私も言おうと思ってた!」

 

「絶対あと乗せだろ」

 

「違うもん!」

 

ぎゃーぎゃー言い合う2人に、彼方は思わず吹き出した。そして、困ったように笑いながら2人の頭を撫でる。

 

「……ただいま」

 

その声は、どこまでも穏やかだった。少し離れた場所でその光景を見ていたアイは、静かに微笑んでいる。

 

けれど、この部屋に流れていた空気は、ドラマの“家族”なんかじゃないもっと温かくて、もっと不器用で………でも確かに、本物だった。

 

「……ふふっ」

 

アイは小さく笑いながら、3人の様子を見つめる。彼方に抱きしめられているアクアとルビー。その光景が、なんだかあまりにも自然で。まるで最初から、こうなる運命だったみたいに思えてしまう。

 

「ねぇ彼方」

 

優しく名前を呼ぶ。彼方が視線を向けると、アイは少しだけ照れくさそうに笑った。

 

「……ちゃんと“パパ”になったね」

 

その言葉に、彼方は一瞬だけ目を丸くした。アイはそのまま続ける。

 

「前から優しかったけどさ。でも今は、もっと……安心できる感じ」

 

穏やかな声だった。

 

彼方が苦しんで、迷って、それでも必死に前に進んできたことを、アイは全部知っている。

 

だからこそ分かる。今ここにいる彼方は、昔よりずっと強くて、ずっと温かくなった。

 

「アクアもルビーも、彼方のこと大好きだし」

 

「そりゃまぁ、父親だしな」

 

「私はママの次に好き!」

 

「それ地味に順位つけられてる?」

 

そんなやり取りに、アイはまた笑う。それから少しだけ目を細めて、静かに呟いた。

 

「……私も、大好きだよ」

 

アイドルとしてじゃない。誰かに見せる為の笑顔でもない。ただ、家族を見つめる“星野アイ”としての、柔らかい声だった。

 

 

 








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