超かぐや姫! 星の降る音   作:サトウシュン

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33話 いつも通りの日常とどんでん返し

 

 

 ミコトside

 

 

 しばらく休みなしで屋台を巡り、

 食べ歩きを楽しんだあと、

 

 

 俺たちは人混みから少し外れた

 ベンチへと腰を下ろした。

 

 

 屋台の喧騒はまだ遠くで続いているが、

 ここまで来ると幾分か落ち着いていた。

 

 

「ふぅ〜〜〜……」

 

 

 隣では、かぐやが満足げに息をついている。

 

 

 焼きそば、たこ焼き、りんご飴。

 

 

 ひと通り食べ尽くした結果だろう。

 

 

「いやー、それにしても──」

 

 

 かぐやが何気なく口を開く。

 

 

「今日祭りに来たのが彩葉だったら、

 今頃ヒーヒー言って、弱音吐いてるだろうね〜」

 

 

 彩葉体力ないからな〜、と続けてぼやく。

 

 

「……あ〜、確かに。

 この前、富士山登った時も──」

 

 

────────────────────

 

 

 今年に入ってすぐ、四人で"とある事情"から富士山を登っていた時のこと。

 

 

 空気は薄く、足場は不安定で、

 ただ歩くだけでも体力を削られていく。

 

 

 (久々に持ったけど……やっぱり"これ"、重いな……)

 

 

 言葉に出した瞬間、ここにいる二名から、

 めちゃくちゃ怒られそうなことを思っていると。

 

 

「はぁ……っ、はぁ……っ」

 

 

 荒い呼吸を繰り返しながら、彩葉さんは一歩一歩、必死に足を前へ運んでいた。

 

 

 そんな中──

 

 

「……彩葉ー!遅いよ〜!」

 

 

 とっくに余裕の表情で先を行くかぐやが、

 振り返って手を振る。   

 

 

 高度も疲労も関係ないと言わんばかりの

 軽さだった。

 

 

「ちょっと休憩にしますか?」

 

 

 かぐやの隣にいた俺も、

 さすがに見かねて声をかける。

 

 

『もう!彩葉ったら、普段ずっと研究室にこもって

デスクワークばっかりしてるから、体力ないんだよ〜』

 

 

 かぐやの首からぶら下がったスマホ越しに、

 ヤチヨの呑気な声が響く。

 

 

「う、うるさい……っ!はぁ……っ!

 体力っていう“概念”がないあんたたちと……

 一緒に、しないで……!」

 

 

 息も絶え絶えに反論する彩葉さん。

 

 

 その言葉を聞いたかぐやが、途中で買った金剛杖にあごを乗せ、悪びれもなく言い放った。

 

 

かぐや「まあ、仕方ないか……。

    彩葉もう"三十路"だもんねー」

 

 

ミコト「そんなこと言うなよ。

    30歳なんかまだまだ全然若いって」

 

 

ヤチヨ『そうそう!30歳なんて富士山で表すと

    10合の内の0.04合目くらいだしねー』

 

 

 ——約8000歳 × 3

 

 

 

彩葉(30歳)「あんたら“8000歳トリオ"基準で

      私の年齢を語るな!!」

 

 

 全力のツッコミが、山に響く。

 

 

 

「ふ〜ん……じゃあさー」

 

 

 含みのある言い方で、

 

 

「若者は若者らしく頑張ってよ!」

 

 

 かぐやが悪ノリで言う。

 

 

「よーし、じゃあかぐや!

 誰が一番先に頂上に着くか競争な!」

 

 

 俺もそれに乗っかる。

 

 

「その勝負受けて立つ!」

 

 

『かぐや!ミコトには負けちゃダメだよ!』

 

 

「え、ちょっ……待っ——!」

 

 

 制止の声も虚しく。

 

 

「「『よーい、ドン!』」」

 

 

 三人は一瞬で視界の先へと消えていった。

 

 

「……はぁ!?

