ライフ減少がリアルダメージになる世界で自傷デッキを拾ってしまった 作:七夕茸
「ここがあの女のハウスね~」
「そうだけど、なんか別の意味含んでない?」
「いや別に~?他意はないよ~」
誤魔化されているような気もするけどわざわざ私に嘘をつく必要もないはずだ……例えば店長の
それ以外だと私には見当がつかないから、私が感じた何かはきっと気のせいなのだろう。
疑問を脳の片隅においやって私は二階の住宅スペースのインターホンを鳴らした。
「
「
「今の時間帯は客の入りが悪いらしくて多少店を閉めても問題ないって」
多分問題ある気がするけどわざわざ時間を作って貰ったのはこっちなのでありがたく有効活用させてもらう。インターホンを鳴らして数秒した後どたどたとした音が聞こえた後ドアが開かれた。
「紙山ちゃーん!会いたかった……えっと、そちらの人は誰?」
「どうも~私は~春陽と一番仲のいい~
「ふーん……紙山ちゃんのコレ?」
何を察したのか間さんは小指を立てる。私はなんとなく意味を知ってるけど何故それを店長が知ってるのか疑問だ。確か結構古い表現で恋人……というか彼女と表現するんだっけ。
夏雲の反応を見てみると疑問符を浮かべているのが表情で分かる。どうやら彼女には伝わってはいないようだ。
「違いますから。というかそれ、多分通じてないですよ」
「でも紙山ちゃんには通じるよね」
「テレビ見るのが好きなので……というかいつまで玄関前にいなきゃならないんですか?」
別に数分も立ち尽くしているわけではないけど座れるなら座りたい。間さんの部屋とか入ったことないから興味もあるし。
「ごめんごめん。ちょっとあの後色々あってね、家を片付ける時間がなくて……そのー掃除するから店の中で待っててくれない?マキアでもしてて」
「来るときに一戦してきたので……スーサイドで」
「……そっか。まあコモンカードとかのストレージ漁ってれば時間は潰れるでしょ?」
「適当すぎやしませんか?だから部屋も汚くなると思うんですけど」
「……普段は誰も呼ばないから多少だらしなくてもいいんだよ。いずれ紙山ちゃんもわかるよ。いずれね」
何やら私をそちら側と決めているようだが、転生前から私は自分の部屋は綺麗にする方の人間だ。間さんで隠しきれていない廊下からでも把握できるくらい物が散乱することはまずない。
「片付け、手伝いますよ。ここも私の就職先みたいなものですし」
「じゃあ~私も~」
「いや、いいって、大丈夫だって」
「お言葉ですけど……廊下にまで物が散乱してる状態からよそ様に見られる部屋になるまで何時間の見積もりなんですか」
「……30分くらい?」
「夏雲はどのくらいかかると思う?」
「多めに見積もって半日かな~」
「ということです」
私と夏雲は間さんの身体を無理やり押し込んで廊下を歩いてすぐのリビングルームらしきところへと入室する。
そこで私たちが目にしたのは素っ裸のまま寝返りを打っている金髪の少女……私と昨日コンビを組んだマキアス、クレアがいた。
「店長さ~ん……まさか恋人と寝すごしたせいで、春陽が家に来るの忘れてた。とか言わないですよね~?」
「いや夏雲、この子店長の恋人じゃなくて私のコンビのマキアス」
とんでもない勘違いをする夏雲に心臓が飛び出そうになるくらい驚くけど、それを表に出したら後で夏雲になんて言われるか分からないので無表情で対応する。
夏雲のようなギャルは怖い。一瞬でもすきを見せたら骨の髄までネタにされてからかわれる。
前世でも今世でもギャルの生態というものは大きく変わらないはずだ。オタクに優しいギャルなんて幻想だ……いやマキアスにはいるかもしれないけど。
「かわいい子だね~春陽がコンビを組んだのは顔で~?」
「失礼なこと言わないで。この子が行き倒れてたから拾っただけ」
「へ~……いやいや~、マキアスは行き倒れないでしょ~」
