すいません、昨日一瞬だけ間違えて少し先の話を投稿してしまいました。見ちゃった人は忘れてください。
なんとか気を持ち直した俺とかぐやはあまり視聴者を待たせるのもよくないため、さっそく練習を開始することにした。
「それで、かぐやさんの武器はハンマーで良かったんですよね?」
かぐやの持つ武器はジェット付きでうなぎ型の弾丸も発射できるハンマーであった。機能盛り盛りすぎないか?
「そう!これで敵を木っ端微塵にするの!」
発言が物騒だなぁ......
「じゃあ実力を見たいのでちょっとかかって来てみてください」
まず、手っ取り早く手合わせして実力を見ることにする。
「おっけー、とりゃあ──!」
次の瞬間、ハンマーが唸りを上げた。
ブン、と空気を裂く一撃。だが――
(......遅い)
大振りで、直線的。
見てからでも余裕で対応できる。
半歩ずらし、刃で軽く触れる。
それだけで軌道は逸れ、地面を叩く衝撃だけが虚しく響いた。
:すげえ、全然当たらん
:え、なんでちょっと剣当てただけでハンマーの軌道ずらしてんのこの人?
「くっそ──!なんで当たんないのっ!?」
かぐやは自分の攻撃が全く当たらないことに対して驚きと悔しさの混ざった声をあげた。
相手をしていて改めてわかったがやはり......
(このままだと、帝さんにはまず当たらないな)
一方的にあしらわれて終わる。そんな未来が容易に想像できる。
そこである方法を提案してみることにした。
「ちょっと武器を交換してみますか?」
「
「ないですけど......まあ、大丈夫です」
かぐやの長所はその圧倒的な学習速度。
特に目で見て覚える能力がとてつもなく高いのだ。
そのため、自分でひたすら使うよりも俺が使っているのを見て学ぶ方が早いはず。言葉よりも実演だ。
幸い同じハンマーをヤチヨが使っていたため、使い方はわかる。
そうして、かぐやに片手剣を差し出し、ハンマーを受け取る。
剣を受け取ったかぐやは「ふお──!」と声をあげ、キラキラとした目でさまざまな角度から眺めていたが、その輝きはすぐにしぼんでいき、最後は理解できないものを見るような目をしてこちらに言い放った。
「......なんでこんなつまんない武器使ってんの?」
なんででしょうね(怒)?
自分の武器に比べて何の機能もない剣だということが分かりがっかりしたようだ。
普通の人が聞いたら怒るようなデリカシーのない発言だが、実際俺もそう思う。
思うが......
「まあ、ただ......思い入れもあるんで。意外と気に入ってるんですよ、この剣」
「......」
「......?なんですか?」
かぐやが俺の顔をじーっと見てくる。
「......ミコ!今すっごい良い顔してた!」
「はっ?良い顔っ!?」
「うん!それ大切な人から貰ったんでしょー?」
「......っ!ち、違いますけど......?」
:図星だな
:今のは完全に惚気てる顔だった
:ヒューヒュー
コメント欄がうるさいなぁ!
「あーもう!くだらないこと話してないで実演に入りますよ!」
これ以上掘られる前に、強引に話を切り上げる。
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かぐやside
「いいですか、ハンマーっていうのはただ振り回せばいいものじゃないんです」
そう言って、ミコは手の中のハンマーを軽く振り上げた。その動作に無駄はなく、風すら遅れてついてくる。
「腕で振るんじゃなくて肩と腰を使って、遠心力を利用するんです」
「......!」
重いはずの武器が、彼の腕の中では流れるように戻ってくる。その動きには「振るう」というより、「導く」という表現が似合う。
重さも反動も、すべて計算し尽くしている感じだ。
「そして、振り下ろすんじゃなくて、“落とす”」
そう言った次の瞬間、ヒュッ、と風を切る音が聞こえ──
ドンッッッ
と地面が鳴った。
衝撃は音よりも先に伝わり、足元の砂利が跳ね上がる。亀裂が蜘蛛の巣のように広がり、まるで大地そのものが悲鳴を上げたかのようだった。
明らかに私が振るった時よりも速く、そして重かった。
彼はハンマーは使ったことはないと言っていたが、それでも今まで見た誰よりも扱いが上手かった。
「......」
私は手元にある剣を見ながら思う。
きっと、彼にはこの剣よりももっとふさわしい武器があるはずなのに......なんでこの武器を使っているんだろうと。
それと同時にそんな彼が、この武器を使うのにこだわるほど大切に思っている相手のことが気になった。
脳裏に浮かぶのは、さっきの表情......