 ちょっと──置いていくなってばぁぁぁぁ!!」

 

 

 悲痛な叫びが、山にこだました。

 

 

 

────────────────────

 

 

「──って、なってたもんな」

 

 

 ちなみに、その後はちゃんと彩葉さんを待っていました。

 

 

「いやー、歳をとるって残酷だねー」

 

 

 かぐやが、どこか他人事のように言う。

 

 

「俺らには縁のない話だもんなー」

 

 

 俺も、軽く肩をすくめる。

 

 

 時間の流れというものが、自分たちにはあまりにも曖昧すぎる。

 

 

「でもまあ……」

 

 

 少しだけ間を置いてから、

 

 

「俺は"普通に年取って"みたかったけどなー」

 

 

「……何それ、私への当てつけ〜?」   

 

 

 少しだけ頬を膨らませるかぐやに、

 

 

「そーでーす」

 

 

 あっさりと答える。

 

 

「あー!ミコトがひどいこと言ったー!」

 

 

 すぐに大げさなリアクションが返ってくる。

 

 

 立ち上がって、こちらを指差すかぐや。

 

 

 その様子が、あまりにもいつも通りで。

 

 

 思わず、

 

 

「「……ふふっ!」」

 

 

 同時に吹き出した。

 

 

「あははははは!」

 

 

 ……まったく、だから早く話しておけば良かったのに。

 

 

 今では、こうして"笑い話"にできるのだから。

 

 

「ほら、次の場所行くぞー!」

 

 

 立ち上がりながら言う。

 

 

「うん!まだまだ遊び足りないもんねー!」

 

 

 かぐやもすぐに立ち上がる。

 

 

 その足取りは、さっきと同じく軽い。

 

 

 肩が触れそうな距離で、自然と歩幅が揃う。

 

 

 言葉にすることはないが、それが当たり前のように続いている。

 

 

 ──8000年。

 

 

 長いはずの時間も、こうして並んで歩いていると、

 

 

 ただの“いつもの延長”にしか感じられなかった。

 

 

 それが、少しだけ可笑しくて。

 

 

 少しだけ、心地よかった。

 

 

────────────────────

 

 

 彩葉side

 

 

 飲み会も無事に終わったので、

 二人の待つ家に帰宅する。

 

 

 そして、

 

 

「二人ともただいまー。今日は勝手にどこに行って

 ──」

 

 

 リビングの扉を開けた瞬間、言葉が途中で止まる。

 

 

 帰ってきたらまず説教を一つ──

 

 

 そんな準備をしていたはずなのに、

 

 

 そこには──

 

 

 ソファに仰向けになって寝ているミコトさんと、

 

 

「くか〜!……くか〜!……ふへへ……」

 

 

 その上に覆い被さるようにして、

 

 

 左胸にぴったりと耳を当て、幸せそうに眠るかぐやの姿だった。

 

 

 完全に脱力しきった寝顔。

 

 

 無防備で、安心しきっていて、

 まるで子供のようだ。

 

 

 一方のミコトさんはというと、

 

 

「う…ゔ〜〜〜ん………っっ…」

 

 

 胸の上に乗った重みのせいで寝苦しいのか、

 

 

 うめき声を上げながら、

 なんとか引き剥がそうとしている。

 

 

 だが──

 

 

 がっちりホールドされており、びくともしない。

 

 

「……ふふっ」

 

 

 その様子に思わず、小さく笑みがこぼれた。

 

 

「ほんと……仲良いな〜この二人は」

 

 

 兄妹のようだが、

 

 

 もう少しだけ距離の近い何か。

 

 

 けれど、それを言葉にするほどでもなくて。

 

 

 結局、記憶で見た“いつもの二人”という表現に落ち着く。

 

 

「……起きて、二人とも」

 

 

 そっと近づき、軽く身体を揺する。

 

 

「「んぅ……」」

 

 

 ほぼ同時に、気の抜けた声が返ってきた。

 

 

 ゆっくりと、まぶたが持ち上がる。

 

 

「……あれ、彩葉?……おかえりー」

 

 

「……あー、重っ──『重?』……ナンデモナイデス……」

 

 

 ミコトさんのぼやきを、かぐやが即座に拾う。

 

 

 寝起きのくせにそこの反応だけはいい。

 

 

 

 だが、二人ともまだ意識はぼんやりしているようで、

 

 

 状況を完全には理解していない。

 

 

 ──だからこそ。

 

 

「それで?」

 

 

 わざと、声のトーンを一段落とす。

 

 

「二人は私に内緒で、()()()()()()()()()()?」

 

 

「「……あ」」

 

 

 その一言で、空気が変わった。

 

 

 さっきまでの眠気が、一瞬で吹き飛ぶ。

 

 

 目に見えて分かるくらいに、

 二人の意識が“現実”へと引き戻される。

 

 

 そして次の瞬間、

 

 

「ち、違うんだよ!彩葉!これはミコトから誘ってきて……!」

 

 

 かぐやが、即座に裏切った。

 

 

「やめろお前!この体勢で言うと変な意味に誤解されるだろ!あと、人を売るな!」 

 

 

 ミコトさんも即座に反論する。

 

 

 ……うん、やっぱりいつも通りだ。

 

 

 そこに少し安心する。

 

