8月18日
かぐやと配信をした次の日。
昨日の配信の影響もあり、かぐやの順位は43位へと上がっていた。
さらに、昨日配信が終わった後、帝さんからメールが届いた。
【配信見ましたよミコさん。あれだけ人前に出るのを嫌がってたのにどういう心境の変化があったんですか?もしかしてライバーとしてデビューする気になったんですか?......まあでも、そんなミコさんと愛弟子のかぐやちゃんには悪いですが、明日の試合は俺たちが勝たせてもらいますよ。 帝アキラ 】
案の定、昨日の特訓の成果は相手に確認されていたようだ。それでも、メールの文体からも自分たちの勝利をまるで疑っていないことがわかる。
......ていうかライバーには
いよいよあと1時間でヤチヨカップ優勝者が発表されるのだが、発表の前にもう一つ大きなイベントがある。
それが──
『注目のイベントが始まります!王者ブラックオニキスが異例の速度でのし上がった超新星かぐや・いろPに宣戦!そしてまさかの求婚!運命を懸けたKASSENが今まさにここツクヨミ特設スタジアムで始まろうとしています!』
例の如く元プロゲーマー・乙事照琴と忠犬オタ公が実況と解説を務め、会場を盛り上げる。
超満員の会場の中、俺もこの対決を見届けるために来ていた。会場はフィールドを上から見下ろすことができるようになっており、幸いなことに最前列の席を取ることができた。
このKASSENの結果についてはもう知っているのだが、単純に試合内容については気になるため、わざわざ早めに来てよく見える席を取ったのだ。
フィールドにはもうかぐや、いろP、そしてまみまみの3人が揃っていた。
かぐやにも今日のKASSENを見にくることは伝えているため、せめて精一杯応援はしようと思い、今か今かと試合が始まるのを心待ちにしていた。
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彩葉side
「はーあ。なんでこんなことに......」
私は今ツクヨミの特設スタジアムにいる。
これから世紀の竹取合戦という名のKASSENに参加してブラックオニキスと戦わなくてはならないからだ。
それを考えると普段は特になんとも感じない着ぐるみが、今日はやけに重たく感じられた。正直、出来ることなら今すぐに帰りたい。
「まかせてよ彩葉!かぐや昨日めっちゃ特訓したから、よゆーで勝っちゃうよ!」
私が不安になっていると勘違いしたのか、かぐやが励ましてくる。
──いや、そもそもこうなってる原因、あんただからね?
そんな思いも届かず、かぐやはいつも通り飄々とした様子で、観客席をキョロキョロと眺めていた。
かぐやの言う"特訓"とは昨日の配信のことだろう。
昨日の配信が終わった後、私は急いでミコさんに謝罪のメールを送ったのだ。
【本日はかぐやが失礼な振る舞いをしてしまい、大変申し訳ありませんでした。また、勝手な判断でミコさんを巻き込んだことや、直前まで配信することを黙っていた点について、本人にも注意し反省しております。お時間を取らせてしまったこと、心よりお詫び申し上げます。 いろP 】
......まったく、ちょっと目を離すとすぐにとんでもないことをやらかすんだから。あっ、飽きたからって犬DOGEと遊ばないの!
かぐやが犬DOGEと戯れ始めようとした、その瞬間──
バーーーーーン!!
会場上方の岩が、爆音とともに吹き飛んだ。
『来ましたァ!黒鬼です!』
実況の声とともに趣味の悪い虎のバイクに乗ってブラックオニキスの3人が登場する。
そして、派手な余興を終えると、彼らはこちらへと歩み寄ってきた。
「どーも、対戦受けてもらってありがと」
「あ、あばばばばっっ」
隣を見ると、チームメイトの真実が目に見えて挙動不審になっていた。真実はブラックオニキスの大ファンなのだ。
「あの私っっ......ふぁふぁファンでっっ......!」
震える声でそう告げる真実に対し、帝は──
「まみ、悪いけど今日は手加減できない」
そんな甘いセリフとともにウインクを放った。
「っっっっ!!」
その一撃で、真実のHPはゼロになった。
胸を撃ち抜かれた真実はくるくると回った後、パタリと倒れてしまった。
「真実っ!?大丈夫!?」
突然倒れた真実に慌てて駆け寄る。
......よかった、幸せすぎて気絶しているだけのようだ......いや、よくないか。早く起きてKASSENに参加してもらわないと。
そう思い、色々な食べ物の写真をスライドして見せていく。普段の食い意地のはっている真実ならこれで起きるはず......なのだが──今は全く起きる気配がなかった。
くそっ、試合前に精神攻撃でメンバーを削るとは......なんて卑怯なやつだ!と帝を睨みつける。
でも、どうしよう。このままだと3対3の対戦でメンバーが1人足りなくなってしまう。
急だけど代わりに芦花を呼ぶしかないか......と考えていると
「かぐやに......んっ。任せて!さっきちょうどいい人が会場にいるの見つけたから!」
かぐやが気絶した真美からむしり取ったおにぎりをむしゃむしゃと食べながらいかにも自信ありといった表情で言ってくる。
食べながらしゃべんな。
"ちょうどいい人"......? 芦花のことかな?
