超かぐや姫! 星の降る音   作:サトウシュン

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続・最終回 星の降る音

 

 

「って、そんな風に終われるわけないだろっ!!」

 

 

 気づけば、喉が裂けるんじゃないかってくらいの声が出ていた。

 

 

 静まり返った部屋に、自分の怒鳴り声だけがやけに響く。

 

 

 

 ……だって、昨日。

 

 

 俺は、ヤチヨに言ったんだ。

 

 

『もし、さ』

 

 

『本当に、離れちゃったら』

 

 

『……どうする?』

 

 

 あいつは、あんなに不安そうな顔で。

 

 

 それでも、

 

 

 答えを聞かないと前に進めないって顔で、

 俺を見ていた。

 

 

 だから俺は──迷わなかった。

 

 

 たとえ、別々の世界に分かれても。

 

 

 何千年、何万年、かかろうとも。

 

 

 

()()()()()()()()

 

 

 そう、言い切ったんだ。

 

 

 ──なのに。

 

 

「こんな形で終わるなんて……」

 

 

 拳が、震える。

 

 

「認められるわけがないだろ……っ!!」

 

 

 歯を食いしばる。

 

 

 クソ修正力が!人を死なない体にしたと思ったら、

 今度は勝手に戻しやがって!

 

 

「……別の世界?今よりも遥かに未来?」

 

 

 拳を、強く握りしめる。

 

 

「──上等だ!」

 

 

 吐き捨てるように言う。

 

 

「こっちは八千年、生きてきてんだ……!」

 

 

 何度も別れを見てきた。 

 

 

 何度も時代の終わりを見てきた。

 

 

 何度も、何度も、置いていかれてきた。

 

 

「何千年でも、何万年かかってでも──」

 

 

 また、それを幾度も繰り返すことになろうとも。

 

 

 

「──絶対に見つけ出してやる!!」

 

 

 心に固く誓う。

 

 

 そのためにも、まずは──

 

 

「……よし」

 

 

 顔を洗って、頭を冷やして、

 

 

 とにかく動く!

 

 

 そう決めて、ドアに手をかけた、その瞬間──

 

 

 

 ガチャッ!

 

 

「──え?」

 

 

 ドアがひとりでに開き──

 

 

 ガンッ!!

 

 

「痛っっっっっったぁぁぁ!?!?」

 

 

 鈍い衝撃が、額に直撃する。

 

 

 頭から星が散り、思わずその場にうずくまる。

 

 

「っ……いってぇ……何……?」

 

 

 涙目のまま、顔を上げる。

 

 

 

 ──そこには。

 

 

「……ふぁ〜あ……」

 

 

 間の抜けた欠伸。

 

 

「もう一回寝よ……」

 

 

 あまりにも、いつも通りの声。

 

 

「………は?」

 

 

 思考が止まる。

 

 

「……あれ? ミコト起きてたんだ」

 

 

 ()()()が、寝ぼけた目でこっちを見ていた。

 

 

「………」

 

 

「ここさー、二人で暮らすにはちょっと狭くな──」

 

 

 言いかけて、止まる。

 

 

「……え?」

 

 

 そして、俺の顔を見て、目を丸くした。

 

 

「ミコト、なんで"泣いてんの"?」

 

 

「……っ……」

 

 

 言葉が出てこない。

 

 

「……あ! もしかして!」

 

 

 ぱっと顔を明るくして。

 

 

「起きたら私がいなくて寂し──」

 

 

 最後まで言わせなかった。

 

 

 そして、

 

 

 強く、強く、抱きしめる。

 

 

「……よかった……っ……」

 

 

 声が震える。

 

 

 腕の中にある温もりが。

 

 確かに、“ここにある”。 

 

 

 夢じゃない。

 

 幻でもない。

 

 

 確かに、現実に存在する。

 

 

「……うん」

 

 

 ヤチヨは一瞬だけ驚いたあと。

 

 

 そっと、背中に手を回してくる。

 

 

「大丈夫」

 

 

 優しく、ゆっくりと。

 

 

「ちゃんと、ここにいるよ」

 

 

「ミコトも、私も……っ」

 

 

「……うん」

 

 

 しばらく、何も言わなかった。

 

 

 ただ、互いの存在を確かめるみたいに。

 

 

 離れずに、抱きしめ合っていた。

 

 

 

 

 ──やがて

 

 

 ふと、違和感に気づく。

 

 

「……あれ?ちょっと待って……」

 

 

 ヤチヨがいたのは良いのだが。

 

 

 もう一人、大事な存在が見当たらない。

 

 

「え!?FUSHIは!?」

 

 

 まさか!FUSHIだけ向こうの世界に置き去りにされたのか!?

