少し話はとびますが、かぐやたちが引っ越す→ヤチヨとコラボライブ→月人が来る→夏祭りに行く、という流れは原作通りです。その後のかぐやを守るための作戦会議からスタートです。
あと、明日は7時と17時に投稿します。
彩葉side
9月2日
時刻は22時。
私たちはツクヨミ内の屋外ミーティングルームにいた。
本来ならここは雑談や交流のための空間だ。
だが今は違う。
ここにいる全員が、ひとつの目的のために集まっていた。
——かぐやを守るために。
「かあ〜〜、かぐやちゃんが本当に月のプリンセスとは⋯⋯わかるっ!」
何がわかったのかはわからないが、兄である帝アキラが共感の声を上げる。
この場にいるのはブラックオニキスの3人と芦花と真実、さらにはなんとヤチヨまでもが来てくれたのだ。
急な呼び出しにも関わらず、集まってくれたのは本当に感謝しかない。
そして、かぐやの出生、月人の存在、そして迎えが来るという事実。
その全てを話したときのみんなの反応は人それぞれだった。
「築地生まれじゃなかったんだー」
「海行っても肌真っ白だったもんね」
「電柱から生まれた⋯⋯わかるっ!」
正直、こんな話をしても、信じてくれないと思っていたのだが、みんな各々に腑に落ちるところがあるらしく、拍子抜けするほどあっさりと信じてもらえた。
(いや、電柱はわからないでしょ……)
兄にはかぐやの何が見えているんだろうか……と少し不安になる。
とりあえず、先ほどからかぐやを盲信している兄のことは無視して、さっそく作戦を考えていく。
この作戦を考えるにあたって、なによりも頼りになるのは──
「ヤチヨ、かぐやを守ることってできないかな?」
月の管理人であるヤチヨなら、この前突如現れたあの“月人”について何か知っているかもしれない——
そんな期待を込めて聞くが、
「調べてみたけど、どこからアクセスしてるかもわからなかったんだよねー。ごみん……」
申し訳なさそうに肩をすくめるヤチヨ。
「いや、全然!大丈夫だよ!ありがとう!」
どうやらヤチヨでも月人のことはわからないらしい。ヤチヨでもわからないなら誰もわからないということなのだから仕方がない。ヤチヨは悪くないのだ。
その後も色々な案を出し合った。
・前回もライブで注目が集まりやすい時に月人が来たため、ライブを中止するのはどうか?
・そもそも、迎えのくる日にツクヨミにログインしなければ良いんじゃないのか?
・もういっそツクヨミをサーバーダウンさせれば手出しできないのではないか?
などさまざまな案(最後のは絶対無理)が出たが、どれも確信が持てなかった。
──やがて、全員が黙り込んだ。
空気が、じわじわと重く沈んでいく。
このまま——何もできずに終わるのか。
そんな諦めが広がりかけた、その時だった。
「相手が現実で手出しできないなら、ツクヨミで追い払えばいいんでしょ?」
「えっ……?」
帝があまりにも軽い口調で言った。
「なんだよその顔。宇宙人だろうが何だろうが、ツクヨミに来るなら好都合だろ」
ニヤリと笑う。
「ここなら俺たちが一番つえーんだし、引き込んで叩き潰せばいい!そのために俺らを呼んだんだろ?」
なんて脳筋な……という感想が浮かんだ。
……だが、何もできずかぐやを奪われるくらいなら、迎え撃つ方がずっといい。
「……私もやる。何ができるかわからないけど……お願いします!」
覚悟を決めてみんなに頭を下げる。
「よし!じゃあ準備だな、乃依」
「えー、あれー? めんど〜」
「リーダーは絶対」
「はーいはい」
そうして、話はまとまったので、ブラックオニキスはそのまま去るのかと思われたが。
「あっ。そうだ、ヤチヨちゃん」
帝がふと思い出したように振り返る。
「"ミコさん"って参加できないの?あの人がいてくれればだいぶ心強いんだけど」
……ミコさん?
