超かぐや姫! 星の降る音   作:サトウシュン

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本編のかぐやが月から帰ってきて8000年前の地球にタイムスリップしたところからスタートです。


1話 目覚めの青年と月から落ちたウミウシ①

「どこだ、ここ......?」

 

 

 耳に届く波の音で目が覚めた。

 

 

 ゆっくり目を開けると、視界いっぱいに広がっていたのは──空だった。

 

 

 見慣れた天井じゃない。

 青い空だ。白い雲が、ゆっくりと流れている。

 

 

「......え?」

 

 

 上半身を起こす。

 

 

 そして俺は固まった。

 

 

 そこは──砂浜だった。

 

 

 見慣れたアスファルトも、電柱も、コンビニもない。

 あるのは、どこまでも続く砂浜だけ。

 

 

「ちょっと待て。これ、夢か?」

 

 

 頬をつねる。

 

 

 じん、と痛みが走った。

 

 

「......普通に痛い」

 

 

 夢じゃない......?

 

 

 なんでこんなところに。

 

 

 昨日も、いつも通りだったはずだ。

 単位を取るために大学の授業に出席して、

 講義が終わればバイト。帰って飯を食って、

 シャワーを浴びて、そのまま寝た。

 

 

 そんな、ごく普通の一日。

 

 

 それなのに。

 

 

「なんで海にいんの!? え、もしかして拉致された!?」

 

 

 朝起きたら砂浜に投げ捨てられていた──

 なんて意味不明な状況に、頭がパニックを起こしそうになる。

 

 

 いや、落ち着け。

 とりあえず状況を整理しよう。

 

 

 まず、自分の記憶はちゃんとある。

 

 

 名前は 天津命(アマツミコト)

 命と書いて、ミコトと読む。

 

 

 この春から大学に通い始めた、一人暮らしの大学一年生。

 どこにでもいる、いたって普通の学生だ。

 

 

 次に自分の体を確認する。

 

 

 見た感じ外傷はないしどこか痛むところもない。

 

 

 服装も昨日寝た時と同じ格好だ。

 

 

 状況的に考えると、寝ている間に誰かに

 ここまで運ばれた可能性が高い。

 

 

 だが──

 

 

「いやいや、さすがに起きるでしょ」

 

 

 その推測はすぐに自分で否定した。

 

 

 俺はあまり眠りが深い方ではない。

 ちょっとした振動や物音でも目が覚めるタイプだ。

 

 

 だから少なくとも、家から海まで車で二時間くらいの

 距離を起きずに運ばれるなんてあり得ない。

 

 

「 ......あっ」

 

 

 そこで、俺はあることに気づいた。

 

 

「ていうか、そうだスマホ!」

 

 

 なんで今まで思いつかなかったんだ。

 毎朝起きたら真っ先にスマホ触ってるっていうのに。

 

 

 スマホがあれば現在地もすぐ分かるし、誰かに連絡だってできる。

 

 

 希望を胸に、寝間着のポケットを探る。

 

 

 が

 

 

「......ない」

 

 

 もう一度ポケットを探る。

 

 

「......ない」

 

 

 慌てて周囲を見回す。

 

 

「......ない」

 

 

 スマホの影も形もなかった。

 

 

「まじかよ......」

 

 

 思わず頭を抱える。

 

 

 頼みの綱だったスマホが消えたことで、

「救助を呼ぶ」という選択肢があっさり消滅した。

 

 

「どうしよう......」

 

 

 そう呟きながら、なんとなく海を眺める。

 

 

 すると。

 

 

「......てか海めっちゃキレーなんだけど」

 

 

 今さら気づいたが、この海、とんでもなく透明度が高い。

 

 

 最近、東京のドブみたいな海しか見ていなかった自分からすると、

 この透き通るような青い海は衝撃だった。

 

 

 こんなきれいな海、幼い頃に行った沖縄以来だ。

 

 

 周囲をぐるっと見回す。

 

 

 その時だった。

 

 

「あ!」

 

 

 思わず声が出た。

 

 

「富士山あるじゃん!」

 

 

 遠くに、はっきりと富士山が見える。

 

 

 海辺で富士山が見える場所となると──

 

 

「静岡あたりか?」

 

 

 ざっくりとした推測だが、少なくとも日本なのは間違いない。

 

 

「......とりあえず、人を探すしかないか」

 

 

 どんな仮説を立てても、まともな答えにはたどり着かない。

 

 

 だったら動くしかない。

 

 

 そう決めて立ち上がり、砂浜を歩き出そうとした、そのとき──

 

 

「待って!」

 

 

 背後から、突然女性の声が聞こえた。

 

 

「!」

 

 思わず振り返る。

 

 

 やった。人だ。

 こんな状況で人に会えるなんて、幸先がいい。

 

 

 そう思って振り向いた俺は──

 

 

 固まった。

 

「......え?」

 

 

 そこにいたのは。

 

 

「ナマコ?」

 

 

 白くて、ふわふわした毛に覆われた軟体生物だった。

 

 

 もう一度言おう。

 

 

 そこにいたのは、人ではなく──

 白くてふわふわしたナマコみたいな何かだった。

 

 

「ちがう! ナマコじゃなくてウミウシ!