 

 

 嫌な想像がよぎる。

 

 

 その瞬間。

 

 

「ここだ」

 

 

 声と共に掛け布団の中がもぞもぞと動き出す。

 

 

 そして、

 

 

「最初っからいたぞ」

 

 

 ひょこっと顔を出したのは、犬DOGE姿のFUSHIだった。

 

 

「FUSHI!!」

 

 

 思わず駆け寄って、抱き上げる。

 

 

「お前、なんですぐに言わなかったんだよ〜!」

 

 

 そして、頬擦りをしながらFUSHIに問いかける。

 

 

「いや、声をかけようと思ったんだけど……ミコトが急に恥ずかしいセリフを言い始めたから……」

 

 

「……は?」

 

 

 動きがピタッと止まる。

 

 

「ミコトのやつ、ヤチヨがいないと知って──」

 

 

「うわああああああああ!!」

 

 

 即座に口を塞ぐ。

 

 

「FUSHIさん!?そこは空気読もう!?な!?」

 

 

「むぐ〜〜〜……!」

 

 

「えー!なにそれ!気になるんだけど〜!」

 

 

 ヤチヨがニヤニヤしながら寄ってくる。

 

 

「ダメ!!絶対ダメ!!」

 

 

「いいじゃんちょっとくらい〜。

 なんて言ってたの〜?」

 

 

「ダメなもんはダメ!!」

 

 

 ──さっきまでの絶望が、嘘みたいに遠ざかっていく。

 

 

 くだらないやり取り。

 

 

 でも、それが何よりも──

 

 

 

 いつも通りの"日常"だった。

 

 

────────────────────

 

 

 ひとしきり騒いだあと。

 

 

 部屋に、少しだけ落ち着いた空気が戻ってきた頃──

 

 

 俺は、筆箱からなるべく殺傷力のないもの……

 

 

 定規を取り出し、角で軽く腕を傷つけてみた。

 

 

 表皮が少しめくれる。

 

 

 そしてそのまま──

 

 

 1分が経つ。

 

 

 ……普段なら、もう傷が治っているはずの時間。

 

 

 だが──傷はそのままだった。

 

 

「不老不死じゃ……なくなってる」

 

 

 ぽつりと呟く。

 

 

「……そっか」

 

 

 ヤチヨは驚くでもなく、どこか納得したように頷いた。

 

 

「じゃあ、本当に“戻ってきた”んだね」

 

 

 その言葉に、胸が熱くなる。

 

 

 その時──

 

 

 トコトコと、小さな足音。

 

 

「ミコト」

 

 

 FUSHIが何かを咥えてやってきた。

 

 

「ほら」

 

 

 差し出されたのは──

 

 

「あ……俺のスマホ……」

 

 

 普段使っていたものではなく、

 

 

 もはやオーパーツがごとき古い型のスマホを手に取る。

 

 

「元の世界に戻ったら、"したいこと"あったんでしょ?」

 

 

 ヤチヨが言う。

 

 

「……ああ」

 

 

 顔認証でロックを解除し、連絡先を開く。

 

 

 そこにある名前。

 

 

 ──【母さん】

 

 

 そして、

 

 

 通話ボタンをタッチする──

 

 

 

 はずだったのだが……

 

 

「……っ」 

 

 

 たったそれだけの動作なのに。

 

 

 指が震えて、それ以上進まなかった。

 

 

「……ミコト?」

 

 

 ヤチヨとFUSHIが心配するように覗き込んでくる。

 

 

 ……今なら、ヤチヨが彩葉さんになかなか本当のことを言い出せなかった気持ちがわかる。

 

 

 

 八千年経って、変わってしまった自分が。

 

 

 もはや、両親の顔も声すら覚えていない自分が。

 

 

 親に対して、子供として接することができるのか?