突然この場にいない人の名前が出てきたことに困惑する。
ヤチヨカップの結果発表の時に、兄とミコさんが知り合いだということは聞いた。
それに、ヤチヨと仕事絡みの繋がりがあることも知っているため、ヤチヨに聞いたのもわかる。
だが──
「う〜ん。ミコは……その日はお仕事だから残念だけど参加できないかな〜。まあ、一応聞いてみるよ」
「頼むよ、あの人がいればかなり違うから」
私も、かぐやにKASSENを教えている動画を見て、確かにうまいな、とは思ったが……兄がそこまで言うほどなのだろうか?
「帝、あの人に攻撃一回も当てられなかったもんね〜」
「俺と乃依は当てたぞ」
「うるせぇ!今やったら俺の方が強えって!」
……えっ?そんなに強かったの!?あの人
それだったら、確かに参加してもらえれば大きな戦力になってくれるだろう。
ミコさんもかぐやのことはファンとして推しているのだし、戦ってくれる可能性は高いはずだ。
そして、芦花と真実と少し話をした後。
「あっ、あのさ、ヤチヨ。もう一つお願いしたいことがあるんだけど」
そうして、ヤチヨにかぐやのライブをプロデュースしてもらえないか聞いてみたところ
「おまかせあれ!」
と、どこからか取り出した扇子を開きながら、一言返事で引き受けてくれた。
だが、その直後。
「ただ、」
表情が少しだけ引き締まる。
「そうなると、ヤチヨはKASSENには参加できないかな」
「……そっか。そうだよね」
「当日もかぐやのライブに集中しないといけないし、なにより月人たちがくることで
……確かに、この前も月人が来たときに大規模な通信障害が出ていた。
今回も何が起こるかわからないため、ヤチヨは"ツクヨミを守る側"に回るべきだろう。
「うん、それは大丈夫。ありがとう、ヤチヨ!」
本音を言えば、戦力として参加してほしい。
でも、そこまで頼むわけにはいかない。
……かぐやは、私たちの手で守ってみせる。
そう、決意を固めた。
──────────────────────────
ミコトside
「……ん?」
部屋でパソコンをいじっていると、机の端に置いていたタブレットが淡く発光した。
次の瞬間、画面にヤチヨが映し出される。
「おー、おかえり。なんの用事だったの?」
さっきまで「ちょっと用がある」と言ってツクヨミにログインしていたが、どうやら戻ってきたらしい。
「ちょっと彩葉に呼ばれてね」
「へー、酒寄さんなんて?」
何気ない調子で返すと、ヤチヨは少しだけ視線を逸らした。
「かぐやの卒業ライブについて。場所の確保と演出をお願いできないかって……」
「そっか……チャンネルでも告知してたもんな。それで?あとは?」
「……え?なんでまだあるってわかるの?」
驚いたように瞬きをするヤチヨ。
「分かるよ。卒業ライブの話だけなら、そんな顔しないだろ」
少しだけ笑って続ける。
「もう決まってることだしさ。むしろ“過去の自分よりもド派手に演出してやるー!”って張り切ってるはずだろ」
「……さすが、ミコトには叶わないなー」
観念したように小さく笑い、ほんのわずかに、声のトーンを落とした。
「……それとね。かぐやを、月人から守れないか、って」
「……それは——」
言葉が詰まる。
その続きを、ヤチヨ自身が引き取った。
「うん、分かってる。
静かに、事実をなぞる。
「だから今回は、ライブの演出に専念するって——そう言って断った」
「……そっか」
それ以上、軽々しく言えることはなかった。
少しだけ間を置いてから、問いかける。
「やっぱり……月の奴らって強いの?」
ヤチヨは一瞬だけ考えるように目を伏せてから、頷いた。
「うん。私はライブに集中してたから、全部を見てたわけじゃないけど……」
記憶を辿るように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「みんな、本当に頑張って、私のために戦ってくれてた。でも戦力差はすごいし、敵にやたら強いのがいてさ〜」
ほんの少しだけ、苦笑する。
「……ダメだったんだ」
その一言で、すべてが伝わった。
この卒業ライブのあと、かぐやは月人に連れていかれる。
そして、八千年という気が遠くなるほど途方もない旅に出ることになる。
そんな未来を思い描き、俺とヤチヨの間に重たい空気が流れる。
──それを断ち切るように、ヤチヨがわざと明るい声を出した。
「あ、そうだ!帝くんがミコトも参加できないかって言ってたよ?」
「俺も?……かぐやの卒業ライブのとき、俺って戦ってたのか?」
「うーん……どうだったっけ?覚えてないな〜」
「覚えてないって……嘘つけ」
あからさまな誤魔化しに思わず突っ込む。
「このライブのこと、隅々まで覚えてるって言ってただろ」
「そんなこと言ったっけ〜?」
わざとらしく首を傾げてみせる。
けれど——次の瞬間。
その表情が、すっと消えた。
「……でも、覚えてないものは仕方ないよ」
そして、まっすぐにこちらを見る。
逃げ場を与えない視線で。
「——だから。今、決めて」
静かに、けれど確実に突きつける。
「かぐやを守るために戦うのか。それとも——戦わないのか」
「………」
……ヤチヨはさっきは覚えていないと言っていたが、実際には覚えているはずだ。
この先の結末も。
俺がどんな選択をするのかもわかって、それでもなお、聞いている。
(……もしも、過去の俺が戦わないことを選択していて、ここで俺が戦うことを選べば、未来を変えられるとしたら?)
