一番星は消えない   作:ディバル

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時が過ぎるのはあっという間だ。気づけば、アクアとルビーは来年で高校生になる。年々、時間の流れが加速しているように感じる。

 

俺とアイも30代に入り、あの頃とはまた違う落ち着いた日々を過ごしていた。

 

4年前。B小町としての卒業ライブを最後に、アイはグループとしての活動を終え、それぞれ女優としての道を歩み始めた。

 

そして俺もまた、今では俳優業を中心に活動している。今もなお、途切れることなく仕事のオファーは届き続けていた。

 

「………次の仕事は」

 

壱護さんから貰った台本と出演者一覧を確認をしようとした時だった。背後から抱きしめられる。こんな事をするのは1人しかいない。

 

「……また仕事?ねぇ、ちょっとくらい休んでもバチ当たらないと思うんだけど」

 

少し拗ねた様にしながら抱きついて来た。力が妙に強い。ガッチリと固定されてしまっていた。逃げる気なんてないのに。

 

「私のこと、後回しにしてない?」

 

「そんな事は………」

 

「……なんてね」

 

声のトーンが少し高くなった。これ、絶対に楽しんでいる。背後から伝わる体温も、わざと甘えるみたいに抱きついてくる腕の力も、全部確信犯だ。

 

悪戯気に笑うアイの姿が脳裏を横切る。きっと今、俺が困っている顔をしているのを想像して楽しんでいるのだろう。

 

「でもさ、今はちょっとだけ私の方見てよ。彼方がちゃんとここにいるって、確認したいだけ」

 

アイの手が離れた………と思った次の瞬間、今度は正面から抱きついてくる。昔の彼女にも人を惹きつける魅力はあった。でも、今のアイはそれとはまた違う。どこか落ち着いた雰囲気があって、ふとした仕草や表情に大人の女性らしい色気が滲んでいた。

 

年齢を重ねたことで、彼女の魅力はさらに深みを増している。……何と言うか、昔以上にドキッとさせられる事が増えた気がする。

 

「俺はちゃんとここにいるから」

 

俺の方からも抱きしめる。あったかくて心地がいい。結婚して10年近く経過したのに今でもドキドキしている。倦怠期を迎えるかなぁって……ぼんやりと考えた時期もあったが今でもずっとこんな感じである。

 

「……知ってる。彼方って、昔よりちゃんと言葉にしてくれるようになったよね」

 

そう言いながら、アイは彼方の胸に頬を寄せる。

 

「……ふふっ、10年近く経ってもこんなにドキドキするんだ」

 

………それは仕方ないと思う。だって……アイは可愛いし。

 

「なんか不思議」

 

少しだけ顔を上げて、嬉しそうに笑った。

 

「でも、私は今のままが好きだよ」

 

そんな2人の様子をアクアとルビーは、見ていた。リビングで堂々とイチャつく2人に対してため息を吐くアクア。

 

「……また始まった」

 

「えー、いいじゃん。パパとママ仲良しで!」

 

「仲良いのは別にいいけど、リビングでやるなよ……」

 

見慣れた光景とはいえど、もう30代の2人が新婚のようにイチャついているのは息子のアクアとしても複雑な気持ちだろう。

 

「でもさぁ……なんか安心するよね。ずっと変わんない感じで」

 

変わっていないのはそうなのだが、実際のところ、このやり取りは昔からずっと続いている。

 

昔は少し遠慮がちだっただけで、今ではもう日常だ。驚くほど自然に、何年経っても同じ距離感のまま、当たり前みたいにじゃれ合っている。

 

「……ほんと、進歩ないな」

 

「それがいいんじゃん!」

 

ルビーは満足そうに笑いながら、そんな2人を見ていた。

 

「ルビー、受験勉強は大丈夫?その………学力が」

 

ルビーの学力は、平均より少し低い。芸能科の高校とはいえ、最低限の学力がなければ落とされることも普通にある。

 

俺とアイは中卒だが……今の時代、せめて高校くらいは卒業しておいた方がいい。だからこそ、ちゃんと進路のことも考えてやる必要がある。

 

「え、そんなに?」

 

ついさっきまで2人がイチャつく姿を見てほっこりしていたルビーだったが、話題が自分の学力に移った瞬間、表情が一気に固まる。さっきまでの柔らかい空気が消え、顔が少し青ざめていく。

 

「ちょ、待って待って……それ普通にヤバくない?」

 

今自分が置かれている状況に気づき慌て始めた。

 

「いやいやいや、まだ間に合うよね!?間に合うやつだよね!?」

 

その言葉に対する返答は誰も返してくれない。全員が顔を逸らしていく。

 

