多砲塔戦車の国   作:イエローケーキ兵器設計局

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 追い求める、ギプロベルデとガーディナの真相を。姉であり妹でもある友の為に。



2.レジーナ・ベル

 禁域。浸食虫に覆いつくされた土地。肥沃な土地だが、それを求めた者の多くは地に飲まれるという。

「ひーっ!」

 そして禁域の洗礼を受けていた。八脚の蜘蛛のような巨大砲台が杭のような太く長い砲弾を発射してくる。そして足場は狭く、うっかり降りた地面は一見すると白い花に包まれて綺麗だけど瘴気が漂っていて……非常に苦しい。喉が焼ける。

 

 迎撃したところで質量の塊を撃ち返せるわけではない。何とか這って遮蔽物を転々とする他なかった。更にあの中型のクラスター爆撃を数発放ってくる異形も加わって非常に鬱陶しい。

 

 ふと気づいて赤くギャーギャー喧しい腹の膨れた鳥(作者注:ヤシ+フラミンゴ)のような異形を破壊する。アレがどうやら誘導しているらしくクラスター爆撃は飛んでこなくなった。コレなら自動障壁を割られずに済むだろう……と思っていたがめちゃくちゃ居る……面倒。なので副腕に載せたトレビュシェットキャノンで砲台の方を破壊することにした。

「発射角調整……距離……デカすぎて遠近感が分からない……えーと…………これくらい?」

 あの砲台の隣にヨヨ……は辞めておこう。本人に悪い。そうだなぁ……あー…………ギリーを立たせよう、うん。距離はこれくらいか。なら発射角も、これくらいで。あとは1発撃たせて……発射!

「……意外と脆いのね」

 2発撃って胴体部に1発命中、そしてそれは崩れ去った。

 

 蠢く小虫を幾つも飲み込み、溜まる浸食汚染に対抗しながら道なき道を進む。勿論キャットウォークを走ったりして浸食が溜まる前に逃げたりもする。そうこうしていると壁に空いた丸い穴に辿り着く。中は小部屋になっていた。

「……なぜ来た?言っておくが私は器にはなれんぞ」

「知ってる」

「着いてくるなと言ったからか?くそっ……同類か」

「……貴女を助けに来た」

「はぁ?」

「何でも話して」

「……はぁ、お前のその図太さには根負けしたよ。そうだな……何から話そうか」

「なぜギプロベルデから離れた地に居るか、とか?」

「……貴様にはデリカシーというものは無いのか?」

「……ごめん」

「……私には自慢の姉が居た。女王候補として唯一認められていた程の姉だった」

「姉、かぁ」

 ギリー・ベルの姉……会ってみたかった……いや、既に……私がギリー・ベルを知っている、ということはつまり私は……。

「奴は情報を持ってガーディナに逃げた。ガーディナの羽蟲共に一矢報いる事ができる情報を持って、な。転じて私は裏切り者の妹。恥ずかしいやらなんやらだ。生き残りがここに居なくて良かったよ」

「そう……」

 思考にノイズが混じり始めた。いけないいけない、集中、集中。

「かつて母上には奴の追跡を命じられた。そこで、だ。種子、貴様にはこの情報を探してもらう」

「中層で?」

「いや、まずは下層からだ。別の情報によると羽蟲ごと下層に墜ちたらしい」

「分かった。探してみる」

「見つけたら持ってこい。私がこの下層で拾い集めたもの、羽蟲共に渡さなかったこの全てをお前にくれてやる。分かったら……失せろ」

 

 そう言われて小部屋を出た。とりあえずここまで来た道を戻る。言われてみれば一つ気になった場所があった。

 

 崩れた壁、その近くには閉じられた隔壁。おそらくはこの中に手がかりがあると見た。根拠は無い。ただ、私の中で誰かが言っている。そこに証拠がある、と。

 壁を副腕兵装と浸食手榴弾で破壊し、浸食ガスに自滅しながら侵入する。ニンフの遺骸は無かったが中にはデータディスクに焼かれた手紙が落ちていた。まわりをみわたすと……あ。

「こ、これは……母樹だ……」

 車両脚を装着した時、機動外肢内部に見えた落書きの跡と今見えている壁の落書きが今、一致した。この車両脚の前の所有者……もしくはその知り合いはここに居たんだ。思わず壁の落書きに手を触れる。つまりこの手紙を書いた裏切り者は……ぐ、うっ……!あたまが……われる……!

