ルノワール男爵の憂鬱   作:道造

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第五話「オズヴァルド子爵」

 

 誰から見ても優秀で、22歳ですでに子爵家を継いでいるオズヴァルド子爵。

 彼には大きな欠点がある。

 ロリータ・コンプレックスであるという欠点だ。

 もちろんそれは前世の価値観であり、この中世じみた魔法のある異世界では16歳の花嫁など何の問題も無いことは重々承知してはいるが。

 前世ではほとんど違法行為どころか、日本の令和では婚姻開始年齢がすでに18歳に定まったことを考えると、完全に違法である。

 もちろん、それだけで子爵をロリコンであると見做すのは問題だろう。

 例えば身体の発育が良い、エミリアを最初は妻に選んでいたのだから。

 それを考えれば、別にロリコンの気はないのではないか。

 素直にそう考えられるのだが。

 

「お久しぶりです、お父様」

 

 ぺこり、とスカートの裾を持ち上げて挨拶をする義娘。

 カーテシーという奴である。

 

「久しぶりだな。元気そうにしているようで何より」

 

 私の義娘で、14歳で婚約を、そして16歳で結婚をした子爵の花嫁。

 それが未だに身長140cm台後半の貧乳であることが大いに問題だった。

 犯罪ではないだろうか?

 もちろんこの世界では、何一つ問題はないのであるが。

 どうしても私には前世の性道徳感がザワつくのである。

 せめて、後二年は待てなかったものかと思う。

 

「オズヴァルド子爵には前もって文を送っておいたのだが、ご機嫌はいかがかな?」

「夫は御父様のご期待に応えられると答えておりましたが」

 

 だが、私の婚約者であるシゼル嬢も同じような体躯であり。

 それを言うなら私もロリコンではないか。

 社会から声高に迫害されても仕方ない性癖の持ち主では無いかと、ふと悩む。

 何度も繰り返すようだが、この世界では特に倫理的に問題は無い。

 無いが、だからといって現代人の価値観を持つ私には立ち止まって考えることがある。

 それは少女の幼さに付け込んで、相手を騙しているかのような罪悪感であった。

 

「それでは今日は天気がよろしいので、お庭へどうぞ」

 

 私は義娘に、庭へと案内される。

 晴天の庭先で、若きオズヴァルド子爵が礼儀正しく立っている。

 階級差を考えれば、泰然と座って待って貰っていても問題はなかったのだが。

 

「結婚式以来ですな、ルノワール男爵。おっと、これからは気軽に義父上と呼ばせていただいても?」

「ああ、そうして頂けると助かります」

 

 子爵は身長180cmを超える偉丈夫である。

 そっと横に寄りそう義娘と比較すれば、あまりにも大きい。

 やはり犯罪の匂いがほのかにした。

 とはいえ、両思いの結婚を止める術はない。

 この世間では十分に釣り合いがとれているし、馬に蹴られるのは勘弁なのだ。

 結論は出た。

 オズヴァルド子爵はロリコンだし、私もその仲間かもしれないが。

 少なくとも官憲により手に枷がはめられる恐れは無いのだから、気にしても仕方が無い。

 

「さて、本題に入りましょう。縁戚となったのですから、私が信用を担保する形でいくらか仕事を手伝える若人を雇えないかということでしたが」

「うん、一人でもいいから頼めるか?」

「これに関してですが、もちろん大丈夫です。義父上の下で是非とも働いてみたいという貴族など幾らでもおりますし、その上で爵位や官職の扶持が手当されるのならば」

 

 オズヴァルド子爵が、ガーデンテーブルの上に紙を並べる。

 数十枚あり、紹介できる人材の一覧と思われた。

 

「これはもう、自分の父の爵位を継げぬ次男坊や三男坊であれば、いくらでも選べますぞ。能力ならば私が保証します。軍の士官学校で知己は大量に得ておりますので、本人はもちろんのこと、その家族も紹介することが可能です」

「どこの家でも人手は足りないのではないかね。それでもウチに来たいと希望を?」

「それはそれ、確かに流行病で人口は激減しましたので。人手は確かにどこでも払底していて、仕事を選ばなければ実家の手伝いで食べていくことはできますが」

 

 そのプロフィール一覧から、特にこれは、と思える人材。

 それはすでにリストアップしていたらしく、数枚が私の手に渡される。

 

「どうせなら実家から独立して、自らが当主となりたい。そんな優秀な人間など幾らでもおります」

「まあ、一国一城の主は誰でも夢か」

「その上でルノワール男爵と昵懇になり、能力を認められればこの上ないですね。人材を出すことになる実家側も縁故が出来るというなら嫌がりませんし、それより何より上級貴族へと繋がる直通ルートをお持ちでしょう? これほど美味しい話は無いですよ」