 ってそんなことより、ねえ今って何年──」

 

 

「ぎゃあああ!! しゃべったあああ!! 不気味!! 化け物っ!?」

 

 

 突然砂浜にいたと思ったら人の言葉を話す謎生物がいた。

 

 

 そんな到底受け入れられない現実の連続でとうとう頭がおかしくなってしまったのだろう。

 

 

 視界がぐらりと揺れた。

 

 

 そして──

 

 

 俺は、そのまま気を失った。

 

  ────────────────────────────────

 

 

 かぐや side

 

 

 数年前

 

 

「......どこ、ここ?」

 

 

 気がつくと、私は砂浜にいた。

 

 

 周囲には誰もいない。

 波の音だけが静かに響いている。

 

 

 確か──

 

 

 彩葉の歌を聞いて。

 それから地球に戻るために色々頑張って。

 

 

 そして、ようやく月の仕事を全部片付けて。

 

 

 地球に行ける。いろはに会える

 

 

 そう思って、地球へ向かった。

 

 

 ......そうだ。

 

 

 その途中で、隕石にぶつかったんだ。

 

 

 ......あ

 

 

 そこまで思い出して、状況の理解は一気に進んだ。

 

 

 すぐに肉体を作ろうとした。

 

 

 だけど──

 

 

 それができなかった。

 

 

 原因は、月の舟。

 時間遡行すら可能な私の宇宙船──

 

 

『もと光る竹』

 

 

 その擬態機能が、衝突の衝撃で壊れていたのだ。

 

 

 私は、自分で作った最強の外殻の中に閉じ込められていた。

 

 

 消えることもできない。

 声も出せない。

 体も動かない。

 

 

 ただそこに存在するだけの、思念体のような状態。

 

 

 思念体だけに死ねん体ってか?やかましいわ!

 

 

 誰もいない砂浜で、私は一人ツッコミを入れた。

 

 

 あっはっはっ......はは......

 

 

 笑い声は、やがて静かに消えた。

 

 

 ......ああ

 

 

 ぽつりと呟く。

 

 

 ドジっちゃったなぁ

 

 

 そして私は、ゆっくりと絶望していった。

 

 

 時間をかけて。

 本当に、ゆっくりと。

 

 

────────────────────────────────

 

 

 それから、数年が過ぎた。

 

 

 幽霊みたいな状態のまま、私は砂浜に座り続けていた。

 

 

 最近は、ずっと歌を歌っている。

 

 

 最初の頃は、地球での思い出を何度も思い出していた。

 

 

 彩葉と会えた時のこと。

 みんなで過ごした日々。

 

 

 でも、それもすぐに飽きた。

 

 

 退屈が、永遠みたいに続いた。

 

 

(ねえ、ヤチヨ)

 

 

 心の中で呼びかける。

 

 

(どこかにいるんでしょ?)

 

 

(お願い、出てきて......助けて)

 

 

 何度も何度も呼んだ。

 

 

 でも、ヤチヨは現れなかった。

 

 

 そうして寂しくなって。

 悲しくなって。

 泣きじゃくって。

 

 

 いつまでも現れないヤチヨに

 暴言を吐いてやつ当たって。

 

 

 それを、何百回も、何千回も繰り返した。

 

 

 そして。

 

 

(この一瞬を、最高の、パーティーにしよー)

 

 

 彩葉が卒業ライブのために作ってくれた曲。

「reply」

 

 

 その歌を、何百回、何千回と自分の気を

 紛らわすために歌っていたとき。

 

 

「ーーー」

 

 

 ふと、何かが耳にとまった

 

 

 波の音でもない

 鳥の鳴き声でもない

 

 

 はっきりと意味を持つ音

 

 

「......声?」

 

 

 しかも

 

 

 もし聞き間違いじゃなければ──

 

 

 ()()()

 

 慌てて周囲を見回す

 

 

 そして、20メートルほど先に、人を見つけた。

 

 

 その人は、自分がかつていた日本でよく見る服を着ていた。

 

 

 それを見た瞬間──

 

 

 私の心は嬉しさで跳ね上がった。

 

 

 数年ぶりに人を見ることができたことはもちろんだが、何より自分はちゃんと2030年近くに戻って来れたという確信が持てたからだ。

 

 

 

 この数年まったく人と会わなかったからてっきり全然違う時代に来てしまったんじゃないかと思っていたがそれは取り越し苦労だったようだ。

 

 

 

 私は泣きそうになるほど嬉しかった。

 

 

 けれど

 

 

 そんなことはつゆ知らず、その人は私に気づかないまま、反対方向へ歩いていこうとしていた。

 

 

 それを見て思わず焦る

 

 

 だめ、行かないで。私の話を聞いて。お願い

 

 

 これを逃したら、次は何年先になってしまうかわからない。

 

 

 もう、あんな日々を一人ぼっちで過ごすのは絶対に嫌だ!

 

 

 そんな思いが通じたのか私はとっさにウミウシの体を作り出し、そこに意識を込めて

 

 

「待って!」

 

 

 実に数年ぶり、いや月にいた期間も含めれば七十数年ぶりに声を出した。

 

 

 振り返った青年と、目が合う。

 

 

 年齢は、彩葉と同じくらい。

 少し頼りなさそうだけど、整った顔立ちをしていた。

 

 

 そして彼は言った。

 

 

「......ナマコ?」

 

 

 いや確かに似てるかもしれないが!

 

 

「ちがう! ナマコじゃなくてウミウシ!

 ってそんなことより今って何年──」

 

 

「うわあああ!? しゃ、しゃべったああ!!

 不気味!!化け物っ!?」

 

 

 かつて彩葉が私に言ったことと

 同じような言葉を私に投げつけて。

 

 

 青年はそのまま

 

 

 きゅ〜〜

 

 

 そんな効果音が聞こえそうに崩れ落ち、

 そのまま気を失ってしまった。

 

 

 私の数年ぶりの人との会話は──

 

 

 わずか10秒で終わってしまったのだった。

 

 




主人公の名前の由来は須佐之男命、月読命の二つからきています。
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