世界は理不尽だと思う。
今日を生きるのも必死な人間がいる一方で、溢れるほどの富をゴミのように捨てる人間もいる。
そして──まるで不幸を嘲笑うかのような、雲一つない酷い晴天。
吐き気がする。神様ってやつは、どうも悪趣味らしい。
「……っち」
こんなクソみたいな世界で、私──レネ・アレントは生きている。
──これは、私による私のための物語だ。
◇
街はお祭り騒ぎだった。どこへ行っても人、人、人。通りには屋台がびっしりと並び、焼けた肉の匂いや甘い菓子の香りが入り混じって漂っている。
この国の名前は【ベルロード】この世界で一番活気のある国だ。……少なくとも、表向きは。
私は賑やかな通りを素通りし、目的の場所へ向かう。表通りの途中にある細い路地裏。そこへ足を踏み入れた瞬間、空気が一変した。
腐った食べ物の臭い。散乱したゴミ袋。その間を、鼠が平然と歩き回っている。私は立ち止まった。
──この先だ。私が感じ取った、強い能力の反応は。
さらに奥へ進むと、ゴミ袋の山が見えた。その上に、一人の少女が座っていた。
燻んだ黄金色の髪。この世のすべてを憎んでいるかのような、鋭い赤い瞳。彼女は両手で包み込むようにして、青い光を見つめていた。
「どうも。こんなところで何をしているんだい?」
少女はちらりとこちらを見て、短く言った。
「集中してるから黙って」
「おっと、すまない」
どうやら邪魔をしてしまったらしい。私は軽く肩をすくめ、黙って待つことにした。前髪の隙間から覗くその視線には、明確な拒絶があった。他人を一切信用していない目だ。
しばらくすると、青い光がふっと消えた。彼女の手の中には、小さな水のボトルがあった。少女はそれを少しだけ飲むと、すぐに立ち上がり、この場を去ろうとする。
その前に、私は一歩踏み出した。
「どけよ」
少女は鋭く言い放つ。
「その服装……どうせ偉い人だろ。お偉いさんは、私みたいなカスに用なんてないだろ?」
そう言って、彼女は片手をこちらへ突き出した。その手に力がこもる。私はすぐに気づき、その手首を掴んだ。
「私が偉い人なのは間違っていない」
私は静かに言う。
「だが、今日は君に用があって来た」
少女は鼻で笑った。
「あぁ、もしかして?弱いやつを痛ぶるのが趣味のカスか?」
「そういうわけじゃないんだが」
私は少し困ったように頭をかいた。
「どうすれば話を聞いてくれる?」
少女はふん、と鼻を鳴らす。
「話を聞いてほしいなら、力ずくで私を黙らせてみな」
「……そうか」
私は一歩近づいた。
「わかった」
次の瞬間、私は手刀を少女の首元へ落とした。少女の体がぐらりと揺れ、そのまま意識を失う。倒れかけた体を受け止め、肩に担ぐ。そして私は、何事もなかったかのように路地裏を後にした。
◇
「さて。まずは自己紹介からしようか」
気がつくと、私はベッドの上にいた。どうやら、あの女が泊まっている宿らしい。ゴミ溜めで育った私でも分かる。普通の宿とは、明らかに格が違う。柔らかいベッド。綺麗な部屋。窓から差し込む光。
……こんな場所、初めてだ。おそらく私は、奴隷として使われるんだろう。そんなことを考えていると、女が口を開いた。
「私の名前は
彼女は内ポケットから証明書を取り出した。
現代世界。ここ【テリオス】とは文明も文化も違う、もう一つの世界。世界の行き来自体は珍しくなく、旅行感覚で渡る人間もいる。そしてWPO。現代世界の治安維持を担う組織らしい。
「私はレネ・アレント」
私は短く言った。
「ただのガキだ」
何の用で連れてきたのか知らないが、勝てる相手ではない。
だから私は、おとなしく名乗った。
光莉は私をまっすぐ見つめた。
「レネ。君を連れてきたのは、君から強い能力反応を感じたからだ」
「能力反応?」
私は手を開く。
「あぁ、これのことか」
掌の上に、小石を生み出す。私の能力。
──物を造る力。
光莉の目がわずかに細くなった。
「それだ。君は気づいていないかもしれないが、その力はかなり強力だ。もし悪い人間に見つかれば悪用される」
そう言って彼女は立ち上がり、私の隣まで歩いてくる。そして、私の目線に合わせてしゃがんだ。その目には、嫌悪も軽蔑もない。ただ、純粋な期待があった。
「私にその力を使わせてほしい」
彼女は言う。
「私についてこないか?」
私は少しだけ考えた。……断っても、意味はない。
「……わかった」
短く答える。ここからだ。
ここから、私の物語は大きく動き始めた。
次も頑張ります。( ´ー`)