ライフ減少がリアルダメージになる世界で自傷デッキを拾ってしまった 作:七夕茸
「ご飯ができたでごぜーますよ」
部屋で一人待っているとトオノさんがお盆に美味しそうな食事を持ってやってきてくれた。なんで私が誘拐されたか分からないが今ここで頼れるのは彼女だけだ。
「和食は好きでごぜーますか?まあ手前たちはそれしか作れないので苦手でも我慢してもらうしかないでごぜーますが……」
「トオノさんが持ってきてくれるものなら大好物です」
「そうでごぜーますか?ならいいのでごぜーますが……言いたいことがあるのならちゃんと言ってほしいでごぜーます」
「ないです!大丈夫です!」
心からの本心を元気を込めて宣言する。ちょっと勢いがありすぎて若干声が空回りしてしまった気がするが気のせいだろう。そしてなぜかトオノさんが私の額に手を当ててくる。その行為の理由がわからないけどトオノさんに撫でられるのはとても安心する。
「大丈夫そうでごぜーますね……そうだ、マキアは好きでごぜーますか?」
「はい、大好きです!」
「ならこれを食べたら親睦会がてらマキアをするでごぜーますよ」
「わかりました!」
トオノさんと一緒に遊べる!嬉しい!早速ご飯を食べないと!モグモグモグモグ!
あ、この鮭とても美味しい。皮がとてもパリっとしていて身の方も生焼けでもなければ焦げているわけでもないちょうどいい塩梅だ。
「食器は手前が片づけておくでごぜーますから、デッキの準備をしとくでごぜーます」
「……デッキ?今持ってないです。ごめんなさい……」
「謝らなくていいでごぜーます、取り上げられてるのでごぜーますね。じゃあ後で口寄せするので手伝ってほしいでごぜーます」
「わかりました!」
食事を片付けた後、トオノさんが小さな針を持ってやってきた。口寄せって言ってたけどアレで何か術を使うのだろうか?
そんなことを考えているとトオノさんの顔が私と0距離になるまで近づく。
「ちょっとチクってするでごぜーますよ」
「へ?」
針が私の下唇にプスっと針が刺される。
痛い
どうしてこんなことをするんだろう?私を守ってくれるんじゃないの?
私の困惑をよそに唇から垂れる血をトオノさんは大事そうに人差し指ですくい上げる。
「春陽、
「えっと……春に太陽の陽です」
トオノさんは備え付けの机の上に私の血でなんらかの図形を描き呪文を唱える。するとその図形が光り私のデッキケースとプレイマットが現れた。
「これでマキアができるでごぜーますね」
「あ、ありがとうございます……えっとトオノさんはマキアスなんだからプレイマットは使いませんよね?」
「仲間同士意味もなく傷つけあうのも手前の本意じゃないでごぜーます。当然デッキのみを用いた勝負といくでごぜーます」
「そろそろ準備はできたかしら?」
ヤトリさんがドアの間から覗き込んでくる。遠くから見ると美人のお姉さん系マキアスといったところだが私に対しての視線が人を見るものではないからとても怖い。
しかしここにはトオノさんがいるから安心だ。私は彼女の背中に隠れてヤトリさんの視線から逃げる。
「できてるでごぜーますよ。春陽、手前とヤトリどっちとやりたいでごぜーますか?」
「えっと、じゃあヤトリさんと……」
「ほう?理由を聞いてもいいでごぜーますか?」
「ヤトリさんを怖がってばかりだと失礼にあたるので、ここで勝てれば多少は緩和されるかなって……」
「私に勝てるつもりでいるのね?」
ヤトリさんの雰囲気が明らかに怒りを帯びたものに変じる。怖いが、今の私にはトオノさんという守りがいるからしっかりと目を合わせて話すことができる。
「はい。負けていいと思ってマキアをやらないので」
「素晴らしい啖呵でごぜーますね。ヤトリ、デッキは本気でいくでごぜーます」
「トオノちゃんに言われなくてもそのつもりだったわ」
私は一日ぶりに《
「審判は手前が務めさせてもらうが故、
「先攻は私がいただくわ。3コストで《
召喚されたのは真っ白な草鞋に手足がくっついたようなコミカルな見た目のシルエット。
一枚引いて何もしなかったということは速攻ではないのか?
「ドロー……私は2コストで《
「どっちもライフで受けるわ」
「ターンエンドです」
2体のシルエットがヤトリさんのライフを削ることでお互いにライフは8同士いつも通りの展開が出来ているし、これならきっと勝てるはず。
「私のターンね。5コストで《
横並べしてきたということは貯めて一斉攻撃する感じか?慎重な行動だが私のデッキとの相性は最悪だ。
「私のターンドロー!5コストでサイクルスペル《満ちる鏡面》を発動、バトルに入りチンウーで攻撃!」
「ライフで受けるわ」
「ターンエンドです」
展開力のあるデッキは個々のパワーが低い。だから2コストのチンウーであっても琵琶のパワーを超えられる。これならあといくつかはライフを削りきれるはずだ。
「私のターンね。再び《
手札の質を一気に高めてきた。相手のキルターンは次かその次くらいか?こっちの手札はまだ足りていないから耐えることも視野にいれないと。
「ドロー!6コストで《
「それならライフで受けるわ」
「2ダメージもらいターンエンドです」
これでライフは5対7、盤面の数も質も上回っているから安全なはずなのに生きた心地がしない。何か致命的なミスをした気がしてならない。
「じゃあ一気に行くわよ。3コストで《
一気に小型を展開してきた?だけど使える残りコストは1、ビッグアクションは取れないはずだ。なら次のターンへの布石?だけど直感が違うと告げてきている。
「そして1コストで《
たった1コスト……マキアというカードゲームにおいては最軽量に位置するカードだ。鋭い目つきだけが書かれただけのカードなのに威圧感がある。
「効果を発動するわ。私の場の種類の異なるカード全てをデッキに戻して、戻したシルエットのパワーと打点を集約した数値を《鵺》のパワーと打点にするわ。その後《鵺》のパワー以下のシルエット全てを手札に戻すわ」
「私のシルエットは全部手札に戻ります」
「そして《鵺》で攻撃するわ」
「ライフで受けます」
デッキに戻ったシルエットの打点は合計5、つまり私のライフは一気に2まで落ち込んでしまう。そして盤面も空、たった一枚のカードで劣勢になってしまった。
だけどライフはまだ2もある。相手のシルエットは一体だけだしまだ逆転の目があるはずだ。
ごぜーますが語尾につくせいで文字数かさましになってしまっている……