男女平等後進国である我が国がフィンランドに追いつく為の、そんなお話です。
男性の1週間あたりの労働時間は平均42時間に対して女性の平均労働時間は29時間だ。
これは男女平等社会を目指す男達の物語である。
仕事で日本に来ていたとあるフィンランド男性が、職場の女性から
「フィンランドって女性が活躍出来ていい国ですね」
と言うので、
「日本だって簡単に女性が活躍する国に出来ますよ」
と答えた。
普段から日本で働き続ける大変さを周りから聞いていたその女性は、
「日本で!そんなの無理ですよ」
と驚いた。
するとそのフィンランドの男性は答えた。
「男性の労働時間を制限するんですよ」
それを聞いてその女性は、
「男ばかりズルい!」
と怒り出してどこかに行ってしまった。
こんな笑い話がある。
しかし、このフィンランド男性の提案は非常に的を得ている。
フィンランドの1週間あたりの労働時間を男女別に見てみると、
経済開発協力機構(OECD)のデータによると、
男性の平均が37.9時間、
一方、女性の平均は34.5時間。
その差はわずか3.4時間しか無い。
では日本ではどうか見てみると、
はじめに書いた通り、
男性の労働時間の平均は42〜43時間、
女性は28〜30時間とその差はなんと約13時間もあるのだ。
これが総務省の労働力調査による歴然とした事実である。
13時間。
この差の大きさが理解できるだろうか?
日本は基本的に週休2日制の企業が多い。
と言う事は働くのは5日間だ。
13時間差があると言う事は1日あたり2時間半以上も男性は女性より働いていると言う事になる。
それだけの差があるのだから、給料も出世する者も男性が多いのは当たり前。
だから、この時間を減らしてやれば、必然的にその分の仕事は女性がやる事になり、男女の格差は無くなる。
このフィンランドの男性が言う事はまさに正論なのだ。
内閣府、男女共同参画局。
そこが私の勤める場所だ。
以前、親友に先ほどのフィンランド男性の笑い話を聞かされた時、私は正直笑えなかった。
むしろ、
「それが出来りゃ苦労はねぇよ」
と冷ややかに突っぱねただけだった。
よく考えもせずに。
その親友が先日、亡くなった。
過労死だった。
彼は民間企業で働いていたが、数年前に支店のマネジメントを任された。
通常業務に加えて、しかも、昇給昇格も無い名ばかり支店長。
かなりの激務だったという。
親友は愛妻家で子煩悩だった。
激務に関わらず、家庭を疎かにするような奴じゃ無かった。
妻より早く起きて家族の朝食や着る物を準備し、妻と子供達を起こしてから職場に行き、夜は5時までビッチリ働き、一時帰宅、洗濯物の取り込みと夕飯の支度をし、家族と食事をしてから、職場に戻り深夜まで働く。
平日も週末も、盆も正月も、同様に働いた。
その結果、彼は故人となった。
彼の葬式で私は親友が語った笑い話にあった
「労働時間を制限」
という言葉を思い出した。
私は、それができ得る立場にいたはずなのに何もしなかった。
その結果がこれだ。
私は悔しさに拳を握り締める。
爪が食い込み血が滲むほどに。
やってやる。
私は官僚として労働時間の制限の為に動く事を決意した。
しかし、私は男女共同参画局の官僚。
労働時間の制限は厚生労働省の管轄である。
管轄外なのでは?
と疑問に思われるかもしれないけど、それもあの笑い話に答えがあった。
「男女の労働時間格差の是正」
男女共同参画局にとって、これほどの大義名分があろうか。
男性は働かされ過ぎて過労死する程働いているのに、
女性には働き続けられる環境がない。
労働力のウエイトが偏り過ぎているのだ。
なら簡単だ。
その偏りを正してやれば良い。
私は持てる手段、権限、人脈の全てを使って、
「男性の労働時間の制限法案」
を法案として懇意にしている議員を通して立案する。
それでは人手不足になってしまう!
と批判されるだろう。
しかし、よく考えて欲しい。
昔は顧客の資料一つとっても紙の資料を、資料室の膨大な中から見つけ出して出さなきゃ見れなかった。
それが今ではパソコンに名前を打ち込むだけでポンっと出てくる。
その資料だって、手書きのものをファイリングして紐で結んで、タイトル書いてと手間がかかる。
製造業なんかは大変だった。
原料の在庫を把握する為に使う度に帳面につけ、それを共有。
簡単に言うが、製造部門、原料調達部門、検査部門それぞれが一つの帳面で管理するのは、かなり面倒なのだ。これもパソコンで簡単に共有できるようになった。
人手不足になるはずがないのだ。
たんにやり方がマズい。
やり方を決める会社の上層部の頭がアップデート出来ていないだけなのだ。
その癖、自分達が責任取りたくないからと、下の者に責任を押し付ける為に役職ばかり増やす。
そんな事をしているから人手不足になるんだ。
そもそも現在、パートでしか働けない女性達が正社員として働くようになるのだから人手は足りる。
女性達も、家に男性がいる時間が増えれば、ちゃんと働けるのだ!
誰もが幸せになれるはず!
私の作った法案はほぼ原案のまま、国会で審議にかけられた。
男性の労働時間のみ、週32時間に制限する。
労制法の審議は紛糾した。
案の定、企業からの反発は凄かった。
彼らはバブル崩壊の反省から人をあまり雇いたくないのだ。
人を雇えば、会社が傾いた時にわざわざクビを切らなきゃいけなくなる。
それをするのは自分達上層部だ。
いやだ!そんな汚れ役、俺はしたくない!
そんな子供じみたわがままで非正規雇用を続けているのだ。
全く情けない話しだ。
企業側は既に彼らの傀儡となっているマスメディアを総動員し、ネガティブキャンペーンを繰り広げた。
そんな事は予想済みだった私はネットやSNSを使った草の根戦略で対抗する。
戦況は一進一退の拮抗したものになった。
しかし、ここで予想外の敵が現れる。
女性だ。
女性達は口を揃えて、
「男性ばかり優遇するな!」
「男性怠け者化法案、反対!」
と叫んだ。
そうだった。
笑い話にもあったじゃないか。
せっかく平等になるって話なのに、何故か女性は
「ズルい」
って思うものなんだと。
数日後、私の法案は見事、否決された。
その年、過労による死者は過去最高を記録した。