多砲塔戦車の国   作:イエローケーキ兵器設計局

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 逃げられる者は居ない



3.ガーディナ三姉妹

 森林。それはホドにおいては……炭素生物の言うコンクリートジャングルを指す。つまり今はガーディナの勢力圏となっているがかつて我々……少なくとも私達にとっては故郷だった場所の一部である。

 

「やっぱり狭いな……」

「ごめんね、デカくて」

 多砲塔機動外肢の良くないところはとにかく大きいことである。この巨体は超壕超堤能力を重視した結果産まれたものであり、開発した技師型(とおそらく過去の私)はあまり深く考えていなかったと思われる。何が言いたいか?巨体故に道が狭い。巨大なビルの中を進むと敵に出くわす。例えば自動機械群……盾付きバトルライフルとか。彼女らのAIに逃げるという思考はおそらく無い。迎撃か突撃のみ。そしてその両方を私は踏み潰して進んでいる。避けて裏を取るというニンフならごく普通の選択肢が私には取れない。しかし敵は貫通力が無ければ威力も無く、こちらの自動障壁の世話になるまでも無い。勿論以前の私ならそうもいかなかっただろうが今の機動外肢には追加装甲がある(とは言っても重量の都合で正面だけだから側面から撃たれると弱いことに変わりはないが)

 

 火炎放射型をも文字通り踏み潰しながら(潰れたタンクから炎が上がった時はちょっと焦った……内部まで熱が伝わってきたから)進む。床を踏み抜きそうになったり、踏み抜いてしまったり……ギリーには心配をかけてばかりだ。

「姉さ……お姉様、先行こうか?」

「うーん……そうね」

 比較的機動力のあるギリーを先行させ、うっかり崩落して私が死んでしまっても2人諸共死なないようにする。

「工作クレーンの調子は?」

「良好、良好。これならギリーに拾ってもらわなくて済むかも」

「むぅ……」

「冗談よ、まだまだ改良の余地はあるわ、だからまだ私のそばにいて頂戴ね」

「はぁ……どっちなんだか」

 

「お姉様、道が崩れてる」

「なるほど私の出番ね」

 踏み潰した自動機械を牽引し、クレーンで穴に放り込む。最後に自分でテストしたらよし。

「……踏み潰す側にはなりたくないな」

「…………そうね」

 妹の呟きに、ただ短く返すしかなかった。

 

 私がガーディナの自動機械を羽蟲と呼ばないのは羽蟲に失礼だと思っているからである。羽蟲には羽蟲の矜持があり、親殺しには親殺しの矜持がある。ニンフと自動機械には差がある。もし自動機械が自分の声で話し始めたら羽蟲と呼ぶだろうか。呼ぶかもしれないな。故郷の自動機械にも声があったのだから。

 

 床を粉砕しながらガタガタ言わせながら進む。追加装甲で大幅に落ちた速度はこういった狭所では負にはなっていない。そりゃあまあ重量増加による床の踏み抜きは恐ろしいが……。

 

「お姉様、通れる?」

 ギリーの指差す先はダクトトンネルだった。どう見ても通れない。

「先に行って。道を探すわ」

「わかった」

 

 来た道を戻って他の道を探す。履帯が道を砕き、壁を破り、自動機械を潰す……その騒音の中に何かが紛れ込んだ。そんな気がした。ギリーではない、ギリーならもうとっくに行ったはず…………。

「……羽蟲、止まれ」

 背後に居る二本脚の何かが足を止めた。

「そこで何をしている?」

 返答は無い。しかしそこに居る。

「名を名乗りなさい」

「か、カカカ、カルラド……です……仲間をまま、待ってまして」

 履帯を回して振り返ると確かに輜重兵のような格好のニンフが居た。故郷から奪った車両脚(装軌式)をコピーしようとして失敗したと聞くタイヤ脚(装輪式)に、軽装備の輜重兵。でも貴女ではない。

