ライフ減少がリアルダメージになる世界で自傷デッキを拾ってしまった 作:七夕茸
紙山ちゃんのライフを0にして私の勝利が決まった。訓練用プレイマットのフィールドが解除される間もなく私は、一目散に紙山ちゃんに駆け寄った。
訓練用プレイマットを始めて使う人間はライフが0になるまで削られるとたいてい痛みで気絶する。最近の紙山ちゃんは自傷デッキを使っていたからあの痛みに耐えれてたらしいけど一斉攻撃でライフが一気に5も削られればどうなるか分からない。
「紙山ちゃん……!」
「……すぅ」
「寝てる?いや気絶しているのかな」
「っすね」
一歩遅れてこのマキアが始まった原因である
「私が紙山ちゃん運ぶから水和ちゃんは社務所に布団敷いといて」
「了解っす」
「はぁ……今日はデートだったのになんでこんなことに……」
「
「ここ選んだの一般人の紙山ちゃんだよ。私は関係ない」
「そっすか。それにしても
水和ちゃんの爆弾発言にお姫様抱っこした紙山ちゃんをうっかり落としそうになる。それを紙山ちゃんの落下より早く膝を曲げてなんとかキャッチできた。
「紙山ちゃんは高校二年生だからね!?水和ちゃんより年上だよ!?」
「え、マジっすか。でも
「私はロリコンじゃないからね!?」
流石にロリコン呼ばわりされるのは心外だ。紙山ちゃんは今年17歳、私は今年24だから7歳差だし、ギリまだ普通の年の差のはずだ。それに秋雨さんと冬雪ちゃんのところよりはマシな年齢差だということも考慮して欲しい。あっちは一体何歳差やら。
雑談をしながら水和ちゃんの敷いた布団に紙山ちゃんを寝かせる。安静にしていれば数時間で目が覚めるはずだ。
「最近会ってなかったので聞きたいんっすけど最近そっちの管轄ははどうなんっすか?」
「ぼちぼちかなぁ……密航者のマキアスを摘発したり、新たに迷い込んだマキアスを元の世界に送り返したり、犯罪者を逮捕したり、いつも通りのことをいつも通りにやってるだけだよ」
「そっちもそんな感じなんっすねー」
そう言いながら水和ちゃんはちゃぶ台の上にあったおせんべいを口に咥えながらお茶の準備をしていた。そっちが聞いてきたのに流し聞き……。
「あ、じゃあ次の質問いいっすか?この子と
「……そういえばどっちからも告白してないね」
「あの、本当に今日はデートなんすか?」
え、もしかして違うの?確かに誘われたのはデートではなく遊びに行こうと誘われただけで、私たちは恋人じゃないし……あれ?
「……
「哀れみの目で私を見ないでくれるかなぁ!?」
紙山ちゃんもそうだけど最近の女子高校生の防犯意識が高すぎる。いや、いいことではあるけどなんでもかんでも警察を呼べばいいというのは違う気もするよ。
「それにほら、紙山ちゃんの恰好を見て!普段の紙山ちゃんじゃ滅多にしない恰好なんだからね!ここまでおめかししてるんだから私のためを想ってのはずだよ!」
「いや、自分はその人と初対面なので普段の恰好知らないっす。すいませんちょっと電話機取ってきていいっすか?」
「警察は呼ばないで!ちょっと待ってね、普段の紙山ちゃんの私服の写真あるから見ればわかってくれるはず!」
「いや、何で持ってるんっすか。ドン引きものっすよ」
「うちの店のバイトだからだけど?」
「ふつーに理由にならないっすね」
え?世の店長はスタッフの私服写真の1枚も持ってるよね?紙山ちゃんが撮らせてくれるっていうなら撮るよね?
水和ちゃんは湯飲みをコトンと置いてこちらの顔を真剣に見てきた。
「自分含めて
「そうだね」
懐かしいな、冬雪ちゃんがまだ小学5年、6年の時に色々あったっけ。そんな彼女がもう高校二年生なんだから時間の流れは早いものだと思ってしまう。そういえば紙山ちゃんのことはそのころから一方的に知っていたけど身長がそこまで変わってないような……。
「だから、その尊敬していた相手がここまでその犯罪者というかなんというか悪い意味でヤバい人なのはあまり知りたくなかったっす」
「うっ……」
流石に犯罪者扱いは結構心にくる。以前は目をキラキラさせながら私の後を付いて回るワンコ系女子だったのに、今私のことを見る彼女の目は汚物を見るそれだ。
話題、話題を変えなければ……!
