というわけで最終回の続きです。
あと、前回の話のツクヨミ完成の年月を
6年後から数年後に変えました。
もともとあんまり考えずに決めた年数だったので。
今は昔〜♪
とかじゃなくって……
いやいやいや、大昔でも超〜未来でもなくって!
今と、ほんとにあんま変わんない世界。
携帯電話を操作する普通〜の大学生ありけり……
いや……やっぱ、なんか固っ苦しいな……
スマホいじってる普通〜の大学生がいました!
この人、なんと──
"別の世界"から帰ってきたばっかりだったから──
──────────────────────
ミコトside
「……お、お金がないっ……!」
元の世界に戻ってから三週間が経ち──
俺はスマホの画面に表示された貯金残高を
見つめたまま、ゆっくりとテーブルに突っ伏した。
──現実は、残酷だ。
“金銭不足”という名の重圧が、容赦なく俺の背中にのしかかってくる。
「……うぅっ……向こうの世界ではお金に
困ることなんて、ほとんどなかったのに……」
あっちの世界では、仮想空間《ツクヨミ》の運営者として、使い切れないほどの資産を抱えていた。
──だが、それも今となっては、ただの過去。
こちらに持ち帰れるはずもなく……
そもそも、大半は孤児院や支援施設に寄付してきたのだから、未練を言う資格すらない。
結果──
俺は今、大学に通いながらバイトで食いつなぐ、
ごく普通の──いや、
やや貧乏寄りの苦大学生へと華麗に転落していた。
とはいえ、大学生には変わらないのだから。
普通だったら、"自分一人の生活費"くらい、
バイトで十分稼げるものなのだが……
「……あー…」
家計簿アプリが弾き出した
今月の支出を確認し、頭を抱える。
"二人分"の食費に住居費。
さらには、"もう一人の同居人"の日用品・服代で
わずかしかない貯金が消し飛んだ……
それに加えて──
「──"電気代"高すぎだろっ!!」
思わず机を叩いた。
「なんだよ月2万って!
一人暮らしの電気代じゃねえぞこれ!」
一瞬、
──あれ? 俺、電気自動車持ってたっけ?
と自分を疑ったくらいだ。もちろん、
電気で動く
原因は……
エアコンのつけっぱなし? ──いや違う。
無駄に照明を使ってる? ──それも違う。
もっとシンプルで──
「……ははっ……電気、めっちゃ食うんだよな……
──
乾いた笑いが漏れる。
あまりの資金難に、
"実家を頼る"という選択肢も頭をよぎったが……
ただでさえ、大学も奨学金なしで
通わせてもらっているのだ。
それだけでも頭が上がらないのに……
──彼女とペットのために仕送りをください。
なんて、口が裂けても言えない!
(はぁ……ちょっと前までなら、
せめて食費だけは削れたのにな〜〜)
今は失った過去の体質を思い出し、遠い目になる。
そのとき──
「ま、まあまあ、ミコト……元気出して!」
場違いに明るい声が、現実に引き戻した。
振り向けば。
腕の中に一匹の犬を抱えた、俺と同年代の少女が立っている。
月見ヤチヨ。
そして、FUSHI 。
現在、我が家の電気代を爆発的に
押し上げている、
同時に、俺が見捨てることなんてできない、
「あ、そうだ!今度の休みだけど、どこかに──」
ピンと人差し指を上げたヤチヨが、
笑顔でそう言いかけた
次の瞬間。
──ピリリリリリ!
突如、甲高いアラーム音が部屋に鳴り響いた。
「──あっ! もうこんな時間か!」
反射的にスマホを掴み、時刻を確認する。
次の瞬間、俺は椅子を蹴るように立ち上がっていた。
急いでカバンを引っ掴み、
そのまま玄関へ向かおうとした──が。
「待って!!」
背後から飛んできた声と同時に、
ぐいっ、と胴体に重みがかかる。
「うおっ!?」
何事かと振り返ると──
「……ヤチヨを置いてどこ行くのっ!」
さらに、逃がすまいとするかのように、
しっかりと腕を回してきている。
「大学ッ! 今日、二限から必修あるから
遅れらんないんだよ!」
「私と大学──どっちが大事なの!?」
「めんどくさい彼女みたいなこと言ってくんな!!」
ぐいぐいと引き剥がそうとするが、
びくともしない。
相変わらず見た目に反して無駄に力が強い…!
(やばい……このままだと快速乗り過ごす……!)
焦りが一気に膨らむ。
──そのとき。
ガブッ!
「痛っったぁ!?」
ヤチヨの体がびくんと跳ねた。
拘束が緩み、その隙に俺は一歩距離を取る。
「〜〜〜っ!……ちょっと!
