彩葉登場回
2027年
あれからツクヨミは本格的にサービスを開始した。
まるで現実のような再現度の幻想的な世界はたちまち人々を魅了していき、ツクヨミの人口は爆発的に増加していった。
そんな中でもヤチヨのライブはツクヨミの名物として人々から好評を得ていた。また、ヤチヨ個人chでの配信も人気を博し、ツクヨミNO.1ライバーの座を一度たりとも譲らなかった。
ツクヨミがオープンしてからの7年間でヤチヨは何度もライブを開き、俺はそれを全て鑑賞した。
最初は少なかった観客も徐々に徐々に増えていき、だんだん最前列を取ることも難しくなってきた。
ヤチヨからは最前列のチケットあげよっか?と提案されたがそれは断った。毎回自分が見ていても他のファンに悪いし、何より自分の運で引き当てたい。
あ、ただしライブのチケット自体は譲ってもらっている。これは開発者特権で許されるだろう。
そうして、今日も最高のライブを楽しみ、ライブはあっという間に終わってしまった。
「神々のみんなー!ヤオヨロー!今日は来てくれてありがとー!新曲どうだったー?」
そう。今日はこのライブ初出しの新曲のお披露目があったのだ。
さいこうだったー
とファンの大勢から返される。
うう、あの小さかったヤチヨ(ウミウシ)がこんなに人気になって。
と最古参ファンとして感動していた。
「感謝感激雨アラモード!本当はもっとみんなといたいけど今日はここまで!さらば〜い」
いつもの口上である別れの挨拶を残し、ヤチヨは空に消えていった。
(あれ?いなくなった?)
普段のライブだと終わった後にヤチヨの分身が降りてきて、ファンたちと雑談するのだが今日はなぜかそのままいなくなってしまった。
一瞬何かのトラブルかとも思ったが、そういう時はFUSHIがメッセージを送ってくるため、今日はそういう日なのだろう。
だが、これはチャンスだ。本人がいる時は恥ずかしくてできないが、毎回ヤチヨのライブに感動して叫び出したい衝動を我慢していたのだ。
ヤチヨがいない今日ならできる!
俺は退場を始めた人たちを避けて移動しながら前に進み、そして大きく息を吸い
すぅぅ
「「ヤチヨ────────!!!」」
自分の抑えきれなくなった思いを叫ぶと全く同じタイミングですぐ隣から叫ぶ声が聞こえたためびっくりして隣を見る。
そこには黒い髪に青色のインナーカラーが入り、
服装は着物にパーカーとベルトを合わせ、狐のものと思われる耳と尻尾が生えている女の子がいた。
「あっ、ぐずっ、ごめんなさい。急に大声出しちゃって。」
その女の子は涙を浮かべてこちらに申し訳なさそうに謝ってきた。
「いえいえ、こちらこそ申し訳ないです。
でも、仕方ないですよ!だって今日のライブめっちゃよかったですから」
泣くほど感動している少女に共感し、思わずライブの感想を漏らしてしまう。
「わかりますっ!とくに新曲のときなんてもう涙出てきちゃって。」
ぐいっとこちらに身をのり出して熱く語る少女。
「新曲最高でしたよね!あと表情!今日は特に途中歌ってる時の笑顔がめっちゃ綺麗で!」
「あの笑顔マジやばかったですよね!私鼻血出るかと思いました!」
そう。今日は途中、見逃しそうなほど一瞬だったがヤチヨが泣きそうな表情になったと思ったら急に輝くような笑顔を浮かべ、明らかにパフォーマンスが良くなったのだ。
「いやー、今日のライブのチケット取れたのは本当にラッキーですよ。今までのライブでもダントツに良かったですから。」
「今までってそんなに何回もライブに来てるんですね。羨ましいです。」
ここで流石に最初のライブから全部見てますというとマウントをとっているみたいになってしまうので少し回数を誤魔化すことにした。
「自分も3、4回くらいしか当たったことないんですけどね、あはは。でも、ヤチヨは俺の命の恩人なんですよ。ヤチヨがいなかったら今の自分はないですから、せめて精一杯応援して少しでも恩返ししたいんです。」
「あ......私もおんなじです。ヤチヨがいなかったらとっくにもう......」
なんだか暗い雰囲気になってしまったので慌てて会話を切り替える。
「本当に好きなんですね、ヤチヨのこと」
「はい!......あ、いや、ヤチヨのライブに来たの今日が初めてで。なんならツクヨミにログインしたのも最近で......」
初ライブでこの感動具合だと?
