すいません、全然最終回じゃなかったです。
というか全然もうちょっと続きそうです。
書いてるうちにどんどん文字が増えていってしまう
「い"だだだだだっっ!!
挟まってる!"腕”挟まってるからー!!」
大学からの帰り道、七色に光るなんとも怪しい電柱を見つけた俺は。
『と、とりあえず……こんな寒い中放置したらまずいよな……?』
そうして赤ん坊をそっと優しく取り上げた……
その瞬間だった──
ギイィィィ……
木製の扉が、不穏な音を立てながら
ゆっくりと閉まり始めたため、
『ちょっっっと待て!!
なんで閉じようとしたんだ!?』
と慌てて腕を突っ込み、どうにか閉まるのを妨害した。
その結果。
現在の状況はというと──
「きゃっきゃっ!!」
片方の腕には無邪気に笑う赤ん坊。
そしてもう片方の腕は、
ギリギリギリッ……!
電柱の中に突っ込んだまま、扉に思いっきり挟まれているという意味不明な状態に陥っていた。
寒空の下、電柱に腕を食われながら赤ん坊を抱えている大学生……
どう考えても見たら即通報案件だった。
「と、とりあえず……この状況を"一番見せたい奴”がいるから……いっかい閉じるのやめよ? な?」
まるで聞き分けのない犬をなだめるように扉へ語りかける。
だが返答はない。あるのはただ、
ギリギリギリ……
少しずつ強まる圧迫感だけだった。
「くっそ!融通が効かねぇな!!
お前は※唐変木かっ!……木だけにっ!!」
(※気のきかない人物、物分かりの悪い人物を
ののしっていう語)
そう言った直後……
『…………』
……空気が、止まった。
そして、次の瞬間──
……ギリギリギリギリィィィ!!
「いっだだだっっ!!力強めんなって!!俺が
『今、うまいこと言ったな……?』みたいな
顔したからカチンときた?
絶対今、イラッとしたよねぇ!?」
すると今度は、
スゥ……
とほんの少しだけ圧力が弱まる。
「否定だけはするんだな!?
めちゃくちゃ意思あるみたいじゃねぇか!!」
思わず扉に向かって叫んだ。
なんで扉と会話が成立しているのだろうか?
「……お前は電車のドアを見習えよ!
異物が挟まるとすぐに開いてくれるぞ」
完全に地雷を踏み抜くような発言をした瞬間。
……ギリギリギリギリィィィ!!
「あ"あ"あ"──!!挟む力で会話してくんなっ!!
絶対意思あるだろお前!!」
さっきまで“うっかり挟んでる”くらいだったのに、今はもう完全に“意思を持って潰しにきてる力”である。
「ごめんって!電車のドアとかあいつ安全重視しすぎて混んでる時何回も開いてイライラするから!
君くらい迷いなくしまってくれる方が良いってみんな思ってるから!!」
荒い息を吐きながら必死に謝罪する。
そろそろ挟まれた腕の痛みが限界だった。
それに、赤ん坊を抱えている腕の方も地味に体力の限界がきているため、
「早く……"ヤチヨ"に連絡を……」
そこまで言って、"はっ"と気づいた。
片方の手には赤ん坊。
もう片手の手は電柱の中。
(い、今……両手塞がってるんだった!)
両手が塞がっているため……
スマホを取り出せる手がない!
「ど……どうしよう……」
途方に暮れながら、腕の中の赤ん坊を見る。
当の本人は、
「きゃっきゃっ♪」
そんな俺を見て完全に楽しんでいた。
「……一旦、地面に置くか…?」
ポツリと呟き、
赤ん坊を地面に置こうかと考えた瞬間──
「ぺっっっ!!」
ビチャッ!!
