超かぐや姫! 星の降る音   作:サトウシュン

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23話 夏祭りでの運命的な出会い

 

 

 (おうち帰りたい......)

 

 

 今俺がいるのは、ツクヨミのとある街道。

 

 

 提灯が屋根に連なり、夜だというのにそこだけが昼間のように明るくなっていた。

 

 

 そこかしこから聞こえる屋台の呼び込みの声、遠くで鳴る太鼓の音。

 

 

 やはり夏祭りは、賑やかだ。

 

 

(......で、なんで俺は一人で来てるんだろうな〜)

 

 

 ふと、そんなことを考える。

 

 

 周りを見渡せば、友達同士、カップル。

 

 

 誰かと笑い合っている人ばかりで、ひとりで歩いているのは自分くらいな気がしてくる。

 

 

 今日、ヤチヨに夏祭り行ってこいと言われた後──

 

 

(これ最初にログインして、すぐにログアウトすればいいんじゃね?)

 

 

 と思ったのだが......

 

 

『あっ、言っとくけどログアウトしたら管理者権限でわかるからね?』

 

 

『人の思考読むのやめて!?』

 

 

 とヤチヨから咎められたため、その方法は使えなくなってしまった。

 

 

 人混みの中、ひとりで歩く夏祭りは、だんだんと静かに感じてきた。

 

 

 屋台の呼び声も、周りで一緒にきた人と喋る声も、どこか遠くに聞こえる。

 

 

 浴衣姿の人たちが楽しそうに歩く中、俺だけが少しだけ浮いている気がしていた。

 

 

(まあ、そろそろ帰っても大丈夫かな?)

 

 

 なんかヤチヨに機嫌直しのお土産でも買っていこうか、と屋台に向かおうとしたその時だった。

 

 

 ──ドンッ。

 

 

 俺は見事に誰かとぶつかった。

 

 

「きゃっ......」 

 

 

「あ、すみません!」

 

 

 反射的に頭を下げて顔を上げた、その瞬間。

 

 

 そこにいたのは、浴衣姿の少女だった。

 

 

 金色の髪に、たんぽぽのような花柄の浴衣。そして、澄んだ青空のような青い瞳がこちらを見つめていた。

 

 

「こちらこそ、ごめんなさい。大丈夫ですか?」

 

 

 少女が優しく微笑む。

 

 

「はい......では、これで」

 

 

 互いに、怪我などはしていないようなので、そのまま歩き去ろうとした。

 

 

 その時──

 

 

「待ってください」

 

 

 袖を、ちょこんと掴まれた。そして、

 

 

「これも何かの縁ですので、一緒に回りませんか?」

 

 

 ......はい?

 

 

 確かに1人で回るのは寂しいし、他の友達連れの奴らに憎悪を向けていたりなんかはしていたが......

 

 

「いえ、結構です。1人でいたいので。では」

 

 

 即答である。だって──

 

 

 どう考えても怪しいだろ!!

 

 

 そう思い、その場を離れようとするが──

 

 

「そんな、寂しいこと言わないでください」

 

 

 少女は笑みを崩さずに、ぐいっ、と袖を強く引いてくる。

 

 

 ……思ったより力と押しが強い!

 

 

「少しだけでいいんです。()()とか、()()()()()とか......」

 

 

「いや、ほんと大丈夫なんで!自分、蟹アレルギーなんで!」

 

 

「え、食べるんですか?」

 

 

 真顔でツッコまれた。

 

 

 その間も服をぐいぐいと引っ張り振り切ろうとするが、

 

 

 "逃がさないぞ"とばかりに一向に手の力を緩めようとしない。

 

 

(おかしい!なんでこんな粘るんだ!?)

 

 

 怪しい......というよりもはや恐怖を感じてきた。

 

 

 次の瞬間、彼女が予想外の行動に出た。

 

 

「お願いします......」

 

 

 彼女がこちらに一歩近づく。

 

 

 距離が近くなる。

 

 

「本当に、少しだけでいいんです......」

 

 

「いや、だから──」

 

 

「......ダメ、ですか?」

 

 

 そうして、涙で目を潤ませながら上目遣いで懇願してくる。

 

 

 だが──

 

 

「いえ、本当に結構です」キッパリ

 

 

 

「そうですか!では一緒に......って、えぇっっ!?

 な、なんで!?普段なら簡単にこれでいけるのに......

 

 

 彼女が驚いた後に、なにやら小言でボソボソと言っていた。

 

 

 やはり、これは何か企んでいるな......

 

 

 もはや、なりふりは構ってられないと思い──

 

 

「いや、ほんと!もう怖いんで!離してください......離して......はな、離せ──っ!!」

 

 

 叫びながら、彼女の手首を掴み、強引に引き剥がそうとする。

 

 

 だが──びくともしない。

 

 

 むしろ、絡みつくように指が食い込み、さらに力を込めてくる。

 

 

(ぐっ……離れない……握力どうなってんだ!?)

