作者のモットーは「終わりよければ全てよし」です。
これって終わりさえよければ、途中で"どんなこと"があってもいいってことですよね?
あと、次の投稿は2日後です。
かぐやが月に帰ってから数日が経った。
その間、ヤチヨはずっと防ぎ込んでいて、いつも
楽しそうにしていた配信も、最近は過去のものを
流すばかりだった。
「会わないつもりか?酒寄さんに」
ツクヨミのプライベートルームで
少しだけ間を置いて、そう切り出す。
「……うん」
返ってきたのは、かすれたような小さな返事だった。
──昨日、俺のもとに酒寄さんからメールが
届いていた。
『ミコさん。ヤチヨに会う方法を知りませんか?
どうしても、会わないといけないんです』
いつもは落ち着いているあの人らしくない、
切迫した文面だった。
……それともう一人。
帝さんからも、まさしく鬼のように連絡が来ていたのだが……
今はまだ何も話せないので、無視をしている──
(というか、できれば会いたくない......)
なんであの人最後名前わかったの!?
せっかく姿隠したのに意味ないじゃん!
話は戻り──
そして、酒寄さんから俺に連絡が来たということは、当然ヤチヨにも届いているはずだ。
…それでも動かない理由なんて、考えるまでもない。
八千年──
その歳月の中で変わってしまった“自分”を
見たとき、酒寄さんがどう思うのか──
それが怖いのだろう。
(はあ〜、本当にこいつは……)
酒寄さん相手だと変なところで大人ぶるのだから。
「まず、髪!」
俺はヤチヨの髪を指さしながら続ける。
「え?」
「その髪型やめて、ストレートにしろ!
あとこの照明!もっと暖色にできないの?
ヤチヨの髪に反射させれば金髪っぽく見えるだろ」
「ちょ、ちょっと何言って——」
慌てふめくヤチヨをよそに、俺はライトの設定をいじる。
「自分から言い出せないなら、
向こうに“気づかせる”しかないだろ。
これはそのための作戦!」
「……でも、」
言い淀む声。
それに被せるように。
「ちょっと会っただけの俺でもわかる。
酒寄さんは──"絶対"にヤチヨを拒絶
したりなんかしない」
そう、キッパリと言い切る。
「ていうか、何のためにあの8000年を生きてきたと思ってんだ!俺までずっとこのために付き合ったんだから、今更会わないなんてのは無しだ!だから──」
一歩、踏み込む。
「覚悟決めて、"全部話せ"」
ヤチヨを真っ直ぐに見て言う。
そして、
しばらくの沈黙のあと──
「……本当に、"全部話しても"……嫌われないかな」
弱々しい声。
それでも、俺は迷わない。
「"絶対"嫌わない!」
即答だった。
「……そっか」
ヤチヨは小さく息を吐く。
「うん、わかった。全部話すよ。"大切な人には、
自分の全部を受け入れてほしいから"」
「よく言った。じゃあ俺が連れてくるから——」
そこまで言いかけて、通信を繋ぐ。
「FUSHI? 今どこ……って、え!?
もう会ってんの!?仕事早っ!」
思わず声が裏返った。
そのやり取りを横で聞きながら、
ヤチヨは静かに目を閉じる。
(……そう。私も全てを話さないと──)
胸の奥で、もう一度だけ覚悟を固めた。
────────────────────────
彩葉side
「目を開けてみろ」
FUSHIにそう言われ、意識をツクヨミから現実へと戻す。
次の瞬間、
ピンポーン
チャイムが鳴った。
インターホンを見てみると、
そこには見知らぬ男性が立っていた。
「FUSHIから話は聞いていますね。迎えに来ました」
落ち着いた声だった。
言われるまま制服に着替え、マンションの外へ出る。
そして、改めてその人の顔を見る。
先ほどはインターホン越しなのでよく見えなかったが、どこか見覚えがあるような──
「……あ」
思わず声が漏れる。
「アパートのお隣さん?」
記憶の中に残る、僅かな情報から掬い出す。
「あれ?覚えてたんですか。あんまり顔合わせてないと思ってたんですけど」
軽く笑うその仕草に、確信する。
でも——
(なんでこの人が? FUSHIとどういう関係?)
混乱していると、
「まあ、このままだと警戒してしまうと思うのでこれを」
そう言って、彼はスマホの画面をこちらに向けた。
そこには、ツクヨミでのアカウント名が表示されており名前は──
『ミコ』
……"ミコ"!?