こんな逸材はそういないため是非とも沼らせなければ!
普段はあんまり自分から話しかけたりしないんだけどヤチヨのファンを増やせるこの機会は逃せない。
「そうなんですね。あの、もしよければフレンドになりませんか?ツクヨミについては結構昔からログインしてるので困ったことがあれば教えてあげられますし、他にもヤチヨの情報とかも」
「え、いいんですか?でも、そんな悪いですよ。」
「いえいえ、ヤチヨのファンが増えるのは嬉しいことですし。推し活仲間が増えるのもありがたいので。
もし、嫌になったらブロックしてもらって構わないので。」
「......じゃあ、ぜひお願いします。私
「自分はミコです。今申請送りました。じゃあ今日はヤチヨについて話せて楽しかったです。」
「はい!私もです!」
こうして俺とイロさんの初めての会合は終わった。
────────────────────────────────
「ううっ、ぐすっ......ふへっ」
「ヤチヨ!?どうした!?」
ライブが終わり、ツクヨミからログアウトした俺はもうすでにタブレットにヤチヨがいるのを確認して話しかけたのだが、画面に映る彼女は涙を浮かべて泣きながら笑っていた。
やっぱり、バグが!
今日のライブの違和感から早く気づくべきだった!
慌てて対処しようとする俺に対し
「あっ、ち、違うの、ふふっ......ぐずっ。バグとかじゃなくって。......今日、ライブに彩葉が来てた。」
「え!?マジ!?あの酒寄彩葉が!?」
酒寄彩葉。ヤチヨが地球で生まれたあとに1ヶ月間を共に過ごし、そして、八千年黄昏続けた人。
それがついに彼女の前に現れたというのだ。
「やったじゃん!なのになんでそんな複雑な顔してんの?」
今まで本当に長い期間を彼女と再び会うために過ごしてきて、ついに会えたというのに彼女は泣いていたのだ。
「えっと、これはすごく幸せすぎるせいで、めちゃくちゃ笑ってるのに、涙止まんないの〜」
「ええ......」
どうやらバグかと思った挙動はさまざまな感情が一気に押し寄せた結果自分でも処理できなくなってしまっただけらしい。
だから、今日はライブが終わった後の交流がなかったのかと納得がいった。こんなグチャグチャな感情でファンと接せられるわけがない。
「そっか。まあ、良かったよ。じゃあ今日はもうゆっくり休んで。」
「うん。ありがとうね。
あ、待って。最後に、今日のライブはどうだった?」
「ダントツで良かったよ。新曲もそうだし特に笑顔が良かった。あれ、酒寄彩葉を見つけたからだったんだな。隣の子もめっちゃ感動したって言ってたし。」
途中見た表情は酒寄彩葉を見つけたからなのだとわかり、他のファンも感動していたことを伝えた。
「そっか、楽しんでくれたなら良かっ......ん?
感動したって
ヤチヨは涙を拭いながら俺の感想を聞いていたのだが、途中俺が他のファンと話したことが気になったらしい。普段あまり話しかけない俺が他のファンと交流をしたのを珍しく思ったのだろう。
......なんか最後失礼なこと言ってたな
「ぼっち言うな。
......そうなんだよ。
今日ライブが終わった後、
さけ......えっと、偶然話す感じになって。その子めっちゃヤチヨのこと好きだったから話盛り上がってフレンドにもなって。」
危ない。危うくライブ後にヤチヨの名前を叫んでたことを言いそうになったがなんとか誤魔化せた。
「まってまってまって。......え?
フレンド?その子?もしかしてその相手って女の子?」
「そうだけど」
「ふ〜ん......」
......あれ?さっきまでめっちゃハッピー⤴︎な感じだったのに、なんか空気変わったんだが。
「私のいないところでまた女の子とイチャイチャしてたんだ。へー」
「またってどのこと言って......ああ、江戸時代のときのこと?
「あれはってことは今回は違わないってことでしょ!
もう!ちょっと目を離すとすぐに女の子引っ掛けてきてー!」
「言い方が悪すぎる......。ほら、ただでさえ嬉しさと感動が混ざってたのにそこにプラスアルファで他の感情加えたらいよいよおかしくなるから。
ほら、ヒッ・ヒッ・フー、ヒッ・ヒッ・フー」
「それラマーズ法でしょ!」
主人公のプレイヤーネームは最後の一文字をとって「ミコ」です。ヤチヨが誰かさんを参考に勝手につけました。