ライフ減少がリアルダメージになる世界で自傷デッキを拾ってしまった 作:七夕茸
「どこここ……」
寝すぎて痛む頭で周囲を確認しようとするが身動きが取れない。何かに縛られているようでどうにか首を動かして周囲を確認するとホテルの一室のような柄物の壁紙が目に入った。あと寝かされているのはベッドらしい、意識が途切れる前までは綿のほとんどない布団だったため寝心地が段違いだ。
一瞬
なんというか座敷童みたいな少女だった。もしくは因習村で手毬で遊んでそうな女の子だ。わらべ歌を歌ってる系の……いやどっちもジャンルは和風ホラーだからあんまり大きな違いはないな。にしては誘拐方法がジャンル違いな気もするけど。
トイレはまだ大丈夫だけど、気にしないようにはしたいのでできればさっさと解放してほしい。そんなことを考えているとドアノブが回る音がした。
「起きたでごぜーますか?」
「まあ、はい」
「ちゃんと一人で起きれて悪い子、悪い子」
私をさらった幼女が笑顔で頭を撫でてくる。……この子が私をどうしたいのかわからないな。でもかわいいし、私より身長ちっちゃいし、敵意みたいなものも感じないし、別に警戒なんてしなくてもいいのでは?
「あのね、私を誘拐した理由とか聞いてもいいかな?」
なるべく怖がらせないように目線を合わせて声色も気持ち高めにして尋ねてみる。うちの店にくる小学校低学年の子ども相手に磨かれたスキルだが、いつ何の役に立つかわからないものだ。
「
なんて?
えっと……おんまえ?手前って複数で使う言葉だっけ?そんでやっぱりごぜーますって何?
一語一語は少しずつ意味が分かるだけに、なんというかネイティブ英語を何の準備もせずに聞いたみたいな感覚があって脳に若干のラグが生じる。
「聞いてやがるでごぜーますか?」
「あ、うん。ちゃんと聞いてるからね。それで仲間って?」
「口調が舐めてるようにしか聞こえねーですが、まあそれも悪ということでよしとするでごぜーます……いや悪しでごぜーます」
さっきから思うのだが彼女はなぜ『良し』という言葉を避けているんだ。良の反対は悪だと思っているのだろうか?それはちょっとかわいいな。
「それで仲間とは手前らの組織【
威風堂々……大げさな名前だがとりあえずアレだ。ドヤ顔幼女かわいい。
「それでその組織は何をするのかな?」
「手前たちの組織の目的はこの世界、つまり【イノセントワールド】の支配でごぜーます」
「……イノセントワールド?」
「不勉強なやつでごぜーますね……まあそれでこそ手前たちの組織の素養があるということでごぜーますが。イノセントワールドとは……」
「はい、そこまで」
座敷童みたいな幼女の口を誰かが背後から両手塞いだ。見上げると20代くらいに見える女性のマキアスがいた。一瞬親子かな?とも思ったが顔立ちはあまり似ていない。
「トオノちゃんサービスしすぎよ。先の話を聞きたいなら仲間になるか協力者になるって意思表明してもらわないとね」
「それもそうでごぜーますね。さ、選ぶでごぜーます」
断ったら?とは質問できない雰囲気だ。座敷童みたいな方のマキアスだけなら割とふざけても許されそうな感じはあったが後から来た方はダメな気がする。そして仲間と協力者……ほとんど同じ意味に聞こえる言葉だが使い分けてる以上何かあるのだろう。
どっちがマシか……なら前者かな?