 

 気が付くと私は見知った母樹の下に居た。白く光る花達が上下に咲き誇る中、ニンフ達が整列している。

「レジーナお姉様、遅くなりました」

 レジーナ……それが私?そして……目の前に居るのがギリー・ベル?

「構わん、揃ったな?今日の作戦についてだ」

 私は指揮官として多数のニンフを率いて作戦の解説をしていた。重厚な装甲、大口径兵装による突破火力、そして低速な移動速度……これらから量で勝るガーディナの"羽蟲"共に対抗するにはこれしかなかった。

「私が前線を押し上げる。ギリー、ロアーヌ、フェネ、私について来い。もし私が倒れたら……ギリーを中心にすぐに戻れ」

 真剣な顔をして私を見る妹達。いつの間にか私は元の廃墟に戻っていた。頭は嘘のように痛くない。

 

 手紙をギリーよりも先に開く。彼女には悪いがこの記録を解明しないと今後の行動に関わってしまう。

 

「親愛なる妹へ……」

 親愛なる妹へ

 貴女は今、ガーディナの追跡から逃れて無事で居るのでしょうか。ふふふ、しっかりとした私の妹だから心配しなくても大丈夫でしょうね。本題に入る前に一つ謝らないといけないの。私はこの手紙を書いたらもうすぐ死ぬみたい。異形共に寄生虫を植え付けられてしまった。だから……謝れないことを謝るわ。ごめんなさい。それで……本題だけれど、貴女の追う情報なんて無かったの。これはお母上と決めたこと。貴女を無事に逃がす為にはこうするしか無かった。ガーディナを滅ぼす兵器の情報も、故郷を守る術もどこにも無かった。全ては貴女の為。もう……そろそろ限界みたい。この手紙がギリー、貴女に届くことを祈るわ。さようなら、私の大好きな妹。

 貴女の最も憎い姉より

 

「……自分勝手じゃない」

 私はギリー本人ではない。だから本当はあまり関係ないはずだった。けれど……これはあんまりではないか。そして自分が書いたものであることを裏付けるように、すらすらとその時の記憶が蘇る。つまるところ……そうか。そうだったのか。これも……ネマが仕組んだのだろうか。

「レジーナ・ベル、貴女の遺志は受け取った。私が貴女の任務を引き継ぐ。私が……レジーナ・ベルだ」

 誤字脱字を一字一字直しながら、腹を食い破ろうと、外へ出ようとする異形を抑えつけ、その遺志の炎は死を前に消えかけていたかもしれないし、むしろ身を焦がす程強かったかもしれない……この姉は、私は妹達を愛していた。だから裏切り者の汚名を被るとしても逃がしたんだ。

 

 壁の落書きにもう一度手を触れる。今度は違う景色が見えた。まだ幼いギリー・ベルがロアーヌとフェネを追いかけるところだった。私はレジーナとしてそれを微笑みながら見ていた。どうやら2人はギリーを怒らせたらしい。

「ギリー、待て。何があった」

「レジーナ姉の機動外肢に落書きをしたんです!」

「構わん。許してやれ」

「ですが……!」

「実害は無いのだろう?なら良いだろう」

 この落書きは姉妹の……いわば機械根だった。

 

 鍵を開き、ドアを開ける。これを届けなくては。そう思った瞬間、ごく短い警告音と共に目の前が白く眩しく光った。

 

 熱量狙撃砲(Sys227 - L G02 Lapls)で狙撃され、即死したことを知ったのは朽ちた育房で再生された時だった。ネマは相変わらず冷たい。

「ガーディナの暗殺部隊"霧"……容赦ないね。ギプロベルデだけでなく、人形まで殺すとは。あなたは自分の知っている人形かしら?」

「……」

「そうそう、ギプロベルデの哀れなギリー・ベルは今、中央大洞穴に居るわ、早く迎えに行ったほうが良いんじゃないかしら?回り回ってここに落ちてくるかもしれないよ」

「なっ……」

「時間稼ぎしてあげようか?異形もまだ余ってる」

「要らない……急いで行く!」

「そう、行って、人形」

 でも、たまに暖かい。

 