──顔面に唾を吐き捨てられた。
「…………」
一瞬、思考が止まる。
赤ん坊はそんなこちらを見上げながら、
「きゃははは♪」
腹立つくらい楽しそうに笑っていた。
「──あ?(怒)」
思わず唾を吐きかけられた頬がぴくりと痙攣する。
何笑ってんだ、このクソガキ?
(この冬の寒空に放置してやろうか!?ああん!?)
とりあえず唾を拭いた後に、
頬でも引っ張ってやろうと思い。
怒りに任せ、つい扉に挟まれていた腕を引き抜く。
その瞬間だった。
──バタンッ!!!
待ってました! と言わんばかりの速度で扉が閉まる。しかも、
スゥゥゥ……
とまるで逃げていくように一瞬で消えていった。
「はぁ!?ちょっと待てよ!!消えるの早くない!?せめて証拠の写真撮らせろよ!!」
慌てて扉のあった場所を叩くが……
だがそこにはもう、ただの電柱しか存在していなかった。
風だけが、しん……と吹き抜ける。
残されたのは俺と身元不明の赤ん坊だけ。
そうして自分の状況を改めて確認して。
「……ど、どうしよう……これ…」
心の底から途方に暮れるのだった。
────────────────────
「た、ただいま〜……」
ガチャリ、と。
まるで空き巣が侵入する時みたいに、おそるおそる玄関の扉を開ける。
腕の中には……
「きゃっ!きゃっ!」
こちらへ小さな手を伸ばす赤ん坊。
結局──
「くぅっ……連れて帰ってきてしまった……」
見捨てることなんて、できなかった。
こんな冬の寒空の中。
ゲーミング電柱の中に置き去りにされていた赤ん坊を。
ましてや──
8000年もの間、ずっと隣を歩き続けた相棒にそっくりな存在を。
一人ぼっちのまま放っておけるわけがなかった。
……一瞬、警察に届けることも頭をよぎったが、
『電柱から出てきた扉の中に赤ちゃんがいて!』
『ちょっと薬物検査してもいいですか?』
とりあえず信じてもらえない未来しか見えなかった。
(うぅ……今なら彩葉さんの気持ちが痛いほどよくわかる)
自分が同じ立場になってみて、ようやく理解した。
全く人に信じてもらえない絶望感を……
──いや、でも……待てよ?
ふと、一筋の希望が頭をよぎる。
意外とヤチヨなら信じてくれるんじゃないか?
あいつ、"ゲーミング電柱出身"だし。
普通の人間なら頭を抱えるような超常現象を、
実際に引き起こしている側だ。
……うん。なんかいける気がしてきた!
それに、こういう時は堂々としていた方がいい。
職質だって、オドオドしてる奴ほど止められるって聞くし!
俺は、やましいことなんて何一つしてないんだから!!
(よ〜し!いっくぞー!)
覚悟を決めて、リビングのドアを開け放つ。
「ただいま!!ヤチヨ!!」
「あっ……ミコト!」
こちらに気づいたヤチヨが、
ぱたぱたと駆け寄ってくる。
けれど、その表情はどこか気まずそうだった。
「その……朝は、ごめんね?」
「え?」
戦争に参加するくらいの気合で来たのに、突然の謝罪をされたため、思わず声が出る。
「私、ミコトに八つ当たりして……
ひどいこと言っちゃった」
しゅん、と肩を落とす。
「ミコトがちゃんと私のことを想ってくれてるのは、
普段の行動からわかってるの……に──」
そこまで言いかけて。
ヤチヨの視線が少し下がり、
腕の中でぴたりと止まる。
その視線の先にいる赤ん坊は、
「きゃっ♪」
などと愛想よく笑った。
……やめろ。
今お前が好感度を稼ぐターンじゃないから。
「…………」
すっかり黙り込んでしまったヤチヨに対して、
俺はなるべく優しい声で。
「……そっか……ヤチヨもわかってくれたなら、
俺は別に気にし──」
「ちょっと黙って」
「ア、ハイ」
「「…………」」
お互いにしばらく言葉が出ずに沈黙の時間が続く。
そして、体感だと数時間にもおよぶ重苦しい静寂のあと。
顔を上げたヤチヨは、信じられないものを見るような目で俺を見つめていた。
「……っ…ほ、本当に……浮気、した……?」
震えた声で、目を揺らしながらこちらに問いかけてくる。
「違う違う違う違う!!」
全力で首を振って否定した。
「…し、信じらんない…っ……誰との子ども…?」
続けてワナワナと体を震わせ後ずさり始める。
「だから違うって!!」
慌てて声を張り上げる。
「じゃあ何!? どういうことなの!?」
「この子、
慌てて誤解を解こうと、必死に説明する。
だが、
「そんな風邪の日にみる夢みたいなこと
あるわけないでしょ!!
