ライフ減少がリアルダメージになる世界で自傷デッキを拾ってしまった 作:七夕茸
両者のプレイマットから魔法陣が現れてフィールドが展開される。
「紙山部員は確かヴェッター一年と戦ったと聞いたがどっちのデッキでだ?」
「
「そっちの方か……」
ふむ、と私の言葉を聞いた四季神部長は何かを考えるように思考の海に落ちて行ってしまった。いや一人で結論を出さないで欲しい。
そうしているうちに夏雲がフィールドの機能でコインを呼び出して先攻後攻を決めようとしていた。
「サモン《コイン~》、え~と一年生ちゃんは表裏どっちがいい~?」
「カルテよ、あと表で」
「はいは~い」
夏雲がコインを打ち上げると綺麗な孤を描いてポスっと私の頭の上に落下した。
……私は無言で夏雲の額めがけて思いっきり投げ返す。
「あうっ!あはは~先輩風を吹かせようとしたけど失敗しちゃった~」
「私がやった方がいいかしか?」
「もっかいやらせて~」
続く2投目はちゃんと真上に打ちあがりクルクルと回転しながら彼女の手の甲に収まった。夏雲はちゃんとできるだよなコイントス、私は何度やってもできないのに。
「裏だ~!じゃ~こっちの先行~!」
******
私は手札を左上のコストが書かれている順に左から右へと並び替える、視認性がよくなると春陽が教えてくれたことの一つだ。そして私の使えるエナジーは4だからコスト5以上のカードのことは一旦頭から除外する。
「私は3コストで《ミグラトリー・レッドサルモン》を召喚~このシルエットは相手によって破壊されると手札に戻るよ~ターンエンド~」
「そう……」
とりあえずレッドサルモンで相手の出方を見てみる、破壊されてもこちらの手札に戻って何度でも使い回せるので便利だ。
「私のターンね、ドロー」
カルテちゃんのデッキから素早くカードが引き抜かれる。前に見たカードは3種類もあるから傾向はわかるんだけど……。
「私は4コストで《
「じゃ~こっちのターンドロ~!」
動いてこない、そしてエナジーも使い切ってるからこのターンは安全に攻撃が出来るはず。
私のデッキには春陽のように一ターンで大ダメージを与える手段はない。部長のように強力な制圧シルエットを早期に召喚できることもない。冬雪のように……いやアレはマネしようにも無理だから忘れよう。
だから、私らしくいこう。
「私は5コストで《ミグラトリー・ダンデライオン》を召喚~そして効果発動~デッキから《ミグラトリー・ダンデライオン》1体をコストを支払わずに召喚するよ~そのまま召喚時効果発動は連鎖できるから省略して最初に召喚したのも含めて計3体のダンデライオンが場に出るよ~」
ダンデライオンは展開力はあるけど打点は1だしパワーも100しかない、普段は壁に使うのが精々だけどこのシチュエーションなら心強い。
「バトル~にいくよ~ダンデライオン3体でカルテちゃんに攻撃~」
「全部ライフで受けるわ」
「レッドサルモンは攻撃せずにターンエンドだよ~」
綺麗な黄色のタンポポが色を失うように急激に綿毛になりカルテちゃんにまとわりついてライフを削る。これであの子の残りライフは7、前回の春陽はライフを3以下にしていたから負けたんだからそこに注意すれば大丈夫なはず。
「なら私のターンドロー、5コストで《冥界へと至る道》を発動して相手シルエット全体のパワーをマイナス800するわ。パワーが0になったシルエットは破壊され、破壊されたシルエット一体につき私はカードをドローできる。よって4枚ドロー」
「っ!レッドサルモンは破壊時効果で……「できないわ」え?」
カルテちゃんの言っている意味が分からないかったが、プレイマットに置かれたレッドサルモンは手札に戻らず3体のダンデライオン同様墓地へと置かれる。
「どうして~……」
「夏雲」
凛としたよく通る声が私の鼓膜を震わせる。聞き間違えるはずのない春陽の声だ。私への応援かと思ったが続く言葉でそうでないと思い知らされる。
「パワーが0になったことによる破壊はルールによる間接的な破壊処理、レッドサルモンはあくまで相手による直接的な破壊にしか反応しないよ」
「そうなんだ~」
春陽のアドバイスを急いで脳みそに叩き込む。好きな人が私のためを思っての言葉というのはどんなことだって糧にしたい。