あの一瞬だけ見せた、柔らかな顔──
......この剣を彼に贈った人は、一体どんな想いを込めて渡したのだろうか?
もしかしたら、それは──私が彩葉に抱いている感情と同じなのかもしれない。
そう思い、私は生まれた時から共にあるブレスレットを触る。
「ちょっと!ちゃんと見てますか?」
「......!見てる!ちゃんと見てるから!」
いけない。物思いに耽って見ていなかった。ちゃんと見ないと──
そう思い改めてその流麗な動きに目を奪われる。
きっとこんな手本を見る機会はもう二度とない。私は1秒たりとも彼の動きを見逃さないように目に焼き付けていた。
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ミコトside
「じゃあ今度はこの状態で試合してみますか。ハンマーと対戦することでわかることもありますから」
「わかった!」
そうして今度は武器を変えた状態で対峙する。
「せいっ!やっ!」
かぐやは武器が軽くなったため、先ほどよりも幾分か速い動きで何度も攻撃してくるがそれでも当たるほどではない。
半歩引き、いなし、空振らせる。
「もーー!ズr」
「ズルくありません」
「かぐやが言い切る前に否定すんのやめてっ!?」
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次に遠距離での戦い方を教えるために、今度はうなぎ型の弾をかぐやに向けて放つ。
「これを撃つ時は標準よりも少し上に相手を捉えた方が当たります」
「そうなんだー!ふふん!でも、かぐや避け......ぎゃふんっ!?」
言い終わる前に、うなぎ型の弾が命中する。
:避けた先にもう1発打ち込んでたな
:あらかじめ行動を予測してたのか
:こわE
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配信を開始してから1時間ほど経ち、そろそろかぐやの集中力が切れてくるだろうと思い休憩を挟むことにする。
「疲r」
「そろそろ休憩にしましょうか」
「え?......あ、うん」
言いかけた言葉を先に取られ、かぐやが小さく頷く。
:ミコさんめっちゃ気が利くじゃん
:気が利くっていうか、さっきの見た感じ人読みが得意なのかな。
かぐやちゃんの行動を予測しきってる感じ
:さては相当なかぐやオタクだな
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最終的に武器を戻し、今日の練習の成果を確かめることになった。
「ふんりゃ──!」
気合いとともに、かぐやが踏み込む。
振り上げ、回し、――落とす。
さっきまでとは違う。
軸は安定し、無駄な力みも減っている。
「いいですね。だいぶ良くなってますよ」
「ほんと?やったーー!......でも全然攻撃当たんないんだけど!?」
実際、配信を始めた時と比べたら動きはかなり良くなったと思う。
だが──
(これだとやっぱり帝さんに勝つのは無理かなー)
それだけプロとアマチュアの差はやはり厚く、このままいけば過去の結果通り、明日のKASSENは敗北するだろう。
そう判断し、もうそろそろ配信も終わろうと思った、その瞬間。
「オラァっっ(怒)!!」
なんと攻撃が当たらないことにしびれを切らしたかぐやが怒りの掛け声とともにハンマーをぶん投げてきたのだ。
「っ!?」
予想外の行動に反応が遅れる。そして、
ガッッ!
