一番星は消えない   作:ディバル

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008 今は私だけ

 

 

 

また時間が飛び一年と少し経った。俺たちは無事に小学校を卒業した。そして、中学生になった。俺とアイは同じクラスだ。そんな俺は、ここでも友達が出来なかった。何故なら大抵、同じ小学校の奴とつるむことが多いが、残念ながら俺には小学校の友達はアイしかいない。一方、アイの方は最初はよく話しかけられていた。成長した彼女は、一段と綺麗で、それに目を引かれた男女両方によく話しかけられていた。

 

しかし、少し経過したら高嶺の花として祭り上げられた。まぁ……俺は、そんな事関係ないけど。

 

「さて……今日も終わったな。帰ろうか、アイ」

 

「うん。帰ろ、彼方」

 

彼らが話していると、まだ教室に残っていた連中がコソコソと話し始めていた。彼は、少しそちらに意識を集中させる。

 

「あいつ星野さんのこと名前呼びしてるぞ」

 

「あの2人、どんな関係?」

 

「もしかして付き合っている?」

 

「でも、天城くんなら」

 

いろいろと聞こえてくる。何で、本人達がいる前でそういう話をするのやら。俺には、わからないな。

 

「ほら……彼方。行こ?」 

 

アイが立ち上がり、そう言いながら教室を出て行く。俺はそれについて行く。こういうのは言わせておけばいい。下手に言い返したりすると余計に拗れる。好きなだけ妄想させておけばいい。結局は、あいつらの指針でしか測ってないのだから。

 

「なんかいろいろ言われてたね」

 

「そうだね。アイは気にしている?」  

 

「全く?」

 

互いに何も気にしてない様子だった。彼らにとっては交流がない人にいくら言われても気にしない。ある意味で似ている2人だ。そのまま、2人は歩く。会話はない。かといって気まずい空気ではなく、逆にこの距離感が安心するという心境だろう。

 

「付き合っているのって言われていたね」

 

突然、アイがそんな事を言ってくる。さっきのでこの話題は終わったと思っていたが、突然戻ってきた。これ、どう返せばいいんだ?

 

彼は、コミュ症ではないが女性と話すのは緊張する。特に目の前にいるのが推しなら尚更だ。彼が考えて、考え抜いて出した答えは………

 

「言ってたねぇ……」

 

これだった。考えてこのザマである。

 

「彼方って恋愛とか興味あるの?」

 

唐突にそんな事を聞いてくる。俺は、一瞬だが思考が止まってしまった。恋愛、前世でもそれなりにしていた。結婚はしていなかったが。恋愛か……今は無理だな。この子を救う事で人生の8割くらいは今その事で埋まっている。もし、俺が恋愛をするならアイを救い終わった後。それからでも遅くはないだろう。

 

「今はないね。アイと過ごす時間を楽しみたいし」

 

俺の返答に対して彼女は少し驚いたような顔をした後に、いつもの太陽のような笑顔を向けて。

 

「じゃあ、しばらくは私だけだね」

 

そう言った。うん……やはり推しの笑顔は尊い。これの為に生きていると言っても過言ではない。さっき人生の8割がアイを救う事と言ったが、残りの2割はアイと楽しく過ごす事だ。いつまで一緒にいられるかわからない。だから、今の内に楽しめるだけ楽しんでおく。 

 

「……寄り道していかないか……あそこに」

 

前から気になっていたゲームセンターを指差し、彼女を誘う。小学校の時は寄り道をしたらダメだったので泣く泣く我慢していたが、俺たちももう中学生だ。ちょっとくらいならいいだろう。

 

お金に関しては問題ない。俺も施設に入って知ったのだが、どうやら毎月、お小遣いが貰えるみたいだ。俺たちが住んでいる施設は、俺達が中学生という事も相まって月に3000円貰える。金をそこまで使ってなかったからそれなりに溜まっている。少しくらいはいいだろう。

 

「ゲームセンター?行ってみたい」

 

アイは目を輝かせていた。行った事のない場所は誰しもワクワクする物だ。こうして寄り道が決定した。そのまま俺達はゲームセンターに入って行く。

 

「わぁ……いろいろあるね。彼方どれからする?」

 

初めてのゲームセンターではしゃいでいる。そんな様子を見て、つい笑みが浮かぶ。でも、確かにいろいろとある。クレーンゲーム、メダルゲーム、音楽・ダンスゲーム、プリントシール機、アーケードゲームと様々な物がある。確かにこれは悩むな。

 

「彼方、こういう所詳しそう。おすすめある?」

 

ここで、俺に聞いてくるか。確かに、アイよりかは詳しいのは間違いない。小学生の頃は、オレカバトルやウキウキペディアとかメダルゲームとかしていた。

 

「そうだな……じゃあアレとかどうだ?」

 

彼が指を差したのはメダルゲームコーナーだった。多種多様なゲームがあり、中には大きなゲームもある。

 

「いいね。ほら、早くやろ」

 

先に行ってしまった。まだメダル持ってない状態で。近くにある両替機に千円札を入れてメダルに変える。枚数にして300枚。もうこれで今日は遊べるじゃあないか?と思える程の枚数だ。 

 

「彼方、教えて」

 

メダルを持ってアイの元に向かう。アイはやり方を聞いてくる。俺は、近くにあるメダルゲーム機にメダルを入れる。 

 

