KASSENはほとんどダイジェストです。
そして、始まったKASSEN。
まず第一試合目
ブラックオニキスはトライデント。
対するかぐやチームは、トップにかぐやといろP、ボトムにヤチヨという布陣だった。
今回のヤチヨはバフ付きだ。ベータテスト時とは違い、単独でも相手と十分に戦えるだろう。
そして、トップレーンで2人と帝が交戦する。
数では勝っているはずの状況──だが、昨日の特訓も虚しくじわじわと押し込まれていく。
そのため、少しでも勝率を上げるためにいろPさんがついに着ぐるみを脱いだ。
うおお────!
会場がどよめく。
初めて晒された酒寄さんのアバターに、歓声が爆発した。
(まあ、俺は知ってたけどね......!)
1人で優越感に浸っていた次の瞬間──
『お──っと衝撃の告白だー!帝といろPは兄妹だった〜!?』
(......え?なにそれ知らないんだが?)
突如驚愕の事実を知らさせた。
あの2人兄妹だったのか。だから、帝さんは妹のために今回の対決を......?
いや、あの人シンプルにかぐやファンだからそんなこと考えてないかもしれないな。
そんなことを考えつつも試合は進み、結局ブラックオニキスが両チームの櫓を占拠して勝利した。
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続く第二試合目
両チームが互いに同じフォーメーションで試合開始。
もう後がないのに大丈夫か?と心配していると
「どおぉぉぉりゃあぁぁぁ!!」
かぐやが、空から降ってきた。
そのまま一直線にボトムへ突入し、櫓を強奪する。
どっから現れたんだ!?と困惑する中実況の声が響く。
『メロンパンあげると乗せてくれるとかwww 初耳ンゴwww』
どうやらレプトケファルスという空を飛んでいる魚に食べ物をあげると背中に乗せてくれるらしいのだ......
──いや、俺もそれ知らなかったんだが!?
またしても知らない情報が入り込んできた。
ベータテストどころか今までのプレイでも報告されていない事象のため、かぐやが初めて見つけたことになる。
(これ、ヤチヨがわざとそういう設定にしたな?)
おそらくヤチヨが今日の試合のために隠し要素として組み込んでいたのだろう。
そんなかぐやの奇策が見事にハマり──
2試合目はなんとかかぐやいろPチームが勝利をもぎ取った。
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最後の第三試合目
両チームが櫓を各々取得し、かぐやといろPさんはジャンプ台から櫓へ向かう。
そして、そこで今日3度目となる帝との一騎打ちとなる。
しかし、相変わらず帝が優勢。このままではマズイと思っていると
(武器の入れ替えか!)
いろPさんの手にはハンマー、かぐやの手には双剣が握られていた。特訓で俺の剣を使っていたこともあり、その動きはなかなか様になっていた。
不意を突かれ、帝がわずかに動揺する。
だが──それでも届かない。
かぐやに銃口を向けた帝が、とどめを刺そうとした
──その瞬間。
(ん?......フィールドに何か光るものが......)
俺の目がモニター越しにフィールド中で光る何かを捉えた。
その次の瞬間──
いろPさんが双剣でワイヤーを一気に巻き取り、帝を締め上げ拘束する。
上げ拘束する。
(......なるほど。先ほど武器を交換した際にハンマーにワイヤーを付けていたのか)
「かぐやの考えることくらい、わかってるっつーの!」
そして、剣を振りかぶり帝を一刀両断した。
ここからでは聞こえなかったが、帝が優しい表情で何かを言い残し、そのアバターは桜の花と共に散っていった。
これであとは天守閣に向かうだけ。
「彩葉が危なくなったら、かぐやが助ける!」
「かぐやがミスっても私は置いてくー」
「なんで!?」
「あははっ」
屈託のない笑い声が重なる。
2人とも心の底から笑いあっており、2人の関係性が明確に変わった瞬間だった。
そしてかぐやが天守閣へ続く階段を駆け上がっていく。
誰がどう見ても勝ちは目前。
だが──
(……まあ、かぐやだしな〜。どうせここで......)