 機械根で転送される。以前聞いた事がある、情報をコピーし、転送先でペーストするのだと。その時、私は同じ人形かしらね、と言われた。今の私は……"種子"でも"人形"でもない、"プロデ・ベル"であり、"レジーナ・ベル"である。

 中央大洞穴に到達すると目の前にギリー・ベルは居た。いや……これは機動外肢だ。と考えるとそう遠くへは行ってないはず。機動外肢をパージして育房で履いていた義肢に履き替える。この方が探しやすい。

「……母上、妹達……ギリー・ベルは精一杯やりました。道をこれ以上見失う前にそちらに行かせてください」

 そしてそれは功を奏した。音が消え、這いつくばって奈落へと進むギリーがそこに聞こえ見えた。

「……ギリー・ベル」

「種子……生きてたか」

「裏切り者の姉から手紙を貰ってきた」

「……もう良い、疲れたんだ」

「読みなさい」

「……」

「読みなさい!ギプロベルデのギリー・ベル!」

 逃げられないよう背後から抱き抱え、手紙を押し付ける。私が純粋なレジーナ・ベルであればできなかったかも知れない。けれど……。

「………………種子、どこでこれを拾った」

「……最期まで読んだ?」

「…………ああ。レジーナお姉様。私、ギリー・ベルは貴女を許さない」

 言葉とは裏腹に私に背中を預け、頭部の重量を私に肩代わりさせていた。

「……ごめんなさい、ギリー」

「プロデ・ベル、頼みがある。拡張頭環を外してくれ。お前の顔を確かめたい。お前は私の知っている種子か?それとも違うのか?」

「分かった」

 自分の拡張頭環を外す。それは私がレジーナ・ベルであったことの証明。ゆっくりと妹が私を見上げた。虚ろだった目が揺れ、光が灯る。

「……!」

「……」

「何がどうなってやがる……」

 自分の顔に手を触れるとようやく分かった。普通はこんなところに花も子実体も生えてない。右側か……。

「くそっ……くそっ……くそっ……くそっ!莫迦!大莫迦!何が私は情報を持って逃げるだ!私に嘘を吐いて前線から逃がして、挙句の果てに下層に落ちて勝手に寄生されて死んだ!?もう一度死んじゃえ莫迦!莫迦!うぅ……」

「……ごめんね」

「……種子、私の頭から手を離せ。死ねと言っているのはお前のことじゃない。多少異形と混ざってようが理性があって殺意が無いのならお前はお前だ。だから離せ」

 この妹を撫でる手を離せなかった。そしてそう言うギリーも私を振り解く素振りは無い。これは理性故に、なのだろうか。それとも異形の本能故に、なのだろうか。

「……レジーナお姉様……私はまだ生きていて良いのでしょうか」

 "レジーナお姉様"として回答する訳にはいかなかった。彼女は私だが私ではない。

「種子……答えろ」

「なに……?」

「お前は自分をレジーナお姉様だと思っているか?いや、レジーナお姉様として生きたいか?」

「……答えられない」

「……私はプロデ・ベル、お前をレジーナお姉様……レジーナ・ベルだと再定義することにした。お前がどう思っていようが、異形と融合しようがお前がレジーナお姉様だ。今度は勝手に死ぬなよ」

「……分かった」

 遂に心の整理が着いたらしい。

 

 ギリーを機動外肢に戻し、離脱する。目指すは下層第2エリア"禁域"。

 

 手紙を見つけた部屋に寄り、そして花畑をゆっくりと浸食されながら走る。拡張頭環は死角から何かが来ることを教えてくれた。

 