肩に鈍い衝撃が走る。
ハンマーはそのまま俺の肩に当たり飛んでいった後、地面に落ちていった。
「やっ、やったーー!当たったーー!」
:おっ、初めて当たった
:初ヒットおめでとう
今日初めて攻撃が当たったことに歓喜して、両手を上げて飛び跳ねる。
(......帝さんにも攻撃を当てられたことはなかったんだけどな)
やはり、かぐやの武器はその"意外性"なのだろう。これならば明日一矢報いるくらいは出来るかもしれない。
「おめでとうございます。動きもかなり良くなりましたし、今日はこれくらいで終わりますか?」
「うん!今日はありがとう!師匠っ!!」
「......師匠はやめてください」
「えー、なんでー!かっこいいじゃーん!」
:ミコさん物腰が丁寧でいい人だったな
:かぐやちゃんもよう懐いとる
:優しい世界だ
「じゃあ今日の動画はここまで!またね〜!」
:乙
:明日楽しみにしてる!
:またねー!
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「.....で、これは何?」
タブレットで今日のKASSEN動画のアーカイブを流し終えたヤチヨが静かに問いかけてくる。
「えっと......」
配信終了後、俺は自室でタブレットに向かって正座をしていた。
「私の聞き間違いかなぁ?確かこの前質問したときに......
「え〜と、いやー、その.....」
よくよく考えればあの質問は未来を知るヤチヨからの誘導尋問だったことに気づく。
くそっ!はめられたっ!
「いやほんと、たまたま誘われて断れなくって......」
「断れないのに私には“絶対出ない”って断言したんだ?つまり、私の配信には絶対出ないくせにかぐやの配信にはいつでも出るんだ......へぇ」
なんで絶対とか言ったんだ過去の俺!お前のせいで現在進行形で酷い目にあってるぞ!
「だらだらだら」
そんな後悔ももはや遅く、ヤチヨからの尋問に背中の汗が止まらなくなる。
「特にここなんかさぁ.....」
そう言ってヤチヨは動画をある地点まで巻き戻す。
今日の配信時のふとした休憩シーンが流れ出す——
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さっきまでの激しい展開が嘘みたいに、空気がゆるむ。
コメント欄もどこか穏やかで、雑談の気配が漂っていた。
『ねえ!なんで今回このオファー受けてくれたの?』
かぐやが身を乗り出すようにして問いかける。
さっきまでの真剣な顔とは違う、少しだけ甘えた声音だった。
『そりゃ、自分もかぐやさんのファンなので。推しが困っていたら放っておけませんよ』
:え、今のやばくね?
:自然に言うな
:解釈一致
できるだけ平静を装って答えたつもりだった。
でも、その一言は思っていたよりもまっすぐに届いたらしく——
『推し......!』
かぐやが、その言葉をゆっくりなぞるように繰り返す。
ほんの少し、嬉しそうに。
『じゃあかぐやのこと何番目に推してるの〜?』
にやり、と悪戯っぽく笑う。
明らかに“試している”質問だった。
『え。......』
ほんの一瞬、言葉に詰まる。
その間を、コメント欄が見逃すはずもない。
:あっ
:詰まったぞ
:正直に言え
『......そ、それはもちろん1番に決まってるじゃないですか!あははー』
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俺が笑っているところで動画が一時停止される。
"あははー"じゃないんだが? ......原因100%これだろ。
「いや、これはなんていうか......面接の時と同じで実際は違っても御社が第1希望ですって言うじゃん?それと同じだよ!ましてや配信中だし!」
「ふーん.....」
まずい。そろそろヤチヨの俺を見る目が絶対零度を超えてきそうだ。
「て、ていうか今忙しいんじゃないの?俺の事なんていいから仕事に戻って大丈夫だよ?」
ヤチヨは今忙しいはずなので無理をしているんじゃないかと思い、俺なんかのことよりも自分のことを優先して欲しいと伝える。
断じてこの状況から逃げたいがために言っているわけではない。
「何言ってるの?
