光莉に連れられ、私は森の中を歩いていた。木々の隙間から差し込む光が、地面にまだらな影を落としている。足元では乾いた落ち葉がかさりと音を立てた。
「で、私はどうすればいいんだ?」
私は前を歩く光莉に声をかける。光莉は振り返らずに答えた。
「一年後にWPOの入隊試験がある。それに合格できるくらい強くなってもらう」
WPOの入隊試験は、毎年担当する試験官によって内容が変わるらしい。
ただし共通しているのは対人戦闘。戦闘能力を測るため、必ず実戦形式の試験があるという。つまり私は、そのための特訓に連れてこられたわけだ。
しばらく歩くと、視界が急に開けた。森を抜けた先に、小さな空き地があった。
「着いたぞ」
光莉はそう言うと、近くの切り株に腰を下ろした。
「まずは能力とオーラの説明からしようか」
「オーラ?」
聞き慣れない言葉に、私は眉をひそめる。
「オーラは身体に宿るエネルギーだ」
光莉はそう言いながら立ち上がった。
「オーラを使うことで、能力を行使できる」
次の瞬間、光莉の身体を白い炎のようなものが包んだ。揺らめく光が、彼女の体の周りを静かに漂っている。これが、オーラ。
光莉はそのオーラを、人差し指へと集中させた。
「私の能力は光を操る能力だ」
指先が小さく輝く。
「こんな風にね」
次の瞬間、光が一直線に飛んだ。向かいにあった木の幹に命中し、乾いた音が響く。
「なるほど」
私は腕を組む。
「つまり私は、まずオーラの操作を覚えろってことか」
光莉は少し笑った。
「話が早くて助かるよ」
そして真面目な顔になる。
「そうだ。オーラを扱えないと、戦いの土俵にすら立てない」
「分かった。で、具体的にどうすればいい?」
「まずは感じるところからだな」
光莉はゆっくりとこちらに歩いてきた。そして私の頭に、そっと手を置く。再び、彼女の身体からオーラが溢れ出した。
「オーラを感じる一番手っ取り早い方法は──」
光莉が静かに言う。
「他者から流されることだ」
その瞬間。私の体の中に、何かが流れ込んできた。暖かいような、熱いような、不思議な感覚。これがオーラ?その感覚に意識を向けた瞬間。
ドッ──
体の奥から、何かが爆発した。
「くっ……!」
体中から、凄まじい勢いでオーラが溢れ出す。止まらない。抑えようとしても、全く言うことを聞かない。
「うぅ……!」
必死に抑え込もうとした、その時。光莉の声が聞こえた。
「それは君の力だ」
落ち着いた声だった。
「無理矢理抑えるんじゃない」
私は息を整える。そして、自分の中のオーラに意識を向けた。暴れるな。落ち着け。
そう思った瞬間、荒れ狂っていたオーラが少しずつ静まり始める。やがて、完全に消えた。
「……ふぅ」
私は大きく息を吐いた。光莉が満足そうに頷く。
「制御はできたみたいだな」
そしてにやりと笑った。
「よし。じゃあ修行を始めるぞ」
それから私の修行が始まった。基礎体力をつけるための走り込み。オーラ操作の精度を高めるための瞑想。
そして──光莉との組み手。ルールは簡単。光莉に一発当てれば勝ち。だが、それがまるで当たらない。殴る。避けられる。蹴る。躱される。まるで私の動きが全部わかっているみたいに、光莉は軽やかに避け続けた。
「なんで全部読めるんだよ!」
私が叫ぶと、光莉は肩をすくめる。
「経験から来る勘だな」
理不尽すぎる。
だが、修行はそれだけじゃなかった。
ある日、ドサッと私の目の前に、本の山が置かれた。
「……なんだこれ」
光莉は当然のように言う。
「試験は力だけじゃない。筆記もある」
「まさか……」
光莉はにっこり笑った。
「そのまさかだ」
私は一冊手に取る。ページをめくる。植物図鑑。 毒の知識。一般常識。
「こんなの一年で覚えられるか!!」
私が叫ぶと、光莉は楽しそうに笑った。こうして地獄の一年間の修行が始まった。
◇
「何見てんだよ」
「いや、別に」
「何もないなら見んなよ」
最初の頃、レネは全く心を開こうとしなかった。修行以外ではほとんど話さない。食事すらまともに取ろうとしない。
私は、初めてレネにオーラを流した日のことを思い出す。
頭に手を置いたとき、レネの体はわずかに震えていた。きっと、相当酷い目に遭ってきたんだろう。人をここまで信用できなくなるほどに。
「……今はどうなんだろうな。レネ」
私は隣を見る。レネは、ぐっすり眠っていた。修行を始めてから、十ヶ月。私は毎晩こうして、レネの隣に来ている。最初は逃げ出さないか見張るためだった。
だが、それは杞憂だった。私は小さく笑う。
「楽しみだな、レネ」
光莉さんは22歳。レネさんは17歳ぐらいです。