超かぐや姫! 星の降る音   作:サトウシュン

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26話 去り行く姫君に別れの挨拶を

 

 

 そうして、いよいよ迎えたかぐやの卒業ライブ当日。

 

 

 9月12日

 

 

 ツクヨミのサーバーは、すでに通常時の数倍のアクセス負荷を抱えていた。

 

 

 トップライバーの卒業。

 

 

 それだけで、この世界の“空気”すら変わる。

 

 

 そんな中。

 

 

 淡い光の粒子が収束し、一人の少女のアバターが形成される。

 

 

 ——かぐやが、ログインしてきた。

 

 

「ここで、ライブ?」

 

 

 周囲を見渡しながら、不思議そうに呟く。

 

 

 ブラックオニキスとKASSENを繰り広げた特設会場。

 

 

 そのフィールド内に作られた特別な舞台だ。

 

 

「彩葉の希望でね〜」

 

 

 ヤチヨが、いつもの調子で答える。

 

 

「ヤチヨ!……あれ?ミコもいるんだー!なんで?」

 

 

 こちらに気づいたかぐやが、ぱっと表情を明るくする。

 

 

 その無邪気さに、胸の奥がわずかに軋んだ。

 

 

「今日のライブのアシスタントです」

 

 

 俺も、できるだけ平静を装って答える。

 

 

「そうだったの?じゃあかぐやのためにめっちゃ頑張ってね!!」

 

 

 あれ?なんか最近、俺に対する扱い雑になってきてないか?

 

 

 そんなことを考えていると。

 

 

「君にはご迷惑をおかけしますね〜〜〜」

 

 

 と、ヤチヨがはしゃぐ犬DOGEを労るように撫でていた。

 

 

(いや、本当に迷惑どころじゃ済まないんだけどな……)

 

 

 俺も撫でておこう。

 

 

 ワン!ワン!

 

 

 そうして、ヤチヨと変わり、喜ぶ犬DOGEをわしゃわしゃと撫でてやる。

 

 

 あー、犬DOGEほんと可愛いな〜

 

 

 と思っていると

 

 

「ふんっ、イヌッコロが!あんまり調子に乗るなよ!」

 

 

 とFUSHIが過去の自分に向かって憎まれ口を言っていた。

 

 

 まったく、どうしてどいつもこいつも

 そんなに過去の自分に嫉妬するのか……

 

 

 (よーしよし、お前の体は俺が守るからなー)

 

 

 と心の中で呟く。

 

 

 その時──

 

 

「私がヤチヨだったら、もっと虜にできたのかな〜」

 

 

 かぐやが突然そんなことをカミングアウトしだした。

 

 

 "虜"……果たしてそれはどっちのことなのだろうか?

 

 

 酒寄さんのことか、それともファンのことなのか……

 

 

「ノンノン!」

 

 

 ヤチヨがすぐに指を振る。

 

 

「かぐやじゃなきゃできなかった!」

 

 

 その断言に、一切の迷いはなかった。

 

 

 どうやら、ヤチヨには今の発言がどういう意味なのかはわかっているらしい。

 

 

「いってらっしゃい!かぐやなら全部大丈夫!ヤッチョが保証しちゃう!」

 

 

 ……ヤチヨは今、どんな気持ちでこの言葉を言っているのだろうか。

 

 

 ただ、懐かしがっているだけなのか。

 

 

 それとも、FUSHIのように泣き出しそうなのを我慢しているのか……

 

 

「超〜無責任!だけど、そのノリ、割と好きだった!」

 

 

 かぐやが笑う。

 

 

 そして、そのままステージへ向かうかと思いきや——

 

 

 くるりと振り返った。

 

 

「ミコは?かぐやになんか一言ないの?」

 

 

「え?俺ですか?」

 

 

 俺にも何か言えと求めてきた。

 

 

「うん!だって……最後になるんだし!」

 

 

 ——最後。

 

 

 その言葉が、妙に重く響いた。

 

 

 少しだけ目を伏せる。

 

 

 かぐやとの思い出が、頭の中を流れていく。

 

 

 隣の部屋で泣いていた赤ん坊の頃……

 突然引っ張り込まれた指導配信……

 毎日のように響いた深夜の騒音……

 勝手に出されそうになったKASSENの試合……

 そして、かぐやのせいでヤチヨに

 怒られたことも何度か……

 

 

 

 ……んん?