 

 

 

 なにより、話した時に──

 

 

 あんなに会いたがっていた家族が、

 

 

 "赤の他人"にしか感じなかったときが。

 

 

 そんな"もしも"が……怖くてたまらない……っ

 

 

 

 俺が怖じけていた、その時──

 

 

「大丈夫だよ」

 

 

 そっと、ヤチヨが俺の手を包む。

 

 

「……あんなに会いたがってたんだから」

 

 

 優しい声で言う。

 

 

「ミコトは変わってなんかないよ。だって……」

 

 

 まっすぐ、俺を見る。

 

 

「──こんなに震えるくらい、両親のことを

 ()()()()()()()()()()()

 

 

 その一言で。

 

 

 胸の奥にあった“何か”が、ほどけた。

 

 

「ああ……そうだな」

 

 

 ゆっくり、息を吸う。

 

 

 今度は──迷わない。

 

 

 しっかりと通話ボタンを押した。

 

 

 プルルル…… プルルル……

 

 

 呼び出し音が、やけに長く感じる。

 

 

 やがて──

 

 

『………(ミコト)?』

 

 

 聞こえた声。

 

 

 知っているはずなのに。

 

 でも、どこか遠い声。

 

 

 その瞬間──

 

 

「……っ……かあ、さん……」

 

 

 涙が、溢れた。

 

 

『命!? どうしたの!?泣いてるの!?』

 

 

「違う……違うんだ……」

 

 

 うまく話せない。

 

 

『大学で何かあった!?体調悪いの!?』

 

 

「違うって……!」

 

 

 一度、息を整える。

 

 

「今日……家、帰ってもいいかな」

 

 

 一瞬の沈黙。

 

 

 そして。

 

 

『……ふふ』

 

 

 柔らかい笑い声。

 

 

 懐かしい。

 

 

 たまらなく、懐かしい。

 

 

『いいわよ。いつでも帰ってきなさい』

 

 

 その一言で。

 

 

 胸が、いっぱいになる。

 

 

『ご飯、何がいい?』

 

 

「母さんの作ったやつなら……なんでもいいよ」

 

 

『はいはい、相変わらずねぇ』

 

 

 本当は、もっと話したいことがあるが。

 

 

 今は、それだけで十分だった。

 

 

 ──そして。

 

 

「あとさ──」

 

 

 一拍おいて。

 

 

「紹介したい人がいるんだ」

 

 

 ヤチヨを見ると、目が合う。

 

 

 少しだけ、照れくさそうに笑っている。

 

 

『……へぇ?』

 

 

 少しだけ、声のトーンが変わる。

 

 

「俺の──」

 

 

「一番大事な人っ!」

 

 

────────────────────

 

 

 ヤチヨside

 

 

 そして、数年後──

 

 

 かつて世界を熱狂させたあの舞台とは違い、

 

 

 そこはまだ生まれたばかりの仮想空間だった。

 

 

 光は少なく、観客もまばら。

 

 

 舞台袖で、ミコトが客席を見渡しながら呟く。

 

 

()()()()()()()()では、初めてのライブだな」

 

 

 ゆっくりと振り返る。

 

 

「……緊張してる?」

 

 

「まさか!」

 

 

 私はすぐに笑ってみせる。

 

 

「こっちは大のベテランなんだから!」

 

 

 軽く胸を張ると、ミコトは小さく笑った。

 

 

「……頼もしいな」

 

 

「でしょ?」

 

 

 少しだけ間を置いて。

 

 

「それに──」

 

 

 ちらり、と彼を見る。

 

 

「頼りになるプロデューサーもいるしね?」

 

 

「ああ!任せとけ!」

 

 

 その視線に込められた信頼を、ミコトは真っ直ぐに受け止めた。

 

 

「じゃあ──」

 

 

 一歩、前へ。

 

 

「いってきます!」

 

 

「──いってらっしゃい」

 

 

 交わした言葉は、それだけ。 

 

 

 けれどそこには、

 

 

 八千年分の時間と、

 

 

 ようやく辿り着いた“今”が詰まっていた。

 

 

 

 そして、

 

 

 幕が上がり、ステージに光が満ちる。

 

 

 瞬間、空間全体の色が変わり──

 

 

 私は、観客の前へと躍り出た。

 

 

「ヤオヨロ〜★」

 

 

 いつも通りの挨拶。

 

 

