生徒達の青春の1ページ   作:バームクーヘン

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ホシノ1(水族館)

「先生先生!あそこにクジラさんいるよ!」

「本当だ、気持ちよさそうに泳いているね。」

 

ホシノは先生の服の袖を摘みつつクジラにも指を向ける。その瞳はキラキラとしており、宝物を前にワクワクしているような感じだ。普段はゆるそうに話すホシノだが、クジラなどの海洋生物に限っては純真無垢な少女に戻る。そのギャップが魅力的で先生も無邪気に笑う。

 

「ホシノ、そろそろペンギン触れ合いイベントの時間だよ」

「もう!? うへぇ、まだクジラさん見てたいよー」

「でも早くしないと前の席取れないよ?」

「ペンギンさんとハイタッチしたいけど、クジラさんも眺めたいよ〜。あぁ、こんな時どうすれば...ぐぬぬぅ」

「...っふふ」

「何笑っているのさ先生!」

 

ホシノが先生の方をバンバンと叩く。先生は笑いを堪えようと口元に手を当てて震えているが、我慢ができずに吹き出した。それを見たホシノは顔を真っ赤にしながら先生の襟元を軽くつかみグラグラと揺らしている。

 

「だ、だってホシノはぐぬぬなんて普段言わないでしょ。それがとても面白くて...っく..ふふ」

「た、確かに言わないけどそこまで笑わなくてもいいじゃん! 周りから変な目で見られているからそれやめてよぉ〜」

「大丈夫、周りが変な目で見られても私は構わないよ」

「私が構うんだよー」

「おじさんじゃなくて?」

 

先生がニヤッとした笑みでホシノを揶揄うと、ホシノは頬をぷくぅーと膨らませた。先生はその頬を指で突くとプシューと変な音が聞こえる。

 

「〜〜〜!!」

「ちょ、ご、ごめんってホシノ!」

「信じられない!もう先生なんて知らない!」

「わざとじゃないんだ!指が勝手に動いたんだ!ホシノが可愛いのが問題なんだ!」

「なんで逆ギレしてんの...?」

 

恥ずかしいを通り越して怒りへ、怒りを通り越して呆れに変わるホシノであった。

 

「つまりホシノが私に責任を取る必要がある。そういうことだね」

「逆だよ逆!先生が、私に、責任を取るの!」

「責任なら取っているでしょ?」

「それとこれは話が別でしょ!?」

 

そう言って自分の左手の薬指をホシノに見せつける。そこには銀色の輪があった。ホシノの左手薬指にも同じ銀色の輪があった。

 

ホシノは先生を置いて一人でペンギンイベントの方に向かう。先生はホシノを追いかけた。

 

「あーあ、このままだと私の機嫌が悪くなっちゃうなー」

「ごめんって、許してホシノ」

「許してほしい?」

「許してほしい。どうすれば許してくれる?」

 

ホシノの足がピタリと止まる。ホシノは髪を自分の指にクルクル巻いていた。少しだけ沈黙の時間が続き、再びホシノは口を開いた。

 

「...また」

「?」

 

ホシノは先生の方を振り返る。先生の胸元に人差し指をちょこんと当てながら呟く。

 

「また水族館デートしたいな」

 

先生はホシノの指に自分の指を絡めた。ホシノは「わっ!」と驚いていたが、特に抵抗はしなかった。

 

「ホシノとなら何度だって来るよ」

「...うん!」

「じゃあペンギンさんたちに会いに行こうか!」

「おぉー!」

 

2人は手を繋ぎながらペンギンイベントの方に向かった。

歩幅は同じ。目線も同じ。指輪も同じ。笑顔も同じ。

 

そして

 

これからも一緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

…ちなみに近い席は全て他のお客さんに取られていたため、ホシノはペンギンさんとハイタッチできなかった。しょんぼりと落ち込んでいたホシノに先生は笑顔で手を向ける。

 

「ほら、私がハイタッチするから元気だして」

「元はと言えば先生のせいでしょ!」

 

ピシャッ!!!

 

先生の手が赤く晴れた。

 

「いたっ! ホシノ〜、手が赤くなっちゃったよー」

「自業自得でしょ」

「癒してくれー」

「キモい」

「褒め言葉だねっ」

「自信満々になられても困るんだけど?」

「うへへへ。罵倒ならイオリを始めに沢山の生徒から受けて...あっ」

「...」

「じゃ、じゃあ手繋いで帰ろうか。...いた、痛い痛い! ホシノさん! 痛いです! 手が砕ける!!」

「浮気..、いや違うか。不倫は許さないから。絶対に」

「私はホシノを愛しているよ」

「...ふん。私も愛しているよ」

 

 

 

 

ピピっ! 

 

「...うへぇ、もう朝か。あ、そういえば今日の会議遅れるとアヤネちゃんが怒るなぁ...。でも目覚まし時計通りに起きれたし遅刻はしないはず...あ」

 

時計は9時を超えていた。

 

「...」

 

冷や汗を流しながらスマホを手に取ると鬼の着信履歴が残っていた。後輩の説教に怯えているとドアからガンガンと激しい音が鳴る。

 

…勢いが強すぎて扉が少し歪んだのは気のせいだと思いたい。

 

「ホシノ先輩、いるのはわかっているんですよ?」

「アヤネちゃん!? 扉を蹴り続けるのはよくないわよ!?」

「セリカちゃん?」

「はい。今回はホシノ先輩が100%悪いと思います」

「そうだよねセリカちゃん。時間に遅れる方が悪いよね」

「はい」

「...」

 

口元に手を当てて息を殺す。起きているのがバレたら大変だ。このままでは可愛い後輩たちが自分をロープで縛り、ロープをヘリと結んで地面に引き続けてしまう...。

そう言えば最近アヤネちゃんはハイランダー姉妹と仲がいいらしい。もしかしたら...

 

「ばひゃひゃ! メガネちゃんこわーい!」

「おにだー」

「これくらい後輩として当然です」

「じゃ、私操縦するねー!」

「わたしもするー」

「はい。徹底的にお願いします」

 

ヘリじゃなくて鉄道列車で引きずられるかもしれない。

 

…いい夢を見るのも考えものだなぁ。

 

ホシノは覚悟を決めて扉を開いたのだった。

 

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