「これで私はターンエンドよ」
あー強いなー私もカルテちゃんも手札から使用したカードは互いに2枚、なのに私の手札は4枚であっちの手札は12枚も……いや多すぎるー。
だけど気持ちで負けたら勝てる勝負にも勝てないのだ。負けそうなら猶更だ。
******
「紙山部員、試合中での助言はあまり褒められたものではないな」
「いいじゃないですか、これは
「……そういえばレッドサルモンにはマイナス破壊を使ったことがなかったな。自分の場合ノブナガを早期着地させれば巻き添えでレッドサルモンが破壊されるから気にしてこなかったのもあるが」
四季神部長から夏雲へのフォローが入るが夏雲を甘やかさないで欲しい。カードの処理自体はプレイマットが勝手にやってくれるから一応知らなくても問題ないが、知っていればデッキ改造の際にそれをケアできるギミックが組み込めるかもしれない。知は力なり。
「話は変わるが紙山部員、こんなオカルトを聞いたことはないか?」
「いきなりなんですかオカルトって……」
「マキアの引きの強さは想いの強さで決まり、その強さが強いものほど狙ってカードをドローできるというものだ」
「……は?」
ほんとにオカルト話してきたぞこの人……いや思いあたる節があるから頭ごなしに否定できないけど。
「聞け紙山部員、自分たちは上森部員と秋雨さんを知っているだろ」
「四季神部長の出したい根拠はわかりますし、小学生時代からの付き合いなので納得せざるを得ない部分はありますけど……でもそれはおかしいじゃないですか。デッキシャッフルはプレイマットが自動で行うんですよ」
仮に自分の理想の順番に山札を並べ替えてプレイマットに置いても完全にランダムになった状態にデッキはシャッフルされる。プレイヤーはその認識だからこそイカサマなんて無粋なものを考慮せずに健全にマキアができるのだ。
「紙山部員の言うとおりだがマキアエナジーが関与すると考えてみてほしい。この世界の住人が出すマキアエナジーは指紋のように人によって微妙に異なり同じ質のものはないと言われてる。だからこそコンビという関係性も生まれるわけだが……ならマキアエナジーによって起動するプレイマットにも個々人の癖が出ると思わないか?」
「……なんかそう言われるとそんな気もしてきました」
「だが実証する証拠はない。だからオカルトだ、忘れてくれ」
じゃあなんだったんだこの時間……いやそうであったら面白いとは思うけど。だってどんなロマンコンボだろうと現実的に実行できるのだ。欲しいか欲しくないかと聞かれれば欲しい能力ではある。
「一応聞きますけど、それを話した理由はあるんですよね」
四季神部長は唐突に変なことをしたり言ったりする変人ではあるが本人の中では脈絡があるのだ。だから理由を聞けば教えてくれるが一々質問しないといけないのがややめんどくさい。
「ヴェッター一年ことだ、彼女のマキアにはムラがあるんだ」
「ムラ……」
「やる気がある時の彼女は圧倒的な実力を誇るが平常時のマキアはそれほど強くなく、負けることの方が多いぐらいらしい。だからこそ常に気持ち悪い勝負運を持ってる上森部員を訪ねてきたわけなんだが……」
私の親友の引きを気持ち悪いと言わないでほしいが、冬雪は前世の色んなカードゲームをツギハギした私なりのデッキ構築論を完全に無視したデッキでありながらなぜか勝率が高い。それを気持ち悪いと言ってしまえば頷かざるをえない。
「それで今はどっちなんです?」
「おそらくだが、やる気はそこそこといったところだろう」
「そこそこで!?夏雲をあしらってるように見えますけど……」
夏雲だって別に弱くはない。去年のオリンピアでも県大会二回戦までは勝てる実力はある。それは彼女を育てた私だからこそ彼女の実力はしっかり把握しているつもりではあるのだ。
「ヴェッター一年だって負けようとしてマキアをしてるわけではないはずだ。だがあれがいつまで持つか……一応ドローはしてるが有効札は何枚引けてることかわからん」
「……そういえばさっきのオカルトって誰にでも当てはまるものですよね?」
「ああ、そうだな。鹿渡部員にも当てはまる」
想いの強さなら夏雲も負けてないはずだ。なら彼女なら、彼女のデッキならきっとこの勝負勝てる。私はそう信じて祈ることにした。