「……お姉様を汚した者め!」

「レジーナお姉様の仇。殺す」

 浸食を受けないキャットウォークから現れたのは二猟姫。私が妹達を置き去りにした罪は大きい。良かった、生きていてくれて、と素直に言えない自分に腹が立つ。何が良かった、だ。私が見捨てたも同然ではないか。さっさと足場に自分達も登る。

「……ロアーヌ、フェネ……生きていたのか」

「…………ギリーお姉様?」

「ギリーお姉様、それから離れてください!偽物です!」

「……こいつか?断るね。ロアーヌ、銃口を下げろ。フェネもだ」

「……フェネ」

「ロアーヌ……うん」

 あー……どうしてこうなってしまうのか。重量車両脚に振り回されている二猟姫はその性能を発揮しきれていないように見えた。その証拠に自分を制御しきれていない。副腕の狙いはブレているし、何より……泣いているではないか。とはいえ……彼女達はギプロベルデの亡霊、私の妹、生半可な猟姫ではないはず。どうやって説得しようか。

「ギリー、妹に味方する?それとも異形に仇する?」

「…………選択肢が無いが?」

「私を殺して三猟姫になるか、私共々死んで二猟姫になるか、その違いだけだよ……そうしたらまた地獄から這い上がってきてあげるだけだけどね」

 笑いながら告げるとギリーがこっちを見た。

「そういうところだぞ!」

 その拡張頭環の向こうでは信じられない、と言った顔をしていそうだ。その様子では私を越えるにはまだまだだなぁ。

「ロアーヌ!フェネ!目を覚ませ!」

 ギリーの叫びは妹達の動きを止めるには充分だった。

「…………種子、拡張頭環を外せ」

「……そう、良いのね」

 ロアーヌも、フェネも、そしてギリーも銃口が震えている。私を姉と認めたくなかったのだろう。ギリーは……見せたくなかっただろうな。さて、外さないとそろそろ撃たれそうね。

「……そん……な……お、おねえっ……ごめんなさ……おぇっ」

 フェネは吐いてしまった。

「ギリー、拭いてあげて頂戴。私が近づいたらもっと吐いちゃうわ」

「わ、私……そんなつもりじゃ……」

 ロアーヌは強い子だから耐えられた。

「はぁ……言っただろう……?」

 泣き声と共に三姉妹の銃口が震えながら下がっていく。私が敵なら今、撃つだろう。そんなつもりは全く無いが。FCSにもほら、ALLYと出ている。

「おねえさまぁ……!」

「ごめんなさい!守れなかった……!」

「……レジーナお姉様、おかえりなさい」

 それでも泣きながら寄ってくる妹達に少し呆れる。ここはまだ敵地、警戒を完全に解くと危ない。

「悪戯で私の脚に落書きをしたのはどこのどちら様だったかしらね……フェネ。ロアーヌも忘れてないわよ、ギリーの躰を寝ている間に組み替えたらしいじゃない」

「ロアーヌ、お前だったのか!?」

 かくいうギリーも確か……。

「ギリー、確か貴女……」

「な、何も言うな!分かったから!」

「ふーん……まあ、良いけどね。武器も食料も好き嫌いしても」

「言うなぁ!」

 レジーナ、ギリーの好き嫌いを辞めさせてという伝言、承ったわよ。

「それを言うならお姉様だって……私たちを置いて突撃したじゃないですか……お前達は生きろって……」

「そうだったかしらね?覚えてないわ。覚えてるのは……そうね、死んでも貴女達にまた会いたい、そういう執念かしら。不思議なものね、異形共に腹を食い破られながらずっと祈っていたの。貴女達にまた、会えるなら会いたいって……まさかこうなるとは思わなかったけれど」

 勿論、覚えている。私はもうプロデ・ベル(模造品)ではない。レジーナ・ベル(本物)だ……寄生されてるけど。

「お姉様……」

「もう……泣いちゃ駄目よ。ここはまだ敵地、ぼやぼやしてたら今度こそ異形に食べられちゃうわ……それとも、私が食べちゃおうかしら」

「ひっ……!」

「食べないで食べないで食べないで……」

 ロアーヌを追い詰めてしまったらしい……失敗した……終わりだ……。

「お姉様?たまには考えて発言したらどうだ?」

 ギリーが青筋を立てているのを見て冗談は冗談だとわかるから良いのだと思い知った。

 

