多砲塔戦車の国   作:イエローケーキ兵器設計局

3 / 5
 しゅーん……。


閑話休題1.くさねえ,あはとな〜,ファイナル・カウントダウン

ケース1:くさねえ

 

「貴様、少々臭うぞ」

「えっ?」

「血が腐ったような臭いだ。流石に何とかしろ」

 レキが私に怒ることはそう多くない。だから少し意外ではある。

「ど、どこが……!?」

「ここだ」

 ウエスで腰の再装填用副腕を拭き、一度嗅いでから渡される。

「嗅いでみろ」

「す……うっ……酷い匂い……」

「留守は預かる。何とかするまで戻ってくるな」

 そう言って機械根に押し付けられた。液体資源もないのにどうしろと……。

 

 とりあえず下層、禁域に来た。いつもの車両脚ではなく飛行脚を履いて武装も最小限にする。

「おかあさ、おかえり」

「ただいま。さっきぶりね」

「うん」

 八脚砲台は脚を屈伸させて踊るように揺れている。これも愛情表現なのか。

「貴女に名前を付けてあげないとね」

「なまえ?」

「そう、名前。いつまでも貴女、じゃあ呼びにくいでしょう?」

「そっか」

「そうね……」

 八脚砲台……八脚……八……アハト……アハトナ!

「アハトナ」

「あはとな?」

「そう、アハトナ。どう?」

「あはとな!」

「ふう……」

 胴体を揺らすアハトナ(八脚砲台)に受け入れてくれて良かった、と思うばかりだった。

 

 結局、臭いを消す方法は思いつかず帰るしか無いか、と思ったその時だった。

「戦士様、悩み事ですか?」

「ヨヨ!?」

 ヨヨが私の背後から声を掛けてくれた。

「はい!戦士様のヨヨです!」

「どうしてここに?」

「あはは……仕事の一環でして……」

 そうやって笑うヨヨの背嚢はパンパンだった。

「今から帰るところかしら?」

「そうなんです……戦士様、元気無いですね」

「ちょっとね……」

 育房での事を説明する。

「なるほど……それでしたらこれはどうでしょうか?」

 渡されたのはどろりとした液体の入った瓶だった。炭素生物が書いたと思わしき言葉が書いてある……えー……と、確かこれは……。

「消毒液?」

「戦士様、読めるんですか!?」

「ずっと昔、故郷で習った気がする……」

 テュール姉の事を思い出した。テュール姉は厳しくて、何度も叩かれたのをよく覚えている。遊ぶときは一転して優しく、ギリー達が産まれる前も後もよく遊んでもらった。彼女もどこかで落ち延びて生きていてくれていたら、と思う……。

「そうなんですか……どうですか?」

「そうね、いくら?」

「そうですね……40000CELLですが、少し引いて39000CELLです」

 修復剤の5倍……まあ良いわ、試してみましょう。

「買うわ」

「ありがとうございます!」

 

 買った消毒液を塗って拭くと……。

「……まあ、ほぼ無臭にはなったわね」

 鼻が慣れてしまったのかそれとも本当に無臭になったのか……。

「アハトナ、また後でね」

「おかあさ、だいすき」

「……私もよ」

 とりあえず育房に戻る。離れがたい。しかしずっと居たら今度は禁域の匂いになってしまう。

 

 育房に戻ると正座するレキと工具を持って震える双子技師、そして中央の機械根を盾に慌てて後ずさるフェネ達がいた。ヨヨもちょっと怯えている。

「どういう状況?」

「お、おかえりなさいお姉様……そ、その……」

「レ、レ、レキさんががが……」

 フェネ、ロアーヌまで……。

「レキがヤシカ、ムシカを怒らせた。それだけだよレジーナお姉様」

 

「どういう了見かしら?」

 双子の技師が声を重ねて言う時は本気の時である。

「す、すまない……本当に」

「ふーん、じゃれ合いのつもりが反抗心から本気になった、と」

「ち、違う!」

「じゃあこれは何かしら?」

 あれは私の副腕を拭いたウエス……。

「どうして貴女がこれを持っているのかしら?」

「そ、それは……」

「捨てるように言ったわよ、ね?ヤシカ」

「ええ、ムシカ」

「何がどうなっているの?」

「すすす、済まなかった!」

 あのレキが謝っている……私に?

