超かぐや姫! 星の降る音   作:サトウシュン

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30話 彼らなりのハッピーエンド

 

 

「……謝って済むことじゃないのは、わかってる。

 私はミコトに対して、本当に……

 取り返しのつかないことをしちゃった……」

 

 

 声は震え、言葉の端がかすれる。

 

 

「私がいなければ……ミコトは今も、家族と

 普通に暮らして……普通に誰かを好きになって、

 幸せな家庭を築いて……っ」

 

 

 一つひとつ、確かめるように紡がれる

 “あり得たはずの未来”。

 

 

「……普通に、天寿を

 まっとうしていたかもしれない……

 そんな未来を、"私が奪った"……っっ!」

 

 

 唇を噛み、俯く。

 

 

「それだけじゃない……っ。

 八千年も……八千年もだよ……っ…?」

 

 

 喉が震えて、うまく息が続いてない。

 

 

「終わりの見えない旅に……ずっと……ずっと、

 付き合わせて……っ」

 

 

 肩が小さく震える。

 

 

「……でも……っ、これを言ったら……っ」

 

 

 ぎゅっと拳を握る。

 

 

「ミコトに嫌われて……どこかに、

 行っちゃうんじゃないかって……っ。

 また……一人になっちゃうんじゃないかって、

 そう思ったら……怖くて……っ」

 

 

 声が崩れる。

 

 

「……ずっと、"言えなかった"……っっ」

 

 

 ………

 

 

 沈黙が落ちる。

 

 

 

「お前……」

 

 

 思わず、口から言葉が漏れる。

 

 

「……っ……」

 

 

 ヤチヨの肩がびくりと震え、ぎゅっと目を閉じた。

 

 

 ──拒絶を、待つように。

 

 

 

 

「──そんなこと気にしてたのか?」

 

 

 あっさりと、だが揺るがない声音で。

 

 

 

「......えっ?」

 

 

 間の抜けた声が返る。

 

 

 

「別に、ヤチヨが悪いわけじゃないだろ。それ」

 

 

 はっきりと言い切る。

 

 

「ヤチヨが、故意でそんなことする奴じゃないって

 もうわかってるし。それを知ったところで、

 今更怒ろうなんて思わないし……」

 

 

「……怒って、ないの……?」

 

 

 恐る恐る、確認するような声。

 

 

 

「ない!だって、悪いのは全部その隕石だろ!

それさえなければ全部ハッピーエンドだったのに」

 

 

 あの隕石マジで許すまじだわ。

 

 

 

「……ていうか」

 

 

そんな(俺の)ことより──酒寄さんのことだろ」

 

 

 

 ぽん、とヤチヨの背中を押す。

 

 

 

「……()()()……()()…? ……っっ!」

 

 

 最後、ヤチヨの声が強くなる。

 

 

 そして、勢いよく振り返った。

 

 

「“そんなこと”で済ませていい話なわけ──

 ないでしょっ!!」

 

 

「なんでだよ? 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ──とか、思ってるって?」

 

 

「……っ」

 

 

 言葉が詰まり、視線が揺れる。

 

 

「ヤチヨだって、俺がそんなこと言う奴じゃないって、もうわかってるだろ?」

 

 

 たとえ、この事実を知っていたとしても、

 俺の選択は、何一つ変わらなかった。

 

 

 きっと──何度繰り返したとしても、

 

 

 自分の"一番大事な人(ヤチヨ)"を守るために、

 

 

 何の迷いもなく、()()()()()()()()()()

 

 

「それに……この前言っただろ?

