ライフ減少がリアルダメージになる世界で自傷デッキを拾ってしまった 作:七夕茸
「ルールは簡単ですわ!決着がついた時の残りライフがそのままポイントになりますわ!そして時間までポイントを稼ぎ合いよりポイントを集めた方が今回の勝利校ということですわ!終了時刻は午後6時!集合場所はゴールと書いてあるところですわ!」
ルールを聞いて私たち二年生以降のマキア部員は疑問符を浮かべる。去年のオリンピアの地区予選ではチーム全体で持ち点があり、それを他校の人間と賭けあって規定の点数に到達したところから予選通過するといった感じの形式であった。今回のように最大ポイントが不明な微妙に異なる。
それとこのルールは今の説明だと若干抜けているところがある。そう思っていると、四季神部長が挙手して質問してくれた。
「
そう、マキアというカードゲームにライフ上限はない。初期ライフが10なだけでそこから20にも30にも増やす事はできる。といってもそこまでライフを増やすカードはコストも相応に重いので滅多にないのだが……。
その質問に対し京さんは待っていましたと言わんばかりに甲高い声で部長に対して返答する。
「いいえ!その場合でも10ポイントですわ!確かにわたくしの部員からそういった提案もなされましたが、ルールを把握した我々だけが専用のデッキを組むのはフェアではありませんもの!」
「……私たちにも事前にルールを説明してればフェアになったんじゃないかしら?」
カルテさんの口からボソっと飛び出た言葉に私も納得するしかなかった。だが、京さんは顔を真っ赤にして全力で否定してきた。
「いいえ!いいえ、いいえ、いいえ!そんなじゃ健全な勝負とは言えませんわ!カルテさん!マキアとは健全な精神を育むものです!策を張り巡らせるのも勝負の内ですがそれはあくまでマキアの対戦中にするものであって番外戦術なんてもっての外ですわ!」
ぜぇぜぇという音がマイクに乗って聞こえてくる。彼女の言葉にはもっともだった。カードゲームは正面から自分の戦術をぶつけ合うのが楽しいものだ。ルール限定戦も楽しくはあるけど一番はデフォルトのルールだ。
「では!これから5分後から計測開始しますわ!是非とも楽しいマキアを!」
そういってモニターにデジタルタイマーが表示される。地味にありがたい。
「残りライフがそのままポイントですか……これ、うちが大分不利じゃないですか?」
「紙山部員の言う通りだな。紙山部員とヴェッター部員がライフを減らしてアドバンテージを取るデッキだから勝利時のポイントが少なくなりやすい」
厳密には私は効果を使う過程でやむなく失ってるだけで、カルテさんのようにライフが規定数値以下になった時効果を発揮するのは若干違う。一々訂正する必要もないので黙っておこう。
そういえば、マキアをするのにプレイマットが必要だけどどうすればいいんだろう?扉から見える景色は森だ。オリンピアでは一応マットを敷くようの机がそこかしこにあって、そこでマキアをしていたんだけど果たして机があるのだろうか?ないとしたらまさか地面に直に?
そう考えているとモニターに森の中を背景にした京さんの顔が映し出された……なんていうかとても気まずそうな表情をしていた。
「申し訳ございません!説明が不足していましたわ!今回特殊ルールが存在しますの!その名も『乱入制』!マキアは本来1対1ですがそこに乱入宣言をすることで2対1にすることが出来るんですの!」
「……ルールを追加するなら事前説明欲しかったんですけど」
「ここに関しては本ッ当に!申し訳ないですわっ!!!詳しく説明しますが、乱入者はライフ3で参加しますわ!そしてそのまま勝った場合は元々参加していたメンバーの残りライフ分だけがポイントになりますの!」
つまり味方を助ける乱入者は味方がやられた時点でそのマキアの意味がなくなるということか。
「それと乱入された側……つまり1人側のプレイヤーですがそちらには乱入された時点でライフは5回復して、手札とエナジーは2つ増えますわ!」
なんか悪用されそうなルールだなとは思うけど、特殊ルールは多少の穴があった方が都合はいいか。そっちの方が楽しそうだし。
「それで、京さん……」
「あら、春陽さんなんでしょうか!わたくしたちの仲なんですから何でも聞いてくださいまし!」
圧が!画面越しなのに圧がすごい!だから苦手なんだこの人!というか私が会ったの去年の交流戦の時一回きりなのに何でこんなに距離感近いの!