 

 まあ、計算すればそういう話になる。

 よほどに有能であれば、上に謁見の機会を与えてあげてもよかった。

 

「その代わりに無茶苦茶働かせることになると思うがね」

「それだけ働きがいがあるということでは?」

「ふむ」

 

 燃え尽き症候群になってしまった今の私にとっては、労働は苦痛だが。

 まあ野心燃える有能な若人を、自分の代わりに働かせることができるならばだ。

 私側にとっても美味しい話であった。

 

「本来ならば、私が立候補したいぐらいですが。あいにく子爵家領地の運営で忙しく」

「うん、そもそも上の階級である君を、私の下で働かせるわけにもいかんしね」

「そういうことですな。ならば、せめて人材を紹介することでお役に立ちたいと」

 

 有り難い話だ。

 子爵は本当に有能である。

 数枚渡された人材プロフィールは士官学校や大学出の、能力が保証された貴族が多かった。

 こちらを試しに全員雇い入れることにしようか。

 他の資料もひとまず全て受け取っておくことにする。

 

「さて、本題はこれで終わりなのだが」

 

 少し、子爵について気になっていることがある。

 

「他にも用件がおありで? なんなりと」

 

 子爵は朗らかに答えてくれるのだが。

 

「今回のトーナメントに参加するというのは本当かい?」

「ええ、そのつもりです」

 

 にこり、と子爵が微笑む。

 私は本当に言い辛いのだが、言わねばならん。

 

「その、今回はエミリアも出場することになっていてだね。みんなが私の義娘を強い強いと褒め称える」

「はい、優勝候補ですね。運悪く当たれば、私ではまず勝てないかと」

 

 うん、わかっているならよいのだが。

 

「もし君が負けたら、恥を掻かせることにならんか?」

 

 それだけを気にしている。

 いや、私はそう思わないが、元婚約者に一度拒否されて、トーナメントでも負けるというのはだ。

 世間体がさすがにアレかなって。

 

「なりませんよ。辺境伯あたりは、むしろ良く再戦を試みたと褒めてくれるのでは? 義父上は気にしすぎなんですよ。相手が悪いくらい誰でもわかりますって」

 

 そうか?

 それならばよいが。

 

「では、用件は以上だが。それにしても、私の娘は、その、エミリアはそこまで強いのかね?」

「強いですね。戦場ではともかく、一騎打ちという形式に限定されるとですね。上位貴族以外では勝ち目がないかと」

「ううん」

 

 どうにも一致しない。

 私が幼い頃から育ててきたエミリアの可愛い笑顔と、彼女が走っている方向性が一致しないのだが。

 

「君まで言うなら、それを事実だと認めよう」

「ところで、義父上。私も逆にお聞きしたいことが」

「何かね。何でも答えるが」

 

 ここまでやってもらったのだ、多少のことならこちらも答えねばと。

 私は話を促す。

 

「なんでも、トーナメントではヴィルヘルム現王様の横に、ジョバンニ枢機卿猊下が観覧されると噂が。ひょっとして、貴族社会と宗教界に和解の時が来たのですか?」

「いや、一緒に観覧されるとまでは聞いているが。何を具体的に話すか、その予定までは聞いてないな」

 

 いや、ひょっとして本当に和解するつもりなのか?

 どちらが一緒に観覧をと言い出したのかは知らないが、確かに和解するときなのかもしれない。

 ジョバンニ枢機卿が教皇聖下となれば、この王国の司教区からは立ち去ることになるだろう。

 やり残した仕事があるなら済ませておきたいだろうし。

 それに、あの少年王は教育機会の平等を目論んでいる。

 それには宗教界の協力が必要不可欠だった。

 ならば、ここで歴史的和解という可能性も有り得た。

 

「……いや、確かにそうだな。その可能性もあるな」

「でしょう? まあ良い話になればいいと思うのですが」

 

 子爵が、ついでとばかりに言い添える。

 

「ただ、あの二人は仲が悪いので。もし電撃的和解が成立するとなれば、それこそ義父上の役目となるかと。ぶっちゃけ、仲悪い最大理由は義父上のせいじゃないですか」

「ええ……急にそんなこと言われても困るんだが。自覚がないとは言わないけれど」

 

 ハッキリ言って、そんな面倒臭いこと頼まれても困る。

 困るが、まあ和解が成立すれば誰にとっても幸福である。

 

「よろしくお願いしますね」

 

 今回の礼とはまた別に。

 私は義息子である子爵の頼み事を真剣に聞き入れ、今から覚悟を固めねばならなかった。

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