そんなこんなでライブの後ヤチヨカップの発表が無事に終わり──
「ほいでわ、ライブはいったんここでクローズ!みんなとちょこっとお話しさせてね!さらば〜い!」
ヤチヨはライブの終焉を告げると分身をし、観客一人一人の元へ向かっていく。
俺はかぐやと酒寄さんのことが気になり目線をずっと向けていたのだが......
「どこ見てんの?」
と寒気のするような冷たい声が浴びせられた。
声のした方を向くといつのまにかヤチヨとその肩に乗ったFUSHIがいた。
ヤチヨは下を向いているため、表情がわからないがそれがまた不気味であった。
それから一歩踏み出すと同時にパシッと俺の両手を掴んだヤチヨはこちらを見上げて
「そんなにかぐやがいいんだ?それとも彩葉かな?
まあ、どっちでも許さないけど......」
色彩の感じられないドス黒い目でこちらをみていた。
(ひぃっ!)
「へ、へ〜。なんかすごい大胆な発言する人がいるから見てたけど、あれが例のかぐやと酒寄彩葉だったんだー。シラナカッタナー」
「嘘つき。ミコのフレンドリスト見たよ?2人の名前があった。一体いつの間に知り合ったのかな〜?」
とっさに嘘をついて誤魔化そうとしたが一瞬でバレた。
なんならヤチヨが覚えてるかわからないが過去の自分の体験したことなんだからこれは無理があったか。
ていうか人のフレンドリスト勝手に見るなよ......
とはとても言い出せない雰囲気なのでとりあえず
逃げようと思い、この手を離すように誘導する。
「あ、あの。今回のチケット握手券付きじゃないんで手握る必要ないと思うんです......けど......」
「券がないと私はミコトに触っちゃいけないんだ?
へぇ.....」
その瞳の奥で、静かな怒りがじわりと燃えているのが見えた。
やばい!と8000年で培ってきた第六感が危険信号を発したため、慌ててFUSHIに目配せをし、助けを求める。
普段ヤチヨが暴走した時は毎回FUSHIが止めてくれるのだ!
「......へんっ。そんなにあの犬ッコロがいいのか......」
がしかし、頼みの綱の白いモフモフはそっぽを向いていじけていた。
いや、お前もか──ーい!!
二人揃ってどこに嫉妬してんねん!
このままではまずいため、今日のライブの感想を伝えて話の流れを変えることにした。
「いやー、今日のライブもめっちゃ良かった
とくに最後の演出!めっちゃ感動
「......敬語」
どうしろと!?こんな周りに人がいるところで親しそうに話せないだろ
仕方ないのでヤチヨよりも先にFUSHIから宥めることにした。
ヤチヨの肩からFUSHIを掻っ攫いアバターボディの胸ポケットに入れ頭を撫でてやる。
「よーしよーし、FUSHIはかわいいな〜」
FUSHIは8000年間ほとんどここにいたため、ここに入れてやると機嫌が良くなるのだ。
そして、案の定
「ふへへ〜」
とすっかりご機嫌になっていた。
......なっていたのだが、
「......」
月の歌姫はヒュ──ーと吹雪が吹きそうなほど極低温な目線を向けていた。
FUSHIに
「えっ!?ヤ、ヤチヨ。これは違うんだ!」
「裏切り者......あとで覚えておきなよ?FUSHI。
私だって胸ポケットに入りたいのに......」
よし、なんとか2対1の構図にすることができたと思っていると
ヤチヨは、はぁーと息を吐きいつもの目に戻って
「まあ、いいや。この後はツクヨミで遊んで行くの?」
「いや、とくにやることもないから現実に戻るけど」
「そっか......じゃあ今日は夜更かしなんてせずにしっかり寝るんだよ。ライブ来てくれてありがとうね!さらば〜い!......イクヨFUSHI「あっハイ」」
と俺のポケットからFUSHIを強引に奪い取り帰っていってしまった。
FUSHIに合掌して見送った俺はというと
(さーて、ライブも終わったことだしヤチヨの言う通り今日は早く寝る......わけないんだよなー)
その理由は先ほどのヤチヨとの会話にほんの少し違和感があったからだ。(まあ、今回は全体的におかしかったけど)
普段のヤチヨなら「夜更かしなんてせずにしっかり寝て」なんて長々と言わず「はやく寝るんだよ」って端的に言っていたはずだ。そこが少し引っかかる。
まるで早く寝て欲しい理由があるように感じたのだ
さてはあいつ......