「ねぇパパ、それ今から本気出せばいけるやつでしょ!?」

 

「アクア、俺と一緒に何とかしよう」

 

アクアにそう言いながら、ルビーはテーブルの上に置かれていた教科書を手に取る。ぎこちない笑顔を浮かべながらも、その目はどこか必死だった。

 

「……父さん、それ俺に振るのか?いや、別に教えられるほど得意じゃない」

 

「いやいやいや、まだ間に合うよね!?間に合うやつだよね!?」

 

ルビーの言葉に答えず顔を逸らした。………ワンチャン落ちるかもしれないんだよなぁ……今のまま勉強を中途半端にしていたら。

 

「……ルビー、自分でやるしかないんじゃないか?」

 

「お兄ちゃん冷たっ!」

 

「現実だろ」

 

「うそでしょ……この家、誰も味方いないんだけど……」

 

ルビーは肩を落としながら、その場にへたり込むようにして教科書を抱えた。

 

「ふふっ、ルビー頑張ってね」

 

「ママまで応援だけ!?」

 

「だって勉強はルビーの問題だし」

 

「ひどい!家族なのに!」

 

「家族だから言ってるんだよ」

 

ルビーが高校に入らない可能性が出てきた。今の時代、中々ないが、舐めていたら本当に落ちる。少し楽観的な部分がある……だからこそ不安なのだ。

 

「とりあえず………何処ができない?最悪、小学校の問題から振り返る可能性があるかもだから教えてね」

 

眼鏡をかけながらそう言いながらルビーの隣の席に座った。いつもより数倍優しい顔をしている。

 

「え、そこから!?いやいやいや、それはさすがに恥ずかしいって!」

 

少し慌てたように言いながら、ルビーは教科書をぎゅっと抱え直す。

 

「でも……うん、まぁ……正直、ちょっとだけ分かってないとこあるけど……!」

 

ルビーは視線を泳がせながら、気まずそうに指先をいじる。

 

「ほんとに“ちょっとだけ”だからね!?ほんとだよ!?」

 

「アクア、頑張ろうな」

 

ニコニコと笑みを浮かべながら、アクアの手をがっちりと掴んでいた。その笑顔は明るいのに、なぜか逃げ道だけはしっかり塞がれているような圧があった。

 

「……“ちょっとだけ”の顔じゃないだろ。あと、手強く握りすぎ」

 

心配し過ぎなのわかっているけど、勉強なんてここ数年やってきてないのでブランクがある。だから、アクアの力が必要なのだ。

 

「頑張ろうな、じゃなくて決定事項になってるの怖いんだけど」

 

「……はぁ」

 

小さく息を吐いて、諦めたように肩を落とす。

 

「まぁいい。どうせ放っても不安だし。やるならちゃんとやるぞ、ルビー」

 

こうして、ルビーの受験勉強が始まった。残された時間はそこまで多くない。だからこそ、基礎を固めつつ、出やすい重要な部分を重点的に覚えさせる方針にした。

 

とはいえ、ルビーの集中力は長く続かない。気づけば机に突っ伏したり、別の話を始めたりと、前途多難なスタートだった。

 

「大丈夫かな………」

 

いつの間にか日が暮れた夜中になっていた。台本を読む筈だったのにルビーの受験勉強にシフトチェンジしてしまった。集中力は続いていなかったけど……呑み込みは早い、この調子なら大丈夫だ。

 

「そう言えば出演者は誰がいるかな?」

 

俺もこの業界に足を踏み入れて、気づけば10年以上が経っていた。今では顔見知りの関係者も増え、現場で気軽に声を掛けてもらう事も多い。

 

それだけ、自分もこの世界で長くやってきたのだと実感する。

 

今回の現場は若い役者が多かった。そして、今回の作品名………学園の黒物でラスボスみたいな役割である。また、この手の役だ。でも、前よりかは少し減っている方だ。そして、その主演を務めるのが…………

 

「…………また、変な縁だね」

 

黒川あかね。劇団ララライの若きエースとして活躍している役者であり【推しの子】でも重要な人物の1人だ。今の若手役者の中でも、間違いなく最前線を走っている存在と言っていい。

 

「まぁ………やる事は変わらないか」

 

相手が誰であろうと、自分のやるべき事は同じだ。役を理解して、全力で演じ切る。ただ、それだけだった。

 

 

 






アクアとルビーの小中学校はカットしまった。そこを書き始めると本当に本編が終わらなくなるので。その代わり番外編でそこら辺のエピソードを書こうと考えています。それと、最近少し悩んでいる所が多くあり投稿頻度が下がってます。今は「今日あま」の部分を製作中です。気長にお待ちいただけると幸いです。

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