つくんならもっとマシな嘘つきなさいよっ!!」
全然ダメだった。即行で嘘認定された。
「なんでその現象を起こせる張本人が否定してんだよ!?」
お前だけは信じろ!!
しかしヤチヨは完全にパニック状態だった。
「本当のこと言って!!
浮気相手との子ども、隠してたんでしょ!?」
今にも泣きそうな顔で睨んでくる。
「だから違うって!! 本当に電柱から──」
「電柱から赤ちゃんが出てくるのと隠し子だったら、隠し子の方がまだ現実的でしょ!?」
「ぐうの音も出ないほど反論できないっ!!」
悔しいことに、説得力だけなら
向こうの圧勝だった。
ヤチヨはさらに追撃してくる。
「私が子ども作れないから、他の女の"人"のところにいったんでしょ!?」
「いや話が重いって!!」
「ミコトの、浮気者ぉぉぉっっ!!」
「違──!!」
その瞬間。
「ふえええぇぇぇぇぇん!!」
赤ん坊が大声で泣き出した。
「あぁっ!?」
完全に狼狽える。
「ど、どうする!?揺らす!?いやダメだっけ!? え、背中トントン!?」
知識がふわっとしているため、どうすればいいのか全くわからない。
一方でヤチヨは、光の無くなった目でぶつぶつと何かを呟いていた。
「家の外に出るからこんなことになるんだ……」ボソッ
「え?」
「お金なら私が稼ぐから……ミコトはもう、ずっと家の中に……」
「ちょっと待て!!
監禁バッドエンドに分岐しようとするな!!」
「大学から駅前までは怪しいところはなかった……
十分くらい家の近くで立ち止まってたとき……?」
「お前ずっと監視してたの!?」
「ふえええええぇぇぇぇんんっ!!!!」
「ああああもう!! 泣き止まない〜〜!!」
そんな中──
ドンドンッ!!
突然、壁が叩かれた。
「うわぁ!壁ドン……初めてされた……」
どうやら騒ぎすぎて隣人から苦情が来たらしい。
──室内は完全に阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
泣き叫ぶ赤ん坊。
闇堕ちするヤチヨ。
半泣きの俺。
止まらない壁ドン。
そんな中──
「お前ら……」
FUSHIはやけに冷静にため息をつき、
「マジで毎回いい加減にしろよ?」
そして、結局……
いつも通り最後に場を収めるのだった──
────────────────────
「とりあえず、本家『Remember』よろしく」
この子を泣き止ませるならこれだろうと思い、
ヤチヨにリクエストすると。
「仕方ないな〜。今回だけだからね?」
そう言って軽く咳払いを一つ。
そして次の瞬間。
静かな歌声が、部屋の中へふわりと広がった。
優しくて、柔らかくて。
まるで夜そのものが包み込んでくるような声。
その声を聞きながら、赤ん坊は次第に目を細めていく。
「すー……すー……」
そうして、先ほどまで元気に泣いていたのが嘘のように、あっという間に寝息を立て始めた。
「よし、泣き止んだ」
俺はほっとしたように息を吐く。
その隣で、ヤチヨは腕を組みながら眠る
赤ん坊を見下ろしていた。
だがその表情には、まだ少しだけ困惑が残っていた。
「この子って……
本当に“そう”なの?」
未だに半信半疑、といった声音だった。
俺は静かに頷く。
「状況的にそうだろうな……」
そして、視線を眠る赤ん坊へと向ける。
「こっちの世界でも、
「そうだね……まあ、とりあえず育てるしかないかぁ」
ヤチヨはため息をつきながらも、
現実的な方向へ思考を切り替える。
「ごめんな……こんなことに巻き込んで」
思わず謝ると、ヤチヨはきょとんとした顔をした。
「いや……どっちかと言うとこの場合、
謝るのはヤッチョの方なのでは?」
「……確かに、そうなのか?」
関係性を考えると、完全に無関係とも言えないし、むしろ発端側と言えなくもない……のか?