 

 

 あれ?どうしよう……

 

 

「全然帰って良いかもしれない」

 

 

「ちょっとぉ!!最後になんて事言うのぉ!!?」

 

 

 かぐやの全力のツッコミが飛ぶ。

 

 

 あっ、まずい。つい口に出てしまった。

 ていうか、敬語も崩れてるし……

 

 

「いや、流石に冗談ですよ……かぐやさんの配信にはいつも楽しませてもらいましたし。一ファンとしては悲しいですよ」

 

 

「……そうだね、ミコはずっと前からかぐやのこと応援してくれてたもんね……」

 

 

 かぐやが、少しだけ柔らかい顔になる。

 

 

 ……さて、そろそろ本格的に別れの挨拶をしないとな。

 

 

「まあ、言いたいことは大体ヤチヨが言ったし。

 お別れは……別に言わなくてもいいかな。

 ──()()()、かぐや」

 

 

 そうして、別れの挨拶を終えると──

 

 

「………」

 

 

 かぐやが、ぽけーとこちらを見ていた。

 

 

 (……?)

 

 

「ミコ……その喋り方」

 

 

 (……あっ)

 

 

 またやった!

 

 

 ……はあ。どうやら、俺もFUSHIのことは言えないみたいだ──

 

 

 さっきから"感情を抑えるので精一杯"で、細かいところまで気が回らない。

 

 

「いや、これは……」

 

 

「そっちの方が全然良いよ!なんだ、最初からそれで話してくれればよかったのに!」

 

 

 かぐやがぱっと笑った。

 

 

「……じゃあ、次会った時は普通に話させてもらいますよ」

 

 

「うん!約束だからね!!」

 

 

────────────────────

 

 

 そうして、

 

 

 かぐやはライブのステージへと向かっていった──

 

 

 

『……行くなよ。このまま、みんなとここにいろよ』

 

 

 ──何度も、何度も、喉元まで出かかった言葉。

 

 

 あと一歩踏み出せば届く距離で、引き留められたはずの言葉。

 

 

 それでも——

 

 

 結局、俺は何も言わなかった。

 

 

 そして、無事に見送ってしまった。

 

 

「約束、ちゃんと守ったね」

 

 

 隣で、ヤチヨがぽつりと呟く。

 

 

「……結果を知った上でした約束だけどな」

 

 

 かぐやが次に俺と会うのは8000年前に行った時だから、その時の俺は何も知らずに、かぐやに対してナマコだのと叫んでいるだろう。

 

 

「そういえば気になったんだけど……」

 

 

 ずっと気になっていたことをこの際聞いてみることにした。

 

 

「ヤチヨって、いつくらいに俺が"ミコ"だって気づいたんだ?」

 

 

「うーん……結構最近だよ?」

 

 

 ヤチヨは少し考えるように視線を泳がせてから、にへらと笑った。

 

 

「最近?」

 

 

「ちょうどね、“自分がヤチヨになる”って気づいた後、すぐくらい」

 

 

 そうして、懐かしむようにかつての思い出を語りだした。

 

 

「きっかけは……ツクヨミの話をしてた時かな〜」

 

 

────────────────────

 

 

 1995年

 

 

 いざツクヨミを作るにあたって、ヤチヨにツクヨミについて詳しく聞いていた時──

 

 

『ツクヨミではね、みんなが動物の特徴をアバターに反映させてるんだ!ケモ耳とか尻尾とか!』

 

 

『へー。じゃあ俺は"龍"のモチーフがいいなー!めちゃくちゃかっこいいし!』

 

 

『え〜?龍〜〜〜?それよりもキツネの方がいいでしょ!まあ、龍のモチーフの人も一人いたけ……ど……』

 

 

 ——そこで、言葉が止まった。

 

 

『……あれ?』

 

 

 視線が、こちらではなく“どこか遠く”を見る。

 

 

『そういえば……最後にヤチヨに会ったときに、隣にいたのって……』

 

 

『ん?どうした?また、ぼーとして』

 

 

 ヤチヨは、ゆっくりとこちらに視線を戻した。

 

 

 そして——しばらく、じっと見つめてきて。

 

 

『ああ、そういうことだったんだ……ずっと、かぐやのことを……見守ってくれてたんだ……』

 

 

 小さく、確信したように呟いた。

 

 

(……?急に意味のわからないことを言い出したんだが?)

 

 

『よし!わかった!』

 

 

 突然、ぱっと表情を明るくする。

 

 

『じゃあミコトのアバターはヤチヨが作ってあげる!』

 

 

『は!?なにがわかったの!?ていうか嫌だけど?

 キャラメイクは自分でするから楽しいんじゃん!