 さて、ネマの権限を貰いに行きましょう。こんな危険な所とはもうおさらばしてしまいたいわ。

「えーと……たぶんこっちね」

「そんなので大丈夫か……?」

「女王候補の勘は鋭いのよ、ギリー」

「はぁ……自分で言うかねぇ……」

 

 エレベーターで下に降り、まるでカタコンベのようなエリアをクリアリングしながら進み(4,5体は倒した)、ニンフの遺体に手を合わせ、青いバリアを突き抜けた。

 巨体の鎧化兵が花畑に居た。鎧殻からして、おそらくは滅亡した下層のコロニー、ナガラのニンフだろう。

「……」

 彼女は一言も発することなくハンマーをチャージして振り降ろした。土埃が巻き上がる。そして再び持ち上げると吶喊してきた。

「迎撃!」

 ロアーヌ、フェネを後退させ、ギリーと2人で迎撃する。とりあえずリモコン機銃のサブマシンガンとバトルライフルで行動の自由を奪い、ギリーに火力を投射させる。

「……」

「一向に喋らないな!」

「喋れないのかも」

「なるほど!」

 深く踏み込み、跳んできた。おお。そのハンマーを振り降ろして……っと。

「姉さん!」

「大丈夫よ、その程度で殺られるニンフじゃないわ」

 反射的に車体を後退させたお陰で間一髪避けられた。うーーん……硬い。自動障壁も硬いし、何より近接戦に特化しているのか素の硬さが違う気がする。ショットガンもかなり痛い。

「……貴女、ナガラの民ね?」

「……」

 相変わらず声は出さないが、動きがぴくっ、と一瞬止まった。これは押し込めば……。

「姉さん?」

「私の窟に2人、ナガラの民が居るの。双子の技師型で名前はヤシカ、ムシカ……」

 今度は明確に止まった。ふぅ……。

「一時休戦に致しません?応じてくれたら悪いようにはしないわ」

 鎧化兵は暫く逡巡して、ゆっくりと頷いた。戦わずして勝つ、それが非常に難しい事は炭素生物達の歴史が証明している。わざわざニンフの歴史を持ち出すまでもない。

 

 八脚の砲台は相変わらず崩折れて沈黙している。少し寂しい。

「やっぱり……無くなると寂しいわね。ヤシカ、ムシカ、聞こえる?」

「感度バッチリよ?」

 相変わらず二重に聞こえる。双子故に為せる技だろう。

「砲台を直したいのだけど……貴女達を降ろすわけには行かないし、直した方を教えてくれる?」

 

 データリンクで直し方を教えてもらいながら周りを見ると皆、遠くの足場で待機していた。

「こら、勝手に動かないの……もう!じっとしていなさい!」

 少しずつ直ってきたのか動こうとする砲台の胴体を無理やり足場に抑えつけ、後付けの敵味方識別機能を調整する。"友好回路"で……これでヨシ、と。貴女はこれから、異形ではなく私達の家族よ。

