「……迷った」
試験当日。私、レネ・アレントは見事に迷子になっていた。手元の地図と周囲の景色を何度も見比べるが、どう考えても分からない。右に行っては引き返し、左に行っては首をひねる。
……やばい。完全に道を見失った。
「こんなことなら……」
思わず小さく呟く。
意地なんて張るんじゃなかった。
◇
「レネ。現実世界は初めてだろ?私が試験会場まで付いていこうか?」
朝食を食べていると、光莉がそんなことを言ってきた。確かに、テリオスから外に出るのはこれが初めてだ。案内してもらった方が確実ーー
そう思った、が。いや待て。私はもう18だ。いちいち付いてきてもらうなんて子供みたいじゃないか。
「いいよ別に。一人で行く」
少しだけ視線を逸らしながらそう言った。光莉は一瞬だけこちらを見て
「そうか」
短く答え、地図を差し出してきた。
◇
そして現在。私は現実世界の街中で盛大に迷っている。
「やばいな、これ……間に合わないぞ」
試験開始まで残り一時間。焦りを感じて歩き出そうとしたその時、
「ねえ、君。大丈夫?」
背後から声をかけられた。振り返るとそこには、私と同じくらいの年頃の少女が立っていた。
肩まで伸びた金髪が、太陽の光を受けて柔らかく輝いている。整った顔立ちで、どこか浮世離れした雰囲気すらあった。
……妙に目を引く。
「えっと……道に迷ってて。ここなんだけど……」
私は地図を広げ、目的地を指差す。少女はそれを見るなり、目を丸くした。
「え、そこって……」
一拍おいて、ぱっと表情を明るくする。
「君も受験者だったんだ!」
「……もしかして」
「うん。私も。ちょうど向かうところだったし、案内するよ」
そう言って、少女は軽い足取りで歩き出した。
「ほら、こっち」
私は一瞬だけ躊躇する。……親切すぎる。だが、このまま迷っている方がまずい。
「……頼む」
少し距離を取りながら、後ろをついていった。
◇
「着いたよ」
二十分ほど歩いたところで、巨大な建物が見えてきた。どうやらここが試験会場らしい。
「助かった」
そう言うと、少女はにこっと笑った。
「じゃ、お互い頑張ろうね!」
そう言って、さっさと中へ入っていく。……軽いやつだな。私はその背中を一瞬だけ見送り、会場へ足を踏み入れた。
中には、すでに大勢の受験者が集まっていた。ざっと見て、百人以上。
(毎年の合格者は四十人前後……か)
年によっては、十人も残らないこともあるらしい。気を引き締めよう。私は空いている席に座った。その直後、放送が鳴り響く。
『あー、あー。マイクテスト、マイクテスト。それでは試験を開始しまーす。時間は二十分でーす』
一斉に、受験者たちが動き出す。私もすぐに問題用紙へと視線を落とした。
(……いける)
問題は、光莉に教わった範囲が多い。
(わかる、これも……よし)
順調に解き進める。だが――
(……は?)
途中から、見慣れない言語が並び始めた。
(何これ。英語……じゃない。スペイン語? いや違う。nyɛmɔ ni bɛ? どこの言葉だよ!?)
思わず顔をしかめる。
(挨拶は心の……? なんだそれ、意味わかんねえ!)
時間だけが無情に過ぎていく。
『はい、テスト終了でーす』
その声と同時に、答案用紙がふっと光り、消えた。
「……便利だ」
思わず小さく呟く。
(前半は取れた……はず。後半は……知らん)
不安が残るが、もうどうしようもない。そのとき、再び放送が鳴る。
『次は〜実戦試験で〜す』
直後。足元に、見たことのない文様が浮かび上がった。光が一気に強まり視界が白に染まる。次の瞬間。私は、瓦礫の山の上に立っていた。
崩れた建物。ひび割れた道路。遠くから聞こえる悲鳴。そして――
受験者と、一般人らしき人影。
『今皆さんを転送した場所は、崩壊した都市で~す』
軽い口調のアナウンスが響く。
『この都市には、人を襲う怪物と、一般人のNPCが存在します。怪物を倒すか、一般人を救助地点まで運ぶことでポイントを獲得できます。ただし、救助中に死亡させた場合は減点となりまーす。制限時間は四十分。それでは~スタート!』
その瞬間、腕に機械的な感触が走った。視線を落とすと、見慣れない腕時計のような装置が装着されている。残り時間と、現在のポイント。そして、救助地点の位置が表示されていた。
「さて……どう動くか」
私は周囲を見渡す。救助地点は遠い。怪物の強さも不明なこの状態で一般人を連れて歩くのはリスクが高い。なら、まずは情報収集。
そのとき、背後から低い唸り声が聞こえた。振り返ると、そこには一つ目の黒い怪物が立っていた。
「……こいつか」
私はゆっくりと構える。
「丁度いい。試してみるか」
掌を前に突き出す。オーラを集中させ球状に圧縮する。
怪物が地面を蹴った。速い。だが。
「見える」
オーラ弾を放つ。直撃し怪物の体が揺らぐ。その隙に、一気に踏み込み拳を振り抜く。ぐしゃり、と鈍い感触と共に一つ目を叩き潰した。怪物はそのまま崩れ落ちる。
腕の装置に「+1」の表示が浮かんだ。
「……なるほど。この程度か」
私は息を整える。そして、小さく頷いた。
「よし、決めた」
怪物を狩ってポイントを稼ぐ。その上で救助地点の近くにいる人間だけ助ける。無理はしないが見捨てもしない。
「行くか」
瓦礫を蹴り、私は駆け出した。
試験終了まで――残り三十八分。
めっちゃ時間空きました。モチベ大事。自分のお話のOP、ED考えるの楽しいよね。