妙な確信があった。
「うぇーい、勝ち確ぅ〜〜〜!!......え?」
次の瞬間、ドヤ顔を晒したかぐやは炎と共に上空に舞い上がった。
(うん、知ってた)
期待を裏切らないそのやらかしに、むしろ安心する。
結局帝が天守閣を爆破し、KASSENはブラックオニキスの勝利で幕を閉じた。
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「いと大義〜〜〜★」
KASSEN終了後、巨大な鳥居の上でヤチヨが声を張る。
「とーっても楽しいKASSENでした。そして、たった今!ヤチヨカップの投票を締め切ったよー」
その前方には参加したライバーや観客が集められており、全員が緊張した面持ちで結果発表を見守っていた。
「それではヤッチョとコラボる人を、発表〜〜〜!」
夜空に巨大なスクリーンが出現した。
ツクヨミの全ユーザーが注目する中、棒グラフが縦に伸びていく。続けて下から順番に凄まじい速さで参加したライバーの名前が発表されていった。
「この期間中もっとも新規ファンを獲得したのは〜〜〜★」
ヤチヨが会場を盛り上げようとする中、かぐやはというと──
「ぶうううぅぅ〜〜〜〜〜」
KASSENで負けてしまったため、もう優勝はないと諦めてしまったのか、体育座りで地面に指をクルクルとして、完全にいじけていた。
(うわ、めっちゃ拗ねてる。ガキかお前は......いや、生後一ヶ月だったわ)
「ヤチヨカップの優勝者は〜〜★」
おそらく会場の人のほとんどがブラックオニキスが勝つと思っていたことだろう。実際にブラックオニキスのグラフがぐんぐんと伸びる中その隣にもう一本のグラフが現れた──そして、そのグラフはブラックオニキスを追い抜き
「かぐやいろP〜〜〜!!」
今日1番の歓声があがり、2人がライトで照らし出される。
「えっ、負けたのに、えっ⋯⋯やっやっ⋯⋯やっっっったああああああああああぁ!」
天へ拳を突き上げ、酒寄さんと喜びを分かち合っていた。
その最中、ブラックオニキスの3人がかぐやといろPさんのもとへとやってきた。
「やばっ、結婚!?」
かぐやが、はっとした顔になる。"敗北=結婚"という約束を思い出したらしい。
一瞬、帝さんを闇討ちする未来が脳裏をよぎったが、どうやら本当に結婚をするつもりはなかったようで
「じゃ、俺はファンのところに行くから」
と言いこちらへ歩いてきた。
そして歩いてくる最中、少し後ろの方にいた俺をチラッと見て
「あれ?ミコさん?来てたんですか」
見知った間柄を見つけたからか、こちらに声を掛けてきた。
(ちょっ!バカ!なんで今話しかける!?)
今名前呼ばれたら......
「あ───!ミコ───!!」
案の定、俺がいるのがかぐやに即バレた。ドスドスと足音を立てながらかぐやが一直線に近づいてくる。
「さっき、かぐやのメッセージ無視したでしょ!」
「......なんのことですか?」
「ウソ!絶対に目合ってたもん!ミコに試合出てもらおうと思ったのに〜!」
酒寄さん、聞きましたか? お宅のやんちゃっ子、また勝手に俺のこと試合に出そうとしてたんですけど。ちょっと叱ってやってください......あっ、くそ、聞こえてないや。
「まあ、結果的に優勝できたんですからよかったじゃないですか。おめでとうございます」
「それはそうだけど......うーん、ありがとう......」
無視されたことと優勝をお祝いされたことにより、怒ればいいのか喜べばいいのかで感情が迷子になっているようだ。
「なんだ、ミコさんが出てくればまた戦えたのに。惜しかったな〜」
帝さんが人の気も知らず、軽い調子で言ってくる。
「こっちはまた戦うなんて
この前の配信でも若干炎上しそうになってたんだから、今日出てさらに敗北なんてしようものなら一体どうなっていたことか。想像しただけで寒気がしてくる。
「じゃあ、ミコさん。また今度」
