超かぐや姫! 星の降る音   作:サトウシュン

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今日からまた2話更新に戻ります

原作の本編開始です。



12話 物語の始まり、そして壁ドン

 

2030年7月12日

 

 

 いよいよこの日がやってきた。

 

 

「ミコト。準備はいい?」

 

 

 タブレットに映るヤチヨが真剣な面持ちで問いかけてくる。

 

 

「今からミコトには最重要ミッションを実施してもらいます」

 

 

 そう、俺はこのために酒寄彩葉の隣の部屋に住んできたと言っても過言ではない。

 

 

 ヤチヨのいう最重要ミッションとは。それは......

 

 

────────────────────────────────

 

 

 今、俺は酒寄彩葉が住んでいるボロ......ゴホン、年季の入ったアパートにいる。

 

 

 部屋は2階の奥から2室目。

 そう、酒寄彩葉の隣の部屋だ。

 

 

 なぜ俺がここに住んでいるのか。

 それは今から2年前、ヤチヨ直々にお願いされたためだ。

 

 

「ミーコトっ!ちょっとお願いがあるんだけど〜?」

 

 

「ええ?ヤチヨのお願いとか嫌な予感しかしないんだけど......」

 

 

 俺は現在、ヤチヨの本体であるもと光る竹が置いてあるマンションの一室に住んでいるのだが、突然かつて自分が住んでいたアパートに引っ越して欲しいと言われたのだ。

 

 

 理由を聞いてみたところ

 

 

「だってこれから彩葉とかぐやが住むのに隣人が変な人だったら嫌じゃん!」

 

 

 だそうです。......なんだそれ

 

 

 他にも当時の自分は結構騒がしくしていたため、なるべく隣の人は迷惑をかけても問題ない人が良いと思ったらしい。

 

 

......おい!

 

 

 人のことをなんだと思ってるんだとばかりの扱いにいよいよとっちめてやろうかという衝動に駆られたが、ぐっと抑えて冷静になり、そんなことして歴史が変わらないか聞いたが

 

 

「大丈夫!歴史はそう簡単には変わらないから。つまり、私たちの隣人は過去の私が同じように無理矢理住むことにさせたミコトだったはず!」

 

 

 とメチャクチャな理論で返された。

 

 

「ていうかもう契約しておいたから〜」

 

 

「俺の意思は!?」

 

 

 衝撃の事実をあっけからんというヤチヨに対し思わずつっこんだのだが

 

 

「そもそもこんな狭い部屋で生活するなんてよくないよ。」

 

 

 と正論パンチを喰らってしまった。

 

 

 周りを見回してみると、確かにこの部屋は元々8畳ほどしかない上に幾つものPCとストレージ機器が所狭しと置かれているためほとんどスペースがないのだが......

 

 

「いや、別に食事も睡眠もいらないしトイレも必要ないから雨風さえ凌げれば十分なんだが」

 

 

「ダメ!人間には健康で文化的な最低限度の生活を送る権利と義務があるんだから。今のミコトはその最低限度を余裕で下回っています!」

 

 

 とお叱りを受けてしまったため仕方なくこちらに住居を移したのだ。

 

 

 今ではマンションには掃除をする時か、もと光る竹を冷やすため使われる液浸冷却液(絶縁性の液体)を補充するときしか行かなくなってしまった。あっ、ちなみにFUSHIはアパートで飼ってます。

 

 

 話は戻り、今日は7月12日

 

 

 そうかぐやと酒寄彩葉が出会う運命の日だ。

 

 

 この日のことは8000年経ってもしっかりと覚えているらしく、電柱から出てきた赤ん坊である自分を部屋まで連れて行き、必死にあやしたのだと彩葉から聞いたと言っていた。

 

 

 そしてあやしていた最中に隣人に初めて壁ドンされてとてもビックリしたという。

 

 

『壁ドン』

 

 

 男性が女性を壁際に追い詰めて、手を壁にドンと突き迫る行為......ではなく隣の部屋が騒がしい時に、壁をドンと殴る行為のことだ。前者だと完全に事案である。

 

 

 さて、隣人に壁ドンをされた。

 そして、今隣に住んでいるのは俺。

 

 

 ということはつまり、その再現を俺がしなくてはならないのだが......ここでひとつ思うことがある。

 

 

「本当にやんの?かわいそうだからやりたくないんだけど......」

 

 

 正直気が進まないのだ。

 

 

 だって、この日酒寄彩葉は学校へ行き、放課後はバイト。そうして疲れ切って帰ってきたところにゲーミング電柱から赤ん坊の3連コンボだぞ?

