「……謝って済むことじゃないのは、わかってる。
私はミコトに対して、本当に……
取り返しのつかないことをしちゃった……」
声は震え、言葉の端がかすれる。
「私がいなければ……ミコトは今も、家族と
普通に暮らして……普通に誰かを好きになって、
幸せな家庭を築いて……っ」
一つひとつ、確かめるように紡がれる
“あり得たはずの未来”。
「……普通に、天寿を
まっとうしていたかもしれない……
そんな未来を、"私が奪った"……っっ!」
唇を噛み、俯く。
「それだけじゃない……っ。
八千年も……八千年もだよ……っ…?」
喉が震えて、うまく息が続いてない。
「終わりの見えない旅に……ずっと……ずっと、
付き合わせて……っ」
肩が小さく震える。
「……でも……っ、これを言ったら……っ」
ぎゅっと拳を握る。
「ミコトに嫌われて……どこかに、
行っちゃうんじゃないかって……っ。
また……一人になっちゃうんじゃないかって、
そう思ったら……怖くて……っ」
声が崩れる。
「……ずっと、"言えなかった"……っっ」
………
沈黙が落ちる。
「お前……」
思わず、口から言葉が漏れる。
「……っ……」
ヤチヨの肩がびくりと震え、ぎゅっと目を閉じた。
──拒絶を、待つように。
「──そんなこと気にしてたのか?」
あっさりと、だが揺るがない声音で。
「......えっ?」
間の抜けた声が返る。
「別に、ヤチヨが悪いわけじゃないだろ。それ」
はっきりと言い切る。
「ヤチヨが、故意でそんなことする奴じゃないって
もうわかってるし。それを知ったところで、
今更怒ろうなんて思わないし……」
「……怒って、ないの……?」
恐る恐る、確認するような声。
「ない!だって、悪いのは全部その隕石だろ!
それさえなければ全部ハッピーエンドだったのに」
あの隕石マジで許すまじだわ。
「……ていうか」
「
ぽん、とヤチヨの背中を押す。
「……
最後、ヤチヨの声が強くなる。
そして、勢いよく振り返った。
「“そんなこと”で済ませていい話なわけ──
ないでしょっ!!」
「なんでだよ?
──とか、思ってるって?」
「……っ」
言葉が詰まり、視線が揺れる。
「ヤチヨだって、俺がそんなこと言う奴じゃないって、もうわかってるだろ?」
たとえ、この事実を知っていたとしても、
俺の選択は、何一つ変わらなかった。
きっと──何度繰り返したとしても、
自分の"
何の迷いもなく、
「それに……この前言っただろ?
今は、あんまり気にしてないって」
なるべくやさしい声で、そう諭す。
「だからさ」
「ヤチヨが責任を感じる必要なんて、ないんだよ」
ぽん、と改めて背中を押してやる。
「ほら、いいから。行けって」
「……っ!……でも……」
絞り出すように。
「ヤチヨはもう……"かぐや"じゃ……」
「──正直に言えばいいんだよ」
その言葉を、やわらかく遮る。
「8000年間ずっと待ってたんだから──」
「思いっきり、ぎゅっと抱きしめてほしいって。
たくさん褒めてほしいって」
ヤチヨの視線が、ゆっくりと向けられる。
──酒寄彩葉へ。
「……彩葉……」
かすれた声。
「私……もう……おばあちゃんになっちゃった……っ
キラキラな……あの頃の、かぐやじゃ……
ないの……っ」
涙が零れる。
「そもそも……彩葉が"今まで一緒にいたかぐや”
とは……私……違──」
「関係ない!!」
その言葉を、酒寄さんが力強く断ち切る。
「何千年経ってたって!何万年が経ったって!
どれだけ変わってたって──関係ない!!」
一歩、踏み出す。
「だって私は……っ」
声が震える。
「かぐやのことが……っ、ずっと……
「……っ、ぁ……」
ヤチヨの瞳から、大粒の涙が溢れる。
「……いろ…は……っ、いろはぁっっ……!!」
崩れるように、互いが駆け寄る。
「会いたかった……っ、会いたかったのぉ……っ!!
ずっと……ずっと彩葉にぃ……っ!!」
言葉にならない嗚咽が混じる。
「辛くて……っ、何回も……何回も諦めそうになって……っ
でも……っ、それでも……っ」
息が乱れる。
「もう一回だけでもいいから……っっ
彩葉に……会いたくて……っ!!」
「かぐや……っ、ごめんね……っっ」
酒寄さんもまた、涙をこぼす。
「気づいてあげられなくて……っ。こんなに近くにいたのに……っ、
ずっと苦しんでたのに……っ」
声が詰まる。
「ごめんね……っ、本当に……っっ」
そっと抱きしめる。
「……"ありがとう"……っ
また私に会うために……
そして、二人は強く抱きしめ合い、手を握り合う。
もう二度と
そうして、二人は涙を流しながら──
それでも確かに"笑っていた"。
──ああ、よかった。
心の底から、そう思う。
正直──
さっきの話を聞いて、何も思わなかったわけではない。
引っかかるものだってあるし、
割り切れない部分だって、まだ残っている。
それでも。
“大事なもののためなら”、
こんな気持ちくらい、いくらでも押し込めてみせる。
だって、俺は、目の前にあるこの光景を。
何よりも望んでいたのだから。
──片方は八千年という途方もない時間を生き、
かつての姿とは大きく変わってしまった。
しかも、酒寄さんと過ごしたかぐやは今も
月にいて、ヤチヨが共に過ごした酒寄さんは、
もうこの世にはいない。
厳密に言えば──お互いが当時一緒に
過ごした人物とは、違う二人なのだ。
他の人からみればそれは、
"完璧なハッピーエンド"とは
言えないのかもしれない。
それでも、
目の前の二人は、
こんなにも幸せそうに笑っている。
なら、
これはもう。
紛れもなく──
──最高のハッピーエンドだろう。
次回!ついに最終回!……かもしれません