「ふーん、仲間ねぇ……貴女、本当にガーディナ兵?もしかして……」

「わぁー!」

 叫んで口を塞ごうとしてくる輜重兵をクレーンで摘む。アルカンド側の自動機械に使われていたオイルの匂いがする。なるほど。

「そう……なんだ、ただの臆病な羽蟲か」

 ゆっくりと戻す。逃亡兵カルラドに用はない。処遇はガーディナかアルカンドに任せる。

「コソコソしてないで出てきたら?」

 空虚に返事は無い。光学迷彩だとしても武器を構えた時点で解除されてしまうからもう分かるはず。

「もしかして……カルラド、まさかその仲間と言うのは」

「……」

 カルラドの顔に汗が滲む。なるほど黒か。

「来なさい、掴まって」

 クレーンの先を差し出す。掴まったのを確認してリモコン機銃をオンにする。空間を銃弾で満たしてしまえば自然と出てくるだろう。

「あまり乱暴なことはしたくないのだけれど」

 車体のリモコン式サブマシンガンとバトルライフルが火を吹く。バンバタタタタタタタッバン!爆音とともに壁が抉れ、骨組みに戻っていってもその存在に恐れはないのか動かない。

「ひぃぃ!」

 むしろこの脱走兵に効いてしまっている。これでは意味が無い。むう……じゃあしょうがない。

「きゃっ!」

「ごめんなさいね、カルラドさん。ようやく見つけたわよ、羽蟲」

 急な後退により、何かを跳ね飛ばしその何かをクレーンで摘む。先客のカルラドにしてみたらたまったものじゃないだろう。

「ぐっ……」

 匂いでは検知できなくて、直感だけで後退したらビンゴだった。

「離して……」

「ピィッ……」

 カルラドが気を失ってしまった。死んでしまったかもしれない。

「お名前は?」

「……ヨド」

「ヨドはこの子に何の用かしら?暗殺?口止め?」

「……離して」

「はい」

 素直に離す。

「ふぎゃっ」

 地面にべちゃっと落ちたヨド。あまり良い気味とは思えないわね。

「仕事をしにきたのね、ヨド。それはごめんなさい、貴女に仕事はさせないわ」

「くっ……」

「……あれ……エイジャ……もう来てた……?」

「おはよう、寝坊助さん」

「あ……あわわわ!」

 カルラドが起きて再び暴れまわる。別にニンフ1体が暴れまわったところで何のダメージも無いが……とりあえず車体の上の荷物ラックにでも載せて固定しておこう。

「ゆっくりしてて頂戴ね。そのうち連れて帰るから」

「えっ!?拉致されるの私!?やだっやだっやだぁ!」

「はぁ……」

「……」

 ヨドは静かにしていた。しかし一度見つかってしまってはもう隠れようが無い。

「ぐっ……」

「大丈夫?傷見せて」

「誰がそんな事を……」

「はい、どうぞ」

 高濃度修復剤をクレーンで差し出す。これは罠ではない。最大限の敬意……羽蟲に対しての、ではある。

「……」

「受け取らないの?」

「……」

「あ、見えてないのか。ごめんなさい。忘れてたわ」

 機動外肢を降りて隠していた飛行脚で近づこうと浮いた瞬間、彼女が跳ねた。おっと。

「あらあら、過激ね」

 顔に向かって差し出された刃の直撃を避け、その近接武器を握る右手を握り着地の勢いで振り落とさせる。慌てて手に取ろうとした銃も捨てさせる。

「ちょっと羽蟲にしては弱いんじゃないかしら。霧を買いかぶりすぎたかしら」

「あ、貴女が強過ぎるだけ……です」

「あら、褒めてくれるのね」

 ぐい、と引き寄せると目隠しと拡張頭環越しに目が合った気がした。

「貴女に殺される前に名を名乗っておくわ。私はレジーナ・ベル、貴女達が滅ぼしたギプロベルデの生き残りよ」

「……!」

「さて、と。分かったら大人しく捕まりなさい。悪いようにはしないわ」

 ふと上の階から足音が聞こえた。脚を引きずるような音で、そして……おそらくこれもまた霧だろう。

「なるほど貴女、囮だったの?」

「んーー!」

「カルラド、貴女も静かにしてたら悪いようにはしないわ」

「んー!」

 カルラドが荷物ラックで煩くしている。よほど怖いらしい。

「……その娘を離せ」

「……ヴォーグ姉さん」

 すたっ、という足音と共に天井の裂け目から降りてきたのは鎧殻を纏っていない丸腰のニンフだった。恐らくはこちらも羽蟲、それも霧だろう。

「その娘を離してくれ、私の妹なんだ」

「そう」

 ヨドを掴んでいた手を離す。あれ……?気絶してる……生体反応は……あるな。

「母樹まで連れて帰るの?」

「いいや、私に帰る場所は無い。ヨドは私を始末しに来たんだ」

「そう……3人とも私のところに来る?どうせ帰ったって居場所が無いでしょう?」

「だがしかし……私はお前を撃ったのだ。禁域で……」

「なら尚更連れて帰らないとね。高かったのよ?修理費で30万CELLも要求されたんだから」

 ちょっといや、かなり盛ったがあまり変わりはない。

 

