2030年7月18日
「......いよいよ、今日か」
「うん、今日のライブの後にヤチヨカップを発表するよ」
タブレットにいるヤチヨと会話を交わす。
『ヤチヨカップ』
ツクヨミの全ライバーの中で、一ヶ月の期間の中だけで最も多く新規ファンを獲得した人が優勝者となり、ヤチヨとのコラボライブの権利が与えられる大会。
かつて、かぐやがツクヨミ内でトップへ駆け上がる始まりになった出来事であり、そして終わりへと向かうきっかけにもなった出来事だ。
「じゃあヤチヨは準備のためにもう行くから。
あ、ちゃんとライブ来てね?」
「当たり前じゃん。今まで皆勤賞なんだから。この記録を途絶えさせる気はない!」
「ふふ、そっか。じゃあまた後で。」
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ヤチヨがタブレットからいなくなった後、俺はツクヨミにログインしてブラブラしていた。
ライブの開始は21:00
今の時刻を確認してみると19:42
30分前には会場に行くとしてまだ一時間近くある。
そのため......
おお、これはなかなかに良い出来!
とアクセサリーショップを見ていると、
「見て見て、イロ!おもしろそーなもんが死ぬほどある!あ、こことか見てみたい!」
「ちょっと、あんまりはしゃがないでよ。」
真横からどちらも聞いたことのある声が聞こえてきた。
なんなら片方は勝手に頭にウミウシが再生されるくらい聞き覚えのある声だった。
「あれ?ミコさん?」
そこにいたのは以前ライブに一緒になってから何回かメッセージのやり取りをしているイロさんだった。
「あ、イロさん。お久しぶりです。そういえば、今日のライブのチケット当たったって言ってましたね。それまでの時間潰しですか?」
「そうなんですよ!しかも、今回は握手券付きなんです!今まで何度も何度も抽選してやっと当たったんですよー!」
その嬉しさを誰かと共有したかったのか今までに無いくらいのハイテンションで語ってくる。
それもそうだろう。
握手券付きは本当に倍率が高くなかなか当たらないことで有名なのだ。
熱心なファンのイロさんからしたらそれはもう嬉しいことだろう。
「おめでとうございま「ねーねー、この人だれ?」
と祝福の言葉を伝えようとしたところ誰かに阻まれた。
「ちょっと
......かぐや?
そして声の主の方を見てみると
そこには輝くような金色の髪をした女の子が立っていた。
・・・・・
「ミコさん?ミコさん!」
「っ!ああ、ごめんなさい。」
一瞬思考がフリーズしてしまった。ツクヨミ内にいることは知っていたがまさかこんな偶然出会うことになるとは思ってもみなかった。
「この人はミコさん。私のヤチヨ推し仲間でツクヨミでのフレンド。」
「ミコです。よろしくお願いします。」
「初めまして!月から「ごほんっ」......かぐやだよー!よろしくね!」
途中イロさんがわざと咳して止めてたけど、いま月からやってきたって言いそうになってたな。
「ミコさんは何してたんですか?」
「ちょっとライブまでの時間潰しにこの辺を見て回ろうと。」
「私たちと同じですね」
なんて雑談をしていると
「イロh......イロ!見て!すごいキラキラなのがいっぱいある!」
いま現実での名前言いそうになってたな。
ヤチヨはそういった間違えは全然しないのでやはり変わったんだなと実感する。
アクセサリーを見てそれらと同じくらいの目を輝かせているかぐや。
そうだな。かぐやの選びそうな物ってなると......
「これとか?」
そういって月の装飾が入った金色のブローチを手に取る。
「え?......確かにこれが一番良いかも!」
「すごい、よく分かりましたね。」
「すいません、これください。」
そう言って商品を買うと
「これ、よかったらどうぞ」
と言ってかぐやにプレゼントする。
「えー!いいの!ありがとうっ!」
「いや、そんな。悪いですよ。」
対照的な反応をする2人に少し笑いそうになるが
「もう買っちゃったんで。受け取ってくれないと困りますよ」
「まあ、ミコさんが良いなら。ありがとうございます。」
「そうだ!私もミコと友達になる!」
「友達?ああ、フレンドのこと?」
かぐやの突然の発言にイロさんがさっき自分が言ったフレンドのことだろうと推測する。
「そうっ!!なろっ!!」
と満面の笑みで言ってくる。
......相変わらず太陽みたいなやつ。
こう考えると初対面の時にすでに結構大人になっていたのか。
「いいですよ」
新しい発見をしたななんて思いながらフレンド交換をする。
「よければ会場まで一緒に行きませんか?」
イロさんから誘いを受けたがうずうずしているかぐやの方を見て断ることに決めた。
「ありがたいお誘いですが遠慮しておきます。かぐやさんはもっと色々見て回りたいでしょうし。」
「え、すごい!なんでわかったの?ねーねーイロ!かぐやもっと遊びたい!」
「いいけど、ライブの時間までだからね?じゃあミコさん。また今度」
「じゃーねー!」
手を振って2人と別れる。
いやー、それにしても......