 

 

 そうしてもみ合いをしている最中、ふと彼女の団子状にまとめられた髪の後ろに、一瞬キラリと金色に光るものが見えた。

 

 

「……ん?それって......」

 

 

「あっ、いや、これは......!」

 

 

 彼女が正面を向き、慌ててバッと髪の後ろに手を当てる。

 

 

 今のは見間違いじゃなければ──

 

 

 俺が前にヤチヨにプレゼントした、金のブローチだった。

 

 

「お前......もしかして──」

 

 

「......っ!!」

 

 少女が焦ったような、そして、ほんのわずかな期待を含んだ表情をする。

 

 

「幸子だろ」

 

「は?誰その女?」

 

 

「やっぱりヤチヨじゃん」

 

 

「あっ──」

 

 

 しまった、という顔で口元を押さえる少女。

 否、ヤチヨ。

 

 

 ......何やってんの?ほんとに......

 

 

 屋台のざわめきだけが、やけに遠く聞こえた。

 

 

────────────────────

 

 

 そうして人混みから少し離れたとこへ移動して──

 

 

「......で、なにやってんすか?ヤチヨさん」

 

 

 俺は、あっさり正体がバレた張本人を冷ややかに見下ろした。

 

 

「さすがミコト!よく私に気づいたね!」

 

 

 なぜか胸を張るヤチヨ。

 

 

「まあ、ブローチを見るまで気づかなかったのはちょっとマイナスポイントだけど──」

 

 

 ヤチヨが何やら言っているが、そんなことは無視して先ほどから気になっていることを聞いてみる。

 

 

「で、その姿、何?」

 

 

 改めて目の前の“少女”を見る。

 

 

 金髪に青い瞳。たんぽぽ柄の浴衣。

 普段のヤチヨのアバターとは、骨格レベルで別人だ。

 

 

「いや、この前ミコトが言ってたじゃん?」

 

 

 ヤチヨは指を立てて、得意げに続ける。

 

 

「“ヤチヨと一緒にいるところ見られたら炎上する〜”って。だからさ、姿変えればバレないかなーって!」

 

 

「発想が軽い......」 

 

 

(でも、実際バレなかったのは事実なんだよな......途中まで)

 

 

 それに──

 

 

「もう一個。なんで初対面のフリ?」

 

 

「ああいうの、憧れない?」

 

 

 間髪入れずに返ってきた。

 

 

「運命の出会い、みたいなやつ!」

 

 

「いや、完全に美人局だったけど」

 

 

「ひどくないっ!?」

 

 

 即ツッコミが飛んできた。

 

 

 ......あの粘り方はロマンの欠片もなかったな。

 

 

 心なしか普段よりもテンションの高いヤチヨに対してそんな感想を抱く。そして、少しため息を吐き──

 

 

「......まあ、いいや」

 

 

「え?」

 

 

「どうせ来たんだし、行くか。夏祭り」

 

 

 一瞬、ヤチヨの目が見開かれる。

 

 

「......いいの?」

 

 

「バレないなら問題ないだろ」

 

 

 それに、と少し視線を逸らして付け足す。

 

 

『私の配信に出て、とは言わないから......今度、また一緒にツクヨミを回りたいなーって......』

 

 

「この前の配信の後、お願い聞いてないのに結局許してくれたし」

 

 

「......」

 

 

「その埋め合わせってことで──」

 

 

 数秒の沈黙のあと

 

 

「......ふふっ」

 

 

 ヤチヨが、楽しそうに笑った。

 

 

「ほんと、素直じゃないな〜〜〜ミコトは!」

 

 

「うるさいっ」

 

 

────────────────

 

 

「ほら、ミコ!射的あったよ!どっちが先に倒せるか勝負しよ!」

 

 

 さっきまでのしおらしい少女はどこへやら。

 ヤチヨはすっかりいつものテンションに戻っていた。

 

 

「あんまりはしゃいで迷子になるなよー、()()

 

 

「なるわけないでしょ!?何歳だと思ってんの!?」

 

 

 ちなみに──

 

 

 今日の間だけ、俺はヤチヨを『ヤチ』と呼ぶことになった。

 

 

 さすがにこの人混みの中でヤチヨと呼ぶのはマズイため、即席で決めた呼び名だ。

 

 

 ......その決定過程は、割とひどかったが。

 

 

『名前、か......じゃあ、ちょうどいいし幸k』

 

 

『絶対に嫌』

 

 

 だいぶ食い気味に断られた。

 

 

『昭和の時はよくいたのに......うーん、じゃあ、一文字とって「ヤチ」は?』

 

 

 俺と同じように最後の一文字取っただけだけど。

 

 

『ヤチ......ヤチ、か......ふ〜〜〜ん/』

 