 上手いこと説得して口説いて武装解除して荷物ラックに括り付け来た道を引き返しているとギリーが帰ってきた。

「姉さんでも通れそうな道があったよ……って姉さん何してるの?」

「捕虜の移送?」

「なに、地雷原でも歩かせようと言う話?」

「違うわ、私達のために働いてくれる、ていうから連れて帰るの……ギリー、副腕兵装を外しなさい」

「え?」

「私の代わりに連れて帰って」

「ね、姉さん!?」

「この2人はガーディナの霧だけど……ヨヨのお姉さんよ」

「え?」

「少しお話したらゲロったの」

「ゲロったって……」

「ヴォーグは戦えない妹を守りたかったみたいね」

「はぁ……姉というのはどこも誰もが一緒か……」

「さあ、わかったら持って帰って頂戴」

「ニンフ使いが荒い姉さんだ……」

 ギリーと私の会話のキャッチボールを聞いて私に対するヴォーグのこれが姉だよな同情するよ、と言わんばかりの表情に哀愁を感じつつ引き渡す。

「あ、そうだ、ギリー」

「?」

「ありがとう」

「は?な、な、なんだ急に!」

「姉妹だもの。じゃあ、それだけ」

「それだけって、おい!」

「ヨヨのお姉様達だからよろしくー」

「はっ!?えっ!?」

「……すまない、ギリー・ベルと言ったか……ヨドとヨヨをよろしく頼む……」

「しっかりしろ!寝るな!」

 

 ギリーが見つけてくれた道を相棒(多砲塔機動外肢に乗って)と進む。

 明日死ぬかもしれないな、いつもそう思って眠っている。今日死ぬかもしれないな、いつもそう思って戦っている。これから死にに行くことになるかもしれない、そうも思っている。

 

「敵襲!警戒態勢!」

「……」

「来るな!来るな!来るなぁ!」

「……」

「壊れたくない!壊れたくないよ!」

「……」

 私は耳を塞いでいた。耳を塞ぎ、心を閉ざし、フィルターをオンにしていた。ギリー達が行った今、フィルターをオフにして耳を塞ぐのを諦めた。

「自動機械にも言葉はある。私達のように」

 そしてその全てを踏み潰し、撃ち抜き、そして踏み越えていく。

 

「攻撃開始!」

 崩れかけた高架道路上のガトリング砲台がこちらを見ていた。彼女は何を思っていたのだろうか。

「壊れろ!」

 遮蔽物を易易と破壊するこの機関砲は正面からまともに受け止めると追加装甲諸共貫通されかねない。トレビュシェットキャノンで狙う暇もないだろう。となると……。

「……」

 合成した煙幕弾をいつもの榴弾の代わりに詰め、副腕だけを出して撃つ。照準は最後に見た景色をもとに推測してつける。当たるまで繰り返す。躰を乗り出して見ると二発目で当たったらしい。よし、移動。

 

「い、いつの間に!」

「……ごめんなさい、さようなら」

 後ろに回って弾倉だと思われる黄色いタンクを重点的に撃つとすぐに大爆発して沈黙した。

 言語圏が近い、というのは非常に嫌なものだ。知らなくていいことを知ってしまう。下層の生き残りの話も、中層の羽蟲共の声も分かってしまう。もちろん自動機械達の声も。

 

 巨大な足踏みをする、防衛型ニンフが霞むようなサイズの多脚自動機械が熱烈なお出迎えをしてくれた。もちろん花束なんてものは無い。あるのは危険な攻撃だけ。

 

 遭遇する全ての声が静かになった時、ようやく私は笑うことができた。

 