「……仲間になります」
「そう、よかったわ。自分の意思の方がきっといい関係に慣れると思うの」
よかった。そう口にしているはずなのに安堵の表情を見せないどころか口元が機械的にしか動いていない。無機質で一体何を考えているか分からない。
「仲間ならその拘束もいらないでごぜーますね。『解』」
座敷童みたいな方のマキアスが何かしらの呪文を唱えると私を縛っていた何かが解かれるのを感じ、起き上がることができた。
「さて、話を戻すでごぜーますが……」
「えっと……それも気になりますけど、まず自己紹介しませんか?」
誘拐犯のマキアス二人組、若干気になる話題も出たけど世界征服とか現実的ではないことを言っているため逃げ出したい。
しかし仲間になると言ってしまった以上あちらもそうやすやすと逃げ出させてはくれないはずだ。ならいっそ単独行動を許されるくらい仲が良くなるのが一番安全なはず。
「私は春陽です」
「話を遮るのはよくないことでごぜーますが……つまりそれもまた悪。ならば悪し、確かに自己紹介は大事なことでごぜーますね。手前はトオノ、後ろのがヤトリでごぜーます」
「よろしくね。春陽ちゃん」
「これでお互いのことを知れたしさっきの話に戻るでごぜーますよ。それでイノセントワールドについて……非常に不服なことでごぜーますが、手前たちの世界も含めてこのイノセントワールド以外の世界は全てここの派生、枝分かれしたものにしか過ぎないでごぜーます」
トオノちゃんが淡々と述べる事実は驚きを隠せない。しかし全ての世界の元となったのがこの世界だとするとマキアエナジーがなぜマキアスにとって生命維持装置代わりになるのもなんとなく腑に落ちる。それでも納得はできないけど。
「そして手前たち
「なるほど……だとすると人間の私はあなた達の仲間に相応しいんですか?」
「自分を卑下しなくて大丈夫でごぜーますよ、手前の世界では人間も普通に暮らしているでごぜーます。手前たちは統治をしたいだけでごぜーますから」
「じゃあ用済みになったら殺されるとかは……」
「それは悪であっても義がないことでごぜーます」
少し頬を膨らませれて不服そうな顔をするとほっこりしてしまうが相手が誘拐犯で世界征服を目指している人外のマキアスというのを忘れてはならない。
人同士でさえ世界が違えば価値観は大きく異なるのだ。半ば人に近い性質を持った相手なら私たちとまったく違う価値観を持っていても不思議ではない。
「でもお腹が空いたら食べちゃうこともあるかもしれないわね……」
「ヤトリ……流石に仲間になってくれた貴重な人間を食べてはダメでごぜーます」
「利き手じゃない方くらいなら……」
「ヤトリ、何度も言わせるな」
トオノちゃんの語気が強くなって変な語尾が無くなった。ただそれだけだ、そして私に向けられたものでない。なんなら私を守ってくれるために動いてくれている、なのに震えが止まらない。
「……残念」
「悪でも通すべき筋と義理はあるでごぜーます。おっと、春陽は……大丈夫じゃなさそうでごぜーますね。大丈夫でごぜーますよ、今のは春陽に向けたものではないでごぜーますからね」
トオノさんが私の頭を撫でてくれる。先ほどもしてくれた行為、手は小さく幼さすら感じてしまうほどの小さな手。なのにとても暖かい血が通っているのは人間もそれ以外でも変わらないということだろう。
そして彼女に撫でられているだけで生きていいのだという肯定感すら沸いてくる。
「あれま、泣き出してしまったでごぜーますね……今日は布団でゆっくりするでごぜーますよ。美味しいご飯も用意してあげるでごぜーます」
「ありがとう、ママ……あ」
つい気が緩んでしまいトオノさんに失礼な言葉を使ってしまった。すぐに訂正しないと、彼女に見捨てられたくない。
「ママ?ああ、ご母堂のことでごぜーますね。手前は子どもと一緒に過ごす時期が多かったから扱いに長けているだけでごぜーます」
「ありがとうございます……」
どうやらトオノさんは寛大な心で私を許してくれるらしい。
今この部屋には私と、私を食べるなどの宣うヤトリという女性と私のことを守っていただけるトオノさん私の身の安全を守るためにはトオノさんに守っていただかないとダメだ。
「……一人にして色々考えた方がよさそうでごぜーますね。ヤトリ、部屋を出るでごぜーますよ」
「ここに残っちゃダメなの?」
「御前のせいで春陽はこうなってるでごぜーますよ。仲良くなりたいなら美味しい食事の一つや二つ用意したらどうなんでごぜーます?」
トオノさんがヤトリさんを連れてどこかへ行ってしまった……守ってくれる存在がいなくなってしまったことを恐れるべきなのか、捕食者がいなくなったことに安堵すべきなのかわからない。
とりあえず、トオノさんが帰ってくるまで大人しくしておこう。
バトスピスタンダードの詩姫は青で組みました