生徒達の青春の1ページ 作:バームクーヘン
「いらっしゃい」
「やぁヒナ。お邪魔します」
今日は休日。先生と家デートを楽しむ日だ。普段は風紀委員会の仕事で会うのが難しいけど、不良どもを徹底的に潰した。だから今日は一日先生に甘えられるはず...。
私はスリッパを先生に渡してから部屋に案内する。丁度ティーポットが音を鳴らしたので、2人分のお茶を用意しながら先生と話す。
「先生が来るのはいつ以来だったかな」
「結構前かも? 前来た時はヒナが風紀委員会をやめようと塞ぎ込んでいた時じゃないかな」
「その時は迷惑をかけたね。でも今はもう大丈夫だから」
「ヒナの周りには頼りになる人が沢山いるからね」
お茶菓子を持ってテーブルの上に置く。先生は私の正面の椅子を引いて座った。私も椅子に座り、テーブルの上のクッキーを食べる。
「思い出すと自分が情けないなって思う」
「あの時は余裕...いやゆとりがなかったからじゃないかな。ああなるのも無理がないと思うよ」
「先生がいたから今がある。いなかったらどうなっていたのやら」
「案外不良になってたりしてね」
「もしかしたらありえるかも」
「実はアルと気が合うんじゃない? 便利屋68に加入とか」
「....」
「すごい複雑な顔をしているね」
普段から問題を起こす便利屋68。依頼を解決するためと言いながら、爆破したり爆破したり爆破したりする集団だ。取り締まる側からしたら迷惑なことこの上ないが、一緒にいる側はどうなのだろうか。
万年赤字経営、公園でテント生活、まともなご飯を食べることも少ない。
それなのにメンバーは1人もかけることなく生き残っている。
社員の3人はどんな状況になっても社長を信じているし、社長もどんな状況になっても社員を信じている。
「よくよく考えたら便利屋68はすごい集団ね。あれだけ問題や事件を起こしても、仲間を失うことなく過ごしているのだから。喧嘩とかしないのかな」
「喧嘩しているところは見たことないな」
「先生でも見たことないの?
「うーん、喧嘩はない気がする。喧嘩する前に事件や問題が起きているからね」
「それはそれでどうなの...」
「あはは...アルとムツキとハルカがね。カヨコも偶にあるかな」
「全員じゃない」
遠い目をしながらお茶と煎餅を食べる先生。
「でもヒナは割とアルと似ているよ。ヒナが怒る前にアコやイオリは怒るじゃん。チナツも怒りを顕にすることは少ないけど、内側でとても怒るし」
「健康診断の結果でチナツから説教されていたから説得力あるね」
「あれは忘れて」
「無理」
「そこをなんとか!」
「髪を吸おうとしないで」
先生がガタッと立ち上がって近づいてきたので、手を前に出して牽制する。
この人は油断したら何かと理由をつけて髪を吸ってくるのだ。
嫌なわけじゃないけどこちらにも気持ちの準備は必要だ。
先生はご飯を取り上げられた子犬のような泣き顔をしながら席に座った。
何なら鼻水も啜っている。
「うぅ、ヒナの匂いが...」
「そんな情けない声を出さない。後で吸わせてあげるから」
「ほんとっ!?」
さっきまでの落ち込みが嘘のようにキラキラとした瞳をする先生。
「私の髪を吸ってもいいけど、頭も撫でてほしい」
「もちろん!」
「あとハグもしてほしい。両手を背中に回して強く抱きしめてほしい」
「もちろん!!」
「あとは...思いついたら話すよ」
「もちろん!!!」
「先生うるさい、近所迷惑」
「いや〜感動しちゃって。ヒナが自分の願望をここまで話すようになって嬉しいよ」
自分でもそう思う。前までの私はいつも仕事、仕事、仕事。友達と遊びに行くことも、ショッピングモールで服を買うことも、ご飯を楽しみにすることもなかった。冗談を言い合える友達がいなかった。いつも恐れられていた。いつも面倒事を押し付けられた。いつもいつも...。
先生と会ってから世界が変わった。仕事の量は変わらないが、風紀委員会の結束も高まり、小鳥遊ホシノとも話すようになり、天童アリスとも遊ぶようになり、服やご飯にも興味が出るようになった。そして何よりも
「ヒナ、あーん」
ぱくっ。
「美味しい?」
「美味しいわ。私からも、はいあーん」
「ヒナのあーん!?? アコに自慢しちゃおう」
「やっぱなし」
先生の口元に運んだチョコレートを自分の口に入れる。先生は絶望した顔をしているが、先生が悪い。100%先生が悪い。
「な、何で?」
「...さっきから他の子の名前が多い。呼ぶなら私の名前にして」
私と話をしているのに、便利屋や風紀委員会の名前が出過ぎている。こんなことに嫉妬する自分が小さく見えるが、それでも嫌なものは嫌なのだ。
「ごめんね。ヒナ、もう一度だけチャンスを」
「最後のチャンスだからね」
「ありがたき幸せ」
「ふふっ、何それ。はいあーん」
大きく口を開ける先生にチョコレートを入れる。幸せそうにもぐもぐと食べる先生を見ると、私も幸せな気持ちになる。
これからもこうやって過ごしたいな。