 遠くから羽蟲共の加速翅の羽音が聞こえた。複数人居る。ガーディナらしい。

「こっちだ!」

「奴が来る!奴が来るよ!」

「死にたくない!死にたくない!」

 ……。

「どうもこんにちは、かしらね?」

「で、出た!」

「落ち着け!慌てるな!3人で戦えば勝機はある!」

「あらあら、そんな好戦的な態度でかかってこられないで欲しいわ。私は貴女達を殺したくはないのよ」

 私は正気だろうか。

 それとも、もう既に正気だったことを忘れてしまったのだろうか。

「嘘をつくなこの死神が!」

「死神?面白くないわね。もっとあるんじゃない?」

「親殺し!」

 羽蟲が叫んだ瞬間、彼女達が背にしていた隔壁が轟音と共に裂けた。衝撃で天井も一部崩れてしまった。

「あら」

 隔壁の裂け目から太く長く突き出した砲口からは白煙が昇り、砲身もまた、白く湯気を燻らせていた。

「来ちゃったわ、親殺しが。あーあ」

「し、知らない!こんなの!」

「助けて……助けて……」

「逃げるぞ!」

「逃げ道が無いです!隊長!」

 確かに瓦礫で彼女達の退路は塞がれてしまった。どうやらこの低く、そして重厚な履帯を4本も持つデカブツはガーディナのものではないらしい。そして私も知らない。ただこちらに銃を向けるのなら破壊するまで。

 そうこうしているうちに砲口からの白煙は途絶え、砲身がどんどん前に迫り出していく。そして親殺しの化け物は姿を現した。

「急いで逃げて……なんて言えたら良かったのだけど退路は無いし私を殺したら貴女達を狙うでしょうね……ギプロベルデ千翅長レジーナが命じます、手伝いなさいガーディナの羽蟲。共同戦線よ」

 

 その巨大な移動要塞は正面に固定された戦闘室を4本の履帯で無理やり動かしていて、その遅さと堅牢さからトーチカを動かしているようだった。

「正面……は効かなさそうね。羽蟲!側面を撃ちなさい!」

「了解!」

 羽蟲3人組がバトルライフルやサブマシンガン、アサルトライフルで応戦する中、私はどうすれば切り抜けられるか考えていた。正面から撃ったところで効くはずがない。

「駄目だ!弾かれる!」

「これなら!」

 羽蟲の一人が副腕の副砲を撃つも効果無し。

「わわ!機関銃だ!」

 戦闘室上のリモコンターレットが動き、機銃掃射に見舞われるガーディナ兵達を機動外肢の陰に隠しつつ、常に動いて照準を付けにくくする。

「負傷者は!?」

「おい、トリ!血が出てるじゃないか!」

「受け取って!」

 ノールックで修復剤を投げ、砲身がこちらを向かないことを祈る。残念ながら車体ごとこっちを向いた。

「遮蔽物に隠れて!」

 ブーストも使って全速力で遮蔽物に隠れるも、移動要塞の一撃で遮蔽物が破壊され、また移動する羽目に。

「なっ……!」

 早い!もう次弾が……!

「とりゃぁ!」

「おい!ジ!待て!」

「モノ隊長、ありがとう」

 羽蟲が一匹、砲身に掴まってその動きを遅くさせた。

「くそっ!トリ!着いてこい!あの莫迦を援護するぞ!」

 一匹の蛮勇が、それはそれは大きな動きとなる。

「ぐっ……!早く!何とかしてくれ!レジーナ!」

 3匹がかりで砲身を抑え、自由に照準を付けられないようにしてくれた。

「履帯も駄目、どうすれば……!そんなっ……」

 

 ガーディナ兵(1,2,3)の奮闘も虚しく砲口が光った。その時、私は運悪く砲口の前に居た。羽蟲達の顔が焼き付く。

 

 

 

「レジーナ、起きなさい」

「……」

 何故だろう……暖かい。優しい気持ちに……。

「レジーナ、起きなさい!」

「……はっ!」

 ここは私が産まれ育った場所だった。ギプロベルデ落日よりも前、フェネやロアーヌが産まれるよりも前、ギリーが産まれるよりも、前。まだ母上がご無事でガーディナの羽蟲共が淘汰されかけては足掻いていた頃。

「まったく……勉学の途中で居眠りはいけませんよ」

 私は教科書に涎を垂らして突っ伏していたらしい。昔からいつもこうだった。やるときはやる……がそれまでが長い。

「まったく……貴女は長女なのですからしっかりしてください」

「ごめんなさい」

「そうしゅんとしないでください、奥様がご覧になられていますよ」

 テュール姉さんにはよく母上に似ている、生まれ変わりだと言われた。もし母上が次の女王を擁立するとすればまず私を選ぶ、そうとも言われていた。

「まだ根に持ってる?」

 それだけに恐る恐る母上に逆らったことについて聞く。

「根だけ……に?」

 とぼけた顔で返すテュール姉に呆れた。

「はぁ……聞くんじゃなかった」

「冗談ですよ。いいえ、根に持ってないです。多砲塔機動外肢の件でしょう?」

「うん」

「やってみれば良いと思いますよ。私だって車両脚ではないですし」

 テュール姉さんはナガラのType09 CF Kashima(中重量級の汎用脚シリーズ)をいつも使っていた。

 