そんな可能性を、ほんの少しだけ、ヤチヨも期待しているのかもしれない。
だが──
もし、かぐやを守れてしまったら?
……その瞬間、輪廻は歪む。
ヤチヨが存在しているこの時間そのものが、消える可能性だってある。
だから。
答えは、最初から決まっている。
「……戦わない」
「……そっか。わかった」
やはり自分の思った通りの答えだったのだろう。
ヤチヨは、驚きもせずに俺の返事に頷いた。
「はーあ、な〜んだ……ちょっと期待したのにな〜」
わざとらしく肩を落とす。
「ミコトがさ、
「何言ってんの?ヤチヨのことは守るよ」
「え?」
きょとん、と目を瞬かせるヤチヨ。
「もしも、月人がかぐやを連れ返した後に、ヤチヨも連れて行こうとしたらどうすんのさ?その時に、ヤチヨを守るために戦うやつが必要だろ」
ヤチヨの記憶は
だから、過去に
「俺は、ヤチヨを守るために戦うよ」
はっきりと、言い切る。
「かぐやも守りたい。でも——」
一瞬だけ言葉を止めて。
「……俺にとって一番大事なのは、八千年一緒に過ごしたヤチヨだから」
「……そっか」
ヤチヨは小さく呟いた。
何かが、ほどけたように。
「……そうだったんだ」
少しだけ、目を伏せる。
「だから、あの戦いにはミコトはいなくて……
長い間、胸の奥に引っかかっていた疑問が、ようやく繋がったように。
そして──
「……ふふっ/」
(……なんかヤチヨがニマニマしながらこっちを見てくるんだが!)
切り替えるように、わざと軽く口を開く。
「……まあ、最悪ヤチヨが連れて行かれたら、俺も一緒に月に行けばいいし。2人で仕事やれば効率も2倍だから定時で退社できるだろ」
(月に行ったら味覚がなくなるらしいけど……別に問題ないだろ。食べ物なんて、どうせもう八千年くらい食べてないしな)
「だから、当日はライブの演出に思いっきり集中するように!」
「……うん!わかった!」
今度は、いつもの笑顔に戻る。
「じゃあさっそく演出考えないと!準備準備〜!」
ヤチヨがタブレットからいなくなり、部屋に静寂が戻る。
──────────────────────────
……もしも。
ここで、かぐやが地球に残れば──輪廻は崩れてしまう。
そうすれば、ヤチヨという存在そのものが、消えてしまうかもしれない。
酒寄彩葉と、本当の意味で再会する前に消えるなんて。
ヤチヨの八千年の積み重ねが、なかったことになるなんて。
そんなことは──必ずあってはならない。
だから──
かぐやには、
なんとしてでも月に帰ってもらう。
そのためなら、どんなことでもしてみせる。
たとえ——
かぐやを守ろうとする彼女たちの、
ミコトが8000年間ご飯を食べないのは、味覚を感じられないヤチヨの隣で、自分だけ食事をすることに遠慮しているからです。
まあ、やっぱりミコトもヤチヨに対してだいぶ激重な感情を持ってるんですよね。