「もう動いて良いわ……ってコラ、擦り寄らないの。もう……よしよし……」

 キュウキュウと駆動音を鳴らし、頬ずりするように胴体を車両脚に、私の頬に擦り当ててくる砲台。

「擽ったいわよ」

 その冷たい天板を撫でてやると満足気に身体を揺らしてゆっくりと元の姿勢に戻った。

「目標指示、試射しなさい!」

 目標をデータリンクで指示すると正確に砲弾が飛んでいった。

「よしよし……また、来るからね」

 八脚砲台の脚を撫でて足場に戻り、鎧化兵を載せた台車を牽引する。ギリー達は半目だがしょうがない。特にギリーには受けが悪い。

「女誑し極まれり……いや、異形だからなのか?」

「誰が女誑しよ……ね?」

 きゅう?と言わんばかりに脚を屈めてみせる砲台。うーん読み取れない。

「そういうところだよ……なぁ、フェネ?」

「可愛い……」

「……はぁ。ロアーヌは?」

「ギリーお姉様に同意します……はぁ」

「次の指示を待機しまス」

 急に舌足らずな聞いたことのない声が聞こえてびっくりした。声の主は八脚砲台だった。

「喋ったぁ!?」

「ほんとね……」

「ちょっと!?レジーナお姉様!?なんでお姉様が把握してないの!?」

「そんな機構は組み込んでないはずよ?」

「次の指示をお願いしまス」

「……再装填」

「了解でス」

「……もう少し柔らかく言えるんじゃない?」

「りょうかいでス」

「そうじゃなくて……まあ、いいわ……それで」

 とはいえ音声で警告できるようになったのは大きい。

「八脚、休め」

「たいきしまス」

 

 機械根で禁域を後にする。朽ちた育房に戻ってきてもなお外に置いてきた家族を考えてしまう。普段ならここで拡張頭環を外していたが外す訳にはいかない。きっとまたフェネが吐いてしまうから。

「やっぱり置いていきたくないなぁ」

「……はぁ」

「おかえりなさい、戦士様!……戦士様?」

「……あぁ、ごめんねヨヨ」

「しばらくこれだ、諦めろヨヨ」

「は、はぁ……」

「話は聞かせてもらったよ」

「……ヤシカ、ムシカ」

「意識の転送ならお任せ」

「……それよりもこの鎧化兵を何とかしてあげて」

 台車の上の鎧化兵はずっと身動き一つせず黙っていた。

「……」

「思ってたより重傷ね……ムシカ」

「ええ。レキ様、残念だけど貴女に選択権は無いわ」

「私達は技師よ?腕によりをかけてヤシカ、ムシカが治すわ。お代は要らないわよ」

 彼女の名前はレキと言うらしい。ヤシカ、ムシカによるレキの修理は顔を反らしたくなるほど復讐心に満ちていた……のかもしれない。もしかしたらそれくらいのギリギリの攻防戦なのかもしれない。さっきから工具の使い方が荒い気がする……気の所為……よね?

「レキ様、この程度で死んだりしないでよ、守り人の誇りはこの程度で死なないでしょ?」

 どのコロニーにおいても戦えないニンフは軽視される。時と場合によっては食料扱いされることもある。それは……かつてのギプロベルデでもそう変わらなかった。ギリー・ベル、彼女位かもしれない……変わり者は。だから……そう、もし私がガーディナから領地を取り返した暁には技師型も通常型も防衛型……は戦闘型にカウントして良いか、も……異形も敵対しないなら良いか、全員が暮らせるようにしてやるべきなのだろうと思う……なんて、女王にもなってないのに思うことじゃないか。

 育房の霧で見えない空から垂れ下がったニンフの胎児達を見上げつつ独りごちているとギリーが声を掛けてきた。

「……外さないのか?」

「フェネがまた吐いちゃうわ」

「そうだが……」

「ロアーヌだって……ギリー、泣いているの?」

「違う、これは……」

「泣いてもいいのよ、むしろ泣いて頂戴」

「……高湿度の方が良いって?」

「そうね増やしちゃおうかしら……なんて、違うわよ、今の私に慣れてしまうのは私だけで良い。ヨヨもヤシカ、ムシカも本当は巻き込みたくなかった……はぁ……」

「お姉様、今はあまり変な冗談はよした方が良い、フェネなんか機械根に登って寝ているぞ」

「……そう」

「何とか和まそうとしているのはわかる。わかるからこそ辛いんだ」

「そう……よね……」

 手が腰の鞘に伸びる。帰ってきてから3回目だった。母上の側近から引き継いだ武骨な刀。

「……」

 ギリーは私の手を抑え、無言で首を振った。私は無言で手を戻して応える。頷きが返ってきてこれで良いと思わされる。

「泣いても良いんだ、泣いても良いんだよ、姉さん」

 涙が頬を伝う。こんな私でもまだ妹達の姉である、と言えるだろうか。

「もし、暴走したら……そのときはお願いね」

「……わかった」

 