俺は苦笑しながらスマホを取り出し、ベビー用品について検索を始めた。
「ベビー用品は……レンタルのやつでいいか」
「どうせすぐ使わなくなるもんね〜」
「これから大変になるなー……」
そう言いつつも、俺たちの顔にはそこまで悲壮感はなかった。
突然始まった異常事態のはずなのに、不思議と
“なんとかなるか”という空気がある。
向こうの世界で散々トラブルに巻き込まれてきたせいか、感覚が少し麻痺しているのかもしれない。
そんな中。
ヤチヨが、ぽんっと手を叩いた。
「あっ! オムツとか変えるのは私がやるから!」
「えっ、なんで?」
思わず聞き返す。
するとヤチヨは、少しだけ気まずそうに視線を逸らした。
「なんか……
自分がされてるみたいで恥ずかしいから」
「いや、完全な別人だぞ?」
「それでも!」
びしっ、と勢いよく指を突きつけられる。
そしてヤチヨは、なぜか妙に真剣な顔で言い放った。
「それに、この子のためにもミコトは裸見ちゃダメだから!」
そう言いつつも、なんか半分私情が入っている気がしないでもないような……
「あっと、そうだ……あとFUSHIもありがとな」
今回の件で、間違いなく一番苦労したであろう存在
──FUSHIへ、改めて礼を言う。
「まったくだ……毎度毎度、お前らを止めるこっちの身にもなって欲しいもんだ」
呆れたように肩を竦めるFUSHIに、俺とヤチヨは揃って苦笑した。
「「あはは……気をつけまーす」」
……いや、ほんとに。
暴走しかけた俺たちを止めたり、後始末を手伝ったり。なんだかんだで、いつも最後まで付き合ってくれている。
(ほんと……もうFUSHIには
足を向けて寝られないな……)
「おい、ミコト。なんで
ジブンの寝床を定位置からズラしてるんだ?」
◇ ◇ ◇
3日後──
深夜。
人の気配が薄れた部屋には、寝息だけが静かに満ちていた。
窓の外では月明かりが淡く街を照らし、その白い光がカーテンの隙間から細く差し込んでいる。
そんな静寂の中。
一つの布団が、小さく揺れた。
もぞり、と身を起こしたのは、銀色の髪を持つ少女──
彼女はまだ眠たげに目を擦りながら、周囲へ視線を巡らせた。
音を立てぬよう静かに布団を抜け出すと、部屋の片隅に置かれた机の上で、淡い光が瞬いていることに気づく。
暗闇の中で、そこだけが小さな灯台のように輝いていた。
まるで光に吸い寄せられるように近づいていくと、
そこには無数の文字列が並び、この世界の知識が膨大な海のように広がっていた。
当然、本来ならば。
幼い少女が一目見た程度で理解できる代物ではない。
だが、少女は地球人とは比較にならない演算能力と知性を持つ存在だった。
白い指先が画面へ触れる。
すると文字列が滑るように動いた。
その瞬間、瞳がわずかに見開かれる。
未知との遭遇に対する驚き。
そして──それ以上に強い好奇心。
もう一度、指を動かす。
スッ……スッ……
画面の情報が流れていく。
少女はすぐに理解した。
これは知識を蓄積し、閲覧するための装置なのだと。
それから先は早かった。
彼女は無言のまま画面を操作し続ける。
まるで乾いた大地へ水が染み込むように。
普通の人間であれば数年を費やす学習量を、わずかな時間で理解していった。
静かな深夜の一室で。
月の少女は、初めて“地球”を知っていく。
◇ ◇ ◇
???side
(よし!言語については大体理解ができた!)