「え、え!?ミコさん!?」
バッと顔をあげて彼を見る。
「リアルでちゃんと会うのは初めてですね。
初めましてミコです」
あまりにも自然に名乗られて、逆に現実感がなかった。
「ヤチヨに会いたいんですよね?だったらついてきてください。あ、スマコンは持ってますか?」
「はい……」
そう言って彼は歩き出す。
しばらくついて行き、そこからは電車に乗って移動した。
「……」
「……」
(気、気まずい……)
普段ミコさんとは、ライブの際によく話している間柄なのだが、突然リアルで会うと何を話せばいいのかわからなくなってしまう。
それに——
(私は、今……"知ってはいけないこと"に足を踏み込んでる気がする)
妙な緊張が胸を締め付ける。
「……あ、そういえば」
不意に、彼が口を開く。
「この前買ったヤチヨのグッズなんですけど——」
(あ、普通に話すんだこの人!)
一気に肩の力が抜けた。
こっちが緊張して損したよ……
──それはそれとして
「ぜひ、詳しく聞かせてください」
そうしてヤチヨのオタクトークで盛り上がりながら、
少し歩くとマンションに着いた。
「ここです」
そういって彼は鍵でドアを開ける。
「お、お邪魔します」
一歩踏み入れて、言葉を失った。
「……何、ここ?」
視界いっぱいに広がるのは、無数のPCとストレージ機器、
そしてネットワーク機器。それらが所狭しと詰め込まれていた。
生活感よりも“機能”が優先された空間だった。
部屋の中心に何かが置いてある。あれは……
「水槽……?」
水槽と満たされた謎の液体、そこに沈められている
"タケノコ"のような物体。
──タケノコ?
なんだろう……
初めて見るのに、
「ここからツクヨミにログインしてください。自分は先に行っているので」
そう言って彼は私に座布団を渡した後、自分は地面に座り込む。
そして——静かに目を閉じた。
「……はい」
小さく頷き、座る。
深呼吸を一つ。
覚悟を決めて、私はツクヨミへとログインした。
────────────────────────
ミコトside
ヤチヨのプライベートルームに入るとヤチヨは作戦通り、髪を下ろし照明を当てていた。
いつもの彼女とは"違う誰か”に見せるための姿。
(うーん、ここもうちょい左向きの方がいいか)
「ヤチヨ、酒寄さん来るぞ」
細かく角度を調整しながら、ヤチヨに声をかける。
「うん、わかってる。もう覚悟はできてるから」
そう答えた彼女の表情は、かつてないほど真剣だった。
やがて、空間に光が走る。
ツクヨミのアバター姿で現れた酒寄さんは、ヤチヨの姿を捉えるなり──
「……かぐや」
彼女は、第一声で"かぐや"の名前を呼んだ。
作戦が功を奏してかぐやに見えたのか、はたまた、ここに来る前にある程度予測はしていたのか。
どちらかはわからないが、彼女は確実に目の前にいるヤチヨにかぐやを重ねたのだろう。
──ついに、二人が向き合う。
真実が暴かれる瞬間。
……俺は、この時をずっと待っていたのだ。
ヤチヨが“かぐや”だったという事実。そして、
自分のために8000年を生きてきたという重み。
それを知ったとき、酒寄さんはどんな反応をするのか。
できれば──
たくさん、"褒めてあげてほしい"。
だって、ヤチヨは。
本当に、本当に──頑張ってきたんだから。
「ヤチヨは、かぐやなの?」
「………!」
「変なことを言ってるのはわかってる。でも……」
問いかけに、ヤチヨは一瞬だけ目を見開き──
やがて、ふっと微笑んだ。
そして、ゆっくりと立ち上がる。
さあ、真実が明かされるときだ──
「今は昔──」
そして、語り始めた。
ツクヨミのライバー、月見ヤチヨとしての話し方で。
「月に帰ってバリバリ社畜してた、えらえらかぐや姫のところに歌が届きました。それはかぐや姫のために作られたかぐや姫だけの歌」
──『Reply』
旅の途中、何度も聞かせてくれたあの曲。
彼女が8000年前に墜落したとき、心の支えにしていた歌。
「かぐや姫は大喜び。それでもっかい地球に
行こ〜〜って、お仕事爆速ですっかり片付けて
引き継ぎも完了」
少しだけ、いつものヤチヨらしい軽さが混じる。
「ただ、地球の時間では大遅刻。でも、安心。
月の超テクノロジーは時間も越えられます。
時を超えて、地球に向かうかぐや姫。
でも、もう少しのところで、でっか〜〜い石に
当たっちゃったの」
そして、8000年前の地球にタイムスリップして俺と出会ったわけだ。
──続く声が、少しだけ静かになる。
「それでね、そのとき、時間を超えるために
時空を歪めながら隕石に衝突した影響で、
時空間に"
(……ん?)