世の中って狭いんだなーと思いつつ俺はライブ会場に向かうことにした。
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時刻は20:58分
ライブ開始まで残り2分を切り、会場にいる全員が今か今かとライブが始まるのを待っている。
おそらく、今頃イロさんは握手券付きのライブチケットを眺めてニマニマしている頃合いであろう。
そして、今回のライブのMC担当ライバーの忠犬オタ公によるカウントダウンが始まり、3、2、1と画面に映る数字が減っていき、観客総員で「0」を叫ぶ。
たちまち、ツクヨミ中から光が集まる。
無数の光の粒がゆっくりと落ちてきて、
ステージの上に、巨大な鳥居を作り出す。
その上に――
ひとりの少女が立っていた。
月見ヤチヨ
白と青を基調にした衣装が、星の光を受けて淡く輝いている。
「ヤオヨロー! 神々のみんな~、今日も最高だったー?」
その一言に会場が答える。
「うんうん、よーし!今宵も皆を誘っちゃうよ☆ Let's go on trip!」
ヤチヨはゆっくりと目を閉じる。
そして――歌った。
透き通るような声だった。
長い髪が揺れ、静かなイントロが流れ始めた。
夜空を撫でるような、やさしく澄んだ歌声。
その声が会場いっぱいに広がると、観客席のサイリウムが一斉に揺れ始める。
何千、何万という光が揺れ、
客席はまるで本物の海のように波打っていた。
眩い光がステージを包み込み、
ヤチヨの歌声は一気に力強くなる。
星が降る海の中で、少女はただ一人、歌い続ける。
――この歌が、誰かに届くことを信じて。
そして最後のフレーズ。
ヤチヨは空を見上げ、祈るように歌い上げた。
ほんの一瞬、世界が静まり返る。
次の瞬間――
会場が爆発した。
歓声が、夜空を突き抜けるように響き渡った。
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そして、ライブが終わり、ヤチヨが少し話した後。
ヤチヨカップの話になった。
FUSHIによる説明が終わると、ヤチヨとのコラボライブが出来るかもしれないという夢のような企画に観客がざわめく。
「ーーー」
ん?今ほんのわずかにだけど隣の部屋から悲鳴にも似た声が聞こえたような......
そんなことを思っていた次の瞬間ーーー
バーン!と派手な音が響き、いつのまにか現れていた屋形が弾け飛んだ。
そして、その中から見覚えのある3人組が現れた。
「よう、子ウサギども!お前らの帝様がきたぜ!」
ブラックオニキスのリーダー、帝アキラ。
そしてメンバーの雷と乃依。
帝さんとはあれからフレンドにもなり、お互い日々の愚痴を言い合う仲だ。
「俺たち優勝するから。ヤチヨちゃんコラボよろしくね」
そして、彼らは現れるなり大胆にも優勝宣言を行った。
だが、会場中の誰もそれを反論しなかった。
いや、できないと言った方が正しい。
そのカリスマ性に数々の大会で優勝を
勝ち取った実力、そして、圧倒的な人気。
観客の誰もがブラックオニキスが勝つことを当然だと思っていただろう。
「ヤぁぁぁぁぁ――チいいいいい――ヨおおおおおーー―!」
――そのとき。もはや消化試合だと静まり返った空気の中、一人の声が響いた。
全員の視線が一斉に向く。
そこに立っていたのは、金色の髪をしたまるで物語の中からそのまま現れた月の姫のような少女だった。
「ははっ!」
思わず笑いが溢れる。
そうだろうな。お前は周りがどんな目で見ようが、どんな空気になろうが、関係ないって言って、ただ真っ直ぐ前を見ているようなやつだ。
そして、少女は止まらずに言葉を紡ぐ。
「かぐやがヤチヨカップ優勝する!」
そうだ、言え!言ってやれっ!
「そんで絶対コラボライブする! イロh」
あっ、待った。
「むぐっ!?」
間一髪ーー
イロさんがかぐやの口を塞ぐことでツクヨミ中への実名公開は免れたようだ。
......まあ、どうせこの後何回かバラされることになるんだが......