最初に開かれていた画面が、
『バカでもわかる日本語の全て』
という初心者向けの内容だったため、驚くほどスムーズに言語を習得することができたのである。
(いや〜運が良かったな〜……
まあ、私はバカじゃなくて"超天才"なんだけど!)
えっへん、と誰も見ていないのに得意げな顔をする。
しかし、気になるのは他にもあった。
画面上には、他にもいくつか別のページが開きっぱなしになっていたのだ。
二つ目のタブ。
『人に迷惑をかけないように生きる方法』
「……?」
三つ目……
『他人のお金で勝手に何かを買うことは犯罪です! あとから必ず後悔するのでやめましょう!』
「……???」
いや、なんか最後だけ妙に具体的じゃない?
やたらと強い"メッセージ性"を感じるような……
そうして、それら全てを"完璧に"理解した後に、
今度は検索履歴を覗いてみる。
そこには、古い順にこう並んでいた。
『赤ちゃん オムツの変え方』
『男 浮気 言い訳』
『彼女 病んだ どうする』
『子供が迷惑をかけた場合 謝罪』
『問題児 反省しない 対処法』
『問題児 叱り方』
『問題児を預かった保護者の苦悩』
(……"問題児"??)
都度出てくるそのワードに私は違和感を覚えた。
果たして、一体誰のことを言っているんだろうか?
……おそらく、この二人はたまに預かる子供にさぞ苦労しているのだろう。可哀想に……
そして、検索ワードから漂う不穏な気配に、少しだけこの家に拾われて大丈夫だったのだろうか?という不安がじわじわ膨らみ始めた。
その時だった。
ぐぅぅぅぅぅ〜……
「あっ」
盛大に腹が鳴った。
知識欲は満たされても、空腹には勝てない。
私はふらふらと部屋を見回し、眠っている二人へ視線を向ける。
一瞬、先ほど学んだ『人に迷惑をかけないように生きる方法』の内容が頭をよぎったが……
遠慮なく、てててっと布団の方へ歩いていった。
「ねぇ〜、お腹すいた〜!ミルク〜〜!!」
深夜の静寂をぶち壊す、完全に自分勝手な第一声だった。
◇ ◇ ◇
「私、月からやってきたの!」
そう言って、くるりと回って胸を張った。
あらかじめ用意されていた“オムライス”という地球の料理は信じられないほど美味しく、危うくその感動で全部忘れかけていたが、ちゃんと大事なことを伝えなければならない。
──私は宇宙人なのだ。
しかも月から来た。
この事実はもっとこう……部屋の空気が凍るとか、叫ばれるとか、最悪気絶されるくらいのインパクトがあるはずである。
……だというのに。
「「へ〜〜」」
二人の反応は、驚くほど薄かった。
しかも。
「そうなんだー……
明日の朝ごはん何にする?」
(そんなこと??)
「んー、冷凍の鮭焼こうかな〜って」
──普通に朝ごはんの相談をし始めた。
「……えっ?えっ?」
私はぽかんと口を開けた。
(いやいやいやいや。
月から来たんだよ?宇宙人だよ??
絶対、鮭よりもこっちの方が重要でしょ!?)
もっとこう……地球に何しにきたんだ〜
とかあるくない!?