「机とかどこにあるのか教えてくれません?まさか森の中で地べたにプレイマットを置いてマキアをするわけじゃないですよね?」
「机……それも忘れてましたわ!サモン《デスク》!」
マキアをする際にダイスやコインを呼び出すように京さんが机を虚空から呼び出す。
「このように森全体がフィールドで覆われてるため、机も召喚できますの!最新技術らしいですわ!」
「あれ?カミヤマーフィールドの中にフィールドって出せるもんなの?」
「出せますけど……すごいですねこれ」
サモンで呼び出せるものなんてせいぜいが手のひらサイズのものだろうと思っていたのに、そこそこ大きなものも出せるようになるとは……物理学さんが息してない。
「では説明に時間いただいてしまったことですし、さらに5分間時間を用意しますわ!」
京さんの宣言とともに再度デジタルタイマーが表示され5分から数字が減っていく。まず始めに口を開いたのはカルテさんからだった。
「
「確かに、ヴェッター部員のデッキはライフ3以下からが本領を発揮するから理には適っているが……誰のマキアに乱入するつもりだ?」
「夏雲先輩一択」
「私もカルテさんの意見に賛成です。四季神部長のノブナガだと味方の動きも阻害して集団戦に向いてませんし、
「なるほど~つまり、私とカルテちゃんで無双してこいってことだね~!」
「よし、それで行こう。私、上森部員、紙山部員の3名は各個撃破ということでバラバラに動くことにするか」
そうして全体の動き方の方針を決めたところでモニターの数字が0を示した。
「では、まず私たちから行ってきますね。秋、操縦よろしく」
「ん、顧問からの指令。全員無事にゴールに着くこと」
冬雪と秋雨ちゃんが二人で扉の向こうに進んでいく。いつの間にか冬雪の乗る車椅子のタイヤが悪路走行用に変形していた。
「じゃあ次は私たちが、夏雲先輩行こ」
「はいは~い。と言ってもこの山の中から歩きで相手探すの大変そうだね~」
「その辺りにはちょっと考えがある」
カルテさんがデッキからカードを1枚取り出して「召喚」と口にする。するとカードが光だし、この前夏雲と戦った時にフィニッシャーとなった青い龍の女の子が現れた。そしてそのまま夏雲とカルテさんを脇に抱えてあっという間に森の奥に消えてしまった。
「なにあれ……」
「紙山部員は見たことがないのか?」
「初見に決まってますけど!?」
つい普段出ない大声が出てしまった。いや、マキア中でもないのにカードからカードからシルエットを召喚ってあり得ない!
「理屈では簡単なんだが……さっき
「だからシルエットが召喚されると?納得できないです。というかそれなら何で一般に普及してないんですか?」
「受け入れてくれとしか言えん……召喚」
四季神部長も当たり前のようにバイクに乗った落ち武者を出して見せた。そしてそのまま背中にしがみついて森の中行ってしまった。
「いや、いやいやいや!受け入れられないですよ!?」
「カミヤマーボクたちもあれやろー!」
「無理ですけど!?」
クレアが興奮した様子を見せるが、あんなもの出来てたまるか。私は普通の人間だ。だがクレアがなんかすごい悲しそうに見つめてくれるので私はダメもとでやってみることにした。
「一応、やるだけやってみますけど……何呼びます?」
「足が速いやつがいいよねーアサドとか?」
「ライオン呼んだら私たち食べられますよ!?無難にブッロとかにします」
ブッロはロバのシルエットだ。
「召喚!」
とりあえず気合を込めて叫んでみる。ピカっと光ったかと思うと目の前に一頭のロバが現れた。
「おー!!!カミヤマ、できたね!」
「え、えぇ……」
なんでできるの?
「カミヤマ乗ろ乗ろー!」
「そういえばブッロって鞍とか鐙もないですけど、これ2人乗れますかね?」
「なんでもトライだよ!」
結果から言うと乗れなかった。ブッロは大人しく待ってくれていたのだが私とクレアがよじ登ることができなかった。肩より上くらいの位置にある背中に足をかけることすらできなかった。
そうして数分悪戦苦闘しているとブッロが消滅してしまった。
「カミヤマーもっかい!もう一回!」
「歩いて行きますよ、流石にもう時間潰せないので」
よく考えたら森の中をロバにのって移動したら絶対枝とか邪魔になるな。うん、私たちは乗れなかったんじゃない、乗らなかったのだ。
戦術的に、合理的にそんなところだ。というか数分で消えたし?実用的な移動手段出なかった気もするし?うん、私たちは正しい判断をした。
別に悔しくはないが、馬の乗り方とか鞍の値段とかちょっと調べてみようとは思った。