「どうしたの?そんなに畏まって……」

「レジーナ、貴女の副腕は臭くないわ。臭かったのはこっち」

 鼻を抓みながらヤシカが差し出したのはウエス。血痕からして間違いない。

「レキは最初はじゃれ合いのつもりで仕掛けようとしたみたいよ?」

「結局、反抗心からこうなったみたいだけどね……」

「私が悪かった……」

「はあ……そう、レキ、頭を上げて」

 ゆっくりと下げた頭を上げるレキ。

「気にしてないわ。でも……そうね……何もお咎めなしは良くないわ」

 ヤシカが差し出したウエスを受け取る。これは捨てるとして。

「なら、ヤシカ、ムシカ、八脚砲台の意識をニンフに落とせるわよね?」

「私達に任せて!」

「レキ、貴女には彼女の教官になってもらうわ」

「……そうか……私がか」

「あら、役不足かしら?」

「その役目、果たそう」

「お願いね……今度やったらこのウエスを貴女の鎧殻に詰めるから」

 縮み上がったレキを見て満足した。

 

ケース2:あはとな〜

 

 ヤシカ、ムシカによる意識の転送は思いのほか早く終わった。むしろその準備が長かった。まず素体のタイプを何にするかで揉め、戦闘型は満場一致で却下されたものの技師型や通常型はアレが良いだのこれが良くないだの話が縺れ、本人の意思を確認しようにもまだアレでは……と。

「レジーナお姉様!通常型が良いよな!」

「いいえ!技師型よ!」

 技師コンビとギリー達が珍しく啀み合う。

「あー……な、なぁ……うわっ!」

 レキが仲裁しようとして物凄い力で端まで弾き飛ばされて行った。御愁傷様……。

「止めなさい!」

 一喝。手と口が止まる。ふぅ……。

「レキ、大丈夫?機能停止してない?」

「……まだ生きてるぞ。勝手に殺すな」

「採決を取るわよ、スケテ、貴女もよ?」

「まー?」

 ずっと静かに見守っていた4本腕の巨大な推定……成長した技師型の造形屋スケテ。彼女は言語能力に問題があるのかほとんど話すことができず、常に何かの素体を握りしめている。

「通常型が良いと思う者は手を挙げなさい!」

「ま〜!」

 スケテ、ギリー、フェネ、ヨヨの手が挙がる。

「……技師型が良いと思う者は手を挙げて!」

 ヤシカ、ムシカ、ロアーヌの手が挙がる。

「レジーナ、お前はどうなんだ?」

「そうね……通常型が良いかしら」

「何故だ?」

「通常型の存在意義は知ってるわよね?」

 戦場の数合わせであったり、何にでも使える通常型。何者でもあり、何者でもない。

「……そうか、何にでもなれるということか」

「そうよ」

「……通常型に賛成しよう」

「6対3で通常型に致します!」

 早く決めないとおそらく育房内で戦争が起きていただろう。

 そして今に至る。

「おかあさ、あしがたらない、ふあんてい」

「そうね、貴女にはちょっと難しいかもしれない」

 かつて炭素生物達は四本脚だったという。そして四本脚から前側二本を腕とし、後ろ側の脚を自立に使ったという。私達と血縁関係は一切無いが収斂進化によって似たような形となった。つまり……。

「貴女もきっと立てるようになるわ、ねえレキ……レキ?」

 レキは感涙してるのか涙を流して突っ立っていた。

「もう、しっかりしなさい」

「すまん……なぜか感動してしまった……」

 アハトナにはギプロベルデの強化汎用素体を使用させた。副腕等はオミットし、完全に歩き回る事を考えたものである。勿論、これも揉めた。ギプロベルデとナガラの二大派閥で揉め、結果的に故郷ギプロベルデの素体を勝ち取った。

 

「おかあさん」

「は〜い」

 アハトナはこの短時間でまだゆっくりとではあるけれど一歩一歩を踏み締める事ができるまでに成長した。でも、レキに対しては……。

「おねえちゃんこわい、いや」

「……」

 しゅーん……という擬音が聞こえてきそうなくらいレキが落ち込んでいる。

「ま、まあそんなこと言わないで……ね?」

「おかあさん、おねえちゃんこわい!」

「……うぅ……」

「泣かないでよ……」

 

「私はどうすれば良い……"お母さん"」

「ちょっと、レキ、貴女にお母さんなんて言われる所以はないわ」

「教えてくれ!頼む!この通りだ!」

 頭を下げられてはどうしょうもない。

「ちょっと考えさせて……そうね……」

 

 アハトナを一人で歩けるようにする。それはアハトナ本人にとっては偉大なプロジェクトの第一歩……だと思いたい。

「アハトナ、怖くないからな」

 背中側から慎重に付き添う様に見守るレキと、転びそうになってはレキに脇から支えられるアハトナ。育房の端から端まで時間は掛かったがその偉大な一歩は無事に終わった。ふぅ……。

 

「あ、あの……戦士様、これを」

「ヨヨ、これは何かしら?」

 ふわふわした未知の素材でできた柔らかくて可愛らしい造形物をヨヨから渡された。

「アハトナちゃんに、と思いまして。あ、勿論チェックはしました!」

「おいくらかしら?」

「そうですね……これくらいかと」

 ヨヨがジェスチャーで示した金額はゼロだった。

「ふふ……恩に着るわ」

 