 いつの間にか私は眠っていたらしい。誰かの腕の中で目覚めた。

「起きたか?お姉様。まだレジーナ・ベルお姉様は生きてるか?」

 ギリーの腕の中だった。周りには皆が武装せず待機していた。レキ以外は。修理の終わったレキだけは皆よりも一歩前に出て待機していた。おそらく私が暴走したら殺してくれるのだろう。

「……冗談でも言ったら殺されそうね」

「はぁ……その胆力はどうやったら身につくんだ……」

「そうね……一回死んだら身につくかもしれないわ」

「はぁ……」

「さて、レキよ」

「……」

「訓練でもする?」

「……ほう」

「かたや異形を取り込んだ者、かたや敗残兵……どっちが強いか見てみたいじゃない?」

 

 仮想空間に移動し、鎧殻を装着する。陳腐化していてもこれが馴染む。

「先にDPが尽きた方の負け、良いわね?」

「……」

 無言で頷いた。肯定と見る。

「それじゃあ……ギリー、カウントダウンを」

 ギリーの合図と共にレキが突貫して来る。そしてそれを副腕の榴弾砲で迎え撃つ。粘着榴弾(HESH)は盾の向こう側を破壊した。

「ぐっ……!」

「良い盾ね。私も欲しいわ」

 攻撃の手は緩めない。それは失礼だから。大口径アサルトライフルで手足を牽制しながら距離を取る。

「ほっ……!」

 大ジャンブで飛び込み、ハンマーを叩きつけてくる……が難なく交わし、オーバーヒートを誘う。

「しまっ……!」

「遅いわ。その程度じゃ皆を守れないわよ?」

 がら空きの背後に榴弾砲を撃つ。

「ぐっ……!」

 しかし、そこはナガラの生き残り、そう簡単には倒れない。粘着榴弾をぶつけても、大口径で手足を撃ってもまだ3割しか削れなかった。

「硬いわね」

「それが取り柄だからなっ!」

 しかし、考えがないわけではない。距離を取り、当てる。

「しかし、このままじゃ……きついんじゃない?」

「それは貴様も同じではないかっ!」

 宙を斬るハンマー。確かに榴弾砲とアサルトライフルだけではBPが尽きる。BPが尽きればもう撃てない。

「私は違うよ」

 ぽいっ。

「……!なんと小癪な!」

 浸食手榴弾を投げつけ、継続的にダメージを与える。そして……ぴっ。すっと、居合斬り。

「ぐうっ……!な、何を……!」

「おお、流石……母上の刀」

 初代女王……母上がかつて振るわれた剣。テュール姉から預かった剣。ナガラの精神を込めた刀。

「レキ、見覚えは?」

「そうか……そうだったのか」

「ナガラの心はここにある」

「母上がかつてギプロベルデに授けられた刀……貴様がその継承者か」

「……そうよ、そしてその継承者として命じるわ。受け取りなさい」

「……はっ?」

「本来の持ち主に返すわ。私が持っていたら無理やり奪ったようでしょう」

「いやだからと」

「あら、受け取れないの?」

「ナガラは……故郷はもう無い。私は亡国の敗残兵だ」

「なら……いつか貴女が受け取れるようになった時、敗残兵でなくなったとき、受け取りなさい」

 