「みんな、生きるのどうですか〜?」

 

 

 明るく弾む声が、まだ静かな会場に広がっていく。

 

 

「いいことあった?それとも、泣いちゃいそう?」

 

 

 観客一人ひとりに語りかけるように、

 

 

 丁寧に言葉を届けていく。

 

 

「ヤチヨもね──昔、泣いちゃいそうなくらい、辛い時期があったんだ」

 

 

 その言葉に、ほんのわずかに空気が変わる。

 

 

 笑顔は崩さないまま。

 

 

「ず〜〜っと、一人でさ。話す相手もいなくて」

 

 

 けれど、その奥にある記憶は、決して軽いものではない。

 

 

 何年も、何年も──たった一人で過ごした時間。

 

 

 声をかける相手もいないまま、

 ただ“存在し続ける”だけの日々。

 

 

 終わりすら見えない孤独の中で、

 

 

 いっそ、すべてを終わらせてしまえたなら──

 

 

 そんな考えが、頭をよぎったこともあった。

 

 

「でも、そんな時──」

 

 

 そっと空を見上げるように視線を上げる。 

 

 

「流れ星を見たの」

 

 

 その仕草に、かつての夜が重なる。

 

 

 

 

 ──キラリ、と月を横切る小さな何かが見えた。

 

 

『あっ……流れ星……』

 

 

 静まり返った世界。

 

 

 音すら存在しない、孤独の中で。

 

 

 ただ一つ、胸に浮かんだ願いを思い浮かべる。

 

 

 

 ──神様、仏様、どうか。

 

 

 どうか、誰でもいい。

 

 

 ただ、

 

 

 "誰かに一緒にいてほしい"、と。

 

 

「そしたらね──」

 

 

 まっすぐ前を見る。

 

 

「聞こえたの」

 

 

 何の声も聞こえない、まるで──

 

 

 宇宙みたいな静寂の中で。

 

 

「本来なら、聞こえるはずのない音が──」

 

 

 ()()()が。

 

 

「──()()()()()が、聞こえたんだ」

 

 

 止まっていた世界が、動き出した瞬間。

 

 

 ひとりだった時間が、終わった瞬間。

 

 

 ──あの音が、全部を変えてくれた

 

 

「だから、私はここにいる」

 

 

 胸に手を当てる。

 

 

「だから、今、歌える」

 

 

 深く息を吸う。

 

 

「だから、"全部大丈夫"」

 

 

 自信を持って、そう言い切る。

 

 

「どんなに孤独な道のりでも──」

 

 

 少しだけ、笑う。

 

 

「あとで振り返ったときに、“楽しかったな”って言えるから」

 

 

 客席を見渡す。

 

 

「この時間も、そんな思い出にしたい」

 

 

 一歩、踏み出す。

 

 

「だから──」

 

 

 手を差し出すように。

 

 

「どうか、一緒に踊ってくれる?」

 

 

 一拍。

 

 

 そして──大きな歓声が、返ってくる。

 

 

「それじゃあ──」

 

 

 深く息を吸う。

 

 

「一曲目、いくよ!」

 

 

「曲のタイトルは──」

 

 

 はっきりと、まっすぐに。

 

 

「『星降る海!』」

 

 

 物語が、動き出す。

 

 

 さあ──

 

 

 巡ろう。

 

 

 私たちの、物語を!

 

 

 









と言うわけで……本当にこれで完結です!

どうでしょうか?
この作品、ちゃんとハッピーエンドで終われたでしょうか?

この作品のタイトルについてですが。
宇宙では音がしないため、本来、"星の降る音"というのは、絶対に聞こえないはずのものなんです。それくらい、ミコトとヤチヨの出会いは奇跡的なものだったということを表しています。

思えば、この作品を書く時も本当に苦難の連続でした。書きたいシーンはあるのにどうやってそこに繋げるの!?絶対無理でしょ……あっ、なんとかなった、の繰り返しでした。

一部原作キャラの扱いが雑で、不快な気持ちにさせたかもしれませんが、そこは作者の力量不足ということで許してください。

前回も書きましたが、この作品を書ききれたのは全て読んでくださった皆さまのおかげです。

ちょっと返せるかわからないですが、ぜひ、ご感想をお待ちしております。

それでは、今までこの作品を、読んでくださりありがとうございました!

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