 

 

 さらに、放置しておくわけにもいかないから部屋に連れ帰ったら泣き止まないかぐやを必死にあやしているところを壁ドンだぞ?

 

 

 かわいそうすぎるって......

 

 

 そう張本人に非難すると

 

 

「そりゃ、もちろんヤチヨだってこんなことやりたくないよ。でもそうしないと歴史が変わっちゃうし。だから、仕方ないんだよ。そういう運命なんだから」

 

 

 悲しそうにヤチヨが呟く。

 

 

(運命だから......か)

 

 

 その言葉に俺が引っ掛かりを感じていると

 

 

 カンカンカンカンッ

 

 

 日付が変わるまで残り1時間をきるくらいの時間になったそのとき、誰かが階段を駆け上がってくる音が聞こえてきた。

 

 

 そして、隣の部屋のドアが開いたと思ったら、

 

 

「ええええええええええええん!」

 

 

 家賃の低さに裏付けられた薄い壁を超えて容赦ない鳴き声が轟いてくる。

 

 

 なるほど、確かにこの時間帯にこんな大声を聞かされたら壁ドンをされてもおかしくはないだろう。

 

 

「ミコト!きたよ、やって!」

 

 

 あ〜〜〜もうっ! くっ......ごめんっ!

 

 

 心の中で謝り、覚悟を決めて壁に拳を叩きつける。

 

 

 ドンっ

 

 

 今頃、壁の向こうでは引っ越してきて初めての壁ドンに驚いて、早く泣き止ませようと懸命にかぐやをあやしているのだろう。

 

 

「まだ!普通の人なら泣き止まない限り壁ドンを続けるはず!もう何発かやって!」

 

 

 まじかよ!

 

 

 ドンっ!ドンっ!ドンっ!

 

 

 と今度は3回連続で壁に衝撃を与えた。

 

 

 ぐっ......痛い!心が痛い!

 

 

 良心がズキズキと痛むなか、これでいいか!

 

 

 とタブレットに視線を向けると

 

 

「ううっ、ごめんねぇ、彩葉。壁ドンしちゃってごめん。泣き止まなくってごめん......」

 

 

 と自分以上に良心に苛まれ涙を流し、過去の自分の分まで二重の意味で謝っているヤチヨがいた。

 

 

 誰も得しないな、これ。誰だよこのループ始めたやつ

 

 

 と考えたが卵が先か鶏が先か、考えてもわからなさそうなのでやめた。

 

 

 そうして少し経つとさっきまで部屋いっぱいに広がっていた泣き声が、ふっと途切れた。

 

 

 赤ん坊の鳴き声もやみ、先ほどの喧騒が嘘のように静かになった。

 

 

 張り詰めていた時間がほどけて、胸の奥からゆっくりと安堵が広がっていく。

 

 

「「よかったぁ」」

 

 

 2人同時に小さなため息がこぼれた。

 

 

 ヤチヨ曰く、すぐに自分のデビュー曲

「Remember」を酒寄彩葉が歌うことで泣き止んだみたいだ。

 

 

「まあ、でも元気に泣いてて良かったじゃん。子供は泣くのが仕事って言うし」

 

 

「そんなことないよ。彩葉にはたくさん迷惑かけてお世話してもらっちゃったし。うう、今思い返すと恥ずかしい限りです......」

 

 

 そうして赤面の至り......と落ち込んでいるヤチヨを励ましながら俺はやっとここまで来たのだと実感していた。

 

 

 いよいよ物語が動き出す。だが、俺にできることは何もない。 

 

 

 日本最古の物語、『竹取物語』と同じようにかぐやはいずれ月に帰ってしまう運命なのだから。

 

 

────────────────────────────────

 

 

 彩葉side

 

 

 やっと寝てくれた〜。よかったぁ

 これでもう壁ドンされることもないだろう。

 ......どうしよう、今度お隣さんと会ったときが怖いんだけど!年も自分とさほど変わらず人の良さそうな男の人だと思ってたんだけどなー

 まあ、こっちが悪いし謝るしかないか。

 とりあえず......今日はもう寝よう......

 

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