夏雲の言いたいことはわかる。マキアスがこっちの世界に活動するのに必要なマキアエナジーそれさえあれば一応は飲まず食わずでも問題ないらしい。だからこそマキアスにとってこっちの世界でする食事とは嗜好品の意味合いが強く、数日食事をしなかったからと言って行き倒れたりはしない。
「マキアエナジーが不足してたからね」
「それこそあり得ないでしょ~だってマキアエナジーはマキアするだけで生まれるんだよ~?誰も使ってないカードなんてあるわけな~い」
「じゃあ聞くけど、夏雲はさっき私が使ったデッキ使いたいと思う?」
「それは~……」
「一回や二回なら慈善活動でできると思うけど普段使いはしたくないでしょ?」
夏雲が完全に押し黙る……しかし私の放った言葉は私自身にものどに刺さった小骨のように突き刺さった。
「はいはい、お二人さん。なんでうちの掃除をするって話なのにそこまで深刻そうに話を脱線できるんだい?というかやっぱり紙山ちゃんが話を脱線させる原因だよね」
パンと柏手が打たれて私は意識を現実に浮上させる。声の主はもちろんこの部屋の持ち主の間さんだ。
「ほらクレアちゃんも起きなさい。もう夕方だよ」
「んぇー?明るい……おはよう?」
「夕方ですからこんばんは、ですよ。クレアこんばんは」
「……あーカミヤマ!あれ、もしかしてマキアした?ありがとー!」
私という存在を認知した後、クレアは大型犬のように私に抱き着いてくる。まさか寝起き早々ハグをされるとは思わなかった。というか全裸でハグしないでほしい、制服越しとはいえ色んなところの肌の感触が結構ダイレクトにきてドキドキしてしまう。
「春陽~?」
「クレアちゃん……服着ようね。紙山ちゃんもそんなことで反応しないで」
二人の反応は別々だけど、なぜかとても冷ややかな声で心臓が締め付けられる感じがする。私は空気を換えるために一つせき払いをして今日ここに来た本題を話すことにした。
「それでですけど……クレア、私と正式にコンビを組んでくれませんか?」
「えっとー……コンビって?」
クレアは不思議そうな顔で聞き返してくる。その辺りの知識はカードを通過するときに与えられるって聞くけど違うのだろうか?
私がどう説明しようかと考えていると間さんが代わりに答えてくれた。
「コンビっていうのはスポーツで言うスポンサーと選手の関係かな。スポンサーがマキアスで選手が人間ね。マキアスは自分たちのカードを使ってマキアエナジーを生み出す人間がいるのはありがたいし、人間はその世界から新しいカードが生みだされたときに優先的に入手できてありがたい」
「それでクレアは私とコンビになってくれますか?」
「うん!マキアエナジーをもらえるなら、なるなる!こっちこそよろしくねー!」
「じゃあ紙山ちゃん、プレイマットとクレアちゃんのカードを出して」
「はい」
私はカバンからプレイマットを取り出して机の上に敷く。
そしてその上にクレアのカードである《
「ねーカミヤマーこれってカード何枚置いてもいいの?」
「さあ、どうなんでしょう?コンビ契約を自分でやるのは初めてなので変なことはしない方がいいんじゃ……」
何を考えたのかわからないけど多分変なことはしてほしくない。こういうのはマニュアルに従った方がトラブルにはならないのだ。
しかしクレアは私の考えとは裏腹に私のデッキケースからスーサイドデッキを取り出して《プロフィール》を置いた上に重ねる。私の両手を握る。
「ちょ!?何してるんですか!?」
「えーこっちのほうがマキアエナジーをたくさんもらえないかなーって」
「変わらないと思いますよ?」
「変わるって……多分!」
「……店長?」
「大丈夫だとは思うよ。何か問題があればプレイマットがエラーを出すと思うし」
まあ、私がクレアを拾った時もデッキごと拾ったのだ。なんとなくこっちの方がしっくりくる気がするし。
店長がプレイマットから浮かび上がる文言を読み上げる……いつも思うけどなんか西洋式の結婚式みたいだな。
そんなくだらないことを考えている間に私たちのコンビ契約はなされた。
「これからよろしくね、クレア」