と優しげな笑顔で言い放つヤチヨ。
今だけは言われて1番嬉しくない言葉であった。
そうしてなにか次の策を......と悩んでいるとヤチヨが地獄に降ろされた蜘蛛の糸のように一筋の希望を示してくれた。
「まあ、今回はかぐやのためにやってくれたみたいだし、一個お願い聞いてくれるなら......許してあげる」
「え、まじ?お願いって?」
この状況から助かるならよほどのことじゃない限り聞くけど
「私の配信に出て、とは言わないから......今度、また一緒にツクヨミを回りたいなーって......」
そう言ってヤチヨは期待を込めた目でこちらをチラッと見てくる。
(ツクヨミを回りたい、か......そんなお願い、もちろんーー)
「え、無理。ヤチヨと一緒にいるところをファンに見られたら殺されるし」
「......」
「......」
俺が拒否するとしばらく無言の空間が続く。そしてーー
「......は?別に大丈夫でしょ。ミコトなら1回2回殺されるくらい」
「おまっ!?8000年来の相棒に何てこと言いやがる!!」
「ミコトが悪いんでしょ!!もうっ!ミコトといい彩葉といいどうして私の周りの人は"違う私"ばっかりを──!!」
結局その日はFUSHIに仲裁してもらいなんとか事なきを得た。
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おまけ
一方隣の部屋では──
「かぐや、私の言いたいこと......わかるよね?」
帰ってくるなり背後に般若を浮かべながら話す彩葉を見て、怒られるのを即座に察知したかぐやは
「い、いろはぁ......許して......?」
そう言って手でピースを作り、彩葉の方へと向ける。
かぐや考案のハンドサイン、仲良しのやつである。
これをすれば仲直り間違いなしだと考え実行したが......
「そんなんじゃ誤魔化されないから!!あんた本当にわかってんの!?」
がしかし、怒り心頭の彩葉には通用しなかった。
「うわ〜〜〜ん!ごめんなさ〜〜〜い!」
「謝るのは私にじゃなくてミコさんにでしょ!あんたはほんとにいっつもいっつも......」
その後もしばらく説教は続き......
「びえ〜〜〜ん!足じびれだ〜〜〜!」
「泣き言言わない!まだ説教終わってないよ!」
1時間ほど正座した状態で怒られ続けたかぐやは人生で初めて正座で足がしびれるという経験をしたのだった。
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ミコトside
「あ〜、酷い目にあった......もうぜっt......もう二度と配信になんて出ない......」
そう心に誓いながら、ヤチヨのいなくなったタブレットを片付けようと手を伸ばす。
――その時、指先が軽く触れた拍子に。
「......あ」
意図せず、画面が反応した。
一時停止したままになっていた映像が、勝手に再生される。
──────────────────────────
『......そ、それはもちろん1番に決まってるじゃないですか!あははー』
少しだけ声が上ずったが、無理やり笑って誤魔化す。
『......ふーん』
かぐやはすぐには返さず、こちらを見ながら、ほんの少しだけ首を傾げる。
『“もちろん”にしては、ちょっと考えなかった〜?』
軽い口調なのに、完全に見抜かれていると分かる声音だった。
『そういうとこ......見逃してくれないんですね』
苦笑まじりに返す。
妙に勘が鋭くて、逃げ道を残さないところとかはヤチヨに似てるな......そんなことを考えていると、
『じゃあさ』
かぐやが、じっとこちらを見つめたまま口を開く。
試すようでいて、どこか期待するみたいに。
無邪気に笑いながら、それでも真っ直ぐに言い切った。
『......じゃあ、かぐやがちゃんとミコの1番になれるように頑張るね!』
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その瞬間。
指が、一時停止ボタンの上で止まった。
巻き戻すでもなく、進めるでもなく、ただ少しだけ見つめてしまう。
「別に、頑張らなくても──」
思わず、独り言がこぼれた。
誰に聞かせるでもない、小さな声で。
「──もう、とっくに1番になってるっての」
言ったあとで、ほんの少しだけ気まずくなる。
誰もいない部屋なのに、なぜか見られている気がして。
タブレットの画面を、そっと伏せた。
ちなみにかぐやからミコトへの恋愛感情は皆無です。