「あ、そうだ。
「露骨に話題そらしにきたっすね……まあ自分としても話題は変えたいのでその話にのるっす」
年下に気を使われてしまったけれど気にしない。今は彼女の中の私の評価を改める方が最優先だ。ここでかっこいいところを見せなければ。
「それで何が聞きたいこととかあるかな?」
「うーん……そういわれても困るっすね、なら基礎の底上げに付き合ってもらっていいっすか?」
「了解、じゃあ神社の裏手に行こっか」
一応紙山ちゃんが起きたことにすぐ気づけるようにシルエットを召喚して頼んでおく。
「さらっと召喚するっすね……」
「さらっとできる方が色々便利だからね」
紙山ちゃんがバイトに入る前の期間は裏方の仕事を手伝ってもらっていた。今は一般人の紙山ちゃんがいる手前できないからお店の運営も若干負担になっているけど、他のバイト増やして紙山ちゃんと二人きりの空間が無くなるよりは自分の仕事が多少増える方がマシだ。
「せっかくだし今回は召喚について色々おさらいしてみようか」
「はいっす」
「じゃあ早速だけど召喚ってどんなものか説明できるかな?」
「マキアのカードからシルエットをフィールドを介さずに顕現させることっす」
「そうだね」
説明のために私は人型のシルエットを召喚する。
「召喚したシルエットは一度の召喚につき一つしか命令できないよ。あと元が人間種族とか知性があるタイプのマキアスの方がこちらの指示の意図を理解しやすいから、できれば召喚するときはそっちの方がいいかもね」
「なるほどっす」
「あとマキアエナジーもそこそこ使うから連続して召喚するのは気を付けてね」
「それは重々承知してるっす。うちの妹がそれやらかして丸一日寝込んだっすから」
たしか
「基礎的なことは確認できたし早速やってみようか」
「はいっす!召喚!」
水和ちゃんがカードを前に出して召喚と高らかに宣言するが何も召喚されない。十分量のマキアエナジーが込められている感じはするので彼女自身に問題はないように見える。
「やっぱりダメだったっす……」
「原因はカードとの向き合い方かな?どんなシルエットを召喚しようとしているか見せてもらっても?」
「このシルエットっす」
水和ちゃんがなんのシルエットを召喚しようとしたのか確認する。動物系のシルエットは難しいからできれば人型の方が簡単なはずだと思うんだけど……。
彼女が召喚しようとしたのは《青の魔術師・ヴァッサー》という女性型のシルエットだった。
「喧嘩でもしたのかい?」
「いや、単純にまだ認めてもらってない感じっす」
「なるほど、召喚はシルエットの元となったマキアスにしっかりと認めてもらわないといけないからねぇ……」
マキア以外でシルエットを召喚するには、カードに書かれたシルエットの元となったマキアスにしっかり認められないとできない。顔と名前そしてその力を借りるのだ、当たり前だが誰でもできるわけではない。
召喚されたシルエットが犯罪を起こされたらマキアス本人にも迷惑がかかるからだ。だから悪用されないために世間の人には召喚できるという事実自体を秘匿しなければならない。
もちろん私たちが扱う業務にもそうしたトラブルに巻き込まれたマキアスを助ける業務もある。
「ちなみに
「私の場合はシンプルにねじ伏せた感じかなぁ」
「……パワープレイっすね」
古い言葉を使うなら調伏だ。かつては式神と呼ばれたシルエットたちにもそうしていたらしい。お前たちの力を借りなくても大抵のことはできるということを示すための行為で、ある意味で最も簡単に信用を得る方法だ。
「今どきのやり方ならうちの
「今どきのやり方ってちゃんと交渉して互いに妥協点を見つけてやるやり方っすよね?自分は実力がないのでそっちしかできる気しないっす……」
「そっか、じゃあ今から呼び出してみるから交渉してみて」
「どういうことっす?」
ここなら立地条件は十分だ。私は自身のマキアエナジー元手にカードを媒介にしてマキアス本人を無理やり呼び寄せる。どうせこの手のマキアスはこっちのことを見ているからその縁も使おう。
目に痛いくらいの光とともにカードに書かれた少女が私たちの前に現れた。
「な、なによこれ!?」
「マジっすか……」
「よし、成功。あとは結界はっておくから二人でじっくり話し合ってみて、30分くらいでそこのマキアスさんの強制顕現と結界どっちも解除されるはずだからね。じゃあ私は紙山ちゃんの様子見てくるから」
最後は投げやりになってしまったがこれで問題ないはずだ。カードのイラスト的にも気難しそうには見えなかったし多分互いの理解が足りてないだけな気がする。
理解か……私と紙山ちゃんははたして理解し合えてるだろうか?これであっちは私のことをただのバイト先の店長、冬雪ちゃんの親戚という認識でしかないのだとしたらちょっと怖い。
知りたくないと思ってしまうけど知らなければ私たちの関係性はいつか終わる。だって今の私たちは店長とそのバイトでしかない。紙山ちゃんの今後も知らないしいつかは離れてしまうのは決定的に明らかだ。
「紙山ちゃんが目を覚ましたらその辺りちゃんと話し合おう」