「メダルを入れてミニゲームをする。今回は流れてくる物を落とすゲームで、落としたら的に書かれてあるメダルの枚数分落ちてくる」

 

そして、画面には横から様々な動物のぬいぐるみが流れてくる。俺は、コアラを狙って撃つ。大砲から弾が打たれてコアラに命中。そのまま落下。メダルを一枚獲得した。

 

「こんな感じ。後は、メダルを入れた分だけ弾の威力が上がるから、そこは調整していく……わかった?」

 

「できるかな……やってみる」

 

メダルカップをもう一つ持って来て、2人で300枚のメダルを分ける。アイの分を少しだけ多めにしておく。初めてのゲーセンだから、できるだけ楽しんでほしい。

 

「じゃあやろうか」

 

俺は、アイの隣にある別のメダルゲーム機で遊ぶ事にする。

メダルゲームをし始めて三十分が経過した。アイは、他の台には行かずにずっと同じゲームをやり続けていた。俺は、ちょくちょくゲームを変えながら遊んでいた。 

 

「これ、全然落ちない」

 

アイが指を差したのは、この中で一番獲得枚数が多い50枚のライオンだ。中々取れない奴だ。

 

「これを取りたいの?」

 

「うん……これ取りたい」

 

アイが頷く。確かに、ゲーセンに行ったらこういうので一番デカい物を取りたい気持ちはわかる。よし……。俺は、アイがやっていたゲームにコインを5枚投入する。このゲームで入れられる最大枚数だ。

 

「これか……」

 

流れてくるライオンを確認。そいつ目掛けて撃つ。だが、落ちない。画面に失敗という文字が浮かび上がった。

 

「………もう一回」

 

そのまま、俺も続けたが落ちない。アイと交代制でするが中々落ちない。これ本当に落ちるのか?そう疑問に思いつつ続けた。 

 

5分後。アイのメダルが尽きた。そして、俺も最後の一発になった。

 

「頼む、落ちてくれ」

 

そう願った一発を放つ。最後の最後で落ちる………なんて事もなく、普通に失敗した。  

 

「……取れなかったね。でも、楽しかった」

 

「……そうだな」

 

結果だけ見れば残念だったが、それでも楽しかった事には変わりない。この時間は使った1000円以上の価値が確かにあった。それなら、俺達は時間の許す限り遊び尽くした。もう少しで18時を迎える。まだ中学生の俺達は、18時までしか利用できない。

 

「ねぇ……最後にアレしたい」

 

そう言いながらアイがプリクラ機に立つ。女子ってプリクラ機好きだよな。俺の女友達だった子もよくプリクラで写真を撮っていた。

 

「いいよ……撮ろう」

 

俺達はプリクラ機に入る。俺が500円を投入。高いな……写真を撮ってデコる程度なのに、と思ってしまう。1枚目は普通に撮ったが、プリクラ機から「もっと近づいて」という指示が出てくる。 

 

「えい……近づくんだよね」

 

「!?」

 

軽い掛け声と共に俺の腕に自身の腕を絡めてくる。俺は、固まってしまう。唐突な推しとの密着で思考が吹き飛ぶ。

 

(………何これ?俺は夢を見ているのか?)

 

そのまま、写真が撮られる。俺の顔は完全な真顔であった。まだよかった。変な顔をしてなくて。しかし、これだけでは終わらなかった。このクソ機械は今度は、「顔を近づけて。」と言ってきた。

 

「こうかな?」

 

アイの顔が近づいてくる。

 

(近い近い近い…!)

 

俺の体の体温が上がっていく。このクソ機械!!メーカーにクレーム入れてやる!!そうして、後何枚か撮ったが、その全てが真顔で終えた。プリクラ機恐るべし。

 

「彼方、ずっと真顔じゃん」

 

アイは全く気にしてない様子。俺は、めちゃくちゃ気にしているのに。次に撮った写真をデコっていく。アイが互いの名前を並べて書く。

 

「ほら、並べた方がいいでしょ。今は私だけなんだから」

 

と微笑む。ズルい、とても。その顔は反則だ。

 

彼は、推しとの撮影に密着した事により、いつもよりも少しだけ知能が下がっていた。それから、ある程度デコった後に写真が出てくる。彼女は、その写真を手に取り半分を彼に手渡してくる。

 

「なくさないでね」 

 

「……たぶん、大事になるから」

 

アイから写真を受け取る。彼女の言葉が少し気になったが、俺は頷き。

 

「あぁ……絶対になくさないよ」 

 

とそう言った。それから、ゲーセンから出て2人で帰り道を歩く。

 

「楽しかったな」

 

寄り道なんて久しぶりにしたし、とても充実した。まぁまぁお金は使ったけど後悔はない。前世では中学生の時はあまりいい思い出はなかった。でも、今日はとても楽しい時間を過ごせた。

 

「うん……また彼方と2人で遊びに行こうね」  

 

「また近い内に」

 

そうして、俺達は帰路を辿る。楽しかった事を話しながら。

 

 

 

 

 

その翌日だった。

 

「彼方。東京行かない?」

 

「は?」

 

アイからの突然の提案に驚く。俺は、この時に唐突に言われた事で思考を回せなかったが、この出来事が大きな変化になる事、そして始まりになる事になる。それに俺は気づかなかった。

 

 

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