そう言い残し彼はログアウトしていった。
その背を見送った直後。
「ミコさんって、お兄ちゃんと知り合いだったんですか?」
今度はいろPさんが話しかけてくる。
「ただのフレンドですよ。こっちもいろPさんと帝さんが兄妹だなんて初耳でしたよ」
当たり障りのない返答をすると、彼女はこちらにじっと、疑うような視線を向けてくる。
「......なーんか、ミコさんって色々隠してますよね?KASSENの開発にも関わってたり、ヤチヨとも知り合いっぽかったですし......」
「いや、その......」
なんならあなたの隣に住んでますが?なんて言おうものなら、即通報案件になりそうだ。先に住んでたのこっちだけど。
とにかく、今の時点では酒寄さんに言えないことが多すぎるため、言葉に詰まっていた、その時──
「ふったりっとも〜。よ〜きかな〜〜★」
結果発表を終えたヤチヨが、空から降りて来た。そして、そのまま2人に抱きつく。酒寄さんはというと
「っっっ!......っっ!?」
突然最推しであるヤチヨに抱きつかれたせいで、ろくに声も出せずに鯉のように口をパクパクとさせていた。
「やるじゃねーか、マグレに頼る天才だな!」
続いてFUSHIもかぐやに対して憎まれ口をたたく。
FUSHIは普段はあんな態度ではないんだが......
どうもかぐや相手だと、色々な感情を拗らせてしまうらしい。
「なんだと〜!」
かぐやがFUSHIを掴み、リフティングを始めた。
「わっ、やめてっ、こわい〜!」
悲鳴をあげるFUSHIを慌ててキャッチし、胸ポケットに避難させる。
そうして、3人から距離をとってFUSHIを撫でてやる。
「ミコト〜〜〜!」
よーしよーし、怖かったな〜。
「かぐや、彩葉、よく頑張った!」
ヤチヨが二人に惜しみない賞賛を送る。
(......ていうか)
ふと、違和感がよぎる。
KASSENの時も思ったけど、酒寄さんの名前普通に呼んでないか?
まあ、かぐやが、(プレイヤーネーム?なにそれ?おいしいの?)とばかりにバンバン本名を公開してるからいいのかもしれないが......
それを受けた当のかぐやは──
「うぇへへぇ〜〜〜/」
と表情が緩みきっただらしない顔を晒していた。
顔やばいぞ。なんとかしろ?
「んー、でも、全然だめだったあ。どうしたらヤチヨとかミコみたいにしゅばばって動けるの?」
「それはもう、日々の努力の玉藻の前というか〜〜、気まぐれアメンボロードというか〜〜」
日々の努力に関しては同感だが......そんな古いネタ最近の若い子には伝わんないだろ......
「はぁ? ヤチヨって、いっつもテキトーじゃない?」
過去の自分に痛いところを突かれたのか、ヤチヨがわずかに言葉に詰まる。
「んっん......ヤチヨは優柔不断で悪いやつなのです〜〜。でもね──」
一拍おいて。
「かぐやは、かぐやだから強いんだなって、ヤチヨは思ったよ」
「なんにも言ってないなー」
......8000年が経ち、ヤチヨは確かに昔よりも技術的にも精神的にも大きく成長した......だが、それと同時に"失ってしまったもの"があることも確かだった。
「さて──」
ヤチヨの声音が、変わった。
先ほどまでの軽さが消え、一気に真剣な表情となる。
「ここからはクライマックスに向けてハードな展開が待っているかも。このお話を、最後まで見届けてね? 」
その言葉の意味を──
この場で理解しているのは、おそらく俺だけだ。
......2人は今、これが終わりではなく、むしろ始まりだと思っているはずだ。だが──
彼女たちに残された時間は、
「運命の荒波に揉まれる覚悟はいいかー?」
「おー!」
ヤチヨの言葉を単なる激励と捉えたかぐやは、ツクヨミの夜空に向かって、何も知らず、無邪気に拳を突き上げる。
(......っ)
思わず、胸元を掴む。
その光景を見た俺は、どうしようもなく胸が痛んだ。
明日は出番の少なかったヤチヨ回です。