思考が、一瞬止まる。
──なんだその話は?
今まで聞いたことないぞ……?
疑問を浮かべる俺をよそに、ヤチヨは止まらずに話を続ける。
「そして、その時空間にできた穴はなんと──
「幸いな事に、穴自体はすぐに閉じたんだけど……
開いた穴のすぐ近くにいた青年が1人、
……は……?
「そして、衝突の影響でタイムスリップしたかぐや姫によって時空間にできた、8000年前まで繋がっているトンネルのようなものを通って、
その青年も
「誤差にして数年を経て、青年はかぐや姫と同じ座標に墜落しました。さらに、彼はこの世界に入って来た時点で、確かにこっちの世界に存在するという証明、いわば"セーブデータ"が作られました」
いや………待て……待てって。
お前は……さっきから、何の話をしている?
頭が、ヤチヨの言っていることを理解するのを拒否する。
「ヤチヨもツクヨミを作って思ったのですが、世界というものはとても"複雑"です。人一人とはいえ、突然この世界から文字通り"消え去る"となると辻褄を合わせるのが大変なのです」
一拍あけて。
「──そのため、元いた世界は、彼を連れ戻そうと
する"修正力をかけ続けました"」
「でも──」
彼女の声が、わずかに震えた。
「もう、彼はこっちの世界にセーブされちゃってる上に、穴も閉じてしまっているため、簡単には戻せません」
「結果、修正力はバグを引き起こし、
彼は常にセーブしたときの状態……つまり、
続ける事になりました」
それって──つまり……
俺が、この世界に来たのは──
俺が、
「そして、そんな"必然"にも8000年前の同じ場所に降り立った二人。いや、かぐや姫の方は衝突の影響でウミウシの体しか作り出せなかったので、一人と一匹は長い間、世界を見て回りました」
「時は経ち、人は見えないものを形にし、多くの人とつながる力を手に入れた。それは月の世界と少し似ていて、かぐやは初めて、魂だけの自分が世界と関われる可能性を知りました。そして、仮想空間ツクヨミの歌姫として再び彩葉と出会うことが出来たのです」
「…………」
沈黙。
重い、重い沈黙。
やがて──
「……今まで黙っててごめんね。ミコト」
ヤチヨは俺の方をゆっくりと向き、謝罪の言葉を告げた。
──そして、
今にも泣きそうな顔で彼女はこう言った。
「ミコトがこの世界に来る事になっちゃったのは──
全部、ヤチヨのせいだったの」
24話、花火大会のときのヤチヨの言動についてのQ&A。
Q.ミコトが腕を傷つけていたのを見て頭が真っ白になったのは何故か?
A.ヤチヨはタイムスリップして800年程が経ってから、初めてミコトの"傷の治り方"をはっきりと見ました。そして、その治り方の異常性や他の世界から来たという発言から、今回の仮説が頭に浮かんで、"彼が死にたい程苦しんでいる"のは全部自分のせいだと知ったから。
その後、"ぐちゃぐちゃな感情"のまま、とりあえずミコトを注意して、次の日から罪悪感に駆られたヤチヨは、ミコトを救おうと普段以上に必死に話しかけるようになった。
Q.「理由のない不老不死なんてないよ」と"断言"できたのは何故か?
A.だって、ヤチヨはミコトが不老不死になった理由を知っていたから。
にも関わらず、ずっと言い出せずにいた。
Q.ミコトの両親への想いを聞いて、泣きながら謝っていたのは何故か?
A.幸せに暮らしていたミコトと両親を引き離して、こっちの世界に引きずり込み天涯孤独にしたのは、
"他ならぬ自分自身だったから"。
なので、ミコトの両親への想いを聞いて、涙を流し、許しを乞わずにはいられなかった。