 今は、あんまり気にしてないって」

 

 

 なるべくやさしい声で、そう諭す。

 

 

 

「だからさ」

 

 

「ヤチヨが責任を感じる必要なんて、ないんだよ」

 

 

 

 ぽん、と改めて背中を押してやる。

 

 

「ほら、いいから。行けって」

 

 

 

「……っ!……でも……」

 

 

 絞り出すように。

 

 

「ヤチヨはもう……"かぐや"じゃ……」

 

 

「──正直に言えばいいんだよ」

 

 

 その言葉を、やわらかく遮る。

 

 

「8000年間ずっと待ってたんだから──」

 

 

「思いっきり、ぎゅっと抱きしめてほしいって。

 たくさん褒めてほしいって」

 

 

 

 ヤチヨの視線が、ゆっくりと向けられる。

 

 

 ──酒寄彩葉へ。

 

 

「……彩葉……」

 

 

 かすれた声。

 

 

「私……もう……おばあちゃんになっちゃった……っ

 キラキラな……あの頃の、かぐやじゃ……

 ないの……っ」

 

 

 涙が零れる。

 

 

 

「そもそも……彩葉が"今まで一緒にいたかぐや”

 とは……私……違──」

 

 

 

「関係ない!!」

 

 

 

 その言葉を、酒寄さんが力強く断ち切る。

 

 

 

「何千年経ってたって!何万年が経ったって!

 どれだけ変わってたって──関係ない!!」

 

 

 

 一歩、踏み出す。

 

 

 

「だって私は……っ」

 

 

 

 声が震える。

 

 

 

「かぐやのことが……っ、ずっと……

 ()()()()()()()()()!!」

 

 

 

「……っ、ぁ……」

 

 

 ヤチヨの瞳から、大粒の涙が溢れる。

 

 

 

「……いろ…は……っ、いろはぁっっ……!!」

 

 

 崩れるように、互いが駆け寄る。

 

 

 

「会いたかった……っ、会いたかったのぉ……っ!!

 ずっと……ずっと彩葉にぃ……っ!!」

 

 

 

 言葉にならない嗚咽が混じる。

 

 

 

「辛くて……っ、何回も……何回も諦めそうになって……っ

 でも……っ、それでも……っ」

 

 

 

 息が乱れる。

 

 

 

「もう一回だけでもいいから……っっ

 彩葉に……会いたくて……っ!!」

 

 

 

「かぐや……っ、ごめんね……っっ」

 

 

 酒寄さんもまた、涙をこぼす。

 

 

 

「気づいてあげられなくて……っ。こんなに近くにいたのに……っ、

 ずっと苦しんでたのに……っ」

 

 

 

 声が詰まる。

 

 

 

「ごめんね……っ、本当に……っっ」

 

 

 

 そっと抱きしめる。

 

 

 

「……"ありがとう"……っ

 また私に会うために……()()()()()()……っっ!」

 

 

 

そして、二人は強く抱きしめ合い、手を握り合う。

 

 

 

もう二度と()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 そうして、二人は涙を流しながら──

 

 

 

 それでも確かに"笑っていた"。

 

 

 

 ──ああ、よかった。

 

 

 

 心の底から、そう思う。

 

 

 

 正直──

 

 

 さっきの話を聞いて、何も思わなかったわけではない。

 

 

 引っかかるものだってあるし、

 割り切れない部分だって、まだ残っている。

 

 

 それでも。

 

 

 “大事なもののためなら”、

 こんな気持ちくらい、いくらでも押し込めてみせる。

 

 

 だって、俺は、目の前にあるこの光景を。

 

 

 何よりも望んでいたのだから。

 

 

 

 ──片方は八千年という途方もない時間を生き、

 かつての姿とは大きく変わってしまった。

 

 

 しかも、酒寄さんと過ごしたかぐやは今も

 月にいて、ヤチヨが共に過ごした酒寄さんは、

 もうこの世にはいない。

 

 

 厳密に言えば──お互いが当時一緒に

 過ごした人物とは、違う二人なのだ。

 

 

 他の人からみればそれは、

 

 

 

 "完璧なハッピーエンド"とは

 言えないのかもしれない。

 

 

 

 それでも、

 

 

 目の前の二人は、

 こんなにも幸せそうに笑っている。

 

 

 

 なら、

 

 

 これはもう。

 

 

 紛れもなく──

 

 

 

 ──最高のハッピーエンドだろう。

 

 

 





次回!ついに最終回!……かもしれません
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