何すんの、"FUSHI"!」
ヤチヨが足元を睨みつける。
そこには、呆れた顔のFUSHI。
「このままじゃ、ミコトが大学行けないだろ」
「行かせないようにしてるんでしょ!!」
「ダメに決まってるだろ!バカタレ!!」
そのまま言い争いが始まる。
──が。
今はそれに付き合っている余裕はない。
「ナイス、FUSHI! じゃあ行ってきまーす!」
「あっ! まだ話終わってな──」
「いってらっしゃーい」
二人(?)の声を背に受けながら、俺はそのまま
玄関を飛び出した。
ドアを閉める直前。
ヤチヨの不満げな声と、FUSHIの呆れたような声が、微かに聞こえた気がした。
──────────────────────
ヤチヨside
数日後。
「じゃあ大学行ってくる!あ、あと今日も夜遅くまでバイトだから。先にご飯食べといて」
「え、あっ、ちょっと──!」
「いってきまーす」
パタン
軽い音を立てて、扉が閉まる。
ついさっきまであったはずの気配が、
すっと消えていく。
「……」
一拍の空白。
そのあと──
「うわあぁぁ〜〜〜ん!
最近、ミコトが全然構ってくれない〜!」
ソファに倒れ込むようにして、
私はそのままクッションに顔を埋めた。
ここ最近のミコトは、大学とバイトの往復ばかり。
朝は慌ただしく出ていき、夜は遅くに疲れた顔で帰ってくる。
まるで──かつての彩葉みたいに。
疲れ切った顔で、それでも「ただいま」と笑ってくれるけど。
──それだけだ。
ゆっくり話す時間も、一緒に過ごす時間も、
ほとんどない。
(前は……ずっと一緒だったのに……)
向こうの世界では、ほとんどの時間を一緒に
過ごしていた。
同じ空間で、同じ時間を共有して。
それが当たり前だったからこそ──
今の距離が、やけに遠く感じる。
「……仕方ないだろ」
呆れたような声が、足元から返ってくる。
視線だけを向けると、そこにはいつものように
落ち着き払った様子のFUSHI。
「ただでさえ、自分たちの身体の“充電代”で
ミコトに負担をかけてるんだ」
「でも〜〜〜……」
もごもごとクッションに顔を押しつけたまま、
声をくぐもらせる。
「ヤチヨだって働くって言ったのに、ミコトが……」
ぽつり、と零す。
──こっちの世界に来て、すぐのことだった。
生活が楽じゃないのは、
少し考えればすぐに分かった。
だから、私は迷わず言ったのだ。
『ヤチヨも働くよ!』
なのに──
『いや、お前、学歴ないだろ……今どき、
そんなやつ雇ってくれるところなんてないし──』
『大丈夫! 今までミコトの戸籍作ってたの誰だと思ってんの? とっくにこっちでの戸籍と学歴くらい用意してるから!』
『お前……いつの間に…いや、その節は大変お世話になったからあんまり強くは言えないけど……』
『じゃあ、ミコトがバイト行かなくてもいいように
続けて銀行のデータも書き換えよっか♪』
『それはダメに決まってんじゃん……
……絶対すんなよ……?』
あのときの、微妙に引いていた顔を思い出す。
そして、言葉に詰まりながらも、その後。
『〜〜とにかく!ヤチヨの体になんかあったら、
この世界じゃ簡単に治せないし……
家事やってくれてるだけでも十分ありがたいから』
そう言って、結局。
今はミコト一人が、家計を支えるために
無理をしている。
「……分かってるもん」
小さく呟く。
「ミコトが頑張ってるのも、心配してくれてるのも……ちゃんと分かってる」
でも、と。
胸の奥が、きゅっと締め付けられる。
「……それでも、寂しいのは寂しいんだもん……」
ぽつりと落ちた本音は、
思ったよりもずっと弱々しかった。
FUSHIはしばらく何も言わなかった。
「最後に、まともにミコトと一緒にいられたのは……
実家に行ったときか〜〜……」
────────────────────────
ミコトside
(あ〜〜……しんどい……)
バイトの休憩時間中、机に突っ伏しながら酷使した体を労る。
俺のバイト先は奇しくも彩葉さんと同じく、
喫茶店であった。
ここ最近は毎日大学とバイトの繰り返しの日々。
ただ、大学にもバイトにも
ようやく慣れてきたところだった。
戻ってきて最初は……正直。
『俺は大学生、俺は大学生、俺は大学生、
19歳、19歳、19歳、19歳…………』
そんなふうに、半ば本気で自分に言い聞かせていなければ、現実がどこか遠くへ滑り落ちていきそうで。
あの世界での時間が、あまりにも濃すぎたせいだ。
けれど幸いだったのは、過去の“俺”が、
まだ何も築いていなかったこと。
あちらへ飛ばされたのは四月に入ってすぐ。
そのため、大学では交友関係もほとんどなく、
バイトも始めたばかり。
つまり、失うものがほとんどなかった。
──だからこそ、やり直せた。
今では、大学でも軽く言葉を交わすくらいの
知り合いはできたし、バイト先でもそれなりに
顔と名前は一致するようになった。
完全に馴染んだとは言えないが、
それでも“浮いてはいない”程度にはなったと思う。
……まあ、それでも。
(やっぱ、しんどいもんはしんどいけどな……)
心の中でぼやきながら、ポケットのスマホを取り出す。
そこには、
母さん【またいつでも帰ってきなさいね。
ヤチヨちゃんも連れて】
そのメッセージを見た瞬間。
全身の力がわずかに抜けた。
そして、ふと──
ヤチヨと実家に帰った時のことが、脳裏に蘇る。
────────────────────────
覚えていた住所を頼りに辿り着いた、
見慣れたはずの家。
インターホンに指をかける、その一瞬だけ、
わずかにためらう。
すると、
「えいっ★」
ヤチヨが勝手に押しやがった。
(……こいつ……!)