思い出せ。さっきのヤチヨの発言にヒントがあるはずだ。
......そういえばこのあとツクヨミにいるのか聞いてきてたな。
ということはツクヨミにいて欲しい、裏を返せばリアルにいて欲しくないってことか。
リアルといえば真っ先に思いつくのは隣の部屋である。
かぐや案件か?
そう思い周りを見てみるとどこにもかぐやの姿はなかった。もう違う場所へ行ったのか、はたまたログアウトしたのかは分からなかった。
でも、かぐやに関係することというのは的を得ている気がする。
つまり今日このあとかぐやが何かをするため、それを俺に見られると都合が悪い、と。
見られる......ああ、もしかして
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ヤチヨside
今日は私にとって忘れられない思い出でもあり、忘れ去りたい思い出でもある印象的な日である。
忘れられない思い出とは、かぐやとして初めてツクヨミにログインし、彩葉とともにたくさんの思い出を作ったこと。
そして、ヤチヨとして歌った今日のライブもファンのみんなにたくさん喜んでもらえた。きっと、私の大切な思い出として記憶に残りつづけるだろう。
......あとは彼にプレゼントを貰ったことだ。ツクヨミに初めてログインした日、たまたま出会って初めてのフレンドになった彼に貰った、今では形も思い出せないプレゼント。昔は持っていたけれど、月に帰った際に無くなってしまい今ではもう手に入らないもの......
そんな大切な思い出に対して忘れ去りたい思い出とは......
それは、このあとすぐ24:00からかぐやが初配信を行うことだ。
先ほどのヤチヨカップの開催に伴い、彩葉とともに優勝してライブをするために彼女は今頃、チャンネルを作り、配信の準備をしている頃合いだろう。
自分が初めてライバーとして配信を開始するという思い出深い日のはずなのだが、その初配信の内容は多くのライバーも経験する黒歴史そのものなのだ。
まず、手を振る下手くそな絵!聞くものを不安にする不気味な自作のジングル!そして何より最後の配信事故!いくら初日とはいえ今思い出してもあれは酷い。
当時はそもそも恥ずかしいという感覚があまりなかったため気にしていなかったのだが、歳をとるにつれ羞恥心は大きくなっていき今では完全に若気の至り状態である。
あれがこれから多くの人に見られるというのはヤチヨにとっては罰ゲームそのものなのだが、それをなかったことにするのはできない。
そのため、せめて家族同然のミコトに見られることだけはなんとか防げないかと思ったが、彼はもう寝ているか他のことをしているはずだ。
「ん?」
そんなことを考えているとちょうど彼のアカウントが何かの動画を見だした。
時刻は24:00
......いや、まさか?まさかだよね?
だってまだ枠を立ててから30秒も経ってないのにピンポイントで見つけられるわけがないのだ。
そう、あらかじめかぐやという名前のchが今日作られることがわかっていない限り。
私にかかれば彼のアカウントがなんの動画を見ているのかは管理者権限で簡単にわかるのだ。普段は彼のプライバシーのためにこんなことはしないのだが、あまりにもタイミングが良すぎたため、気になって調べてみる。
すると──
「な、なんで......?」
最悪の予感が当たってしまった。
本来ならライブの後数日挟んで初配信という流れらしいんですが、ここではライブ後すぐに初配信という流れにしています。映画だとそんな感じでしたし。