 

 そして、

 

 

「ミコトさんはもう帰っても大丈夫だよ」

 

 

 一歩引いて、あっさりと言う。

 

 

「今日はかぐやの面倒を見てくれてありがとう。

 ……かぐやには話があるから」

 

 

「あー!ずるい!なんでミコトだけ〜!?」

 

 

 不満を爆発させるかぐや。

 

 

「へっ、日頃の行いってやつだよ」

 

 

 ミコトさんは勝ち誇ったように笑う。

 

 

 その様子を見て、ふと西洋のことわざが頭に浮かぶ。

 

 

 

 "何も知らぬことは最も幸福である"

 

 

 

 ──まさしく、今の彼にピッタリの言葉であった。

 

 

────────────────────

 

 

 ミコトside

 

 

 なんとか難を逃れた帰り道。

 

 

 夜風が、少しだけ心地いい。

 

 

(いやー……今日は楽しかったな)

 

 

 自然と、そんな感想が浮かぶ。

 

 

 人混み、屋台、くだらない会話。

 

 

 全部ひっくるめて、悪くない一日だった。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()と思うほどに。

 

 

(特に……)

 

 

 ふと、思い出す。

 

 

 さきほどの、かぐやの顔。

 

 

 怒られると分かった瞬間の、

 あの分かりやすい表情。

 

 

(……あれは傑作だったな〜)

 

 

 思わず、くすっと笑いがこぼれる。

 

 

 今頃、彩葉さんにこってり絞られているだろうか。

 

 

 今日、外に連れ出してしまったのは自分のため、

 少しだけ同情はする。

 

 

 少しだけ。

 

 

 そんなことを考えながら、自分のアパートへ戻る。

 

 

 鍵を開け、扉を押し開けると──

 

 

 当然、部屋は暗い。

 

 

 

 ──はずだった。

 

 

 リビングの奥。

 

 

 タブレットの光だけが、ぽつりと浮かんでいた。

 

 

「……おかえり、ミコト」

 

 

 聞き慣れた声が、静かに響く。

 

 

 ゆっくりと視線を向けると、

 画面の中には、ヤチヨの姿。 

 

 

 その表情は、柔らかい。

 

 

 いつも通りの、穏やかな笑顔。

 

 

 ──だが。

 

 

「──今日は、

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

「あっ──」

 

 

 その一言を聞いた瞬間、背中に嫌な汗が流れる。

 

 

 逃げ場は、なかった。

 

 

 

────────────────────────

 

 

 FUSHI side

 

 

 淡い光に満ちた仮想空間《ツクヨミ》の

 プライベートルーム。

 

 

 現実の喧騒とは切り離された、静寂の空間。

 

 

 FUSHIはそこで、

 ひとり穏やかな時間を満喫していた。

 

 

 なぜこんな場所にいるのか。

 

 

 理由は──極めて単純だ。

 

 

(今ごろミコトは……ヤチヨに捕まって、

 逃げ場なしの説教タイムだろうな……)

 

 

 脳裏に浮かぶのは、正座させられ、逃げ場を完全に封じられたミコトの姿。

 

 

 今までに何度も見てきた光景。

 

 

 もし自分がその場に居合わせていれば、まず間違いなく巻き込まれていたはずなので、こうして避難したわけだ。

 

 

 ──ミコトは、相変わらずだ。

 

 

 かぐやのことも大切に思っているからこそ、放っておけない。

 

 

 それ自体は理解できるし、否定するつもりもない。

 

 

 しかし。

 

 

 そのたびに、ヤチヨの地雷を寸分違わず踏み抜く。

 

 

 しかも無自覚で。

 

 

 そして、最終的に自分のところへ泣きついてくるのだ。

 

 

(……あいつ、反省って機能がついてないのか?)

 

 

 小さくため息を吐く。

 

 

 ──それでも。

 

 

 八千年。

 

 

 気の遠くなるような時間の中で、自分をずっと

 守り続けてくれたのは、他でもないミコトだ。

 

 

 ミコトがいなければ、このちっぽけな身体も、

 とうの昔に消えていたのだ。

 

 

(……仕方ない…)

 

 

 ほんの少しだけ、口元が緩む。

 

 

(あと二時間……いや、一時間で限界が来そうだな。そしたら助けてやるか……)

 

 

 そう決めて、再び静寂に身を委ねようとした

 

 

 

 ──その時だった。

 

 

 突如、空間に光が走る。

 

 

(……嫌な予感…)

 

 

 そして、

 

 

「あーーー!FUSHI!やっぱりここにいた!」

 

 

 静寂は、一瞬で粉々に砕け散った。

 

 

 騒がしい声とともに、ミコトのアバターが出現し、一直線に駆け寄ってくる。

 

 

「ミコト!?なんでここに……!