まだ、人が心の準備をしている最中だと言うのに……
ほどなくして扉が開いた。そして、
「おかえりなさい、命」
母さん………が、俺たちを出迎えてくれた。
「うん……ただいま」
ようやく、それだけを返す。
すると、横で。
「初めまして! 私、
「──ちょっと待て」
反射的にヤチヨの手を掴んで、
そのまま声の届かない場所まで連れていく。
「あのさ──こっちが複雑な心境なのに
急に大ボケかましてくんのやめてくんない?」
母親と久々に再会してセンチメンタルな気分なの
わかんないかなー?
と小声で睨むと。
「ボケとは失礼な!ちゃんと戸籍の名前も
"天津ヤチヨ"で登録してるんだから!」
ヤチヨは頬を膨らませて抗議してくる。
「──え? 嘘でしょ?」
一瞬、思考が止まる。
知らないうちにヤチヨの実家帰りにもなってた?
「……………まあ、さすがに嘘だけど。
なんかちょっと空気重かったから、
ほぐしてあげようかな〜って思って!」
どうやら、ヤチヨなりに俺に気を遣ってくれたらしい。
ありがた迷惑……とは言わないでおく。
実際、すこし気分はマシになった。
小さく息を吐いて、気持ちを切り替える。
改めて、二人で母さんの前へ。
「えっと、こいつは──」
紹介しようとした、そのとき。
「あらやだ!」
母さんの目が、ぱっと輝いた。
「こんなに可愛い子を連れてくるなんて……
ミコト、あんたどこで捕まえたのよ!」
遠慮なく俺の脇腹を肘で小突いてくる。
「え、えーと……海で拾っ──いや、違う。
……ナンパ?……みたいな感じで……」
事実をそのまま話すわけにもいかないし、
かといって上手い嘘も思いつかない。
そうして、言葉が迷子になっている中。
隣に立つヤチヨが一歩前に出て──
──やめろ!出るな!
どうせ碌なこと言わないんだから!
「そうなんです!」
ぱっと表情を明るくして。
「あの日、海で偶然出会って……それが……
忘れられないくらい“運命的な出会い”で……/」
胸の前で手を重ね、うっとりとした表情を浮かべる。
……いやいやいや。
嘘をつくな!
(なんだそのロマン全開の"脚色"は! )
確かに出会いは印象的ではあったけど……
全然ドラマチックではないだろ。
むしろ、気絶したりして、
だいぶバタバタしてたし……
「ふぅ〜ん? 運命、ねぇ……」
母さんがニヤニヤと意味深な笑みを浮かべながら、俺の方をじっと見つめてくるので、スッと目を逸らす。
「でも分かるわぁ。私とお父さんもそれはそれは
運命的な出会いでね〜」
いや、自分の親のそんな話聞きたくないわ。
「そうなんですねー!」
俺とは反対に表情をパァッと明るくするヤチヨ。
だが、その後。
「……まぁ?
私たちの出会いには敵わないと思いますが……」
お前も人の親にマウントとんな。
掲示板やってたときの悪い癖でてるぞ、
yachi8000。
「……だから、そんな大層なもんじゃ──」
と、否定しかけて。
隣で嬉しそうにしている横顔を見た瞬間、
その言葉は喉の奥で止まった。
(……でも、)
ヤチヨにとっては、本当にそういうものなのかもしれない。
あの日の出会いが。
この関係が。
──“運命”だと。
(……なら、)
それをわざわざ否定する理由も……ないか。
小さく息を吐いて。
俺は、言いかけた言葉を、そのまま飲み込んだ。
「ほら! いつまでも立ち話してちゃ悪いから、
入って入って!」
「お邪魔しま〜す!」
「……た、"ただいま"…」
その一言は、まだ──
少しだけ慣れなかった。