 それからすぐに時間が跳んで。かつて炭素生物達が遺した音波データディスクの話をしていた。

 

Take me down to the Paradise City

Where the grass is green and the girls are pretty

Take me home (Oh, won't you please take me home?)

「テュール姉さん、これ、どういう意味なの?」

 その音波データは力強い炭素生物の声だった。何回も何十回も聞いた声。テュール姉さんに教えてもらった思い出。

「楽園都市に連れて行って。草は青く少女達は可愛い、私を連れて行って、お願いだから連れて行って……そんなところかしらね……」

 姉さんの顔は少し曇っているように見えた。

Take me down to the Paradise City

Where the grass is green and the girls are pretty

Take me home, yeah, yeah

Take me down to the Paradise City

Where the grass is green and the girls are pretty

Oh, won't you please take me home? Yeah

 

 そして急に現実に戻される。確かに砲口は光り、そして私は被弾した。DPはもうほぼゼロ。この機動外肢もあと数秒で爆発するだろう。しかし秘策が無いわけではない。ヨドと交戦した時からこの秘密兵器は暖まっていた。

「脱出!」

 SCF05v2 kuramitsuha(原始の飛行脚)に履き替え、生前のフェネとの思い出から羽化する。フェネ、後で次の多砲塔機動外肢にもう一度機械根の落書きを描き込んで頂戴。榴弾砲は今は要らない、故に捨てる。副腕部武器もパージ。私にはテュール姉の刀だけで良い。

 

「は、翅だ……」

「綺麗……」

「おい、集中し……翅だな……」

 羽蟲……いいえ、同胞達が仕事をしてくれないと危ない!

「ちょっと!異形が漏れてきてる!羽蟲!仕事して!」

「……!危ない危ない!撃て撃て撃て!」

 ようやく気づいたのかこの要塞がぶち抜いたシャッターからの異形が減っていく。ふぅ……。

 

So far away

 燃える殻から離陸し、この狭くて広いバラバラに割れた空へ。偽物の空へ。あくまで車体上の機関銃が私を狙い続ける範囲で。普通に飛ぶだけでは速度は全く出ないから推進機動で無理やり押し出す!

So far away

「遅い!」

So far away

 車体上のハッチに組み付いて。

So far away!

 テュール姉に預けられた刀でロックを斬り、ハッチをこじ開ける。そこに居た。

「……助けに来たよ、テュール姉」

 

 異形によって私の血の繋がらない姉は鎧殻ごと鹵獲されていた。厳密にはこれは機動外肢でも鎧殻でもない。あくまで姉さん達が破城槌として作った試作機だろう。きっと自動機械にしたかったはずだ。テュール姉は……どちらかといえばアーヴドというよりはナガラ出身者みたいだったから。

 

「……うっ……」

 菌糸を全て剥がして純化結晶を口に押し込んだ……押し込まれた姉は産まれて初めてうめき声を挙げた。

「起こしちゃったかしら」

「れじー……な……」

 その目はしっかりと私を見て捉えていた。

 

 テュール姉を担いで私は車体上に登った。異形達はすっかり倒れ、肩で息をするガーディナ三姉妹は私を見ていた。

「貴女達を羽蟲と呼ぶのはもう辞めね。ありがとう、ガーディナの英雄さん達」

 私は睡眠ガス弾をさっき捨てた榴弾砲に詰めて撃った。せめてもの恩返しのつもりで。

「貴女達は鈍間に眠らされ、取り逃がした。また来るわ」

 