しかし二人は、そんな私の心の叫びなど知る由もない。
「じゃあ冷蔵庫で解凍しとくわ」
「ありがと〜。あ、炊飯器もセットしとかないと」
てきぱきと家事を進めていく。
その様子には、未知の生命体を前にした
緊張感など一切存在しなかった。
(せめてこう……
『えぇっ!?宇宙人っっ!?』とかないの!?)
納得いかない顔で二人を交互に見つめる。
だが当の二人は本当に気にしていないらしい。
今日の朝食の準備を終えると、
そのまま部屋の電気を消し始めた。
そして私はベッドに寝かせられると、
続いてふわりと毛布をかけられる。
「「おやすみー」」
そのまま二人は自分の布団へ潜り込み、数分もしないうちに静かな寝息を立て始める。
「…………」
……部屋は暗くなった。
静寂の中、私だけがぱちぱちと目を開けたまま天井を見つめている。
(……えっ?
……信じられなかった。
宇宙人だと告白したのに。
しかも、自分はついさっきまで赤ちゃんだったはずなのに。
(急に大きくなったことにも触れないの?
普通そこ一番気になるところじゃない!?)
だが、二人はまるで気にしていなかった。
月の文明でも、ここまで順応が早い者はそういないというのに。
(あと、この服
まるで、今日の夜大きくなることを
あらかじめ知っていたかのような……
結局、その夜。
私は妙にモヤモヤした気持ちを抱えたまま、なかなか眠ることができなかった。
◇ ◇ ◇
次の日の朝。
まだ少し眠気の残る部屋の中で、私は一人、静かに行動を開始していた。
目指す先は台所。
そして、その下にある収納スペース。
小さな体を器用に滑り込ませると、扉を内側からそっと閉める。
途端に視界が暗闇に包まれた。
狭い空間の中で膝を抱えながら、にやりと笑う。
(ふっふっふ……昨日は全然びっくりしてくれなかったからね……!)
月から来た宇宙人だと名乗っても、
二人は驚くどころか"鮭の解凍"を優先しやがった。
……あれは地味にショックだった。
なので今日はそのリベンジである!
(私が急にいなくなったら、
今度こそ二人とも大騒ぎするはず……!)
『あの子がいない!?』
『え、どこ!?』
『まさか宇宙に帰った!?』
そんな感じで慌てふためく二人に、
『ココダヨ〜』
と姿を見せて言う自分を想像し、口元を緩めた。
──だが。
ガチャッ
「──え?」
突然、目の前の扉が開いた。
暗闇だった空間へ一気に朝の光が差し込み、
思わず目をぱちくりさせる。
そこに立っていたのは昨日名前を教えてもらった、
"ヤチヨ"であった。
しかも、その表情は驚きでも焦りでもなく。
完全に“予想通りの場所にいた子供を見つけた母親”の顔である。
「ほら、こんなところ入ってないで、はやく顔洗ってきなさい」
呆れ半分の声だけを残し、ヤチヨはそのまま台所を去っていく。
「…………」
私は収納の中で固まった。
「なっ……!?」
想定していた反応と違いすぎる。
(なんでここに隠れてること分かったの!?)
完璧な作戦だったはずだ。
二人が寝ていることを確認し、音も立てずに潜伏した。
どう考えても、普通は見つけられないはずなのに……
しかしヤチヨは、一切迷うことなく扉を開けた。
まるで“ここにいることがわかっている”みたいに。
(もしかしてこの星の人類……
めちゃくちゃハイスペックなのでは?)
私は昨日から実感していた、
地球人の潜在能力の高さに軽く戦慄したのだった。
???
月からやってきた謎の(美)少女。
自分のことで全く動揺しない二人を見て、
"CHIKYUJIN"にビビりつつある。
二人は、成長直後の初期ラーニングで性格を
矯正しようと試みたが、もちろんそんなことで
変わるような奴ではなかった。