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ミコトside
(あっ、なんか倒れた。)
モニターを見ているとかぐやのチームメンバーの1人が突然倒れてしまった。
大丈夫かな?と心配になるがここまでは既定路線であり、この後ヤチヨがかぐやのチームに参戦することを俺は知っている。
そして、かぐや、酒寄さん、ヤチヨという即席チームで戦うことになるのだ。
そろそろ、空から玉手箱が落ちてきて、ヤチヨが――
......来なかった。
(......あれ?)
待てど暮らせど、なぜかヤチヨは現れなかった。
(......え?ヤチヨ?)
なにかトラブルでも起きたのだろうかと心配になるが、ただ単純に準備に手間取っているだけかもしれない。
改めてモニターを見てみると、かぐやがなにやらウィンドウをいじくっていた。
何をやっているんだろう?
と疑問に思っていると、ピロンとメッセージを知らせる通知が鳴った。
「......?」
今は観戦中のため後で見ようと思い、無視してモニターに視線を戻すと、かぐやが1人だけカメラとは違う方向を向いていた。
(どこ見てんだ......あいつ?)
気になったため、今度はモニターではなく、実際にかぐやがいるスタジアムの方へ目をやると......
「────」
かぐやが、じぃぃぃっとこちらを見ていた。
「......?」
(......まさか、こっちを見てる?)
心なしか目が合っているような......いや、そんなわけがない。ファンがよく勘違いする「今のは絶対俺のことを見てたね」っていうやつだろう。
──そう、思いたかった。
すると、かぐやがふっと視線を落とし、ウィンドウを操作する。
ピロン!
再び通知音が鳴る。そして──
スッ─ (ㅍ_ㅍ)
今度は、はっきりとこちらに視線を向けた。
......あ、ダメだ、完全に目が合ってる
どうやら“勘違い”という希望は、ここで死んだらしい。
その後もかぐやはこちらを見たままウィンドウを操作し続け──
ピロン......ピロン....ピロン..ピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロ
その度に通知音が鳴り続けた。
いや、こわいこわいこわいって!
というのも、さっきからメッセージがチラッとだけ表示されるのだが──
:いるのわかってるよ
:なんで無視すんの?
:メッセージ見て
:見て
:見ろ
という文字が高速で現れては消えていく。
だから怖いんだって!
(いやだ!このタイミングでのメッセージとかもう嫌な予感しかしないもん!俺意地でも見ないからな!!)
そう心に決め無視を強行していると、酒寄さんが慌てる中、かぐやが何やらハンマーを構え始めた。
(あっ、ちょっ、バカっ!ハンマーのジェット付けて飛んでこようして来んな! ......ヤチヨーー、早くきてーー!頭のおかしい子がかっ飛んでくる!)
もう、最終手段としてツクヨミからログアウトしようとしていると
ヒュ──────カンッ!
「じゃっじゃ〜ん!呼んだー?」
俺の祈りが通じたのか空からヤチヨがやってきた。
その後、結局かぐやのチームにはヤチヨが入るということで双方が同意し、2つのチームがそれぞれの待機場所に分かれていく。
それを眺めながら、俺は自分が大人数の前で配信に映らなくても良くなったことに安堵する。
(助かった〜。できればもう少し早くきて欲しかったが......ん?)
移動する3人を見ていると、最後にかぐやがムスッとした表情でもう一度だけこちらに視線を向けてきた。
(こっち見んな。はやく準備行け)
そんなハプニングがありつつも、ようやくブラックオニキスとのKASSENが始まったのだった。