その謎を解き明かすため、怪しい二人に質問をしていく主人公。
答えの先に待っているのは、天まで焦がすほどの熱情だった。
某所のワンライ企画で書いたもので、お題は『短冊』です。
七夕に何を祈るのかに、人の個性が出ることが多い。
行事で飾った笹の木がある。そこに釣られた短冊を眺めながら、僕は思索に浸っていた。
世界一周旅行がしたい。プロ野球選手になりたい。そんなありふれた願いもある。
100人恋人が欲しいとか、あの人にすべてを捧げたいとか、歪んだ願いもある。
いろいろと眺めていても、本当に人によって違う。面白いものだと思っていた。とある一枚を見るまでは。
みーくんのすべてを奪いたい。そう書かれている短冊を見て、僕は一度見て、二度見た。同じ文面が書かれていたので、目をこすって三度目も見た。結局変わっていなかった。
天井を仰いで、木目を眺める。妙に、シミに目がついた。
残念なことに、思い当たる候補はふたりいる。
透き通るくらい真っ白な透ちゃんは、いつも日傘を差しながら僕の家の周りをうろついている。窓から目が合ったのは、十回や二十回じゃない。
ぬいぐるみが贈られてきたこともあって、一応大切にしているけれど。
日焼けが印象的な帳ちゃんは、ずっと僕のことを見ながらノートに何かを書いている。とにかく学校にいる間はずっと。
実はお嬢様らしいんだけど、あんまりおしとやかな感じはしないかな。
なんか急に高級食材の詰め合わせを渡された時には、お金持ちなんだなあと思ったけれど。
そしてふたりは、今日の行事にも参加している。容疑者の筆頭候補は、このふたり。というか、他にいたら僕はショック死してしまうよ。
なので僕は、さっそくふたりを空き部屋に呼び出して話をすることにした。
「いったい、何の話なんですかー?」
透ちゃんは頬に手を当てていて、なんだか余裕を持って僕のことを見ている気がする。後ろめたいことは、ないのだろうか。
「あらあら、私たちを侍らせようなんて。贅沢な人だこと……」
帳ちゃんは口元に手を当てて、優雅に微笑んでいる。でも、目の奥が笑っていないような気もする。思い違いだとすれば、恥ずかしいけれど。
さて、どうしたものか。直接短冊に何を書いたのかを聞いても、流石に隠されるよね。
となると、二人に有効な質問は……。
「そういえば、ふたりにはしっかりとお礼を言っていなかったよね。贈り物、ありがとう」
僕は深く頭を下げて、話の取っ掛かりをつかんでいった。もしかして、贈り物にもなにか関係があるかもしれないし。
「大事にしてくれているみたいで、嬉しいですー」
「どれが好みかは、しっかり覚えていてよ。ねえ、あなた?」
怪しいと言えば、どちらも怪しい。大事にしていると宣言したわけではないし、どれが好きだったかもまだ話していないから。
とはいえ、疑うような目で見るだけでは、きっと真実には届かない。楽しい話から誘導するのが鉄則のはずだよ。
「ぬいぐるみは、本当に可愛いよね。見ていて癒やされるよ。フォアグラも初めて食べたけど、印象的だったね」
「その割には、あんまり反応がないですねー」
「一番好きじゃないことくらい、簡単に分かるものよ」
これもまた、僕のことを知っていないと出てこない反応というか。実際、透ちゃんにもらったぬいぐるみは飾りっぱなしにしている。時々汚れていないかチェックするくらいで、贈り物としては普通の扱いのはず。
帳ちゃんに贈られた高級肉の詰め合わせの中では、フォアグラだけは食べたことがなかった。黒毛和牛は美味しかったけど、食べたことそのものはあるし。もしかしたら、数段上かもしれないけれど。一番気に入ったのは、黒毛和牛だったかな。
まあ、僕の表情なんかから答えを見つけている可能性もある。なにせ、ふたりはずっと僕のことを見ているから。気づいていないクセを見抜かれていても、何もおかしくはない。
さて、続けていこうか。どうやって誘導するのが良いかな。
「実は僕、部屋でこっそり帳ちゃんにもらったジャーキーを食べちゃったんだよね。家族には、バレてないけど」
「ふむ。ジャーキー。ハムなら納得したけれど」
「ウインナーじゃなかったでしたっけー?」
透ちゃんから、ボロが出た。つまり、僕の部屋を覗いていたということ。二階だし、窓も閉め切っていた。
つまり、あのぬいぐるみはきっと……。なら、そこを追求すれば答えに近づけるかもしれないね。
「それって、ぬいぐるみで僕の部屋を見ていたから?」
透ちゃんは、目を逸らした。たぶん、それが答え。ということは、あの短冊の犯人も透ちゃんのはず。よし、何を言って追求しようかな。
「あらあら、性急なこと。関係を急ぎすぎたわね」
「そうみたいですねー」
もう、透ちゃんは開き直っているみたいだ。なら、いま聞いてしまっても良いかな。
「透ちゃん。短冊に何を書いたか、教えてくれる?」
「えっと……。あの人にすべてを捧げたいって……」
頬を染めながら、もじもじして語られた。僕の頭は、真っ白になっていた。
えっ? つまり、僕のすべてを奪いたいって短冊は他の人ってこと?
というか、僕にすべてを捧げたいとか、そんなとんでもない願い事を書いていたの?
すべてを奪いたいもかなりおかしいけど、すべてを捧げたいも狂っているって言って良いレベルだよ。
つまり、僕は複数人に信じられない執着を向けられていたってこと?
いや、待って。僕のすべてを奪いたいのは、帳ちゃんってこと?
そちらを見ると、穏やかな顔で微笑んでいた。
「私とは逆ってこと。あなたとは、決着をつけないといけないのかしら」
なんか、自白はしてくれたんだけど。嬉しくないどころか、困るよ。僕はどうしたら良いの? ちょっと目が回ってきたかも。
軽く睨み合っていたふたりは、心配そうに僕を支えてくれる。
こういうところは優しいんだけど、でもあんな願いを書くんだよね……。
「私たち、ふたりともみーくんが大事だってことだよねー。私は、だから生活を見ていたんだしー」
それはつまり、透ちゃんは自分を捧げるために探っていたみたいな話だろうか。
例えば、僕がどんな性癖をしているかを知って、それに合わせるとか。もっと普通なところだと、僕の私生活を調べて料理とかを捧げてくれるつもりだったとか?
「なるほど。みーくんを奪うために快適な部屋を用意していたけれど、世話役がいても良いかもしれないわ」
「でしょー? 私はみーくんに家事も料理も捧げるから、残りは帳ちゃんが管理するのはどう?」
「良いわね。食材も環境も、私が管理するわ。私の記録から用意した世界に、閉じ込めてしまうの」
ふたりはなぜか意気投合して、笑い合っている。
僕は一歩下がろうとして、右手を透ちゃんに、左手を帳ちゃんに掴まれてしまう。
「私は、全部があなたのものだよー」
「あなたは、全部が私のものよ」
ただの好奇心で、僕は地獄への片道切符を買ってしまったみたいだ。
両側を女の子が囲む、まさに両手に花。でも、それは毒の花だったらしい。
僕はただ、ふたりに引きずられるままだった。