彩葉side
開戦後すぐに
戦局は一方的に傾いた──
「ぐっ……!」
まず、雷がやられた。
反則じみた集中砲火を浴び、そのアバターが消し飛ぶ。
「キリないね……!」
乃依は高台から狙撃を続けるが、月人のレーザーでの狙撃により、その姿が掻き消えた。
二人ともすぐにリスポーンはされる——だが。
(二人とも、残機はもうゼロのはず……!)
次に落ちれば、本当に終わりだ。
「彩葉……っ!」
「ごめんね……」
続いて、真実と芦花も連鎖するように撃墜された。
短い謝罪とともに、2人のアバターが砕ける。
──戦線が、一気に崩壊する。
「仕方ねえ……ここまでか」
ぽつり、と。
帝アキラの口から零れたその一言は、あまりにもあっさりしていた。
「そんな……。待って!まだ……」
私の縋るような言葉は、
「──勘違いするなよ、彩葉」
即座に、鋭く断ち切られた。
「別に“勝つのを”諦めたわけじゃねえ」
その声音は、むしろ静かに研ぎ澄まされている。
「本当なら自分の力だけで勝ちたかったんだが……そんなことは言ってられねえな」
わずかな間。
息を呑むほどの沈黙。
「……雷、乃依。使うぞ!」
低く、静かな宣言。
「御意」
「はーい」
リーダーの宣言に、2人が同意を示す。
その瞬間──
"空間が軋んだ"。
帝アキラの全身から、異常なまでのエネルギーが噴き出す。
まるで“世界そのもの”を捻じ曲げるような圧。
「おらああああ!!」
振り抜かれた腕。
それだけで——
ドガンッ!!
月人の巨体が、空の彼方へと吹き飛んだ。
重力も、質量も、すべてを無視した一撃。
まるで、月まで叩き返すかのように。
(なに……この攻撃力……!)
遅れて理解が追いつく。
そして——気づく。
帝の顔に刻まれた、禍々しい紋様。
(——まさか、これって……)
『チートモードだあああ!!』
観客席に設置された中継用ホログラムから、
忠犬オタ公の絶叫が響き渡る。
『たった今、ブラックオニキスの帝アキラ、雷!
さらに乃依にもチートモードの発動が確認されました!!』
どよめきが、会場を揺らす。
『チートモード』
それはシステムの外側から干渉し、自身の
ステータスを強制的に“上限突破”させる禁断の手段。
だが──
それには"大きな代償が伴う"
——しかし、そんなことは気にも留めずに、
「まだまだ行くぞ!」
限界を踏み越えたブラックオニキスが、再び前に出る。
世界のルールすらねじ伏せる力で——
月人の大軍を、真正面から押し返していく。
チートを使ったブラックオニキスの力は圧倒的で、
敵を次々と倒していく。
(いける!このままいけば、勝てるかもしれない!)
そんな希望を持ち始めた──その時、
ヴーーーン!……ヴーーーン!…
突然、けたたましい警報音が空間を引き裂いた。
「......っ!なんだ!?」
帝が顔を上げる。そして、
《警告。未確認の侵入を検知しました》
「これは......」
無機質な赤い文字が、視界に表示される。
「わっ!?なにこれー!」
向こうで、真実たちの驚く声が聞こえる。
どうやら、この文字は真実達にも見えているらしい。
観客の人たちは......!
バッ、と観客の人たちの方を見てみても、観客は全員かぐやの歌と私たちのKASSENに熱狂しており、とてもこんな警戒文が見えているとは思えなかった。
……じゃあ、これが見えてるのはKASSENに参加している私たち──
いや、かぐやも何事もなく歌っているから、かぐやを除いた参加者だけだろう。
《警告。未確認の侵入を検知しました》
未確認の……侵入…
「このKASSENに、誰か侵入しようとしてるの……?」
「……まさか!また、月の奴らが援軍を連れてこようってのか!?」
帝のその一言により、心の中でざわめきが一気に広がる。
(そんな……
これ以上、戦力差を開かれたら……もう)
さっきまでの空気が嘘みたいに崩壊していく。
自分の心臓の音が早まり、鼓動がやけに大きく聞こえる。
──かぐやが月に連れ去られる未来が頭に浮かぶ......
だが、次の瞬間──
ピコン
電子音と共に白い文字で
《すでに開始されている試合への新たなプレイヤーの参加は認められません》
というアナウンス文が表示された。
「はっ!どうやら、あいつらの策とやらは失敗したみたいだな!」
月人たちは旗色が悪くなってくるや否や、このKASSENに新たなプレイヤーを新規に投入しようとしたのだろう。
しかし──ツクヨミのルールはそれを許さなかったようだ。
よかった……
と心の中で安堵する。
(これなら、かぐやを......!)
再び自分の中の闘志に火がつき、目的地である相手の天守閣へと目を向ける。
すると、
《繰り返します。KASSENへの参加は認められません》
また新たなアナウンス文が表示される。
白い文字。揺るがない拒絶。
──のはずだった。
ピリッ
突然、小さなノイズが走る。
《繰り返します。KASSENへの参加は認められません》
一見先ほどと同じ、なんの変哲もない文章。
だが、
"最後の一文字"だけが、微かに歪んでいる。
「……今のは?」
思わず自分の喉から声が溢れる。
──ザザッ
「……っ……!」
視界が一瞬だけ砂嵐のように乱れる。そして──
《繰り返します。KASSENへの参加は認められませ◼️》
最後の文字が、横から“削られた”。
《繰り返します。KASSENへの参加は認められま◼️◼️》
……いや、違う。
「なに......これ」
白い文字が、次々と黒く侵食されていく。
《繰り返します。KASSENへの参加は認めら◼️◼️◼️◼️》
《繰り返します。KASSENへの参加は認◼️◼️◼️◼️◼️◼️》
"否定"が、削り取られていく。
【◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️KASSENへの参加◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️】
そして、言葉が崩壊する──
次の瞬間、
ピコン
雰囲気に似合わない、明るい電子音と共に新たな文字列が表示される。
《プレイヤー◼️◼️の
「……え?」
誰かの、間の抜けた声。
ヒュウウゥゥ───
それと共に"何かが落ちてくる音"が聞こえた。
上を見てみれば、KASSENに参加するプレイヤーが登場する時の演出に使われる、"桃"が夜空から降ってきていた。
──────────────────
──────"ドンッ"!!
轟音が響く。
桃が地面に激突し、爆ぜる。
フィールドにいる全員が、突然現れた"それ"に警戒を示す。
「なんだ......あいつ......」
帝アキラが、初めて“困惑”を滲ませる。
そして、弾け飛んだ桃の残骸の中から、何者かが出てくる
──それは
夜の闇よりも暗い、真っ黒なローブで全身を隠し、袖からは武器であろう刃物の先端が僅かに見えた。
【プレイヤー◼️◼️の──】
その姿はまるで──
【KASSENへの参加を、
命を刈り取る、死神のようだった。