 仮想空間から育房に戻ると半目のギリーがぼそっと言った。

「はぁ……家族が増えたな」

「悪いことじゃないでしょう?」

「全く……ますます死なれたら困るじゃないか」

「あら、何度でも這い上がってくるわよ?」

「そうだったな……はぁ……」

「レキ、こっちにいらっしゃい」

「私は……」

「いらっしゃい」

「……では」

「貴女も家族よ……生まれが違うだけで貴女も……少なくとも私にとっては家族だから」




レジーナ・ベル
 かつて超々重量多砲塔機動外肢を使っていたニンフ。ギプロベルデのニンフにして、ギプロベルデの次代女王候補であった。あの状況で唯一生き残れる可能性が高かったギリー・ベルを逃がす為に女王と共謀して嘘を吐き、ガーディナの包囲が最も厚いエリアに突貫、激闘の末に落盤によって下層に墜落した。異形によって寄生され、死期を悟った本人が手紙と壁のシンボルを残し、鍵を掛けたドアの向こうで最期は発芽した寄生虫によって躰を食い破られたと思われる。表向きはいつかギプロベルデの芽が出ることを祈って、裏としては自己満足で押し付ける幸福を祈って。
 本当はロアーヌ、フェネと言った妹も助けたかったのかもしれません……それでも、あの状況で生き残る可能性が高かったのはギリー・ベル、彼女でした。ギリー・ベルは運命にも姉妹にも選ばれたのです。
 顔の一部が異形のように明らかにニンフではない何かが露出しているが特に暴走はしていない。ちなみに異形と融合させようと思ったのはこの話を書き終えた直後。だから前話では普通の綺麗な顔のつもりだった。

補足:プロデ・ベルがギリーを"お姉様"と呼んだ理由
 あの日、ギプロベルデの大勢のニンフが戦死しました。そしてその肉体の多くはガーディナによって回収されたでしょう。しかし……レジーナ含めいくつかの遺体は回収されず異形によって分解され、データとなってネマの下へ辿り着きました……そして種子、彼女はレジーナ・ベルをベースに足りないものを補う形で作られました。きっと、ガーディナはレジーナ・ベルが生きていると知れば死に物狂いで追いかけるでしょう。憎きギプロベルデ再興の鍵ですから。そして、今は種子である事も知ればギプロベルデは終わりです。だから……そう、レジーナ・ベルはガーディナから逃れるか、はたまた……。

補足1:ギリー・ベルが裏切り者と呼んでいたのは本来は技師型では?
原作ではそうでした。しかし今回は技師型ニンフではなく、彼女の姉(オリジナルキャラクター)との絆の話にしたかったので彼女の姉を裏切り者としました。
補足2:禁域では情報の話は出てこなかったはずでは?
こちらも原作では次のエリア「聖智廟」で出てきますが、赤い封印を越えないと到達できず、その為にはかなり大きな回り道(上層、中層、下層の第2エリアをそれぞれ攻略する必要がある)をすることになるので敢えてタイミングをずらしました。中層、上層はギリー・ベルと攻略してください。
補足3:ギリー・ベルが突破したのはそれなりに防御の厚いエリアだったはずでは?
コレの解決方法は単純で、ガーディナを増やせば良いんです。ギリー・ベルにとってはとても多く見えた、それは正しいです。そしてレジーナ・ベルと妹達がそれよりも多くの敵を引き付け、前線を蹂躙した、これもまた正しいのではないでしょうか?

補足4:レジーナ・ベル強すぎない?
それは……そう。中層最大を誇ったギプロベルデの女王候補はこれくらい出来ないと駄目なのかも……ネマの糸が繋がっていた種子を乗っ取って自分のものにしてしまった……とか?

付録:八脚砲台のログ
(八脚砲台がレジーナと交戦開始)
「てきはっけん」
「うつ」
(八脚砲台が発射)
「てきはっけん」
(レジーナが発砲、命中)
「ひだん」
「ねむい」
「……」
(レジーナが修理を開始する)
「……」
「くすぐったい」
(レジーナが修理を完了する)
「おかあさん」
「すき」
「ばいばい」
(レジーナが禁域を去る)

疑問:ロアーヌとフェネがどうやって生きていたのか?
回答:かつて下層にもコロニーがありました。異形に呑まれて消えてしまいましたがその遺産、遺構は形を変え残っています。異形と共存しようとした……というと語弊はありますが大方間違いではないでしょう。つまり抜け道があるわけです。

Q:ポロッカやファブラーは出てきますか?
A:どこかで出てくると思います。

Q:なぜガーディナの「霧」がこんなところへ?
A:さあ……何故なんでしょう?ガーディナとギプロベルデ、宿敵同士惹かれるものがあるのかも知れません。きっと……趨勢が違っていたら逆の立場だったかも知れません。後方に探知不可能な入り方をして破壊する「霧」、前線〜その奥まで恐怖を届ける「陸上巡洋艦」……おお、怖い怖い(もっとも、一人だけ強くても駄目なのよね……)

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