 

『やっぱ他のにする?あとは文子とか』

 

 

『ヤチでいいから!なんでさっきから絶妙に古い名前ばっかりなの!?』

 

 

 ──という感じである。

 

 

 そして、次に訪れたのはカニすくい。

 

 

「全然取れない〜〜〜!」

 

 

 ヤチヨが情けない声を上げる。

 

 

 ツクヨミのカニすくいは、現実と仕様が違う。

 挟んでこないうえに、とにかく素早く逃げ回るのだ。 

 

 

「まったく。いいか、こういうのはな──」

 

 

 俺はポイを受け取り、水面を軽く揺らす。

 

 

「端に追い詰めてから、一気に──」

 

 

 カニをコーナーへ誘導する。

 

 

 逃げ場を失った一匹。

 

 

 ──勝った!

 

 

 そう思った、次の瞬間。

 

 

 カササササ、ヒュンッ

 

 

 ──カニは壁を駆け上がり、縁を乗り越えて脱走した。

 

 

「「いや逃げるんかい!!」」

 

 

 完璧なハモりだった。

 

 

 

 その後も、色々な出店を回り、時間はあっという間に過ぎ──

 

 

 人の数も一気に増えていく。

 

 

「わっ!ごめんなさい!」

 

 

 ヤチヨが何度目かの接触事故を起こす。 

 

 

(......やっぱ慣れてないな)

 

 

 仕方なく、俺はため息をついた。

 

 

「......袖、掴んでたほうがいいんじゃないか」

 

 

「え?」

 

 

「普段飛び回ってるから、あんまり人混みを歩くの慣れてないんだろ」

 

 

 少しだけ、間が空く。そして

 

 

 ヤチヨがニヤッと笑う。

 

 

「え〜?さっきまで“怖いから離せ”って言ってた人が〜?」

 

 

「......それとこれとは別だ」

 

 

「ふ〜ん?」

 

 

 わざとらしく顔を覗き込んでくる。

 

 

「……(ヤチヨ)にならいいってこと?」

 

 

「......いいから、ほら」

 

 

 俺は視線を逸らしながら、自分の袖を軽く差し出した。

 

 

 一瞬だけ、ヤチヨの動きが止まる。

 

 

 それから──

 

 

「......ありがと」

 

 

 今度は、さっきみたいに強引じゃなく。

 

 

 そっと、控えめに袖が掴まれた。

 

 

────────────────────

 

 

 人混みを抜け、しばらく歩く。

 

 

 やがて、喧騒が少しずつ遠ざかる。

 

 

 そうして辿り着いたのは——

 

 

 人気のない、とある建物の屋上だった。

 

 

 眼下には、祭りの灯りが広がっている。

 

 

 屋台の明かりが点々と連なり、人の流れがまるで川のようにうねっていた。

 

 

「おー、さっすがツクヨミの管理人。いい隠れスポット知ってるなー」

 

 

「でしょ〜?もっと感謝してもいいんだよ?」

 

 

 胸を張るヤチヨ。

 

 

 ......いや、待て。

 

 

「ここって、入っていい場所なのか?」

 

 

「......何言ってんの?」

 

 

 きょとん、とした顔でこちらを見る。

 

 

「私はツクヨミの管理人だよ?入っちゃダメな場所なんてあるわけないでしょ?」

 

 

「今日はただの“ヤチ”なんじゃなかったっけ?」

 

 

「......あ」

 

 

 一瞬だけ言葉に詰まり——すぐに逸らす。

 

 

「ま、まあ細かいことはいいでしょ!」

 

 

 露骨なごまかしだった。

 

 

 まあ、俺も一応ツクヨミの管理者権限は持ってるんだしいいか。

 

 

 でも——

 

 

 ここからの景色は、確かに“特等席”だった。

 

 

 花火の打ち上げ場所がちょうど正面に見える。

 

 

 人混みに揉まれることもない。

 

 

 音も、光も、全部独り占めできる位置だ。

 

 

「花火まで、あと30分くらいか」

 

 

「うん。ちょうどいいでしょ?」

 

 

 そう言って、ヤチヨは屋上の縁に腰を下ろす。

 

 

 少し遅れて、俺もその隣に座った。

 

 

「ミコトはさ」

 

 

 ぽつり、と。

 

 

 さっきまでの調子とは違う声で、ヤチヨが口を開く。

 

 

「この8000年間、過ごしてみてどうだった?」

 

 

 ──その質問は、あまりにも唐突で。

 

 

 それでいて——軽く流せるような問いじゃなかった。 

 

 

 

 

 






ツクヨミの管理者権限ついてはヤチヨ、ミコト、FUSHIが持っています。

あと、ヤチヨの浴衣の花柄はシロバナタンポポです。
花言葉は「私を探して」、「私を見つめて」
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