 "絶対"に自分で作るから!!』

 

 

 思わず立ち上がって抗議する。

 

 

『まあまあ、"ミコ"にはお世話になったし。ヤチヨに恩返しさせてよ』

 

 

 にこにこと笑いながら、強引に押し切ってくる。

 

 

『確かにたくさん世話はしてきたけど……"ミコ"って?俺の名前ミコトだけど?』

 

 

『ツクヨミでのプレイヤーネームだよ!ヤチヨが今決めた!』

 

 

『だから!人のを勝手に決めるな!!』

 

 

────────────────────

 

 

 俺は自分のアバターの龍を模した角を触る。

 

 

「なーるほど……そういうことだったのか。だから、俺のキャラメイクは飛ばされたうえに、名前も勝手につけられたのか……」

 

 

 小さく息を吐く。

 

 

「ふふん!感謝してよね!」

 

 

 ヤチヨが得意げに胸を張る。

 

 

 ……まあ。これも輪廻を成立させるために必要な犠牲と割り切るか。

 

 

「……はいはい。ありがとな」

 

 

 少し不満を感じながらも、受け入れる。

 

 

「さあ!」

 

 

 ぱん、と手を叩くヤチヨ。

 

 

「もうすぐ始まるよ。かぐやのライブ」

 

 

 その声は、いつも通り明るい。

 

 

「私たちも、ちゃんと見届けないとね!」

 

 

「……ああ」

 

 

 短く頷く。

 

 

 視線の先。

 

 

 ステージの中心に、かぐやのシルエットが浮かび上がる。

 

 

 歓声が、波のように広がっていく。

 

 

────────────────────

 

 

 彩葉side

 

 

「みんな、ありがとー!」

 

 

 壁のようなものを一枚隔てた先から、かぐやの声が聞こえた。

 

 

 ツクヨミの空間に、数万の歓声が波のように広がる。

 

 

「今日でお別れみたいなんだけど——悲しいまま終わりたくないんだ!」

 

 

 明るく、いつも通りの声。

 

 

「だから、みんなでお見送りして!ハッピーに卒業させて!」

 

 

 呼びかけに応えるように、観客のコールが一段と大きくなる。

 

 

 ——その瞬間。

 

 

 夜空に、いくつもの“花”が咲いた。

 

 

 演出用のエフェクトだと、誰もがそう思ったはずだ。

 

 

 花弁が開く。そして、その中から現れた“それ”を見てもなお——

 

 

 観客は歓声と拍手を送り続けていた。

 

 

 歪んだシルエット。人の形をしていながら、人ではない存在。

 

 

 異形の月人。

 

 

 それでも、この場の誰一人として“異常”とは認識していない。

 

 

 すべて——ライブの演出だと信じている。

 

 

(……来た)

 

 

 心の中で、小さく呟く。

 

 

(かぐや姫を迎えに来たつもり?)

 

 

 だったら——

 

 

「盛大に歓迎してあげるよ!」

 

 

 ——次の瞬間。

 

 

 月人たちの前に、六つの"桃"が落下する。

 

 

 KASSENのスポーン演出。

 

 

 現れたのは——

 

 

「さあ、盛り上げていこうぜ!」

 

 

「……勝つだけだ」

 

 

「けっこー面白そうじゃん」

 

 

 帝率いるブラックオニキスの三人が、堂々と前に出る。

 

 

 続いて——

 

 

「かぐやちゃーん!いぇーい!」

 

 

「かぐや〜見て見て〜!」

 

 

 美容インフルエンサーROKAと、グルメインフルエンサーまみまみ。

 

 

 そして、その隣に立つ。

 

 

 ——私、いろPこと、酒寄彩葉。

 

 

「……ライブの“余興”だと思って」

 

 

 かぐやの"プロデューサー"として声を出す。

 

 

「かぐや。私たちは、私たちで精一杯やるから」

 

 

 そして、一人の"友達としての本音"。

 

 

 ほんの少しだけ笑って、続ける。

 

 

「万が一勝っちゃったら、ドンキで買い出しして、パンケーキ作ろ!」

 

 

 ……くだらない約束だ。でも、それでいい!

 

 

「彩葉⋯⋯」

 

 

 かぐやがわずかに目を見開いた。

 

 

「そっか……そっか……」

 

 

 一度、噛み締めるように呟いて。

 

 

 そして——

 

 

「みんな、自由だ!」

 

 

 向日葵みたいな笑顔で、そう言った。

 

 

 

 それが開戦の合図だった。

 

 

 ブラックオニキスの3人が弾雨の中へ、迷いなく突っ込んだ。

 

 

 芦花も、真実も、迎撃に入っていく。

 

 

 相手との戦力差は歴然。

 

 

 それでも──

 

 

 大地を埋め尽くすほどの敵群へ踏み込む。

 

 

『もっと衝動的な音で──もっと感情的な歌で──』

 

 

 ステージからは、かぐやの歌声が届く。

 

 

 (ねえ。見えてる、かぐや?)

 

 

 これが、かぐやが月から覗いていた地球人だよ。

 

 

 好き勝手に動いて、複雑で、一回きりで、自由で。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()、人間だよ。

 

 

 ズパッ!!

 

 

 双剣で月人をまとめて切り裂く。

 

 

『みんな抑えてもいるんだよね、自分の気持ち。多分、"もっと大事な物"のために』

 

 

 ──私は、これからも"かぐや"と一緒にいたい

 

 

 だから

 

 

「バッドエンドになんか、させない!」

 

 




次回、「主役は遅れてやってくる」
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