 いや待て、お前、今“説教中”のはずじゃ……!?」

 

 

「"説教中"だよ!現在進行形で!

 だから助けを呼んだのに全然反応しないし──」

 

 

 その言葉が最後まで紡がれることはなかった。

 

 

 

 ……空間の温度が、すっと下がった。

 

 

 そして、次の瞬間──

 

 

 ゆらり、と。もうひとつの影が音もなく現れた。

 

 

「──人の顔を見るなり逃げるなんて……

 どういう了見なのかなー、ミコト?」

 

 

 ヤチヨであった。

 

 

 その顔には、にこやかな笑顔が浮かぶ。

 

 

 ──だが、目は一切笑っていない。

 

 

「い、いやその……これは、

 実は緊急事態が起こって……」

 

 

 ミコトの声がわずかに上擦る。

 

 

「へぇ〜〜〜。じゃあ──」

 

 

 ヤチヨは一歩、静かに距離を詰める。

 

 

「今日、私以外と“デート”したのも緊急事態なんだ?」

 

 

「ぐっ……言い方!」

 

 

 あっさりと言い訳を嘘だと見抜かれる。

 

 

「──ていうか、私以外って……

 ()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 ──はい。地雷踏んだ。

 

 

「…………」

 

 

 ヤチヨの雰囲気がさらに恐ろしくなる。

 

 

 ……全く。その説明で納得するなら

 毎回こうはなってないだろ……

 

 

「ひっ……FUSHI、頼む、なんとかして──

 今回はマジで無理……」

 

 

 縋るような視線が向けられる。

 

 

「毎回同じこと言ってるの、自覚あるか?」

 

 

「ある!でも今回が一番ヤバい!!」

 

 

「それも毎回言ってるだろ!!」

 

 

(……はぁ)

 

 

 深いため息が、自然と漏れる。

 

 

(なんでこいつら、両想いのくせに毎回こう拗れるんだ……)

 

 

 視線の先では、完全に捕食者と獲物の構図が出来上がっていた。

 

 

 そして、悟る。

 

 

 これはもうどう足掻いても巻き込まれる、と。

 

 

 逃げ場など、最初からなかったのだ──

 

 

「──いい加減にしろお前らぁぁぁ!!

 痴話喧嘩のたびにこっちを巻き込むなぁぁぁ!!」

 

 

 FUSHIの魂の叫びが、

 仮想空間いっぱいに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 そんな日々も過ぎ去って行き。

 

 

 

 ここからは少し未来のお話。

 

 

 

 2100年?

 

 

 ミコトside

 

 

 

 ゆっくりと、意識が浮上する。

 

 

 重たいまぶたをこじ開けると、

 

 

 最初に視界へ飛び込んできたのは、

 

 

 見覚えのない白い天井だった。

 

 

「……知らない天井だ…」

 

 

 乾いた声が、やけに遠くに響く。

 

 

 身体を起こそうとして、わずかな違和感に気づく。

 

 

「……?」

 

 

 少しだけ……()()()()()()()

 

 

 もう、数えきれないほど長い時間

 感じたことのなかった感覚。

 

 

 視線をゆっくりと巡らせる。

 

 

 無機質な壁。最低限の家具。

 

 

 枕元にある何十年も前の型のスマホ。

 

 

 生活感はあるが、どこか仮住まいめいている空間。

 

 

 ──あのアパートは、とうに手放した。

 

 

 それからも、住居を転々としてきたが──

 

 

 ここは、そのどれとも違う。

 

 

 まるで──

 

 

 独り身の人間がまだ生活を始めたばかりのような部屋。

 

 

 そんな部屋のベッドで、俺は一人で寝ていた。

 

 

 

「………"ヤチヨ"……?」

 

 

 

 無意識に、その名前が口をつく。

 

 

 いつものように、すぐ隣から返事が返ってくるはずだった。

 

 

 何気ない声で、あるいは呆れたように。

 

 

 けれど──

 

 

 返ってくる音は、何一つない。

 

 

 静寂だけが、部屋の中に満ちていた。

 

 

 

 人と同じように、"身体を得て"──

 

 

 昨日まで確かにここにいたはずの存在。

 

 

 一緒に暮らし、

 

 

 同じ時間を重ねてきたはずのヤチヨは──

 

 

 ()()()()()()()()()

 

 

 






次回、ついに最終回!

あ〜やっと終わる
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