 アハトナを一度フェネ達に任せ、レキを呼ぶ。

「レキ、これを」

「これは?」

「ヨヨから貰ったわ。これは炭素生物がかつて作った造形物。それも愛玩用の」

「これをどうするんだ?」

「レキ、貴女からアハトナに渡して頂戴」

「なるほど……」

 

 暫くするとレキはにこにこ顔のアハトナだけでなくフェネやロアーヌに囲まれ、和気あいあいとしていた。もう皆のお姉ちゃんの座を私から奪ったみたい。

「姉さん、お疲れ様」

「ギリー、貴女もね」

「注文の多い妖精さんは困るよ……なんだよ生体部品8って……これまで見たことなかったぞ」

 ヤシカ、ムシカの資材調達の注文をこなし、ようやく帰ってこれたギリーは育房の端で座る私の肩に頭を預けていた。確かにニンフの心臓はあまり見たことがないわね……。

「もう少しだけ……こうしてても良いか?」

「良いんじゃない?」

「そうか……ならお言葉に甘えて」

 

ケース3:ファイナル・カウントダウン

 

(ギリーが掃除をしながら歌詞がわからないなりにファイナル・カウントダウンを鼻歌で歌う)

「ふんふんふーん♪」

「ギリー、えらく上機嫌ね?」

「ん?ああ、さっきヨヨが良いものを見つけたんだ」

「データディスク?」

 ギリーから渡されたのはデータディスクだった。

「私にはわからないけれど、お姉様ならこの楽曲データの意味がわかるかなと思って」

「はぁ……」

 あんまり自信が無いのだけど……。

 

It's the final countdown

The final countdown

Oh

We're heading for Venus

and still we stand tall

'Cause maybe they've seen us

and welcome us all, yeah

 

 これは……。

「……いい曲ね」

「意味は?分かるのか?」

「母樹を離れるニンフが故郷を想いながら旅立ちのカウントダウンをする、そんな感じね」

 ちょっと、いやそれなりに嘘を吐いた。歌っているのはニンフではない。かつての炭素生物だ。そして離れるのは地球。ホドでも母樹でもない。向かう場所は金星。このホドでは昔話、もしくはおとぎ話の世界。

「今の私達みたいなものか」

「そうね……ある意味正しいのかも」

「こうなるならテュール姉の話をもっと聞いておけば良かった」

「また会えるわ、いつかどこかで」

「そうかな……」

「ええ、きっと」

 

 

「あ、あの戦士様!」

 アハトナの寝かしつけを疲れたレキの代わりにしているとヨヨから声を掛けられた。

「何かしら?お代は払ったわよ?」

「そうでした……じゃなくて!これ、これです!これもお願いできますか!?」

「私を翻訳機扱いしてない……?」

「す、すいません……分かると聞いて居ても経っても居られなくて……」

「貸してみなさい。ちょっとなら分かるかも」

「ど、どうぞ」

 ヨヨからデータディスクを受け取って読み込むと、優しくそして力強い声が聞こえた。

 

Only you

Can make all this world seem right

Only you

Can make the darkness bright

Only you and you alone

Can thrill me like you do

And fill my heart with love for only you

 

「どうですか?わかりますか?」

「……」

「あ、あれ泣いて……」

「気にしないで頂戴」

 私は……ギリー達が居なければ今頃、無感情で全エリアを踏破していたかもしれない。

「この曲はね……そうね……私にとっては貴女達に送る歌かしら。貴女達だけが暗闇を照らしてくれる、心を満たしてくれる、そういう歌詞ね」

「なるほど……!」

 翻訳料として消毒液代を返金された。そして返金されたCELLを返した。

「戦士様?」

「これは貴女の報酬よ。受け取って」

 

 天からの光が弱まると、かつてこのホドに住んでいた炭素生物……メタメトリア社の社員達やその家族だろうか、はそれを夜と呼んだらしい。CELLを見つけ出した者、そして消え去った者……。彼らが見た夜は今の夜と同じだろうか。

「おやすみ、良い夢を」




 原作では人工太陽の光が周期的に弱くなる等そういった現象やギミックは無かったですが、この世界のホドではかつての住人であった炭素生物"ホモ・サピエンス"の生理的な問題(朝夕の時間感覚が狂う)により暗くなる(減光)ことがあります。

修復剤:8000CELL(1個,原作同様ヨヨ価格)
役不足の理由:ナガラの歴戦戦闘型ニンフであり、教官職に充てるには勿体ない(もっと別のことに充てても良いが、あえて教官職に宛てた)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。