 テュール姉の容体が落ち着いた。

「……レジーナ」

「テュール姉」

「大きくなったな……」

「……変わってないよ、何も」

「異形に囚われた私を助け出した。もう……子供じゃないのね」

「そうするべきだったから」

「ふふふ、そうね……空襲!」

 テュールが急に目を見張り、叫んだ。そして鎧殻の無い躰で私を覆うように被さる。轟音が空を支配した。輸送機が来たのだ。

「まだ使える!?」

 私が親殺しの移動要塞(破城槌)を指差すと。

「……!その手があったわ!」

 と急いで車体側面の梯子を登って車内へ入っていった。

「ちょっとBPを分けて頂戴!」

「はいはい〜」

 車内に今度は機動外肢や加速翅、砲架副腕、特技背嚢を外して入り込む。こうでもしないと狭くて動けない。

「……取ったら?」

「……私の顔を見てみんなビックリしたんだ。テュール姉でも見せたくない」

「……そう、なら良いわ」

 車両と砲架副腕用の輸液ポンプをホースで接続する。BPがあっという間に減っていく。そして幻聴が聞こえた。

「強大な艦!よく飛ぶ砲!威力ある弾!大勢の人間!正確な狙い!あとはそこに死があれば!完成する!!」

 それは私たちとは違う、Paradise cityの声のように野太く、そして……少し抗い難い誘惑のようで……。

「しっかりしなさい!」

 テュール姉に拡張頭環ごと頬を平手打ちされて正気に帰った。多分、私の目は覚めたはずだ。もう声は聞こえない。

「姉さ……」

「私の顔が見える!?」

 私の首を掴んだ姉の、その顔は怒っていた。

「貴女はギプロベルデの長女、レジーナ・ベル!ギプロベルデ千翅長、レジーナ・ベル!そして私の妹よ、レジーナ」

 叩かれたところがズキン、と痛んだ。テュール姉は知らない。私が一度死んで種子として、ネマの人形として生まれ替えられたことを。

「……レジーナ、貴女が窟帝陛下ネマの人形だとしても」

 え?空気が凍った気がした。

「貴女がレジーナ・ベルであると自認している間は私の妹よ」

「姉さん……姉さん!」

「知っているわ、貴女が禁域で死んだことも、ギリー、ロアーヌ、フェネを助けたことも……全部知っているわ」

「でも……どうして?」

「レジーナ、私達はどうやって索敵して敵味方を仕分けした?」

「えーと…………匂い!?」

「そう、貴女からはあの日死んだ妹達と、羽蟲と、異形と……そして皆の匂いもするの。私には何でもお見通しよ」

「じゃあ……これも……」

 拡張頭環を外す。フェネは泣いただろう。

「凛々しくなったわね、レジーナ。さあ、迎撃よ。多脚要塞を踏み越えていきましょう」

 姉さんは振り返って私の頭を撫でてから照準器を覗き、言った。私もキューポラのペリスコープから外を見る。輸送機は六脚の多脚要塞を落としていった。

「射撃指示を、千翅長」

「……目標、多脚要塞」

「目標、多脚要塞。弾種は?」

「打ち倒せるもの」

「了解、徹甲榴弾装填、完了。照準良し」

 多脚要塞は既に降着し、こちらの出方を伺っていた。

「撃て!」

「発射!」

 強烈な光と共に凄まじい反動を感じ、キューポラ後部で頭を打ってしまった。痛い。

「多脚要塞、損傷!再装填!再装填完了!」

「追撃!」

「了解!発射!」

 今度はしっかりと掴まれるところに掴まったから頭を打つことなく耐えられた。

「多脚要塞、大破!なれどまだ稼働中!」

「……撃て!」

「了解!喰らえ!」

 マズルフラッシュと反動と共に放たれた3発目の徹甲榴弾は多脚要塞を確実に再起不能にした。

「目標、沈黙!」

「作戦終了!」

 

 テュール姉とこの移動要塞を隠せる場所を探し、上手いこと隠せる場所をこの森の中に見つけた。

 

「テュール姉、ギリー達に会いに行こう」

「……私が今更会いに行っても良いのだろうか」

「口調が戻ってきてるから大丈夫、姉さん」

 

 機械根で育房に帰る。隣にいたテュール姉は感嘆の声を漏らした。

「ただいま、私の古巣アーヴド……」

 ここが……原始のコロニー、アーヴド……!?

 




作者より:大森林ってなんだっけ?(マップ構造のほとんどを無視したような作りになってしまった)

補足:後に分かるがギプロベルデもある意味親殺しではある
「下層の異形に対処してたら背後を刺されたんじゃない?新陳代謝は必要よ?」(ネマ談)

移動要塞
:4本の履帯で動く固定戦闘室式の化け物。元ネタはアメリカが2両だけ作ったT28/T95。詳細は後述。
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